ザボエラ転生 ~魔王も勇者も不在の乱世なら妖魔司教も無双出来るようです~   作:円同

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※この作品の主人公はザボエラです。
※ザボエラに対して不当に美化することも貶すこともしないことを努力目標としています。
※オリジナルのドラクエ系異世界が舞台なので独自設定及び他作品からの引用も多めです。

※登場するモンスターの能力・耐性などは「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D」を主に参考にしています(無関係な物もあります)
※今回は特に凄惨な内容を含みます。お気をつけ下さい。

※以上を踏まえた上でお楽しみ下さい。


第03話「炸裂!ザラキの恐怖の巻」

「クックックッ……なんと美しい輝きなのだ……ブルーオーブ……素晴らしい……」

 

 深い深い土の下。第九十六避難所の地下十階。

 椅子に座り、うっとりした顔で宝玉を磨いている魔物がいます。

 

 表面を磨くためにハアッと息を吹きかける口はすきっ歯だらけ。

 深く青い輝きを眺める瞳は黄色く濁っており、その横から伸びる耳はまるで蛾の羽のよう。

 緑のタイツ一丁の姿で剥き出しの胸部は肋が透けており、ハイテンポで鼓動を刻んでいます。

 

 足下を見れば盛んにタップを踏んでおり、不器用ながらリズムに乗っているのがわかりました。

 頭部では二本の短い角も揺れていて、尻からヒョロッと伸びる尻尾も忙しなく動く。

 その踊りに合わせて、彼の座っている椅子もカタコトと音を鳴らしています。

 

 彼こそは赤肌の悪魔"びっくりサタン"

 

 ラスチェからオーブを掠め取り、ディブルに献上しようとしている裏切り者です。

 

「レッドオーブ、シルバーオーブ、グリーンオーブ、パープルオーブ、イエローオーブ……

 他のオーブも美しかろうが所詮は手垢まみれ。奪い合いの泥沼に落とされ薄汚れている。

 

 だが、このブルーオーブだけは違う……

 正真正銘、海魔軍団と魔王の手にしか渡ったことがない。純潔の美しさがあるのだ。

 

 それが今、我が手に……フゥーハッハッハ!!」

 

 高笑いするびっくりサタン。その有り様はまるで王様みたいです。

 彼が座る真っ赤で革張りの椅子もまた立派で、その様子に拍車を掛けています。

 

 でも椅子だけではありません。そこは"避難所"と呼ぶにしてはあまりに豪勢な部屋でした。

 壁や床からして高級感溢れる石材で造られており、魔法で淡く光を放っています。

 また床には真紅の絨毯が敷かれ、部屋の隅には天蓋付きのベッドまでありました。

 

 一方で、天井にはシャンデリアなどの落ちると危険な物は一切ありません。

 壁には振り子時計が掛けられていますが、こちらも固定されていて動くことはないでしょう。

 また時計のすぐ横では沢山の伝声管がまるで動脈のように他の部屋へと伸びています。

 

 その様子からは権力者が寛ぎつつも、部下に命令を下す為の場所だと察せられました。

 

 煌びやかながらも物々しい。正しく"エライ人のための部屋"を独占している。

 びっくりサタンはこの雰囲気にも酔っていました。

 

「……本当に美しいと思うなら大概にしておくんだな。

 それはもうすぐディブル様の手に渡る物だ。

 ベタベタ触ったり、臭い息を吐きかけるべきではない」

 

 悦に入るびっくりサタンの横から冷たく言い放つ者がいました。

 銛と円盾、ヒレの意匠を凝らした兜と胴鎧で武装し、下半身からタコの足が生えた魔物。

 

 ラスチェの下から離反した精鋭部隊"オクトセントリー"の一人です。

 

「……だからこそ、こうして綺麗に手入れしているのだろうが。

 それともなんだ? やり方に文句があるならばお前がやってみるか?」

 

「冗談でも、やめろ……ッ!!」

 

 睨み付けながらオーブを差し出すびっくりサタンにオクトセントリーは少し怯みました。

 近づけた瞬間、青く輝く宝玉から紫電が走り、バチッと音を立てて弾けたのです。

 

「おおっと。危ない。迂闊に近づくものではないぞ。

 邪神様を封じる結界は今もなお健在。"巫女の血"を引く者にしか触ることは出来ん。

 並の魔物が触れたら弾き飛ばされてしまう。ククク。

 

 そしてこの俺が運良くその血筋で、それを賢く隠し通し、城の文官として潜り込めていた。

 だからこそダンテのジジイからオーブの場所を聞き出し、盗み出すことが出来たのだ。

 そしてオーブを得たからこそディブル様とコンタクトが取れたのだ。

 

