星と少年   作:Mk.Z

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第七話 ビレッジ・バーニング

 

 □■アルムト村

 

 トビアは自分の額に汗が流れるのを感じた。握った掌が熱くなり、目の前が暗くなる。だが、トビアの口はいつの間にか流暢に話しだしていた。

「変な仮面ですね、知り合いですか?」

知らない、といえば《真偽判定》に捉えられてしまう。この相手が何者にせよ、《真偽判定》は持っているものと思った方が良い。そんな計算を無意識にしていた言葉だった。

「いや、友人ではないな。少し()()()()を抱えてしまっていてね、その解決のために会いたいのさ……居場所を知っていたりしないかね?」

「すいません、わからないですね……」

 タイミングがタイミングだ、十中八九シャンブルズ通りの騒ぎに絡んでいる。そこでトビアははっと気づいた。口で当たり障りのないことを教えながら心の中で恐怖にうち震える。

 ブラーを探すだけならこんな所に来る必要はない。むしろ、街へ行って聞くのが筋だ。

 男が本当に探しているのはブラーと一緒にいた子供ーートビアなのだ。しかも、住所や……恐らくは名前まで把握されている。顔までは分からないらしいのが不幸中の幸いだった。

 その時のトビアは、まるで二人に分裂してしまったようだった。身体のほうは冷静に計算高く口を利いているが、心のほうは完全にうろたえている。

 ちょうどその時、「トビー!」と母親がトビアを呼ぶのが聞こえた。天の救いだ。

「すいません、僕はこれで」

トビアはそう言うと、無邪気な子供らしく、我が家に向かって勢いよく駆け出した。誤魔化せたことを祈りながら。

 

 ◆◆◆

 

 □【高位呪術師】リッター・メートルグラム

 

「あの子供(ガキ)だな」

走り去るトビアを見つめてリッターは呟いた。《真偽判定》を避ける話し方には特有のクセがある。子供が普段からそんな話し方を習慣にしているとは考えにくい。

「だが、只のガキだ。レベルは0。やはり脅威にはなり得ない……エサだな」

その呟きはいつしか独り言ではなくなっていた。リッターが続ける。

「ブルーD、準備は出来ているな」

『バッチリっス!』

「よし。俺もすぐそちらに向かう。くれぐれも()()()()()()()()()()()

 通信を切り上げるが早いか、リッターは足早に村をあとにした。不穏な企みを始動させるために。その足跡には一枚の羽根が残されていた。

 

 ◇◆

 

 □■アルムト村 近隣 

 

 数十分後。日が落ち始めた頃、リッターとその部下ブルーDは小さな東屋の前にいた。

 古い建物だ。かつては純白に塗りあげられていたであろう柱の塗装は剥げ、建材の木は屋根の重みで歪み、今にも崩れ落ちそうなほどだった。

 その東屋の前、石畳のように設えられた地面の中央には半透明の石で、鳥を象った模様が作ってある。その()()()を踏みつけにしている人型のモノが、二人に声をかけた。

『前のときより数えて、少しばかり遅かった』

ソレは厳かな声で言った。生臭い息が二人の顔にかかる。リッターは顔をしかめたブルーDの足を静かに踏み潰した。

『心得ておろうな』

「村一つです。十分お気に召すかと」

『それは我の決めることだ』

 ソレの言葉には奇妙な訛りがあった。シュウシュウという空気の音が声に混ざっている。頭から足元までを覆う純白のローブが衣擦れの音を立てる。

「いつもよりかなり多い筈ですが」

 事実だった。普段ならティアンを数人捧げるだけの筈だったのだ。それは契約だった。妄りに人を襲わない代償として、安全な供物を受けとる契約。それを屈辱に思うような、人間的な情緒はソレには無かった。自らの欲が満たされれば構わないのだ。

