□■冶金都市グロークス
氷と霜が一帯を閉ざす。あたかも冬そのものが襲いかかってくるかのようだ。息は白く、風は痛いほどに冷たい。
「《
「こな、くそ!」
AFXは地面を蹴りつけた。次の瞬間、蹴りつけたその場所があっという間に氷に閉ざされる。
「冷凍光線なんて非科学的な能力使いやがって……!」
「肯定しよう、非科学的だ。あるいは
余裕そうなその言葉にAFXは歯噛みした。その身体は所々が白く、硬く、【凍結】している。それを成したのは、頭上を飛ぶ巨大な鳥だ。その口から出る光線は当たった物体の熱を奪い、氷をもたらす。
その背に跨がる女、白色矮星。白い髪を緩やかに束ね、黒装束に身を包んだ女は、冷たく言った。
「ふん、よくぞ耐えている。先ほど取り出していた対氷結装備を加味しても、素晴らしい氷結耐性だ。君の<エンブリオ>の能力かな?」
「くっ……」
人間。カルディナ出身。現在地。<マスター>。メドラウトは出来る限りの耐性を発揮していた。だが、それだけだ。年齢、身長、体重、性別、髪の色……
「共通点が少ない。藤堂のようにはいかないか」
AFXは悔しげに顔を歪めた。そのしかめ面の理由はもう一つ……敵の高度だ。
空を飛んでいる鳥……TYPE:ガードナー系列の<エンブリオ>と推測されるが、その高度はおおよそ地表から数えて一〇メートル弱。手は届かず、足では近づけない。
「空からの一方的な攻撃……定石だけど、意外とキツいもんだね」
「当然だ。ゆえに定石。ゆえに我が戦術。」
AFXに遠距離の攻撃手段は持ち合わせがない。ダメ元で何か投擲した所で、あっさりと躱されるだけだろう。考える時間も足りなかった。なぜなら……
「さて、足を奪った。ここからは嬲り殺しだな」
AFXの脚が、躱しきれなかった氷に縫い止められているからだ。既に、地面から伸びる氷雪の塊がつま先から脹脛までを覆っている。
「《
「おおお!」
AFXの全身が
「終わったな、【
氷のように冷ややかな声が響き、AFXの意識が身体から切り離され……
「《
突如、あたたかな光がその身体を満たした。全身の【凍結】が解け、ずたずたの組織が再結合し、正常な皮膚感覚が舞い戻る。
AFXは眼を開けた。その瞳によく知っている影が映る。
「……また、助けられた」
メアリー・パラダイスは黙ったまま、少しだけ口角を上げた。
◇
「助太刀か、君、運がよかったな」
空を飛ぶ巨大な手と少女の出現に、白色矮星は表情を変えることなく言った。
「飛行と回復能力か。使い勝手のいい手札だ。なかなか手ごわい敵になるやもしれんな……丁度いい」
白い髪をバレッタで纏め、黒いグローブを嵌める。その眼が鋭さを増し、地上をねめつける。
「ウルル……飛べ!」
その声に呼応して、純白の怪鳥が翼を羽ばたかせた。嘴が開き、白色矮星の<エンブリオ>、ウルルが嬉し気な鳴き声を上げる。
「《
瞬間、ウルルが光の玉を吐く。光球はその厚みを失い平面状になると、高速回転する光のリングとして二人に襲い掛かった。
「アシュヴィン‼」
メアリーが叫ぶ。飛行する両腕が上昇し、二人はその掌に飛び乗った。光輪を躱し、白色矮星へと迫る。
「Gyaaa!」
ウルルが飛び、アシュヴィンが追う。だが、同じ<エンブリオ>でも両者の飛行速度には大きな差があった。アシュヴィンが引き離され、
「《
光線が襲い掛かる。
「
メアリーが叫ぶ。アシュヴィンが散開し、二方向から円を描くようにウルルへと迫った。途端に距離が縮まり始める。
「チッ!」
白色矮星が忌々し気に舌打ちをする。メアリーがしてやったりとばかりに笑った。
「やっぱり。高度に制限がある。その代わり消費が少ないみたいだけど」
「よく喋る……」
白色矮星の言葉に応じてウルルが一声鳴き、急減速をかける。後ろに回った白色矮星はその両手を広げ、
「狙撃実行」
その手に握った魔力式銃器を無造作にぶっ放した。炎の弾丸が宙に紅い線を引く。ロケット花火のようなそれは轟音を立てて容易くアシュヴィンに突き刺さった。
「飛行性能は並み以下。であれば……」
「おりゃああ!」
メアリーが煙をあげるアシュヴィンから跳躍する。その拳が唸りをあげて黒装束の女に迫る。
「そう、乗り移っての接近戦だろうな」
そして、その拳が凍りついた。メアリーが驚きに目を見張る。その隙を炎の弾丸が捉えた。右腕が木っ端微塵に砕け散る。
「くっ……《サードヒール》!」
メアリーが腕を治療しつつ、ウルルを蹴り飛ばして地上へと落ちる。それを見つめる白色矮星とウルルの周りは微かな白色光に満たされていた。その紅い唇が動く。
「ふふ……《
それは冷凍光線の障壁。軽率に踏み込んだものを圧倒的冷気に晒す無慈悲な結界。ここもまた、彼女の距離だ。
と、白色矮星が顔を上げ、町の方角を見た。相も変わらず爆発音が断続的に響いている。その口から独り言が溢れた。
「チッ……もう少し
彼女の手がウルルを撫でる。巨鳥が心得たとばかりに翼を広げる。
そして、顔をしかめる彼女の後方に、もう一つの影が近づいた。その気配を見切って白色矮星は言った。
「浅はかだぞ【偵察隊】。お友達がどうなったか見ていなかったのか?」
余裕綽々で女は静かに振り向き……
「え……?」
驚愕でその思考を止めた。
白い髪。黒装束。バレッタ。紅い唇。形の良い鼻。
そこには、白色矮星と寸分違わぬ顔形の女が、冷徹な表情でアーミーナイフを構えていた。
◇◆◇
「な……!」
驚愕のあまり一瞬停止した白色矮星は、しかしその凍った思考をすぐに立て直した。
(恐らくは幻術か、【隠密】の《変化の術》!見せかけの虚仮威しだ!)
