星と少年   作:Mk.Z

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第二話 ニュー・ファイターズ

 

 □■アルター王国 王都アルテア シャンブルズ通り

 

 明々と燃えるランプの側で、トビアはさっきまでいましめられていた腕を確かめるように動かした。まだひどく痛むが、折れてはいないらしい。

 トビアを救ってくれた男は、店の軒先で暗闇をねめつけていた。もっとも、眼が見えないので本当のところは分からないが。

(変な仮面…)

 トビアはその失礼な考えを振り払った。<マスター>は往々にして珍奇な格好をするものだ。何より命の恩人でもある。

「あの……ありがとうございます、助けてくれて」

「え?あぁ、そういえば助けたんだっけ」

男は一瞬考え込むと、トビアに尋ねた。

「君さ、どこの子?」

「王都の外の村です……アルムト村」

「ふーん…まあついでだし家までは送ってあげるよ。で、なんでこんなところにいたのさ?」

「そんガキゃあ、あたしの商品をくすねに入ったんでさぁ」

モートが横から苛立たしげに言った。

「目敏いあたしですから、直ぐに見つけてふんじばりましたがね!」

「……<エンブリオ>が欲しかったんです」

トビアは諦めてぽつぽつと話しだした。こうなりゃ自棄だ。

「<マスター>になりたくて……どうやったらなれるか、いろんな人に聞いてたんです。そしたら、ここで<エンブリオ>が手に入るって聞いて……悪い人からならちょろまかしても良いかなって」

「全くふてぇクソガキでさぁね!」

モートが再び遠くからがなった。トビアは無視して続けた。

「だから、家に帰る前にこの下に<エンブリオ>を取りに行きたいんですけど…」

「こいつが売ってたのは偽物だし、そもそも瓦礫の下だから全部壊れてると思うけどね」

 男はぞんざいに答えると、トビアを縛り上げた張本人である小男を指で呼びつけた。あんなに極悪非道で恐ろしく見えた彼は(実際トビアに対しては変わらず横柄だった)、今後売り上げの四割五分をむしられる契約を交わして今やすっかり萎縮していた。へつらうように揉み手をしている。

「あ、あの、親愛なる偉大なブラー閣下様、御契約も済んだことですし、そろそろあたしァおいとまをですね」

「ダメ」

「ダメェ!?それァ一体どういう…」

ギョロ目を白黒させる店主モートに、ブラーは鼻を鳴らしながら命じた。

「お前さぁ、もう僕の収入源だから、勝手に死なれちゃあ困るんだよね」

「へ?」

その穏当でないセリフに、モートと、そしてトビアも戸惑ったようにブラーを見つめた。ブラーは構わず続けた。

「外に山ほど刺客がいるから。誰か、他人から恨まれてる覚えのある人はいる?」

 

 ◇

 

 モートの店の近隣。屋上や、下水道、あるいはただの道端に、ただならぬ人影が集まっていた。全員が完全に武装をし、敵の姿を見定めている。すなわち、奇妙な仮面を被ったブラーの姿を。

