『ヤンデレ惨』外伝 ユーミア編アフターストーリー「復讐の人形遣い」   作:オオシマP

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Chapter.2-01

結界エリアへのアンノウン侵入を告げるアラートに、ユーミアは顔を上げた。

時刻はすでに午前1時を回っている。一番近い街まで車でおよそ3時間、充分山奥と言えるこの周辺は、人工の光の届かない完全な闇に包まれていた。

主の首を収めた培養カプセルをテーブルの上に置き、ユーミアは呟いた。

 

「もう、これからがいいところだったのに……。ユーミアとマスターの二人だけの時間を邪魔するとは、なんて無粋な……」

 

ユーミアはゆっくりと椅子から立ち上がり、カプセルを己の腹部に収納した。

彼女はバストサイズはともかくとして、ウエストサイズは平均的な人間の女性とほぼ同じサイズで造られている。成人男子の頭部を収納するほどのスペースは見たところ無いように思われるが、主の頭部を収めた培養カプセルは実際にユーミアの腹部に収納されてしまった。

理由はごく単純で、どうしても腹部への収納にこだわったユーミアが、自分の腹部スペースではなく、主の頭部のサイズを変えてしまったのだ。前方から見ると人間の頭の原型をとどめているが、後方からそれを見れば、気の弱い人間は3日ほど食事が喉を通らなくなるであろう有様だった。

ユーミアは主の頭蓋を取り除き、思考に必要な脳の部分以外の全てを摘出してしまっていた。生命維持に必要な部分も取り除かれてしまったが、生命維持は“インフィニティ・ライフ・ドライブ”が担っている。

 

(肉体活動に必要な部分などどうせもう使わない、思考能力さえ維持出来れば他の部分はむしろ邪魔になるわ、小さければ小さいほど外敵からの防御は容易です)

 

……それがユーミアの意見だ。

 

もっとも、“インフィニティ・ライフ・ドライブ”の補助で顔面の筋肉だけはある程度動かせるようにはしていたのだが。

 

ユーミアは哨戒システムにリンクし、結界への侵入者を確認する。国道から外れ、山道をユーミアが居を構える方向に走行する黒い大型のライトバンが一台。

生体センサーによる探知によると、20代前半から後半と思われる男が三人、車の後部には10代後半から20代前半の女性が同じく三人。だが、女性三人の意識レベルは明らかに通常よりも低かった。おそらく、薬物によって昏睡させられているのだろう。

 

侵入者の詳細を知ったユーミアは苛立ちを隠さずに舌打ちした。

 

「ちっ、またなの……。下半身でしか物を考えられない下衆どもめ。はぁ、ユーミアは場所の選定を間違えたのかしら……」

 

実は同じような侵入者はこれで二度目であった。

山奥だから誰にも見つからないだろうとタカをくくって、素行の悪い連中が街で女の子を攫い、薬物で眠らせて車で連れてくるのだ。その後はお決まりのパターン、一晩でクスリ漬けにされてしまった女性たちは体を散々弄ばれ、映像まで録画されてしまう。

酷い場合にはクスリの過剰投与で命が絶たれてしまうこともあるが、長い目で見ればそのまま死んでしまったほうが楽なのかもしれない。上手く逃げ出せてその後犯人が捕まればいいがそのようなケースはほとんどなく、被害者の女性は死ぬよりも辛い人生を歩むことになる。

最初にそんな連中がユーミアの結界に侵入したのは、ユーミアが居を構えてから3日目のことだった。

初の侵入者にユーミアは警戒したが、どう見ても普通の人間であるという哨戒システムの探索結果だったため、自ら出向いて処理したのだ。

 

この場合のユーミアの処理とは、ごく簡単なものだった。

 

攫ったほうの男たちを文字通り瞬殺、女性のほうは前後数時間の記憶を消して車ごと明るい時間の国道に放置しておくのだ。警察のシステムに介入して通報があったことを装えば、保護されるのも時間の問題だろう。

 

本来ユーミアは、そのような面倒事は避けたかった。

 

馬鹿な男どもの死体はデミフレアナパームによって瞬間焼却し、助けた女性からは「攫われた」ということ自体の記憶を奪っているので問題はないはずだが、どんな些細なことからユーミアの潜伏場所が発覚するか、しれたものではないのだ。

ただユーミアにとっては、何も知らずに潜伏場所まで辿り着かれてしまうことの方が問題だったし、加害者被害者含めた侵入者全員を抹殺したとしても、哨戒システムに引っかかる前の時点で目撃者がいた場合はさらに面倒だった。

それなら被害者を助けてしまい加害者を痕跡残さず抹殺したほうが、話が早かった。

 

「やれやれ……、国外への移動はさすがに控えていたのだけれど、あまり頻繁にこんなことがあるようなら、移動の痕跡を残す危険を冒してでも引っ越そうかしら」

 