であれば、何も変わらない。《
(いや、しかし!こいつには何らかの耐性があった……)
冷気に耐え、凍りつくまでの僅かな時間で攻撃を叩き込む手筈か。あちらには回復持ちがいる、大胆な手は取りやすいだろう……と、白色矮星は考察する。
《瞬間装備》で武骨なシールドを取り出す。少しの間を凌ぎきれば、彼の身体とて凍り付いて動かなくなる。あるいはその後で必殺スキルを起動して彼を殺しても良い。回復があるからと、我が冷凍光線を舐め腐ったその態度が気に入らない。
そして、己の意図に満足する白色矮星の盾に、AFXがナイフを横薙ぎに叩きつけた。
次の瞬間、盾は木っ端微塵に壊れた。
「何!?」
狼狽する白色矮星に、返す刃の更なる追撃が迫る。
(馬鹿な……盾は十分時間稼ぎになるほどの堅さを……それに、なぜ!)
白色矮星の思考を驚きのノイズが走る。
(なぜ【凍結】していない!?)
目の前のAFXの動きには一切の鈍りも見て取れない。本来ならすぐに霜が降り始めるというのに。
◇◆◇
AFXが用いているのはサブに置いていた【幻術師】系統の能力……幻術。自らの姿を光学的にのみ変化させ、白色矮星と寸分違わぬようにしている。実態は無く、ただ視覚を欺瞞するだけの一時の幻。
そう、ただ
それは細部に至るまでの
偶然ではあり得ないほどのその一致率がAFXに力を与え……
「《
その一撃は凄まじい攻撃力で白色矮星に襲いかかった。藤堂の時には及ばずとも、十分な強化率。【高位従魔師】にとって致命は必至の必殺擊。だが、
「効きすぎたか……」
AFXは呟いた。白色矮星の黒装束から【ブローチ】の破片が落ちる。
「……《キャスリング》」
白色矮星は忌々しげに呟き、そしてその姿はかき消えた。代わって現れた小鳥がピイピイと飛び去る。AFXの形が揺らぎ、ほどけて、そして元の姿に戻った。幻術の時間切れだ。冷気の残滓を吸い込んで、AFXの息が白く濁った。
◇◆◇
「うふふ、あははは、《ゴールデン・グリッド》!」
「……《
辺りを埋め尽くす粘液を雷が蹴散らす。触れるもの全てを貪るスライムを踏み越えて、竜……フルゴラが吠えた。
「ぬん!」
馬上槍を構えた老騎士がレディめがけて突撃する。されどその進撃は、フルゴラの尾の横殴りで止められた。崩れるⅣ世にフルゴラが尾の先を向ける。レディが叫ぶ。
「《
そして、黄色い尾が槍のようにⅣ世の鎧に突き立った。雷が溢れ、火花が踊る。
「くおおお!」
Ⅳ世の馬上槍がフルゴラの尾を刺す。その勢いのまま、Ⅳ世は槍を投擲し、
「フン!」
そしてレディの振るう鞭に槍が絡め取られた。
「くそ、勝ち筋が見えない……!」
キュビットは唸った。これほどの人数差をものともしない圧倒的戦力。あるいは準<超級>とさえ思える。
魔法などの遠距離攻撃は鞭に潰され、近距離で戦おうにもフルゴラがそれを阻む。なにより、火力の高い雷撃の数々を無防備に受けてもいられない。
「《
稲妻の雨が降り、電光と火花が走り回る。だが、
「ふん、そうね……そろそろ終わらせてあげるわ」
レディは残酷に顔を歪め、
フルゴラの尾が歪み、先細り、鞭のグリップに接続される。黒い鞭が蠢き、敵を見定める。レディの唇が動く。
「《
だが、次の瞬間、大路の右側にある石造りの建物が爆発した。粉塵と瓦礫が飛び散り、石くれに混じって三つの大きなものが転がり出てくる。それらーー三つの人影が立ち上がり、ぜえぜえと息をついた。
「ああ、くそ!死ぬかと思ったぜ!」
「けどよォ、やーっと当たりを引けたみてぇだな」
グリゴリオとシマが頭を振り、
「あー!デブじゃん!ここで何してんのさ!」
腕彦がレディを指差してわめく。レディは一瞬忌々しげに顔を歪めると、すぐに諦めたように言った。
「……貴方って、本当におバカさんなのねぇ」
「あ!?どういう意味だよ!」
ギャアギャアと騒ぐ彼らを見て、グリゴリオは言った。
「あの女は?」
「先ほど襲撃された。『通り魔』らしいよ」
「ふん、俺達と同じだな……仲間か?」
疑わしげにグリゴリオが唸る。騒ぐ二人の襲撃者を注視しながら、彼らは手早く情報を交換した。
