■カルディナ
不死の能力は存在しない。
少なくとも、誰に明言されるでもなく、AFXはそう思っていた。
<エンブリオ>の能力には必ずどこか欠けた部分がある。一度や二度ならともかく、永久に復活し続けるだなんて不可能だ。そんなのは、言ってしまえば無限に命を作れるのと同じだから。
「さて……死ぬまで殺せば死ぬのかな?」
MPを使って再生しているなら、あるいは回数制限があるなら、なんでもいいが、それらが尽きるまで倒す。どこかに終わりはあるはずだ。同じ<上級エンブリオ>なのだから。
『
だが、
『
「自己紹介どうも」
AFXは軽くナイフを放り投げ、キャッチして逆手に構えた。
「《スリーピング・ファング》!」
そして加速した。
【偵察隊】のAGIは決して惰弱なものではない。舞い上がった砂が積もるより早く間合いが詰められて、ナイフの刃が閃く。
それを意にも介さず腕を伸ばす
「もう、一度!」
今度は脇腹と大腿部の血管が切り裂かれた。意外なほどの勢いで、噴水のように鮮血が溢れ出す。間違いのない致命傷だ。
だが、再々死はニヤリと笑った。
『
「……!」
AFXは腹立たしそうに間合いを離した。再々死の不遜な態度故にではない。
「メアリー、治療を」
その両腕が再び【凍結】していた。AFXは膝を叩きつけてそれを躊躇いなく粉々に砕くと、黄金の光に腕の残骸を浸した。
「《
急速に再生し繋がっていく腕をよそに、AFXは呟いた。
「さっき、僕はあいつの攻撃を全部躱した」
「触られてないってこと?」
「エフェクトだとか分かりやすい遠距離攻撃だとかは無かった。それなのに腕が凍った。体の周りに透明な冷気があるのか。ダメージ起因のカウンター能力か。あと二、三回殺してタネを割る」
換えの武装を握ったAFXは再度、再々死に向かって地を蹴った。
『
肉体再生を終えた再々死は、砂漠を踏んで立ちはだかった。
『
(霜が降りている)
AFXは加速したAGIを以て、緩やかに敵を観察した。
(氷結の能力と、不死の再生。上級職との合せ技だとしてもリソースが足りない)
絶対にそうだ。全く別方向のものを、実戦レベルなどとうに超えた高水準で両立するなど。ましてや、それに限界がある節もない。不死に限界があるなら、守りの動作を廃せる分を活かすために、接近戦でもっと積極的に攻めるはずだ。
(ブラフの可能性はない。そんなハッタリに意味はないからだ。なら、本当にあいつの不死に限界はない……少なくとも分かりやすい限界は。氷のスキルを無駄撃ちできるくらいなんだから)
辺りを凍らせながら迫り来る【死騎】を見ながら、AFXは考える。
(数字の上での明快な限界はない。なら、なにか条件があるのか?それが満たされる限り死なないような。幾度殺されようとも関係ないような。僕のメドラウトは共通点がある限り強化される。それと一緒なのか?)
なら、それこそが割るべきタネだ。
候補はそれこそ無限大にある。時間帯や環境のような、壊しにくい条件かもしれない。だが、AFXはあまり心配していなかった。
<エンブリオ>は制約されるほど強い。これほどのスキル出力、逆に背負っている条件の強さも押して知り得る。攻撃され得る弱点があるから、敗北のリスクがあるから強いのだ。覆せない条件だとは思えない。
部位による再生の違いは見当たらなかった。ならば次の情報だ。AFXは《瞬間装備》で二つ目のナイフを握った。
「まずは、同時攻撃!」
AFXは宙に飛び上がった。そこにいた左手のアシュヴィンを踏み台にして、再々死の上を取る。
再々死の無様な防御をすり抜けて、二筋の刃が赤い線を書く。その青白い指と、眼球の表面がパックリと割れた。代償として、AFXの両手が霜に貫かれる。
(致命傷ではなくとも能力は発動している。再生能力はやっぱり<エンブリオ>本体から末端に掛けて。最悪あの腎臓を破壊するか。本当に最悪だけど。TYPE:アームズを壊せたなんて話はろくに聞かないし)
「メアリー、治癒を……!」
AFXはまた飛び退きながら叫んだ。
そして絶句した。
『
再々死は【ジェム】を取り出していたが、それを放り投げるような構えではなかった。彼は真紅の結晶を掌から転がすと、悪戯っぽく前歯に挟み、素早く呑み込んだ。
次の瞬間、その肉体は胸を中心に弾け飛んだ。
肉と骨の破片が血しぶきと共に散乱する。再々死は二本の脚しか残っていなかった。真っ赤な血を全身に浴びたAFXは、一呼吸置く間も無く全身を【凍結】されて氷像のようになった。
(やられた!僕の無力化と同時に、位置をひっくり返したのか!)
