『ヤンデレ惨』外伝 ユーミア編アフターストーリー「復讐の人形遣い」 作:オオシマP
何かが吐き出されるような不快音と想定外のセリフに振り向いたユーミアが見たものは、二人の少女の口が裂けんばかりに目一杯に開かれ、そこから大口径の銃器が出現する光景だった。
「人体トラップ……!?」
瞬時に新たな攻撃対象を設定したユーミアは、一斉射撃の開始と同時に瞬時にかがんで躱し、高速で距離を詰め二人の少女をまとめて右足のレッグアーマーで蹴り飛ばした。
骨と臓器が潰れる音と共に、二人は5メートルほどの距離を吹き飛ばされる。
殺人兵器の究極とも言えるユーミアの蹴りを受けた少女たちはその時点で死ぬべき、はずだった。
が、どちらも緩慢な動作ながら立ち上がり、口から吐き出した砲口をユーミアに向けた。
(こちらは二体とも生体反応がある……! ゾンビではないというわけね。いや、ユーミアの蹴りを受けてなお何事も無く動いているなら、同じようなモノだわ)
「対人兵装“クシャトリヤ”起動、目標を再設定」
ユーミアはスカートの中から超振動ブレードを取り出すと、迫り来る化け物たちと対峙した。
(死体を操る外法の業……、敵は“死法泉”の血族か……? いや、それはあり得ないわ。綾小路ごときに“九曜”の一角を動かせるわけがない。ならば……)
見えない敵の正体を推し量り、ユーミアはこの光景を見ているであろう、その敵に話しかけた。
「やれやれ……、推測に手間がかかってしまいました。手際が悪くてお恥ずかしい限りです。隠遁生活のお陰で、機体が少々なまっていたかもしれません。……ここからは本気でおもてなしさせていただきますわ」
言い終えると同時に、ユーミアのヘッドセットが赤い輝きを放つ。
「ユーミアは焦らされるのは趣味ではありません。前座の方には即刻ご退場いただいて、それからゆっくりお話しを伺うことにしましょう。……拘束制御封印・壱号から五号を解除、“TYPE-SAKUYA A9”戦闘モード“レベルD”から“レベルA”に移行、対人兵装“クシャトリヤ”フルドライブ」
ユーミアの両足に搭載されたツインエンジンから発せられる駆動音は鋭さを増し、レッグアーマー裏面のスラスターからエンジンが放出する莫大な熱が放出される。
そして、ユーミアは一瞬で化け物たちとの間合いを詰めた。
……5秒で状況は終了した。
計五体の化け物たちは超振動ブレードの一撃によって、その全てが粉々に吹き飛ばされていた。“クシャトリヤ”のフルドライブ状態による斬撃は、斬りつけた物体の分子結合を一撃で破壊してしまう。
要するに、一撃入れてしまえば勝負は決してしまうのだ。
事を終えたユーミアは、ライトバンの方に向き直った。
「お待たせしました……。と言っても、ユーミアは今晩お客様をご招待した覚えはありませんけど」
ユーミアの言葉には答えず、その少女は車を降りた。
拉致されていると思われた、車に乗っていた三人目の少女だ。目隠しや猿ぐつわなどの拘束具は、いつの間にか外されている。
少女が口を開いた。
「手土産はご堪能いただけました? アポなしの訪問だったので、少し趣向を凝らしてみたんですけど……。やっぱり素体が素人の“リビングデッド”や急場しのぎのインスタント“生き人形”じゃ物足りなかったかしら?」
ユーミアは少女の言葉を無視して少女に尋ねた。
「死体のほうは人形じゃなかったんですね。“死法泉”(しほうせん)の業と見受けましたが」
「ええ、よくご存じね。死法泉家の姉妹とは浅からぬ縁がありますので……、貴女にお会いする前に“符”を譲ってもらったんです。おかげで会うたびにランチを奢ってあげなきゃだけど……。対象に貼りつけた瞬間に呪いに憑かれ、抵抗(レジスト)しないと死後確実にゾンビになっちゃうんですって。すごいですよねー、便利な呪装だと思いません?」
「……あとの二体が貴女の人形というわけですか」
「はい。もっとも、さっきも言ったように芸術にはほど遠い急場の木偶人形です。これでも男を漁って繁華街を朝までうろついてるようなバカ女を選んだんですよ、死んじゃっても社会の損失にならないように」
(人間を戦闘人形に仕立て上げる異常能力……。間違いない、コイツは……)
ユーミアは予想はしていたが、しかし信じがたいという思いを押し隠しつつ少女に尋ねた。
「朝倉 奏さん……、ですね」
「あはは、すごい。すぐにわかっちゃうんですね、さすがです」