「理解した。その方向で行こう……Mooo、あんたは<エンブリオ>をしまえ」
無言で抗議の気配を漂わせる彼に、グリゴリオは言った。
「体積を失いすぎだ。このままじゃ完全破壊されるぞ」
Moooは不承不承と言った様子で首肯した。潮が引くようにソラリスが縮み始める。それを見て、二人は口喧嘩を取り止めた。
「あら、戦闘放棄?無抵抗主義かしら?」
煽るように言うレディに向かってグリゴリオは言った。
「違う……選手交代だ」
言うが早いか、グリゴリオとシマはレディに向かって駆け出した。グリゴリオが地面を踏みつけたその背後から白い結晶が持ち上がる。
「《
そして、塩の柱が鋭い槍のようにレディを襲った。だが、それだけではない。シマの腕が動く。
「抜刀ォ!
その刃が塩の槍の一つを切断し、そして返す刀が切断面を打った。尖った結晶が、斬撃の勢いを乗せられて弾丸のように飛ぶ。塩の弾丸は蠢くように膨らみ、爆発した。クラスター爆弾のように塩の結晶が広範囲に突き刺さる。
シマ・ストライプの<エンブリオ>、【拡縮双刀 エビングハウス】の能力は、斬撃を起点とした物体の膨張と収縮。
「《
雷速で蠢くいかづちがその全てを打ち砕いた。
「弱いわね……塩?
フルゴラの尾が風を切って二人を襲う。その尾を全身で受け止め、グリゴリオは大鉈を振るった。尾の表皮が白く変色し、白い粒が飛び散る。レディが少しだけ目を細めた。
「なるほど……物質を塩に変化させる能力、そっちのほうがメインウェポンってわけかしら?」
少しだけ傲慢さを減じた声に、グリゴリオは獰猛に笑う。
「あぁ……少し待っていろ。二、三分で塩の像にしてやるよ」
◇◆◇
「で、俺の相手はあんたらってわけ?良いよぉ、遊ぼうぜ!」
腕彦は嬉しげに拳を構えた。その拳が揺らぎ、圧倒的な攻撃力の凄みを帯びる。
「善かろう。だが、一人だ。儂一人が相手をする」
老騎士は重々しく言った。
「皆、下がって呉れ」
「あぁ、分かった」
頷くキュビットに、リンダがひきつった顔で言った。
「良いのかい?さっき覗いたけど、あいつのEND、とんでもないよ。おまけに【硬拳士】……」
「それはそうだが、Ⅳ世なら大丈夫だ。むしろここに俺達が居ることの方が良くない……どうにかしてあいつを誘導して引き離さないと」
キュビットが不可解なことを言う。リンダが眉をひそめ、ユーフィーミアが首を傾げた。
そんな彼らをよそに、
「ふん!」
ゴルテンバルトⅣ世が槍を振るう。馬上槍が大気を切り裂き、
「はっ!」
腕彦の拳が槍を砕いた。砕けた槍の破片の間隙から、Ⅳ世の回し蹴りが飛ぶ。その脚を捉えんとする腕彦の拳を躱して、Ⅳ世は笑った。
「やはりな。AGIでは儂に少しだけ分があるようだ。或いは、貴殿の動きが単純なのか」
「あ、それってさァ、やっぱ馬鹿にしてんの?」
腕彦が不快そうに言う。
「ムカついた!……消し飛ばしてやるよ」
腕彦の拳が宙を切り裂く。触れた大地が限界まで砕け、砂と化した。Ⅳ世が身体を捻って拳を躱しつつ、足を下げる。
「おりゃああああ!!」
闇雲な
「ホホ、どうした?儂は此処に居るぞ?」
「なめるな、爺!」
急にしゃがみこんだ腕彦の拳が、全力で大地を殴り付けた。土煙が噴出し、地面が大きく消し飛ぶ。視界が土色に染まり、Ⅳ世の足が一瞬止まる。そして、
「……捕まえた!」
その隙に腕彦の拳がⅣ世の顔面を打った。Ⅳ世が弾け飛び、建物に突っ込む。その身体は三棟の家を貫通し、そこで止まった。瓦礫が崩れ、Ⅳ世の懐から【ブローチ】が砕けて落ちる。Ⅳ世は身体を起こしながら悲しげに言った。
「なけなしの【ブローチ】だったのだがな」
そして、再度の爆発音が響き、
「死ね!爺!」
シンプルなセリフと共に腕彦が建物三棟を打ち砕き、止めを刺すべく襲いかかった。それを見切ってギリギリで躱しつつ、Ⅳ世は素早く辺りを見回し、そして……一つのベルを取り出した。
銀色の金属で出来たベルだ。持ち手には植物を象った装飾がある。Ⅳ世は壊れやすい貴重品を扱うように、そっとやさしくそれを振った。ベルが小さく澄んだ音を響かせる。それを聴いて、Ⅳ世が満足げに頷いた。