AFXは砕け散りながら身体を回した。同じように血を浴びて凍りついたアシュヴィンと、辛うじて全身【凍結】は免れたメアリーの前に、金属製の腎臓が転がっていた。
ニライカナイだ。
それを中心に生体組織が盛り上がる。喩え<エンブリオ>だけになっても、再生能力は健在だった。
瞬きひとつの間に、人間一人の輪郭が出来上がって立ち上がり、口を利く。
「本当に<上級エンブリオ>?そんな状態からの再生なんて……!」
『
再々死はAFXを既に倒したように言った。
「……容易くできるとでも?」
メアリーは拳を構えたが、再々死は鼻で笑った。
『
再々死はもう勝ったつもりで大仰に手を広げた。メアリーは残った右のアシュヴィンと呼応するように、右拳を引いて腰を落とした。
「《
「《ヒート・ジャベリン》」
「《ウィンド・カーテン》」
だが次の瞬間、いずこかから飛来した2属性の魔法がメアリーとアシュヴィンを背後から吹き飛ばした。
熱風に煽られて氷が解け落ちる。あたりの【凍結】被害者たちもまた砕け散って飛ばされていった。
AFXは復活した血流を撒き散らしながらごろごろと転がり、手足を落っことして止まった。傷ついたアシュヴィンの左が心配そうにその上を舞う。
『
全身の皮膚を白く焼き焦がされた再々死が問う。一秒足らずで瘡蓋が剥がれて雪のように舞う。
「不潔だな。人間とはかくも穢いものか」
「生命の本質は汚穢だよね〜。で、不死は果たして生命かな?」
砂丘の上で、太った双子が踊っていた。《看破》したのだろうか、再々死は首を傾げた。
『【
「あいにく。無様に負けるやつの顔が見たいのでね」
カストルとポルックスは、両手に魔法を灯しながら一歩、間合いを詰めた。
◆
■同刻 ペルヌ周辺地域
トラヴィス・E・ロードブラインド元大統領は自らの軍勢を止めた。
「うむ。ご苦労」
労いのために止めたのではない。
突如として、軍勢の先端が揺らいだ。先鋒の兵士たちが喉を押さえながら、次々と倒れ伏していく。傍にいた兵士が声を上げた。
『ご報告!呼吸器への攻撃を確認!』
「ほほ、毒ガスか。なんとかの条約でああいうのは禁止じゃあなかったかね?なぁ?」
ここにそんな近代的な代物はない、とよく知っている大統領どのは、すぐに手を伸ばした。勝手知ったる兵士はガスマスクを付け、大統領にも手渡した。
「さて、それをやったのは……あぁ、案の定<エンブリオ>か」
大統領は目を細めた。
「あの女だな」
視線の先にいたのは、パラソルを差した女だった。柑橘系をあしらった可愛らしいワンピースを風になびかせ、砂漠の熱風に汗ばんでいる。チョコレートらしきものを口に放り込むと、女は大統領に手を振った。
「あんたがこれの親玉ァ?」
「いかにも!私はトラヴィス・E・ロードブラインド!これらは私のレギオンだ!それで、この毒ガスは君のせいかね!」
「“いかにも”!」
女は楽しそうにパラソルをくるくると回した。そのもう一方の手に、重厚で粗雑な鉄パイプが握られていることに大統領は気付いた。今にも誰か撲殺しそうだ。
「おい」
『はッ!』
副官が敬礼する。大統領は短く命じた。
「焼夷弾だ」
『Sir, yes sir!』
その指令から、10秒もかからなかった。
空からひゅるひゅると嫌らしい響きを上げて、なにか黒いものが落ちてくる。ひとつやふたつではないそれらが、一斉に空気を割いて近づいてくる。