 即ち、ディブル様が挙兵したとき乗り損ねたお前らが、便乗して合流出来るのも、俺ありき。

 もう少し弁えるんだな」

 

 ニタニタ笑いながら、びっくりサタンは饒舌に語ります。

 その様に心底呆れた様子でオクトセントリーは溜め息をつきました。

 

「……もう何度も訂正していることだが、その認識は間違えている。

 

 我らは衛兵(セントリー)。オーブを守衛することをグラコス様から命じられた兵士の一族。

 この六百年間ずっと果たしてきた使命は主が変わろうとも変わらない。

 

 オーブを託され、曲がりなりにも守ってきたからこそラスチェ様には従ってきた。

 だが、貴様を通じてディブル様の手に渡るならば、それも終わり。

 

 我らはあくまでもオーブを持つ者にのみ仕え続ける……それだけだ」

 

「ふん、とんだ忠義者の一族だな。

 どう言い繕うとも貴様自身が長年仕えた主を裏切った事実は変わらぬというのに。

 俺には何度聞いても寝返る言い訳にしか聞こえんよ」

 

「生憎だが貴様にだけは言われる筋合いはない。

 我々には元より力があったが、貴様はあの街に拾われて知恵を得たのではないか。

 ラスチェ様とネルジェラ様に恩がある癖に裏切っておいてよく言うものだ」

 

「恩……? 恩だと?」

 

 ギスギスといがみ合っていた両者でしたが、不意にびっくりサタンの表情が変わりました。

 オクトセントリーを指差し、大声で喚き散らします。

 

「ふざけるなタコ助! 貴様は何もわかっておらん!!

 

 確かにこの俺は、あの街で学ぶことによって様々な知識を得た……

 だが、同時にどうしようもない絶望も押しつけられたのだ!!

 

 恩だと? そんな物は無い!!

 恨みこそあれど感謝する筋合いなど微塵もないわ!!!」

 

 目を血走らせて怒鳴り散らす。その剣幕に押され、オクトセントリーは一歩後ずさりました。

 

「これはな、復讐でもあるのだよ……

 無自覚にこの俺を閉じ込め、じわじわと水責めにするような真似をした女共へのな。

 

 見ていろ! この俺はあの街に棲まうのんきな馬鹿共とは違うことを証明してやる!!

 

 オーブを元手にディブル様に道化師として仕え、学び得た全てを献上する……

 そしてこの俺だけは力が無くとも生き延び、のし上がってみせるのだ!!

 

 

 クックックッ……ハーハッハァーッ!!」

 

 

 狂ったように高笑いを響かせ、両手を広げて天井を見上げるびっくりサタン。

 その有様にオクトセントリーは戸惑うやら呆れるやら、訳がわからなくなるばかりです。

 何とも言えなくなって目のやり場にも困り、壁に視線を逸らしました。

 

「……むっ?」

 

 不意にオクトセントリーの表情が険しく歪みました。

 見つめる先には振り子式の壁掛け時計。現在の時刻を示す針がカチッと鳴っています。

 

(既に歩哨が見回りに来ている時間……だが連絡すら来ていないぞ?)

 

 不審に思ったオクトセントリーは銛の柄で床を突きました。

 彼らの下半身はタコの足。床に密着させられるので足音などの振動を感知するのが得意です。

 そのため符丁に応じたリズムで床を鳴らせば部屋の外と通信が出来るのです。

 

 

 しかし、数度突いて暫し待っても返答はありませんでした。

 

 

「緊急事態だ。直ちに脱出する準備を始めろ」

 

「あっ? なんだいきなり……」

 

「歩哨と連絡が途絶えた。原因はわからん。

 他の部屋に確認を取るから貴様は万が一に備えるんだ」

 

「あ、ああ、わかった」

 

 急に一方的な命令を受け、びっくりサタンは戸惑いながらも了承しました。

 もたつきながらオーブを仕舞いはじめるのを横目にオクトセントリーも行動を起こします。

 

 マニュアル通りに素早く壁に備え付けられた伝声管を手に取り、呼びかけました。

 

「こちら貴賓室。歩哨が定刻に訪れず、応答もない。

 担当の者に至急確認を求む」

 

 返答を待つため、伝声管に耳を当てたまま待機するオクトセントリー。

 その間にびっくりサタンは荷物をまとめ終え、いつでも出発出来る状態になっていました。

 

「全く、なんだというのだ一体……

 

 おい! こっちはもう準備出来たぞ!! 他の部屋は何と言ってるんだ?」

 

「………………」

 

 ぶつくさ言いながら風呂敷を背負い、オクトセントリーに問いかけるびっくりサタン。

 しかし、何も答えが返ってきません。伝声管を握り締め、身動き一つしないで固まったまま。

 先程までのテキパキとした様子がまるで嘘のようです。

 

「おいっ!? 聞こえてんのか? 何かあったんじゃない……だろう……な?」

 

 流石におかしいと思ったびっくりサタンがオクトセントリーに声をかけました。

 返事がないので肩に手を置き、軽く揺さぶろうとしたその時。

 

 ぐらりとオクトセントリーの体が傾き、そのまま後ろに倒れ込みました。

 

「お、おい……?