「此処なら、近くに人はおらんようだな。逃げたか、或いは……まぁ、それは考えても仕方あるまいな」
「よそ見だと!?この……」
「いや、すまなかったな。儂の<エンブリオ>は他人が居っては使えんのでね、ここまで貴殿を誘導する必要があったのだ」
Ⅳ世はそういうと、両の手をーー何故か全身鎧の中でそこだけむき出しになっている両手を掲げた。
それは不可解な動き。恐るべき攻撃力を拳に携える強敵を前に、逃げるでもなく、立ち向かうでもなく、ただ両の手を見せる。腕彦でさえ思わず手を止めて注視した。
傷だらけの鎧の黒に、染みの浮いた両手の白が映える。Ⅳ世の髭に覆われた口が動く。老騎士は呟くように静かに告げた。
「《
その言葉と同時、腕彦は戦慄した。
Ⅳ世の両手には、いまや一双の籠手が嵌められていた。青黒い金属で出来たそれにはおどろおどろしい髑髏の意匠が施してあり、緑青が縁を彩っている。これこそが、ゴルテンバルトⅣ世の<エンブリオ>ーーTYPE:エルダーアームズ、【唱老病死 シバルバ】。
青黒い金属から瘴気が立ち昇り、辺りをゆっくりと満たす。地面がくすみ、瓦礫が崩れ……一切が腐食され、朽ち果てていく。それは腕彦とて例外ではない。装備品が黒ずみ、身体がささくれる。
「こンの!」
腕彦が拳を振りかぶる。それを一歩下がって避けたⅣ世は、力まずに右手を振り抜いた。籠手ーーシバルバが腕彦の前腕を軽く撫で……その右腕を、ひときわどす黒く染める。
「恥ずかしい限りであるな。<エンブリオ>は個々人の
それは、自分以外の一切、万物を壊す瘴気だ。対象の材質や性質、そんなことには頓着しない。敵味方の区別なく、自分以外のものであれば容赦なく作用する。
能力をオフにすることも出来ない。<エンブリオ>を紋章に格納することで抑えてはいるが、一旦取り出せば強制的に《
無差別の極致。一切の制御を投げ捨て、
その中でも、直接接触を食らってより強く朽ちる身体を眺め、腕彦は狼狽えた。
「な、何でだよ、俺の身体が!」
「これはシステム上病毒系状態異常に分類されておる。ENDが高かろうと耐性が上がるわけではないからの……」
「っこのぉ!」
腕彦は狂乱してわめき、冷静なⅣ世へと殴りかかった。状態異常相手に長期戦は不利。ゆえに、先んじて本体であるⅣ世を沈める。だが、
「だが、貴殿にはAGIが足りない。これから逃げに徹する儂を捉えるのはもう無理だ。そして……《瞬間装備》」
一転、距離をとって体勢を立て直さんと、逃げの手を打った腕彦の足首をⅣ世の射た弓矢が貫いた。シバルバに汚染された矢がⅣ世の手を離れたことで腐り落ち、その腐敗を周囲に広げる。腕彦がつんのめった。
「……逃走は許可できんな。儂が任された相手だ、ここで朽ちていって貰おうか」
Ⅳ世は何の感情もなく、平然とした顔でそう言った。
◇◆◇
雷の竜が吠え、その尾が辺りを薙ぎ払う。だが、その身体は少しずつ白く染まっていた。ソドムの能力により、塩に変化していっているのだ。加えて、
「《
その塩の結晶の形を操作する能力により、フルゴラの体内に体表から塩の楔が打ち込まれる。フルゴラが痛みと苛立ちで吠え、周囲に雷を撒き散らした。
「クッ……」
レディ・ゴールデンが悔しげにその唇を歪める。
「やはり、俺達の能力はその鞭の対象外だな」
グリゴリオは静かに言った。
「お前が有利を取れるのは、魔法職や対人を得意とするAGI型に対して……俺達のように近距離で腰を据えて戦いうる前衛に対してはそれほどでもないようだ」
鞭で遠距離を、フルゴラで前衛を。レディの戦法は強力だが、それでも穴がある。フルゴラを正面から打倒されれば、魔法職の脆弱な本体を晒すことになるし、鞭で跳ね返せないタイプの特殊攻撃もある。
「……《ゴールデン・グリッド》」
雷の奥義魔法が発動し、極大の雷を帯びた鞭が疾る。だが、
「それも無駄だ。雷を鞭で電導するというのはいいアイデアだが、動きを読まれやすくもなる。その鞭の速度は雷速より遅いのだからな」
「偉そうに、随分と喋るじゃない?余裕のつもりかしら」