それは狙いあやまたず女の足元で炸裂した。粘りつくような炎が上がる。紅蓮のそれに甜められて、人の身が無事であるはずもない。
だが、女は平気の平左だった。
「火。火ね。よりにもよってって感じ。キャハハ」
その光景はどこかおかしかった。
まるで炎が存在しないかのように、熱されも焼け付きもしない。普通、多少なりともダメージが目に見えたっていいものだが、それがないのはENDが極めて高いのか、あるいは……大統領は目を細めた。女は暑そうに手で顔を扇いだ。
「これでも
女は楽しそうに笑ったが、その目に冷たい目的意識があることに大統領は気がついていた。これでも、人を見る目はあるつもりだ。この女は、目に映るすべてに情などかける気がない。
「名乗りって大事よね?アタシは……クソダサい名前のォ、“ペルヌ三人衆”のひとり。“
女は言った。大統領は頷いた。
「ペルヌの傭兵か」
「【
◆
■【賢者】カストル/【賢者】ポルックス
AFXは油断なく双子を眺めていた。別に味方ではないのだ。敵の敵は、残らず全員敵同士なのが今のペルヌ周辺域だった。
だが、双子は明らかに侮るような視線を二人に向けたあと、ため息をついた。
「まぁ……やはりはじめはペルヌのイヌだな。あの二人は後回しだ」
双子はそう言って、ことばを紡ぎ始めた。
「《
そう唱えた瞬間、火属性魔法がその頭上で膨れ上がった。
「《
「《
「《
産み出された水が炎熱とぶつかり合い、即座に蒸気に変わる。間髪入れず放たれた風属性魔法と反射術がそれを閉じ込めて圧縮し始めた。見た目には、真っ白なボールのようになって宙に浮いている。
「これは僕らのオリジナル」
「《ブーム・ブーム・スチーム・ザ・ドゥーム》」
そして、そのボールにひとつの穴が空いた。
高圧水蒸気が弾丸のように射出される。砂漠を切り裂いたそれは、人間の視覚など越えたスピードで再々死の頭をも吹き飛ばした。男の叫び声みたいな独特の空気を裂く音がした。
再々死はふらふらと立っていた。白い冷気を吐きながら、頭部が再構築されていく。双子は首を傾げた。
「致命傷でもだめか?なら、全身を焼き尽くすか」
水蒸気爆発のボールが中身を吐き出して消滅した。代わって、双子が朗々と謳い出す。
「《
「《
「《
「最後にぃ、《魔法多重発動》《魔法発動加速》」
再々死は口の中の冷たい血を吐き出し、双子を睨みつけた。
砂が舞い上がり、それを円形の障壁が囲む。まるで石窯のような格好になったところで、粉塵の舞うそこで炎が灯った。
「《バーニング・ダウン・ザ・ハース》」
次の瞬間、閉鎖空間で逃げ場のない爆炎が荒れ狂った。
再々死の肉体が<エンブリオ>たるニライカナイだけを残して真っ黒な炭と化す。
「駄目押しだ」
障壁が一部消滅する。チカッと火種が光って、もう一度同じぐらいの炎が噴き上がった。少し離れたところにいたメアリーの顔の産毛が焦げたような気がするくらい。
「水蒸気爆発に、今のはテルミット反応とバックドラフトか」
AFXはメアリーに癒やしてもらいながら呟いた。
(オリジナル魔法って……桁違いの魔法制御。どっちかの<エンブリオ>か?それに、いくつ属性を持ってるんだよ)
【賢者】は万能性が売りだが、実際にそこまでの札を持てる人間は多くない。扱いきれないし取得に手間もかかる。