 どうしたんだよ、しっかりしろって!! なぁ!!」

 

 びっくりサタンはオクトセントリーを助け起こそうとしますが、ぐったりしたまま動かない。

 いくら呼んでも、体を揺らしても、何の反応も示しません。

 顔は恐怖で引きつり、目はドロッと濁っていて口からは泡を吹いています。

 

 

 あわてて胸元に耳を当てれば、心臓は鼓動を止めていました。

 

 彼は既に、死んでいたのです。

 

 

「ひいっ!? ひゃっ……なっ……うわああああああああ!!!!」

 

 目の前で起こった出来事を理解出来ず、パニックに陥るびっくりサタン。

 逃げ出そうと立ち上がり、走り出す前に転び、それでも必死に這って部屋の外へ出ました。

 そして他の部屋に逃げ込もうとしましたが、廊下にも仲間の姿はありません。

 

「だ、誰か……助けてくれぇ!! 大変なんだ!!」

 

 大声で助けを求めても、誰も応えてくれない。

 廊下には自分以外の気配はなく、誰の声も聞こえて来ません。

 それでも別の部屋には別のオクトセントリー達が詰めてるはずです。

 

 必死の形相で一番近くの詰め所となっっている部屋に飛び込みました。

 

「お、おい大変だ!! 早く来てくれっ!!

 なんだか知らんがいきなり……死んで……て……」

 

 息を切らせながら叫ぶも、室内の光景を見て言葉を失いました。

 そこにもオクトセントリーの死体が転がっていたからです。

 

 ある者は床に倒れ伏して、またある者は椅子に座ったまま。

 壁により掛かってる者も居れば、伝声管を片手に持ちながら事切れた姿もありました。

 皆一様に恐怖の表情を浮かべ、目を見開き、口を大きく開けて絶命しています。

 

「そんな馬鹿な……。なんでこんな事に……」

 

 愕然としながらさらに別の部屋へ駆け込み、生存者を探すびっくりサタン。

 しかし、どの部屋を開けても結果は変わりません。

 

 死体。死体。死体。死体。死体。死体。

 

 どの部屋でもオクトセントリー達は返事がない、ただの屍と化していたのです。

 他の階層にもいるはずですが、そこまで確認するほどの気力はありませんでした。

 

「……う、嘘だろ……おい……」

 

 あまりの出来事に腰を抜かし、その場に座り込んでしまうびっくりサタン。

 涙すら流れない程の衝撃を受け、放心状態で天井を眺めていました。

 何故こんな事になってしまったのか? どれほど考えてもわかりません。

 

 わかるのは、この場でただ一人生き残ってしまったという事実だけ。

 

 だからこそ、けっして誤解せず、すぐに理解しました。

 

 背後から響く足音が、仲間を殺し尽くし、自分の命を奪いに来た襲撃者のものだと。

 

「ひっ!?」

 

 恐怖に体が震え、振り返る事も出来ません。

 ペタペタとゆっくりゆっくり近づく音に怯え、歯をガチガチ鳴らして硬直するばかり。

 もしもこれがオクトセントリーならば、もっと沢山の足がうねる音が響いていたでしょう。

 

 自分を殺しに来た敵が背後まで迫ってきている。

 その事実を認識したとき、彼はとてもとても大切なことを思い出しました。

 

(―――脱出路っ! そうだ!! 貴賓室に戻って脱出路から逃げねば!!)

 

 貴賓室の床。絨毯を剥がしたその下には、他の避難所へと続く通路があるのです。

 そのことを彼はこの時まで忘れていました。恐怖で冷静な判断が出来なかったからです。

 何せ目の前で突然仲間が殺されたのですから……すぐその場を離れたいのが人情というもの。

 

 しかし、部屋の外で敵の居場所を確認出来たことで、ようやく頭のもやが晴れたのです。

 

 今この場で唯一生き残ることが出来る。その方法に思い至ることが出来たのです。

 

(嫌だ!! 死にたくない!! まだ死にたくねぇよ!! 俺は……おれは……!!