「それもある。だが、一番の目的は会話そのものだ」
グリゴリオは鞭を躱しつつ言った。
「その鞭。魔法スキルに類するものの伝導……反撃が能力特性か。まるで<エンブリオ>だな、お前の左手にも二つ目の紋章があるんじゃないのか?」
「
レディが不快そうに言った。その背後からシマが飛びかかる。だが、
「《
一部の隙もない高圧電流の障壁がそれを阻んだ。電離した大気の匂いが鼻を刺す。
すかさず、たたらを踏んだシマをフルゴラの尾が吹き飛ばす。その反動で塩化した身体が砕け、白い粒が飛び散った。
「フルゴラ!」
レディが金切り声をあげる。おもわず狼狽を露にし、顔をひきつらせる彼女に、グリゴリオは言った。
「これ以上相棒が塩になるところは見たくないだろう。答えろ、レディ・ゴールデン!<エンブリオ>を売る商人とは何だ!市長とお前らの関係は!その鞭の正体は!」
「ベラベラ煩いのよ、凡俗が」
レディは顔を伏せた。髪が崩れ、毛の房が垂れ下がる。
「脅迫なんかして……それほどに有利を取ったつもりかしら?良いわ、知りたいなら教えてあげるわよ……身体にね」
女が顔を上げ、形相を露にする。その眼が憎悪と屈辱に光る。
「【劣級伝導 コンダクティカ】、目覚めなさい……《コンダクト》!」
その宣言を聞いた瞬間、グリゴリオは後ろに飛びすさった。何かが違う、そう感じたからだ。そして次の瞬間、
「これはこれは」
グリゴリオが居た場所と……同時にグリゴリオとシマの身体をも、
「マジ、かよ、増えやがったぞ!」
「余計な煽りするからだぜぇ、どーせろくに答えやしねえのに」
黒い鞭は触手のようにうねり、ひとりでに蠢いている。もはや鞭というより生き物といった方が正確だろうか。それを握るレディが叫ぶ。
「《
そして、触手の一本一本が極大の紫電と雷光を帯びた。バチバチと痛いほどの音が響く。一本だったさっきまでとは戦術としての質が違う。同時に迫る五本の触手を完全に躱しきるのは不可能だろう。グリゴリオがしみじみと言った。
「必殺の雷か。本来なら半ば無制御だったのだろうに、伝導の鞭を芯にすることで制御されている。それが五本……」
「厳しい、な?」
「あぁ、直撃を食らい続けたらヤバイな」
グリゴリオが唸り、
「ついでにこれも、上乗せしてあげるわ!」
レディが威嚇するように喚いた。触手が蠢き、雷の槍の如く襲いかかる。そして、レディが箱型のアイテムボックスを放り投げる。それは瞬時に弾け、中身の液体を撒き散らした。
「一〇リットルの塩水よ……痺れなさい!」
レディが嗤う。
食塩水……正確には電解質溶液には電流を流れやすくする性質がある。ただでさえ極大の電流をさらに強くするレディの策だ。
「このォッ!」
シマは、グリゴリオを庇って飛び出した。降り注ぐ塩水と共に極大の雷を浴び、抵抗力を失くした人体で雷が暴れまわる。そして、
「《
シマが稼いだその一瞬の隙に、グリゴリオが必殺の手札を切った。
◆◆◆
【塩害条約 ソドム】。TYPE:ルールの<エンブリオ>であり、その能力は塩への変化……正確には、条件を満たしたものを塩化させることだ。《地塩土》や《塩害》の場合にはダメージが条件として規定されている。
最も、能力の行使に条件を設ける<エンブリオ>は少なくない。だが、ソドムの場合は条件を設定することがまた違った意味を持っていた。
ソドムとは、創世記にてその悪徳により亡ぼされた街。預言者ロトの妻は神の言いつけ……条件に背き、
そして、必殺スキルはそのモチーフに最も沿ったもの。予め提示した条件……《命令》を破ったとき、最大の塩化能力が襲いかかる。
「今回は、《答えろ》だったな」
塩の彫像を前にグリゴリオは事も無げに、しかし冷や汗を流しながら言った。レディの全身は白い結晶に包まれ、フルゴラは純白の彫刻のように牙を剥き出した形で停止している。宙を走る雷でさえ塩の粒と化していた。その足元にはシマが黒焦げで【気絶】して横たわっていた。
「《命令》が弱かったからな。完全に内部までは塩化していないか……聞こえてるんだろう?」
その声に呼応して、レディの顔が動く。塩の内部からその瞳がグリゴリオを睨み付けていた。