「【結界術師】【反射術師】はちょっと難しかったよねえ。重力属性もまだ取ってないしさ」
「あぁ、だがなぜ驚くのかは分からないね。万能性が売りなのだから、理論値に達するまで強化しなければ損だろうにな」
「制御はねぇ、最初は暴発してばっかりだったねえ。まだ
AFXの驚きを見透かしたように双子は言った。
「で……まだ死なないのかね?」
『
『
「侮辱だよねえ。“
「<DIN>はすぐ二つ名を作りたがる。順番が逆だろうにな。結局呼ばれていないあざなのなんと多いことか」
「でもさぁ、センスのいい人は二つ名付けで儲けてる人もいるらしいよねえ。やっぱりそこは広告としてのメディアと利害関係が……」
『
再々死はうろたえもしない彼ら二人に苛立ちを隠そうともせず、歩を進めた。その足跡は凍りついていた。
【賢者】の肉体は脆弱だ。【凍結】すれば終わりだろう。
『
「あぁ、それはもういい」
だが、カストルは首を振った。
「もう大体アタリはついたからな」
「そっちの二人にも感謝かなぁ?実はちょっと観察タイムを取ってたんだよ、有難うね、馬鹿みたいに闘っててくれて」
「貴様が今、我々に近づこうとしていることこそが傍証だ。怖いのだろう?【
二人は愉しげに手を叩いた。
「《
「《
「《
水が二人の掌から湧き出し、空へ続く風の渦がそれを巻き取り、どこからともなく現れた濃霧をも吸い込んで、砂漠には似つかわしくない雲の竜巻として再々死へと迫った。
「そんでさぁ、《
竜巻が冷気に凍りついた。
再々死もまた凍りついたように顔を歪めた。双子はメアリーとAFXに向かって手を振りながら言った。
「教えたげようか?弱そうなお二人さん」
「発想の転換だな」
「不死はありえない。そこはいい線いってる。でも、コイツはいくらでも復活する。じゃあ答えは簡単。常時発動型のスキルを使ってるってだけ〜!」
「MPが消費されていないのなら、別の形でエネルギーを賄っているはずだ」
カストルはそう言うと、AFXの察しの悪さを咎めるようにしばし口を噤んだ。あるいは魔法の構築時間を稼ぐためのお喋りなのかもしれなかった。
「まぁ……“熱”だよ」
再々死は今度こそ舌打ちした。手の内を見透かされたことも許せぬほどプライドの高い性格を窺わせる。
「熱エネルギーを吸い取って再生力に変えている、だから発想の転換だと言った。氷結攻撃はいわば、副作用だ。半ば無制御で、それ無しに再生することはないし、再生無しに氷結攻撃も出来ん」
AFXは顔をしかめた。気づいて当然の理屈だ。あいつが妙に攻撃を誘っているふうだったのも、傷の再生に伴ってその敵から熱エネルギーを奪い取るためだったのだ。
「熱を持つ手段の攻撃では奴を再生させるだけ。火なんぞ最悪だな。それにここはカルディナだ、砂漠気候の昼間なら熱など腐るほどあろうさ。辺りの全てから熱を奪って回復する」
「だから……攻撃した手が凍ったのか」
AFXは呟いた。カストルは首をひねりながら続けた。
「ステータス補正は対して高くないな。それにスキル出力から言って、も少しリソースが足らん。
まだデメリットがあるのだろう、たとえば……武装を使わないのは、装備スロットが埋まっているからか?自らの能力以外での回復は可能なのか?回復魔法を使わなかったな。パッシブ展開の限界時間はどうだ?