 こんなところで死ぬわけにはいかねえんだよぉおお!!)

 

 生きる望みを原動力にびっくりサタンは駆け出します。

 幸いにして襲撃者は走って追ってきません。ペタペタと早歩きで近づいてくるだけでした。

 決して振り返らず通路を走り抜け、貴賓室の扉に飛びつき、中へと転がり込みます。

 

「よしっ……間に合った……!!」

 

 後は絨毯を捲り脱出路を開いて逃げるだけ。そうすれば自分は助かります。

 その前に扉を閉じて鍵を掛けなければ。逃げるために襲撃者の足止めをしなければ。

 ドアノブに手をかけて引き、閉じきるまであと指一本分の隙間を残したところで―――

 

 

 

「ザラキ」

 

 

 

 聞こえてはならない言葉が聞こえました。聞いてはならない声が響きました。

 

 それは低い音でした。ゴウゴウと地の底から唸っているのが響いているような声でした。

 それは高い音でした。ピロピロと夢の中から囁いてるけど聞き取れないような声でした。

 それは不快な声でした。それは甘い声でした。それは喧しい声でした。それは静かな声でした。

 

 土留め色に光る中を読めない文字が躍るような。悍ましくも蠱惑的な響きでした。

 

「うわあああっ! な……なんだ!!? この不気味な声はぁっ……!!?」

 

 びっくりサタンは耐え切れず、耳を抑えてうずくまりました。

 その拍子に頭がぶつかり、扉は開け放たれ、背負ってた風呂敷からオーブも転がり落ちる。

 コロコロと転がる宝玉。その脇を急ぐこともなく襲撃者が歩いて近づいてきました。

 

 掌から呪文を放つ魔族。ザボエラです。

 

「それは冥土からおまえを誘う"死の言葉"よ。

 その声に負けた時……お前の生命(いのち)はつきるのだ。

 ヒョエッヘッヘッ!!」

 

「そ、そんな……まさかオクト共を皆殺しにしたのもっ……!?」

 

「その通り。実に楽だったもんじゃよ?

 ただでさえ音が響きやすい室内……音に敏感な魔物共……

 加えて全ての部屋が筒でつなげてあるのには笑ってしまったわい。

 

 おかげで連絡装ってフタを開けさせるだけで一網打尽に出来たわ」

 

 ニヤニヤ笑いながらびっくりサタンの元に辿り着き、その頭を掴むザボエラ。

 掴まれた部分から放たれる音は鼓膜どころか頭骨に響き、直接神経に届きます。

 ただでさえ動けない中で、完全に逃げ場を失いました。

 

「やめろぉおおおっ! 触るなぁあああっ!!」

 

「ククッ! しかしのう、この施設に対策が取られてなかったことを恨んではいかんぞ?

 ザラキは今味わってる通り恐ろしい魔法じゃが、実のところ強い魔法というわけではない……

 

 死に至るまでにはそれなりに時間がかかるし、その途中で邪魔されればすぐ効果が解ける。

 声を聞かせるだけの魔法ゆえに、殺せなければ外傷も後遺症も一切与えられぬ。

 ハッキリ言ってただ殺すだけなら普通に攻撃魔法を撃った方がてっとり早い。

 

 ゆえにワシの故郷でも使い手が少なかった……ここでもそれは同じだったんじゃろ」

 

 悶え苦しむびっくりサタンを見て愉快そうに笑うザボエラ。

 角が生えた頭をさわさわ撫でながら囁き続けます。

 

「じゃがしかし、だからと言って元々使いどころがない魔法というわけでもない。

 状況さえ整えば……三種類の条件下ではこれ以上ないほど猛威を振るう。

 

 一つは雑魚敵を確実に一掃したい時じゃ。

 今おまえが逃げられないでいるように、この魔法には動きを封じる副作用がある……

 頭の中に響く言葉に意識を支配されてるんじゃから当然のことじゃな。

 

 ゆえに一度囚われれば外部から助けられない限り、逃れる術はない。

 

 無論、致命傷を負った状態からやぶれかぶれになって反撃することも出来ん……

 ギラやメラで焼いたり、バギで切り刻むと、この点を許す可能性はあるからのう。

 

 ザラキならば安心安全、死ぬまで無抵抗。実質即死魔法と言っても差し支えないわけじゃ。

 これが一つ目の理由よ。

 

 もう一つは単純に敵を嬲りたい時。

 説明は要らんじゃろうが……この魔法はダイレクトに死の恐怖を味わわせることが出来る。

 それは物理的に痛めつけるよりも、精神的に追い詰めるより遥かに効果的。

 

 あらゆる苦痛や苦悩よりも、ただ死に向かう恐怖を与えることこそ至高の苦しみなんじゃ」

 

「そ、それが今、俺にやってることだというのか!?」

 

「キィヒヒッ! 惜しい! 半分だけ正解じゃ! 最後の三つ目こそお前にやってることよ!