『いつも、か。たかだか数年ごときの新参がよく言う』

「どちらかといえば、新参で幹部にまで上り詰めた腕を評価していただきたいですな」

リッターは丁寧な物腰を崩さずに言った。

「村にはすでに印を残してあります。あなたなら感じとれる筈だ……派手に頼みますよ」

 リッターがそう言うと、ソレは人型の輪郭を崩し、揺らめき始めた。ローブが引き裂かれ、紅白の翼が広がる。ソレの頭上にかすれた文字が浮かび上がる。

『久々の食事だ』

 二人は黙ってそれを見つめた。文字は、【群襲陽炎 フェザーローカスト】と告げていた。

 

 ◆◆◆

 

 □■アルムト村

 

 キースは既に立ち去っていた。あとには心配そうにトビアをなでさする母と、王都での仕事から帰ってきた父と兄たちが残っていた。

 トビアが疲れたからまだ眠るといったとき、もちろん誰一人それを咎めはしなかった。階下の自分を慮る話し声を微かに聴きながら、トビアは今後のことを考えていた。

 官憲に頼れば罪を咎められるかもしれない。かといって、トビア本人の情報にすら辿り着いている組織を無視することもできない。これを解決できるのは完全にどちらにも属さない力だけだ。

 

ブラー。

 

 そのアイデアだけが今のトビアには頼りだった。思い立ったが早いか布団から這い出し、時々使っている窓のそばの枝から外へと出る。幹を伝って、裸足のまま地面へと降りた。

 どこへ行けばいいか、そんなことは分からなかった。暮れようとする太陽の残滓を目の端で捉えながら、トビアは走った。

王都まで行けば会えるかもしれない。そんな曖昧な考えを頼りに走る。

 だが、村の境界まで来たときだった。突然走るトビアの前の地面が燃え上がり、驚いたトビアは尻餅をついた。炎の壁がうず高く吹き上がり、道を閉ざす。

 明らかな異常事態だ。ただならぬことが起きていることを察して、トビアの顔がひきつる。

 しかも、ここだけではない。見渡せば、村を囲むように炎の壁が広がっていた。なぜか炎と共に紅白の羽根が舞い散っている。

 そして、村の建物に火の手が上がった。空を舞う羽根が次々と弾け、赤々とした炎を撒き散らす。炎が家々をなめ、その勢いを増す。

 

 太陽が消え失せ、夜が始まった。

 

 ◇◆

 

「壮観だな」

「すごいスね、メーターさん」

「リッターだ」

 村のほど近く、小高い丘の上で二人は世間話でもするように気楽な態度でそれを眺めていた。今や村は完全に炎に包まれている。住人が火を消そうと右往左往するのが見えていた。水を運び、土をかけ……それでも炎は止まらない。

「でも、こんなことする必要あったんスか?」

「ブラーは一度あの子供を助けている。窮地に陥れば、もう一度来る可能性は十分にある。それに“彼”への契約も果たせるからな、一石二鳥だ。むしろそっちの方が急ぎではあった」

「“彼”……なんなんスか?あれ」 

 リッターは部下の不躾な物言いを咎めるような目を向けてから、静かに口を開いた。

「何百年も前、組織の首領の先祖の一人がーーもっとも、その頃は今の組織なんぞまだ無かっただろうがーーある<UBM>と契約を取り付けたらしい。」

リッターは一瞬言葉を切って続けた。

「あくまで推測だがな。人を捧げる代わりに、代価として力を貸してもらう。好き放題に人を食い荒らせば力ある人間から睨まれる確率も上がるからな、向こうにとってもメリットはあったわけだろう。こうして、安全な食い物をお膳立てしてやってるんだ」