うんざりした顔でユーミアは、侵入者の処理に向かうのだった。

 

街灯の類は一切無く、月明かりだけが照らす森の中。一直線に突き進む黒いライトバンの前方にユーミアは踏み出した。

ライトバンは闇夜の中にいきなり現れたユーミアの寸前で急ブレーキをかけ、右にハンドルを切る。しかし、突然の出来事に停止しきれなかった車は、そのまま側面を森の木々にぶつけて停止した。

 

乱暴にドアを開け、男どもが車から降りてくる。

 

「なんだぁテメェはっ! いきなり車の前に出てきやがってあぶねーだろこのボケがぁっ!」

 

「テメこら、車どーしてくれんだこのっ、ぶつけちまっただろーがぁっ!」

 

知性や教養とは完全に無縁なお決まりのセリフを吐きながら、三人の男たちがユーミアを取り囲んだ。

 

唇にピアスを4つも付けた男が、ユーミアを眺めて叫んだ。

 

「ああん、おい……! こいつメイド服着てんぞ!」

 

その言葉に、スキンヘッドに刺青を入れた男が答える。

 

「お……、まじメイドかコイツ、いや……、ひょーっ! こいつメイドロイドだぜ! 前にテレビで似たようなやつ見たよ!」

 

三人の真ん中にいた、金髪に鼻ピアスの男がユーミアに近付いた。

 

「おいおいメイドさん、こんな真夜中に、こんな山道でなにやってるんですかー? つーか、ちょーどいーや。俺たちといいことしてあそばねー?」

 

唇ピアスの男が「本気か?」という顔で鼻ピアスに聞き返した。

 

「おいおい、こいつロボットなんだろ? ちゃんとヤれるんかよ? 俺ダッチワイフは趣味じゃねーぜ?」

 

「いやいや、高性能のメイドロイドはオッパイもアソコもちゃんと作り込んであるって噂だぜー? しかもこれだけの美人ちゃんならしゃぶってもらうだでもOKだぜぇ! ひゃーっはーっ!」

 

興奮した面持ちでスキンヘッドがまくしたてた。

 

「俺よぉ、いっぺんメイドロイドとヤってみたかったんだぁ。後ろの女どもと具合を比べてみようぜ、ひっ、ひひひひっ」

 

たぶん事前にクスリをキメているのだろう。三人は己の薄汚い欲望を隠しもしないでユーミアににじりよった。

 

「へっ、へへっ、普通の女じゃすぐ壊れちまうからなぁ。ロボットなら俺たちのプレイにも耐えられるだろっ、へへっ、ひひひひひ」

 

「しかもロボットは人間様にゃ逆らえねーからなぁ、いいオモチャ見つけちゃったじぇい! ふひっ、ふへへへ」

 

唇ピアスの男がユーミアの鼻先にナイフを突きつけて脅しをかけた。

 

「おいダッチワイフ、いつまでも澄ましたツラしてんじゃねーよっ! さっさと車に乗んなっ!」

 

そう言って唇ピアスの男がユーミアの肩に手をかけようとした瞬間――。

 

「ユーミアに触るな」

 

ユーミアが言うのと、唇ピアスの顎から上が吹き飛ぶのはほぼ同時だった。切断面から血しぶきを吹き上げ、唇ピアスの男の死体が後ろに倒れ込んだ。

 

ユーミアは手刀の一閃で男の頭部を破壊したのだ。

 

信じられない惨状を目のあたりにし、最初は惚けたような表情を浮かべていたスキンヘッドと鼻ピアスだったが、すぐに子供のような悲鳴を上げて逃げ出そうとした。背後から素早くスキンヘッドの襟首を掴んで、ユーミアは力任せに引き戻す。

 

「ひっ! ひいぃぃいいいぃいぃぃ!」

 

ユーミアは襟首を掴んだままスキンヘッドの体を宙で一回転させると遠心力をたっぷりと利かせ、手近に生えていた頑丈そうな巨木に頭からぶっつけた。

 

グシャ。

 

ざくろの如くスキンヘッドの頭が弾け、中身が外にこぼれ落ちた。

 

「ひぎゃああぁぁぁ! ば、ばけものぉーーーーっっ!」

 

振り返りながらスキンヘッドの最期を目撃した鼻ピアスは腰を抜かし、失禁してその場にへたりこんだ。ゆっくりと近付いてくるユーミアを見て、涙と涎と鼻水を垂れ流し、泣き笑いのような表情を浮かべる。

 

「あばばば、ひ、ひゃあぁぁぁああああぁぁ! あ、あはははっはああはっはは!」

 

眼前までやって来たユーミアを指さして、鼻ピアスの男は大声で笑い出した。目の焦点は合っておらず、舌は口の中でおかしな方向によじれていた。

 