奏は笑いながら答えた。
「ユーミアを狙う動機があるのは綾小路家と貴女ぐらいのものです。ただし、貴女と遭遇する可能性は、ユーミアは0.3%ほどだと思っていたのですが、まさかここまで辿り着くとは……。正直信じられません」
「なぜ? どうしてそんな安易な予測なの? あたしの妹の巴ちゃんは、貴女が以前住んでいた家を訪ね、そのまま煙のように消えてしまった。あたしが唯一の手がかりのユーミアさんを探すのは当然じゃないですか?」
「どうやって貴女はそれを探り当てたのですか? 朝倉 巴が訪れる少し前から、あのアパートの周辺はユーミアの光学擬装でカムフラージュされていた、目撃者などいるはずがありません。それ以前に、ユーミアがここにいることは誰にも知られていないはずです」
ユーミアは疑問を一気に口にした。あまりに不可解なことが多過ぎる。
ユーミアの質問に、奏はわずかに首を捻った。
「あれ……、本当にわからないんですか? おかしいなあ。“七罪”に関する情報って、ちゃんとメモリーに入ってるんでしょう?」
奏に言われなくとも、ユーミアは“七罪”に関する情報を所有していた。しかし、それは「綾小路家が認識している情報」のみだった。
「“七罪”が何の関係が……、いえ、そんな、まさか……」
ユーミアはメモリーを再検索して唖然とした。
(こいつらが……、バカな!? ここまでの情報収集能力を持っているというの?)
「ようやくわかりました? さすがのあたしでもそんなこと調べるなんて出来ません。もちろん“千里塚”さんにお願いして調べてもらったんです」
「…………」
ユーミアは唇を噛んだ。“七罪”とは暗殺・戦闘などの破壊行為を一手に引き受ける、血塗られた七つの家系の総称である。そして“千里塚”とは確かに“亜桜”同様、“七罪”のひとつに序列される一族だ。常識外れの戦闘能力で知られる、と言うよりそれしかない“七罪”の中で、唯一直接的な戦闘手段を持たない一族である。
代わりに“千里塚”は、「情報」を武器としていた。
ありとあらゆる情報を売買し、それによって相手を攻撃し、己の身を守ってきたのだ。その情報収集能力は想像を絶し、少なくともこの地球上に起こったことで分からないことはないと言われている。
日本を支配する十二宗家の頂点“三神”の三家でさえ“千里塚”を半ば放置せざるを得ないのは、“千里塚”が所有する圧倒的な情報量の賜物だという。
しかし、これらのことをユーミアは認識していなかった。
ユーミアが所有する“七罪”、そして“三神九曜十二宗家”に関する情報は、綾小路家が所有する情報のみだからだ。
そして綾小路が知ることが出来る範囲は、ごく限られていた。
具体的には、綾小路は“千里塚”を「腕のいい情報屋」程度にしか見ていなかったのだ。。
沈黙を続けるユーミアに、奏は嘲るかのように話しかけた。
「そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ、ユーミアさんが“七罪”について認識不足なのは仕方のないことです。たかが機械人形風情が知っていいことでもないような気もするし……。それにユーミアさんの隠蔽工作はやっぱりすごかったんじゃないのかな、情報料として一億円も取られちゃいましたから。あそこは情報収集の難易度に料金が比例するの。これでもサービス価格らしいですよ?」
ユーミアはため息をついて奏に表情を向けた。
「……奏さんにはお礼を言わないといけないかもしれません。ユーミアにはまだまだ知らないことが、いえ、知らなくてはいけないことが多いみたいです。親がマヌケだと苦労します……」
奏は笑顔でそれに答える。
「お礼なんてそんな……、困ったときはお互い様ですから。でも……、よかったらお礼代わりに聞かせてくれないかな……? ………………………………巴ちゃんに何をした?」
最後の質問には殺気が籠もっていた。
もちろんユーミアはそれを充分に察知している。不完全ながらも未来演算予知を可能とする“システム・ワルプルギス”は、先刻から最大限の警告アラートを出し続けている。
沈黙するユーミアに、奏は続けて質問した。
「三度は言わないわ、答えなさい。巴ちゃんはどこにいるのっ!」
ユーミアは奏の周囲の空気が変化するのを捉えていた。
(このざわめき……。森の木々が、大気が震えている……。朝倉 奏……、これは最悪の事態ね……人間ごときが……!)