「食い物?食ってないじゃないですか」

「食ってるのはリソース……経験値だ。口から取り入れるとは限らん」

 リッターは燃え上がる村と、その前に屹立する<UBM>に目をやった。

「敵対するなよ。古代伝説級だ。俺たちではまず勝てん」

そう言って、リッターは更に村の近くへと歩を進めた。

 【フェザーローカスト】は、今や完全に人には見えなくなっていた。背中から翼が生え、手足には太い鉤爪がある。爬虫類のような瞳がぎょろりとリッターを見据えた。

『ヒト。手はず通りだな』

「ええ、ですが、もう一つ追加しておきましょう」

リッターは恭しく言った。村では炎に対抗するのを諦めたのか、馬……亜竜級の【デミドラグホース】に引かせた馬車で炎を突破しようとするものが見えた。

 確かに亜竜級の速さならば炎に焼かれる前に走り抜けられるかもしれない。それは贄を求める彼らにとっても不都合である。ゆえに、策を講じねばならない。

「《偏に錆の前の塵に同じ(ロービーグス)》」

その宣言と同時、リッターの背後から暗赤色の金属で出来た巨人が飛び出した。

 巨人は炎の壁のギリギリに着地すると、そこでうずくまるように動かなくなる。と、村の中の馬車がぐらりと歪み、バラバラに分解した。それだけではない。家の屋根や木の囲い柵が次々と崩壊していく。

 <UBM>は腹立たしげに言った。

『我が獲物に手を出すことは赦さんぞ』

「ご心配無く。あれは生き物には効きませんから」

 【錆人機 ロービーグス】。無機物……金属を錆びさせる<エンブリオ>である。通常なら直接接触で能力を発動するが、必殺スキルを起動した今、その能力は広範囲に及んでいた。

 黒い粉が舞っているのが微かに見える。全身から錆の粉を散布することで、村中の金属製品を破壊しているのだ。馬車、屋根、木柵の釘。

「これで足は無くなりました。私は皇国で十機の<マジンギア>をいちどきに破壊したこともあります。対抗は不可能ですよ」

『<エンブリオ>か』

吐き捨てるように<UBM>は言った。

『暮らしにくくなったものだ』

 

 ◆◆◆

 

 ■トビア・ランパート

 

 燃え上がる村のなかをトビアは必死に駆け抜けていた。炎の羽根や崩れ落ちてくる熾を躱しながら、足を動かす。目的地はただ一つ、生まれ育った我が家だ。

「はぁっ…はぁっ…」

 煙と熱気が喉を刺す。目がかすみ、足がふらつく。それでもトビアは走り続けた。今までは分からなかったことも今では分かる。つまらない暮らし。平凡な人生。それらはいとも容易く壊れてしまうもので、何よりかけがえのないものなのだ。

 

 だからこそ、ここで終わるわけにはいかない。

 

 いつもの角を曲がり、ふらつく足に力を込める。更に加速して、もう一つ角を曲がる。

そして、トビアの目に飛び込んできたのは、

 

轟々と燃える我が家と、半ば炭になった家族の死体だった。

 

 ◆◆◆

 

 焼けた肉の臭いが鼻にまとわりつく。これもまた、『死』の臭いなのだと気づいて、トビアは嘔吐した。

 死体は家の外に出ようとした体勢で転がっていた。どうやら、火事の火ではなく別のものにやられたようだ。その答えはトビアの目の前にあった。

 赤い羽根。風に漂うだけだったそれは、どうやら次の段階へと進んだらしい。人を狙って燃やすように能動的に動いている。形で判別しているのだろう、それらの羽根は未だトビアの家族の死体に群がっていた。羽根が触れる度に焔が弾ける。その光景がおぞましくて、トビアはまた吐いた。

「僕のせいだ……」

自分が招いた結末だ。そんな考えが脳裏を渦巻く。

 目の前では羽根がトビアに標的を移そうとしていた。浮き上がったそれらは、雲霞のごとく群れをなしてゆっくりとトビアへと近づいてくる。

 気づけば、トビアは来た道を駆け出していた。家族の骸を捨てて、振り返りもせずに。もしもう一度亡骸を見てしまったら、二度と立ち上がれないような気がした。

 焼死は苦しいと聞いたことがあった。どれ程の苦痛だったのだろうか。熱かっただろうに。辛かっただろうに。想像し、類推し、怯懦する。トビアにはそれが途方もなく恐ろしかった。