 そして、モートの店の向かいには、建物の屋上で口早に会話をする者たちがいた。

「あ、これバレてますね、リーダー。もう行きましょうよ」

「いや、ダメだ」

「ダメって何でっスか、リーダー!」

「援軍が来てねぇからだよ!<マスター>共が来るまで待つんだ!」

「いや、でも完全に包囲してますよ、アニキもいますし」

「それでも勝てねぇよ!」

リーダーと呼ばれた男は、そういうと痩けた頬を震わせて、バルコニーの目隠しに顔を隠した。

「知ってんだ、あいつの仮面。カルディナの【ドラグノマド】で暴れて指名手配されてた<マスター>だ。“監獄”行きだと思ってたが王国にも伝手がありやがったとは」

「いや、だからって…」

渋るリーダーに部下が呆れ始めたとき、その背後から大柄な男がその背中を叩いた。

「ビビってんじゃねぇぞ、お前ら」

「ア、アニキ!」

「俺が闘る。ここいら一帯の組織のメンツ潰されてよ、親父達(ファーザー)はいたくお怒りなんだ」

 ならず者にはならず者の法があり、秩序があり、組織がある。彼らはその組織の実行部隊、暴力の行使を担当するもの達だった。

 仮面の男はそこらじゅうの悪党を脅し、騙し、契約を結んで自分の物にしていた。シノギの上前を跳ねられるなど許しがたい不利益であり、同時になんとしても取り返さねばならないメンツの問題でもあるのだ。敵が<マスター>といえど、目にものを見せてやらねば組織が揺らぎかねない。

「絶対に逃がすなよ。周りを固めとけ」

 そういってアニキと呼ばれた男は、彼らの期待を込めた眼差しを背中に背負いながら、通りに飛び降りた。

その背中には、特典武具の赤黒い刀が光っていた。

 

 ◇

 

 ブラーは眼前の道に降ってきた男を見つけると、店から出て、静かに歩み寄った。件の男、すなわちアニキが目を見開いて威嚇するように笑う。

「テメェ噂になってるぜ、ブラーさんよ」

身体を左右に揺らしながら男はなぜか愉しげに言った。

「ブルーノ、ブロント、バイロン、ブレンダン、ブラッドフォード……今日はブライアンだったか?よくもまぁ色んな名前をホイホイ使って荒らしてくれたもんだ。こんなことしてただで済むと思ったかよ?生憎、シノギを横からかっさらわれてボスはカンカンだぜ」

 じゃなきゃこんな陰気なとこまで来ねぇ、と小さく吐き捨て、何気なく間合いを詰める。

 一方のブラーもまた挑発的に微笑んでいた。一歩踏み込む。唇が動く。

「後ろの店に子供(ガキ)がいるんだけどさぁ、あれを代わりに差し出したら帰ってくれない?」

 トビアは腰を抜かした。さっきまでの救世主が、途端に今は犯罪者に見えてくる。男はクツクツと笑って首を振った。

「駄目だな。まぁここにいる奴は全員始末するからどっちにしろ、だが」

「始末?<マスター>をか?脳ミソが少ないぞゴリラ野郎」

「お前はカルディナで指名手配されてる」

男はそう言いきると、また一歩ブラーの方へ踏み込んだ。

「まったく幸いだったな、後は王国で罪をでっち上げりゃまず間違いなく“監獄”行きだ。お前に恐喝された()()()()()()()()()()()()の訴えが証拠になる手筈なんだぜ」

「へぇ、そりゃ怖いね、今夜は寝られないかも」

「いや?安心しろよ。すぐには殺さねぇ。まず両手足を粉々にしてから、小銭一つも出てこなくなるまで《強奪》してやるよ」

 残忍に顔を歪める男に対し、ブラーは変わらずせせら笑った。間合いを詰める最後の一歩を踏み込む。

「やってみろよ、NPC(ティアン)如きが」

 

 ◇◆

 