ユーミアがゆっくりと奏に口を開く。
「奏さん……。ユーミアが貴女に出来るお礼はこれくらいです」
先ほどまでの柔和な様相とは打って変わって、奏はユーミアを睨みつけた。
「あら、どんな素敵な答えを聞かせてくれるのかしら……。鉄屑になりたくなかったら、充分に気をつけて答えることね」
ユーミアは微笑みで返す。
「ええ、奏さん……ユーミアが貴女に出来ることはこれくらい……。愛する巴さんに逢いに行かせてさしあげますわ!」
ユーミアの言葉が終わると同時に、奏の背後から巨大な影が襲いかかった。自立型支援攻撃機“オルトロス”――
ユーミアの数ある支援機のひとつだ。犬型の機動兵器だが、そのシルエットは犬と言うよりも小型の熊に近い。
(油断したわね、どんな人間でも、あの間合いから避けることは出来ない……!)
ユーミアがそう認識した瞬間、鋭い金属音が森全体に響き渡った。オルトロスの牙が奏の華奢な体を引き裂く、まさにその寸前、オルトロスの口に何か巨大なモノがねじ込まれ、奏の体への接触は拒絶されていた。
「「グォオオオオオッッッ!」」
咆吼を上げたオルトロスは前足の爪で奏を切り裂こうとするが、その爪は奏の背後の空間を空しく引き裂くに過ぎなかった。その間、奏はユーミアを見据えたまま一度たりとも振り向かない。
一瞬のうちに眼前で繰り広げられた光景に、ユーミアは驚愕した。
(人形!? いつ「出現」した!? いや、どうして探知出来なかったっ!?)
オルトロスの口に押し込まれたモノは、巨大な大鎌だった。物語の中の悪魔や死神が持っているような湾曲の刃、それを使い奏をオルトロスから守っているのは、身の丈2メートルはある、これもまさに死神のようなマントを纏った髑髏面のヒトガタだ。
(あれだけの大きさの人形を操っているにも関わらず、朝倉 奏の指先に動きがほとんど感じられない……。コイツが本気になれば同時に何体の人形を操れるのか、予測材料が不足している……)
死神の如き人形に押さえ込まれ、オルトロスは完全に奏から引き離された。ユーミアから視線を外し俯いた奏は、聞き取れないほどの微かな声で何かを呟く。
「……それが答えなのね……、巴ちゃん、あなたを守ることが出来なかったお姉ちゃんを、どうか許して……」
やはり、妹はこの殺人機械に殺されてしまったのだ。ここへ来る前から覚悟はしていたが、それを厳格な事実として突き付けられた奏は、堪えきれずに一筋だけ悲しみの涙を流した。
そして、今は亡き妹に、心の中で宣誓する。
(泣くのはこれで最後だから……! 巴ちゃん、必ず仇を取るね……!)