あの一方的な命令だ。レディの言葉だけの承諾がなければ、動きを止められたかさえ怪しい。
「だが、動くことはもう出来ない筈だ。塩化が解けるまではな。さぁ、尋問に付き合って貰おうか?」
「ハッ……誰が……」
憎々しげにレディが呻く。グリゴリオは諦めたように肩をすくめ、ゆっくりと彼女に歩み寄った。レディの瞳が煌めく。
そして、纏わりつく塩の薄氷を破った五本の鞭の先端が、グリゴリオの身体を貫いた。
「なっ……!?」
驚愕のあまりに、うなじが痺れる。グリゴリオは信じられないといった表情で自分の身体を見下ろした。
「あり得ない……ソドムの能力は、その人物全てを対象にするものだ……当然<エンブリオ>や装備をも!なぜ、その鞭だけが塩化していない……?」
「だから、言ったでしょう、凡俗……有利をとったつもりか、ってね……ふふふ」
肉に食い込んだ鞭が蠢く。血液がボタボタと落ち、グリゴリオが呻いた。
「まだ秘密があるか……良いだろう、なら、直接《
「やって、みなさいよ、凡俗!」
双方が血を吐き、苦しげに啖呵を切る。視線が交錯し、火花を散らす。大鉈と鞭が臨戦態勢を示し……
「ーーそこまで、だ」
突如、宙から降ってきた冷ややかな声に遮られた。
◆
「ゴールデン。貴様の失態は目に余る。あるいは活動限界と言っても良いな。なんにせよ、これ以上の戦闘は許可できない」
二人が慌てて空を見上げ、その顔に影が落ちる。闖入者は、大きな白い鳥に跨がった黒装束の女だった。白い髪をバレッタで纏め、きっちりと襟を閉めている。赤い唇が嗜虐的に歪む。
「あたくしは、まだ、負けてないわよ!」
「そのリスクがある、それで十分だ……【劣級飛行 フライリカ】、持ち上げろ!《フライ》!」
女ーー白色矮星の宣言と共に、レディの身体、そしてフルゴラまでもが、あかがね色に輝いて宙へと浮遊する。だが、
「みすみす逃すか!」
グリゴリオが叫び、血塗れの鞭を掴む。その脚が地上を蹴り、大鉈が閃く。
「《
塩化能力を纏った一撃が空中で放たれる。その剣閃は過たず白色矮星の頭部を軌道上に捉え、そして、
「《
巨鳥の脚が深紅に染まり、グリゴリオをいとも容易く空中で蹴り飛ばした。グリゴリオが苦しげに空気を吐き、地面に叩きつけられる。白色矮星はいまや紅白に変わった巨鳥の上で冷ややかに言った。
「今の私は機嫌が悪いんだ。とはいえ、やることもあるからな、その程度で済ませてやる」
そして女は、懐から拳大のなにかを取り出し、スイッチを入れた。無造作に投げ捨てられたそれから濃厚な煙が溢れる。
「ドライフの、【スモークディスチャージャー】……煙幕か!」
灰白色の煙が視界を遮り、感覚を阻害する。グリゴリオは黙って地面を殴り付け、そして傷の痛みに顔をしかめた。
◇◆◇
老騎士が軽やかに剣を構える。その両手の籠手を中心に黒い瘴気が立ち込め、地面がぬかるむ。死の泥濘に膝をつき、腕彦は悔しげにⅣ世を睨み付けた。その右腕は腐れ落ち、左の脇腹も抉れている。どす黒い腐敗液が口の端から溢れ、顎を汚していた。
「Ⅳ世がこんなにヤバかったなんて、あたし聞いてないんだけど」
「俺も見るのは初めてだ……おっそろしいな」
リンダとキュビットが遠巻きにそれを覗き、身震いする。その後ろでユーフィーミアが首を傾げていた。
「あの、腕彦って人の動きを見てて思ったんですけど、あの人なんか左腕を庇ってませんか?」
二人は顔を見合わせた。リンダが首を捻り、キュビットが得心したように頷き……突如、Moooが静かに紙切れを差し出す。
「『確かに左腕の被弾のみが少ない』か、左腕に何か壊したくないものがあるのか?」
「<エンブリオ>の紋章じゃないです?」
「いや、紋章は例え欠損しても他の場所に移るんだ、知らない人も多いけどね」
「へぇ、確かに知らなかったよ」
「俺も実際に見たことはないけどね。左手だけ失くすなんて、よほど血生臭い戦い方してないとそうそうあることじゃないし……じゃあ、一体何を庇ってるんだろうね?」
◇◆
「貴殿、妙な動きであるな。なぜそうまでして左手を庇う?」