「僕のせいだ……!」

 トビアが招いたことなのに、トビアには何一つ出来ない。こうして逃げ惑うのがせいぜいだ。無力感と罪悪感が心を苛んだ。

 燃える家並みを抜け、トビアは角を曲がった。すかさず瓦礫の山に身体を突っ込み、追跡する羽根の目を誤魔化す。

 あれらは人型を認識して攻撃を加えていた。逆に言えば、形を見てとれなければ見失う筈だ。その計算を嫌悪して、トビアはまた罪悪感に押し潰されそうになった。家族が死んだばかりだと言うのに、茫然自失にもなれないのだ。

 予想通り、羽根はしばらく旋回した後にどこかへ飛び去った。他の生存者を探しに行ったのだろう。

 飛び込んだ拍子に熾火の欠片に触ってしまったらしく、左手の甲が火傷でヒリヒリと痛んだ。トビアにはそれが自分をいやしめる烙印のように思えた。

 

 ◇◆◇

 

「それで、村の状況はどうです……?えー……」

『ローカストでよい。この()は後から付けられたものだが、なかなか気に入っている。響きが良い、そうは思わないか?』

 それが地球の一言語で群れをなす飛蝗を表すと知ったらどう思うだろうか、とリッターは思った。怒るだろうか?屈辱?人類とは思考体系の遥かに違う生き物を前に、その内面を推し量るのは簡単ではない。()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 と、ローカストががばりと振り向いた。つられて、リッターも後ろを見る。ほぼ同時に、ブルーDからの通信が届く。

『メーターさん、ちょい不味いっス。騎士団が来ました』

「あぁ、見えている」

数は多くなかった。僅かに三人。純白の鎧を着こんでこちらへと向かっている。

()()()()?」

『【騎士】のティアンが一人、【聖騎士】の<マスター>が一人、ティアンが一人』

 早すぎる。そうリッターは訝しんだ。騎士団が来るのはもう少し後の筈ーー

 そして、リッターは傍らの<UBM>の力が膨らむのを感じた。

『追加の供物か』

「待っ……!」

紅白の羽根の奔流がうねり、来襲者たちに突き刺さった。焔が吹き上がり、熱風が弾ける。

「勝手な真似は慎め!」

リッターは思わず丁寧口調を忘れて怒鳴った。ローカストが牙を剥く。

『我に命令するな……お前も殺してやろうか』

「出来るものならやってみればいい!」

 啖呵を切ったリッターを鱗と鉤爪が掴んだ。人間の瞳と爬虫類の眼が視線を闘わせる。数瞬後、鉤爪が勢いよく開きリッターを地面へと投げ出した。

『契約なぞ無ければ……』

小さく呟かれたその言葉をリッターは無視して燃え上がる騎士たちを見た。古代伝説級の焔だ、致命傷は必至だろうと哀れみの眼を向ける。

 だが、その予想に反して騎士たちは焔を耐えきり、速度を緩めること無く進み続けた。それぞれの鎧には青白いオーラが光っている。ブルーDからの通信が平坦な声で言った。

『【蒼鎧呪 アキレス】、《マキシマムプロテクト》』

「防御能力の<エンブリオ>か?厄介な」

 ぼやくリッターに、ティアンの騎士ーーキースが剣を抜いて斬りかかる。リッターは知り得ないことだが、この騎士たちを率いてきたのはキースだった。ずっと村を気にしていた彼は、小さな村の異変に感付き、動けるものに片っ端から声をかけてきたのだ。

「うおおおおお!」

そう雄叫びをあげると、キースは知己の村を襲う邪悪を討つべく、携えた剣をリッターの頭めがけて振り下ろした。義憤を乗せた剣筋は定規で引いたように真っ直ぐだった。

「躊躇いがないのは良いことだな」

リッターはそう呟き、その剣戟を顔面で受け止める。刃はリッターの顔に食い込み……そして木っ端微塵に砕けた。剣だけではない。鎧、鎖かたびら、盾……金属でできたものは片っ端から錆び、崩れ、砕けてゆく。

「何っ!?」

 驚くキースたちをリッターは鼻で笑い、そして防御手段をなくした彼らを焔が襲った。ただし、今回は更に火力が高い。白熱したそれらの余波の余波でリッターまでもが火傷を負っている。