発狂したのだろう。

 

ユーミアは狂態を演じる男に構わず、レッグアーマーで男の頭部を蹴り上げた。首から上の部分を失ってしまった男は、体を痙攣させながら自分で作った血だまりに沈み込む。

 

「我ながらあまりスマートとは言えない処理の仕方ね……、ついイライラをぶつけてしまいました。まあ、下衆どもにはお似合いの死に方じゃないかしら……。うふふっ」

 

ユーミアは踵を返してライトバンの方に歩き出した。

 

(先に女性たちに記憶処理を施してしまいましょう。ゴミどもの死体焼却はそれからと……、デミフレアナパームは増産に時間がかかるというのに……まったくもう)

 

ライトバンの後部ドアを開けると、三人の女性が猿ぐつわに目隠しをされ、さらに両手を後ろ手に縛られて転がされていた。どの女性も、腕や膝に軽い暴行の跡がある。攫われた際に抵抗して出来た物だろう。

 

(やれやれ、人間というのは……)

 

呆れつつもユーミアは一番手前にいた女子大生風の女の子を抱き起こし、猿ぐつわと目隠しを外して状態を確認する。おそらくクロロホルムであろう薬物の効果が切れかかっていたのか、薄く目を開けて「助けて……」と呟いた。

 

(おや、もう気がついてしまいました……。まあ、どうせ記憶を消すのだから、顔を見られてもいいですけど)

 

再び少女を横たえると、ユーミアは彼女に話しかけた。

 

「薬物の影響がまだ残っています、あまり動かないで安静にしてください。もう大丈夫ですから」

 

「あ……、わたしの……、友達は、無事……ですか……」

 

(……友達?)

 

ユーミアは車の中を見渡した。事前の索敵通りそこには二人の少女が同じように転がされている。

 

「あと二人女性が倒れていますがどちらの方でしょう? それとも両方ですか?」

 

「白い……、ワンピースを着た……」

 

手前の方に、白いワンピースの女性がいる。二人の会話に反応して意識が覚醒しつつあるのか、かすかにうめき声を発しているようだ。

 

「無事のようです、心配いりませんからそのまま休んでいてください」

 

ユーミアはその友達と言われた少女の拘束も解いて状態を確認した。

 

(三人のうち二人が顔見知りということは、あの馬鹿ども、同じ晩に二ヵ所で拉致を働いたのね……。ということは目撃者がいても不思議じゃないわ。本当に厄介な……)

 

白いワンピースの少女も目を覚ましたようだ。わずかに唇が痙攣しているが、目の焦点は次第にはっきりしつつある。ユーミアに頭を抱き起こされ、その少女の視点は車の外、ユーミアが入ってきたドアの方に向いていた。

 

薬物の効果が薄れ視力を取り戻したその少女は、ドアの外にいる“モノ”を視認して絶叫した。

 

「ひ……、あぁ……! ぎゃあああああぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁ!」

 

ユーミアが後ろを振り向く。

 

そこには――

 

月明かりの下、車に向かってのそりのそりと歩みを進める、先ほどユーミアが頭部を破壊したはずの三人の男の姿があった。

 

「な……! そんなバカな……!」

 

ユーミアは車の外に飛び出す。

 

攻撃目標を再設定すると同時に、目標の分析を開始した。

 

「三体ともに頭部全損、生体反応ゼロ、人間ならば動けるわけがないわ。それでもなお動いているということは……」

 

ユーミアが戦闘モードを“レベルE”から“レベルD”にシフトし、先制攻撃を仕掛けようとしたその時、背後の車からさらに悲鳴が聞こえた。

 

「いやあぁあぁあああ! た、助けてぇえええええ!」

 

意識を取り戻した二人の女性が車から飛び出して逃げだそうとしていた。が、薬物の効果が抜けきらないのか、足をもつれさせ転倒してしまった。

 

(ちっ、世話の焼ける……)

 

ユーミアは攻撃目標から視線を外さず後方に飛び退くと、二人の傍にかがんで怒鳴りつけた。

 

「死にたくなければ車の中にいなさい! 外に出れば殺されますよ!」

 

二人の少女は恐怖で顔を歪ませて大声で泣きわめきながら、迫り来る動く死体から目が離せないでいた。

 

(まったくもう……! 面倒臭いわね、気絶させた方が早いかしら)

 

ユーミアはさらに言いつのる。

 

「早く車の中へ! 死にたいんですか!」

 

「は、はい、は……は、はぅ、おぁ……、お、お……、お前が……死ね」

 

予想もしない言葉にユーミアが振り向く。

 

「なっ……!」

 

ごぼおっ。

 

何かが吐き出されるような不快音、そこでユーミアが見たものは、二人の少女の口が裂けんばかりに目一杯に開かれ、そこから大口径の銃器が出現する光景だった。

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