 緊張した空気は一瞬で弾けた。

「アホがッ!俺のレベルは496!更にィ!」

 男はギラリ長いものを引っこ抜いて斬りにかかった。

「逸話級特典武具!【焔刀定理 メラニウス】ッ!いくら<マスター>といえどもこの俺の前にはゴミカスッ!そこらの立ち木と同等よォォッ!」

 そう吠えながら、男は音速にも迫ろうかという速度でその燃えるように紅い刀を振り下ろす。

「死にさらせェッ!《愛羅愛羅(メラメラ)》!」

 殺さない、という先の発言は頭から吹き飛んだらしい。本気の剣筋が炎を纒い、ブラーのマントにぶち当たった。

 凄まじい高熱と運動エネルギーが解放され、夜の風が火の粉を孕んではぜる。

 だが、そこまでだった。

 ぼろ布など容易く塵に出来る筈の紅い剣閃は、ぼろ布の表面に食い込んで止められている。ブラーが肩をすくめた。

「熱攻撃かァ……このマント炎熱系への耐性装備なんだよね」

 いわゆる、耐火布と呼ばれるものだ。

 けれど、或いは単なる衝撃、斬撃に特化した武装であっても、意味は無かっただろう。

「《瞬間装備》……《ストロングホールド・プレッシャー》」

 ブラーが手にしたバックラーが、呆けた男の顎を垂直に撃ち抜く。

「《看破》ぐらい取っておけよ…だから脳ミソ少なめだっていうんだ」

 倒れ伏した男を一瞥すると、END型上級職【盾巨人】ブラーはそう言って、鼻で笑った。 

 

 ◇◆◇

 

 □■シャンブルズ通り ある店舗の屋上

 

「抑えておけませんよ」

諦めたように部下はリーダーにーーアンクストという男だったがーー具申した。

「ヴィルトのアニキがコケにされて皆キレてます。このままじゃ俺らの面子は潰れっぱなしだ」

ヴィルトはその強さゆえに、皆に恐れられると同時に慕われていた。暴力を生業とする彼らにとって強者とは輝きであり、それを倒したブラーへの敵意は推して知るべしと言うものだ。

 というか、と部下は死人のような顔で続けた。

「俺もキレてます。やっちゃって良いですかね」

「ま、待て!アニキがやられたんだぞ、お前らで勝てるのかよ!」

「《看破》は済んでます。あいつは【盾巨人】、それもサブまでガチの耐久型で埋めた筋金入りでしょう。並みの【盾巨人】ならアニキに斬られてるんで」

「だからどうすんだよそれを!」

「アニキの刀を避けなかったのは、避けられなかったからですよ」

部下は表面上冷静に続けた。

「耐久に振りすぎてAGIが極端に低いんスよ。奴の<エンブリオ>も痕跡から推測できてます。伝説級金属も破壊する打撃能力……対物破壊能力特化でしょう。連続した中遠距離攻撃と速度型のヒット&アウェイならハメ殺せます」

部下ーーシュネールはそういうと蒼白な顔を歪めてアンクストを威圧した。

「さぁ早く……【司令官(コマンダー)】のスキルを」

 

 ◇◆

 

 □【盾巨人】ブラー・ブルーブラスター

 

「殺してもなんら得はなし…悲しい限り」

回復薬を呷りながらヴィルトを見下ろして、ブラーはそうひとりごちた。特典武具は譲渡不可だといったい誰が決めたのだろうか?もちろん運営だ。ブラーは通算一〇〇回を越えているだろう運営への悪態をつこうとして、やめた。代わりに絶賛【気絶】中のヴィルトの身体を斜向かいの店に蹴り飛ばして鬱憤を晴らす。

「ゲームには報酬とスリルがなきゃなぁ…」

 とはいえ自分が奪われる側に回ったらそれはそれで不快だろうな、とブラーは思った。生憎特典武具など一つも持ち合わせては居ないが。

「不公平大好きのクソ運営が……《サウザンドシャッター》」

不意の防御スキルの宣言と同時に、風を切って投擲されたナイフが飛来する。それに間髪いれず五つの属性による魔法弾がブラーのマントに突き刺さった。

 AGI型の刺客達が死角に回り込むように蛇行しながら迫る。それらの攻撃の幾つかをまぐれの盾で受けながら、ブラーは敵手の作戦を考察していた。

「この戦い方、速度型と遠距離で僕を削り切る気か?」

 それは耐久型に対峙する一つのセオリーだ。固さで勝る敵には、敵手の攻撃を完全に回避しつつ攻撃を当て続けて粘り勝つこと。最終的なダメージの収支で勝利する、堅実で賢明な策。ブラーの防御とて永遠には続かない。いつかは数で勝る彼らにすり潰されるだろう。

 

 ただしそれは、彼の“オンリーワン”を入れ忘れた計算だ。

 

「起きろ、アシュトレト」

 ブラーの呼び掛けに、その仮面の眼紋が血のように紅く輝いた。

 

 To be continued

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