ゴルテンバルトⅣ世は半身に西洋剣を構えながら呟いた。
「人間というのは本来、本能的に中心を守るものだ。眉間、鼻、喉、胸、腹、股間……」
その剣が腕彦の身体を示し、揺れる。純白の刃はシバルバに汚染され、青黒く濁っていた。
「貴殿の強さ、そのカラクリが左手にあるのか?」
腕彦が黙って微笑む。その拳が再び固く握られた。
「くたばれ、爺」
「……ふん」
老騎士は諦めたように鼻を鳴らした。この男は直情径行に見えるが、実のところ最大の守るべき秘密についてはそれなりに口も硬いようだ。恐らくこれ以上の詰問は無駄。ゆえに、
「とどめ……!」
Ⅳ世が剣を上段に構える。シバルバの髑髏が嬉しげに笑う。狙うは頭、即死の致命傷。
一歩間合いが詰められ、青黒い剣閃が振り下ろされる。そして、
「!?」
次の瞬間、その刃がへし折られた。
腕彦の仕業ではない。彼はいまだ泥濘に倒れている。それを成したのは、新たな闖入者。
「鳥!」
無数の鳥の群れだ。黒いカラスのようなその身は、金属製の嘴と鉤爪に武装され、その黒い瞳は冷酷に老騎士を見つめている。鳥達は一斉に舞い降りると、あたかも鳥葬のごとく腕彦を覆い隠した。
「助太刀か、或いは口封じか!だが……」
Ⅳ世が踏み込む。瘴気が溢れ、鳥達の矮躯が汚染されて腐敗していく。しかして鳥達は数を恃んでか、仲間の、自身の汚染を気にも止めず舞い降り続ける。そして、腕彦の身体が持ち上がった。
「させぬ!」
老騎士が唸り、その左手が【ジェム】を取り出す。投擲されたそれは空中で封じられた力を解き放った。
「《グルーム・ストーカー》」
そは闇属性魔法の奥義。あらゆる障害を無為とし、ひたすらに命を喰らうもの。生命にのみ防御不能の影響を与えるそれは、
「なっ?!」
一発の銃声と共にいずこかから飛来した弾丸に撃墜された。
「何処から!?あの不自然な射角……それに闇属性だぞ!」
「言ってる場合かい!援護だよ!」
キュビットとリンダがシバルバの影響範囲外縁ギリギリに散開し、
「あわわ、ど、どうしたら……」
ユーフィーミアが右往左往する。その傍らで、Moooがひっそりとライフルを取り出していた。大の男一人を抱えた鳥の群れはかなりのっそりと飛んでいる。故に、射撃など容易いことだ。マズルが炎を吹き、超音速の弾丸が唸りをあげて迫る。そして、再びの発砲音が響き、別の弾丸がMoooの狙撃を
「……!」
白い頭巾が破れ、右の肩口に赤が滲む。それをバカにしたように見下ろすと、鳥の群れは高空にて密集陣形をとった。その一羽が拳大のものを咥えて投げ落とす。【スモークディスチャージャー】が地面に落ち、濃厚な白煙を吐き出した。
「煙幕か……!」
感覚を潰された面々が煙のなかで立ち尽くす。暫く経って煙が晴れたあと、そこにはもう誰も居はしなかった。
◇◆◇
「やっぱり、襲われたのか」
少し後。グロークスの中央区に降りてきたAFXが呟く。その隣でメアリーが腕を広げた。
「誰も
金色の光が広域に散開する。それを眺めながら、AFXは言った。
「で、逃げられたんだ?」
「あぁ、援軍が近くで張っていたらしいな。鳥に跨がった女だ」
グリゴリオが忌々しげに呟く。治癒した身体を確かめるように動かす彼の後ろで、シマが飛び起きた。
「死ぬかと思ったぜぇ」
「お前、HPが三桁切ってたぞ。ちゃんと耐性装備は揃えておけって言ったろうが」
説教臭いグリゴリオをよそに、AFXは顔を歪めた。
「鳥の女……白色矮星か」
「だろうな……知ってるのか?」
グリゴリオが片眉を上げる。
「僕達も襲われた。途中で逃げられたけど」
「こっちの戦況を監視していたんだろうな。白色矮星、奴はコルタナでオアシスを一つ潰して指名手配を食らっている犯罪者だ……他のやつと同じだよ。強化されてる点もな」
グリゴリオが唸る。
「白色矮星の<エンブリオ>はあのデカ鳥だ。本来鳥の癖に飛べないという、見かけ倒しの筈だが……」
「普通に飛んでたよ。しかも速い」
メアリーの言葉に、AFXは考え込んだ。視線が揺れ、メアリーと目が合う。AFXはそっと目をそらし、口を開いた。