『《焔牢》』

羽根の焔は、まるで籠のように凝縮されていた。完全に球体になった猛火の中で、もがく騎士たちが赤熱した灰へと変わっていく。アキレスの<マスター>が光の塵になる。

(すまない……騎士団の皆……村の人達……トビア……)

 キースは、騎士として無辜の民を守れなかったことを最期に悔いながら、白い灰の塊と化していった。

 

 

「よくも…!」

リッターはその声を聞いて訝しんだ。リッターの知る限りでは、この場にいる誰の声とも違う。と、胴体に鈍い衝撃が走る。

 視線を落とした先には、()()()()リッターの腹に石のナイフを突き立てていた。

 

 ◆◆◆

 

 我慢がならなかった。あるいは、罪悪感を振りきるための怒りであったかもしれない。だが、確かにトビアは憤っていた。

 力。自らの行動を貫く強さ。それを持っている奴らが好き放題に振る舞う、そんな不平等をのうのうと受け入れられる筈もない。目の前で知った顔が死んでいく、そんなのはもう沢山だ。

 一撃を!とるに足らない弱者による反撃を!自分を蹴散らそうとしている奴らへの復讐を!

「三日でも死んでこい!!」

 石のナイフを握った手に力を込める。

 村で拾ったそれは、本来木っ端を細工するときに使う筈のものだったが、材質ゆえに偶然錆を逃れ、今や立派な刃としてトビアの怒りを果たしていた。リッターの腹から血が染み出す。

「この、クソガキがァ!」

【高位呪術師】ゆえの脆弱さで、リッターは今、傷を負っている。だが、その弱点と引き換えに得たものもあるのだ。

「《ブラッド・アレスト》!」

 染み出た血液がうねり、呪術の媒体としてトビアを【呪縛】する。上級呪術の力はレベル0の子供を容易く拘束した。トビアが呻く。リッターは忌々しげに口を開いた。炎の赤がその顔を照らす。

「トビア・ランパート、だな?ふん、復讐してやるとでも言わんばかりの顔だな、仇討ちのつもりか?」

「黙れ……!」

「お前ごときが俺に何か出来るとでも思ったか、バカが……お前のことなんぞ調べはついている。<エンブリオ>欲しさに三下の店に忍び込んだ身の程知らずのガキ。潔白なつもりか?俺たちと因縁を作ったのはお前の自業自得なのさ」

「黙れェ……!」

「レベル0のティアンごときが、あの仮面男を誘き出すエサになるかと思ってここまで生かしておいてやったものを、土壇場で俺に傷なぞつけやがって!」

 そういうと、リッターは血の呪縛でトビアを持ち上げた。ローカストがその異形の顔を歪めて嗤う。

『食後のデザートか』

「ええ、派手なたいまつにしてやって下さい」

リッターは冷酷にそう言った。だが、ここまでやってもブラーが来ない以上、計略は失敗しそうだと言わざるを得ないだろう。

(予想よりも情のないやつだったか、あるいは鈍いやつだったか。ローカストの食事のほうの問題はこれで済んだが……)

 ブラーの能力特性を鑑みれば、そもそも闘いになり得ないことが最も火急の懸案だった。他国に逃げられてしまえば目にもの見せることはできない。それはつまり、首領(ファーザー)の望みを果たすこともできないということだ。

 だからこそ向こうから来る気になるよう、エサを用意したというのに!

『では、趣向を凝らして……端のほうから少しずつ喰らうとしようか』

もがくトビアの髪の端がじわじわと焦げ始める。それを見ながら、リッターはふと首を傾げた。

「だが、村は炎で完全に包囲されていたはずだ。なぜこいつはここまで来られた?」

『めっちゃ走ったんじゃないスか?』

「それで越えられるようなものではないはずだが」

 リッターは顔をしかめ、ゆっくりと辺りを睥睨する。と、その顔に影が落ちた。慌てて宙を見上げる。

 

「やぁ、はじめまして」

 

そこには、月を背に浮遊する仮面の男の姿があった。

 

 To be continued

 

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