まぁ、それらを差し置いても氷属性に弱すぎる。だが、氷使いに氷を使う気にはなかなかならんよなぁ」
氷風の竜巻はぐるぐると迫る。再々死は逃げることをも躊躇うように少しだけ後ずさった。カストルは蔑んで笑った。
「今更隠しても遅いだろう。無様に、素直に逃げたまえよ。まぁ、【死騎】ではなぁ、速度にもMPを注いだからね。あぁ、我々を殺そうとしても無駄だよ。防御の魔法には結構気を使ってるのでね」
「【ブローチ】はあるのかな?全然、もう一発くらい撃てるけどね。なんなら氷の【ジェム】もあるよ〜」
「こいつが死んだら次は君等だな。どうする?二面打ちでもこっちは構わないが」
AFXとメアリーに魔法を向けながら、カストルは言った。
「まぁ、先に終わらせるか」
「《コールド・ハード・ハザード・ビッチ》」
そして、氷の竜巻が【死騎】再々死の身体へと食らいついた。
凍てつかせながら、風の奔流がその肉体を破壊していく。HPが即座に削れ、そしてゼロになっていく。アームズは破壊できず、【死騎】ゆえに少しの間は生存するが、この竜巻は持続型だ。再生しようとする肉体をすりおろし続ける。
「勝ったな」
双子は次いで、メアリーたちへと矛先を向けようとした。
だが、AFXは目を合わせようともしなかった。つられて二人も
次の瞬間、巨大な樹木が竜巻を貫いて霧散させた。砂漠の真ん中だというのに!
◆
凍った木片が飛び散った。
吹っ飛んだニライカナイから、薄っすらと肉片が発生する。
「《ファイアボール》」
どこからか最下級の、子どもの小遣いでも買えるような【ジェム】が飛んだ。熱を与えられた《
「あまり見栄えのいい格好ではありませんね」
『
再々死は顔を上げた。メアリーとAFX、カストルとポルックス、そして第3の方角に、ひとりの男が立っている。
身体中に厚布を巻き付けた男だ。ターバンの奥から目が爛々と輝いているのが見える。身体つきは分かりづらい。その全身には色濃く、みどりの匂いが纏わりついていた。
男は会釈して、丁寧に名乗った。
「これは失礼。僕はニッケル・ブラス……ペルヌ市長からの依頼でこの都市の護衛任務を受注しました。乗合馬車が時間に遅れてしまって、如何せん周りも荒れていたもので。市長さんはいらっしゃいますか?」
『
「そうですか。しかし、これからは同僚になるわけですから、このお手伝いを片付けてからにしたほうが良さそうですね。僕の名前はもうご存知ですよね?顔も、通知が行っていると思うのですが。あぁ、肝心のジョブを忘れていた」
ブラスは頭を下げた。
「そして【
「超級職……!」
一同が揺れる。再々死は吐き捨てるように言った。
『
「そうですね……では《
【華将軍】ブラスはさっと右手を振った。
次の瞬間、多層障壁を全て貫通して太い木の枝がポルックスをぶっ飛ばした。
嫌な量の出血が砂に落ちる。太った身体をいとも容易く殴り飛ばしたその枝は、ほの赤い新芽を付けていた。
「な、ァ……!」
「貴様!《ダーク・ウェイヴ》!」
カストルが放った中級程度の闇属性魔法が、荒波になってブラスに襲いかかった。樹木の葉を散らしながら、その波濤の先がブラスに触れんとして……弾かれた。
「《
ブラスの周囲を、黒い障壁が包んでいた。あらゆる防御をすり抜けるはずの闇属性が、そこで遮られている。
「闇か。僕の<エンブリオ>は……ダイラタンシーは防御特化のテリトリーですからね。そういうのは無駄だし好きじゃないんですよ。そういう、熱くて攻撃的な人って」
ブラスはそう言うと、トントンと砂を叩いた。
「やれ」
そのとき、全員の足元から樹木が湧き上がった。それは即座に変形しながらAFX、メアリー、双子をも縛りながら木々に取り込んでいく。
「アシュヴィン!」
「人の心配してる場合か!」
枝が手足を挟んで伸び上がる。首を無理やり持ち上げられて、メアリーが苦しそうなうめき声を上げた。背中側に引かれた手足の骨が外れそうだ。その格好はどうも十字架への磔刑に似ていた。
「さて、すぐに息の根を止めて差し上げますが、その前に一つ問答よろしいですか」
『何?
憤る再々死を宥めるように、ブラスは首を振った。
「そうだ、どうせなら貴方にも聞きたいですね。質問です」
ブラスは少し言葉を切って続けた。
「皆さんは“愛”の定義ってなんだと思いますか?」
To be continued