右手で乱暴に涙を拭う奏。巴に絶対の誓いを立てた奏は、ユーミアに向き直り深々と一礼する。
そして始まったのは、ただ一人の「観客」に対する前口上――。
「“亜桜人形劇団”の復活公演にようこそおいでくださいましたあっ! 今宵の舞台は不肖“ドールマスター”朝倉 奏が操演を務めさせていただきます、お客様には最っ高にご機嫌な人形劇をご覧にいれますわっ!」
穏やかな表情でユーミアと初めて相対した時、そしてユーミアに対し怒りを押し殺して詰問した時、そのどれとも違う舞台演者としての奏が、ユーミアに宣言した。
“ドールマスター”による舞台の開幕宣言。
それは奏のユーミアに対する死刑宣告であった。
「“ドールマスター”!? やはり……人形遣いの最高位階っ……!」
手を抜いて殲滅可能な相手では到底ない、即座に認識したユーミアは戦闘モード“レベルA”状態にある“クェーサーエンジン”の出力をさらに上昇させて奏に答えた。
「あいにく……、ユーミアにはのんびり人形劇を鑑賞しているような時間はありません、主を待たせているものですから。貴女を殺して早々に中座させていただきますわ」
「まあっ! そんなつれないことを仰らないでぇ! どうか終劇まで存分にお楽しみくださいませぇっ……、それまで生きていることが出来ればねええええぇぇっっっっ!!!!!」
奏の後方でオルトロスを押さえつけていた髑髏の人形が、大鎌を振り上げソレに噛みついているオルトロスをユーミアに向けて叩きつけた。
即座に躱すユーミア、頭からユーミアの脇の地面に叩きつけられたオルトロスだったが、ダメージは軽微なのかすぐに持ち直した。
ユーミアは即座に命令を下す。
「オルトロス、兵装コンテナ展開っ! “クシャトリヤ”では対抗しきれないっ! 対軍兵装“ヘカトン……」
命令を出し終わる前に、ユーミアとオルトロスの間の地面が突然爆発した。だが、爆発直前にユーミアとオルトロスはそれぞれ逆方向に飛び退き難を逃れている。
「砲撃っ……!? 着弾寸前まで探知出来ないなんて……、何故なの……? 後方にもう一体いる……」
ユーミアに、奏と髑髏の人形がゆっくりと歩み寄る。奏は口が両耳まで裂けたかのような凶悪な微笑みを浮かべていた。
「死のワルツでも踊るといいわあぁっ、この鉄屑があああぁぁっっっ! 叩き斬れっ“断罪”!」
奏が両腕を振り上げると、“断罪”と呼ばれた髑髏面の人形が一瞬にしてユーミアとの間合いを詰めて接近し、ユーミアを一刀両断すべく悪魔の鎌を振り上げた。
しかし、斬撃よりもわずかに早くユーミアのスカートから転がり出た球状の物体が、森全体を昼間の如く照らし出すような膨大な光を放った。
10秒ほど続いたその光が収束し、元の闇の静けさが森を覆ったとき、ユーミアとオルトロスの姿はその場から消えていた。
「どういう威力の目眩ましよ……、“楽園”をガードに出さなかったら間違いなく失明してたわ」
奏の前方には、いつの間にか“断罪”とは別の人形が出現していた。
奏が“楽園”と呼んだ人形は、髑髏面の死神の如き“断罪”とは対照的に高位の司祭のような豪奢な法衣を纏い、表情には慈愛の微笑みが刻まれている。
「居場所を知ったあたしを放置して逃げるわけがない……、体勢を立て直すつもりかしら。ふふっ、舞台の幕は上がったばかり。まだまだお楽しみの時間はこれからよ……」
復讐に身を燃やす人形遣いは消し去るべき標的を追い詰めるべく、二体の人形と共に森の奥へと消えた――。
販促用はここまでしか書かなかったです。このあと、『らぶバト!』の「リリースがありました。もう時系列忘れたー。