「なんにせよ、援軍が来たってことは……」
「奴らが組織化されてるってことだ。そうだろ?」
「マジにクーデターかい?こりゃあ……」
そこに現れたキュビット達が後を引き継ぐ。Ⅳ世が素手の掌を合わせ、メアリーに回復の謝辞を言った。厳しい顔で彼らは互いに情報を教え合った。
「儂らも会うたぞ。無数の鳥の群れ……そして狙撃手だ。敵を回収して何処に行ったかは……」
「……わたしが、見てました」
ユーフィーミアがおずおずと手を上げる。その左手に、毛むくじゃらの何かが素早く飛び込み、消えた。
「この子……わたしのガードナーに離れたところで見ててもらってたんです。煙幕のせいで、ちらっとしか見てないんですけど、多分……」
彼女はちょっと躊躇うと、
「多分、地下の……採掘坑の底だと思います」
そう言って、街の端の方へと目をやった。
◇◆◇
□■同刻 冶金都市グロークス外壁 三番通用口
「全く、どうなってるんだ?」
グロークス西側外壁の、通行検査詰め所。その裏口でメモ帳を繰りながら、ゴビル千戸長は深くため息をついた。沈みかけの太陽が赤くその横顔を照らす。
入った知らせは街中での……それも複数箇所での乱闘。鎮圧にかかった<マスター>も壊滅。幸い、人の比較的少ない所だったが故に死傷者が居なかったのは幸いと言える。最も、それは鎮圧に協力する通りがかりの<マスター>がさほどいなかったことと裏表ではあるが。
「あそこは再開発予定地区……とはいえ、どのみち撤去作業は必要だな、また人手を持っていかれる」
ゴビルは悩ましげに自らの職務のことを考えた。だが、その次の言葉は、
「あの人は何を考えているんだ?流石に権限を逸脱している……異邦人に好き勝手を許すなど……」
その言葉は、明らかに千戸長の職務の範囲を超えていた。彼もその恩恵を受けてこそいる、グロークスに巣食う影の権力者を思って頭を振り、千戸長は踵を返して……
後ろで物音を聞いたような気がして振り返った。砂が風に吹かれて壁を汚している。
「……」
千戸長は気の迷いを振り払うように帯に挟んだパイプを取り出し……
「……ッ!?」
その二人を見た。
「な、何だお前達!ここは民間人立入禁止だぞ!何処から入ってきた!」
千戸長は目を見開いた。
まず目に入ったのは少年だ。典型的な西方人間種の容姿。年の頃は十一ほどか、伸び盛りの引き伸ばしたような手足がいかにも子供らしく見える。だが、その目付きはゾッとするほど虚ろだった。
そして、その隣にいるのは奇妙な男。一つ目の紋様を描いた陶器のような仮面で顔を隠し、帆布のようなマントを纏っている。その右腕は深紅の金属で出来た機械の鎧で覆われ、全体的にアンバランスなシルエットを作っていた。その反対、左手がすっと持ち上がり、天を指す。
「上……空からか!その仮面、そうか、貴様、“
「あ、あ、あー……そんな事はどうでもいい。質問するのはこっちだ。君は『いいえ』と言え。何を聞かれてもね」
仮面の男は胡乱な事を勝手好き放題に言うと、一枚の写真を取り出した。
「この男を知ってる?最近、このへんで見た?」
「ッ……貴様なんぞに答える義理は無い!応援を……」
「仮に此処にいるなら、君は知ってる筈だ。制服……勤務中に
男はそう言うと、ゴビル千戸長に詰め寄った。仮面の紋様が紅く輝く。
「見たか?『いいえ』と言え」
そのアンバランスに巨大な右腕が千戸長の腕を掴む。骨が軋み、筋肉が歪み、千戸長の額に脂汗が浮く。痛みのあまり歯を食い縛る千戸長の唇が悔しげに動いた。
「ぐ……い、い、『いいえ』!」
「《真偽判定》偽。いいね、ご協力どうも」
機械の腕が緩む。千戸長は地面に崩れ落ち、浅い呼吸を繰り返した。
「やはりここに居たか……やっと見つけたね」
仮面の男は少年を振り返って愉しげに言った。
「で、こいつはどうする?」
その言葉に、奈落のような暗い瞳が千戸長を見つめる。そして少年は口を開いた。
「殺そう。後腐れがない」
「いいね♪」
一瞬、大気に小さな爆発音が響き、噴煙と噴炎が漂う。それを最後に、ゴビル千戸長は何も分からなくなった。
To be continued