 こいつには一つ目と二つ目を組み合わせた、最悪の使い道があるんじゃよ!」

 

「さ、最悪……だと!?」

 

「さよう! 抵抗力を奪い、苦しみを与え、だんだんと死に向かわせる……

 お前も悪魔の端くれならば、自分自身の悪意で気づかんか?」

 

「………………っ!!

 

 そ、そうか! 拷問っ! 拷問だな!? これは脅しなんだな!!?

 な、何が訊きたいんだ!? 早く言ってくれぇ!!」

 

 焦りながら質問を待つびっくりサタン。

 その時、ザボエラの口元が醜く歪んだことには気づきませんでした。

 

「そうじゃのう……ワシはここに来てまだ浅い。

 基本的なことから聞かせてもらおうか

 

 オーブに封印されてる邪神とは何者なんじゃ?」

 

「……? あ、あんたラスチェ様からの刺客なんじゃ……」

 

「質問にだけ答えんと死ぬぞ」

 

「す、すまない! 邪神様、邪神様ならエスターク様のことだ!!

 全てを支配する破壊と殺戮の邪神!! 不老不死の邪悪なる者にして地獄の帝王!!

 "進化の秘法"なる力で生み出されたと聞くが……それ以上のことはわからないっ」

 

「進化の秘法? なんじゃそれは」

 

「わからない、伝承に名前しか残ってない……

 強いて言うならば、初代魔王様がこれを研究してたって話なら聞いたことあるが……」

 

「なるほどの。ではオーブに触れんってのには関係しとらんのか?」

 

「あ、ああ……そうだ、無関係だ……

 オーブに触れないのはオーブを封印する結界によるものなんだ。

 だから封印の力を上回る者か、俺のように"巫女の血"を引く者以外は弾かれる」

 

「巫女の血じゃと? そりゃ先祖にその巫女ってのがいると言う意味かの?」

 

「その通りだよっ、六百年前に魔界が出来た時、一緒に堕ちたんだ……

 

 邪神様の魂と肉体を切り離し、さらにその肉体を六つのオーブに分けた聖なる巫女!

 そいつらは魔王軍残党をおびき寄せる時も、オーブがすぐ奪われぬよう結界張ってたんだ!

 そのまま最後まで逃げなかったから罠に巻き込まれて魔界に堕ちたんだよ!

 

 それで、オーブの奪い合いをするには、オーブに触れないと話にならんから……

 あらゆる魔物が巫女に子供を産ませて、子孫に破邪の力を受け継がせたんだ!」

 

「そりゃまた、えげつないことしたもんじゃのう……

 

 ではジョズネイドって奴が八十八人も子どもを作ったのも、その関係か?

 即ち、ラスチェやディブルとやらも巫女の血筋かの?」

 

「八十八人じゃねえよ、全部で九十一人居る! ってか居た!

 その二人は確かにそうだが……あの御方は節操なかったからそうとは限んねえよ!

 戦友とか呼んでた雑魚魔物共を中心になんか子ども作りまくってたんだ!!

 

 ラスチェ様に至っちゃ母親がねこまどうらしいが戦友無関係らしくて本当わかんねえ!」

 

「ふむ……相手は概ね弱い魔物と……

 それなら強いとされているディブルはどんな奴じゃ? なんの血を引いてる?」

 

「ディブル様……ディブル様は……かまいたちって魔物の子だ……

 ただ、見た目はほとんどジョズネイド様と同じ、シャークマジュそのものだよ……

 

 常に竜巻を身に纏って空を飛び、その爪は岩を裂き、牙は鉄をも噛み砕く!

 加えて閃熱(ギラ)系呪文真空(バギ)系呪文に熟練しておられる!

 俺も見たが……あの閃熱呪文(ベギラマ)は素晴らしき精度と威力だった!

 

 あの方こそ、真にジョズネイド様の後継者……

 いずれ再び魔界を統一させる真の強者だと俺は信じているっ!」

 

「随分と惚れこんでるの……それが裏切りの理由か?」

 

「それもある……それこそ大事なことだが……

 それ以上にラスチェのことが許せん……それが最大の理由だ……」

 

「ほう? 何かされたのか?」

 

「そんな話じゃない! もっと根本的な問題だ!! アイツは存在自体が歪んでやがる!!

 アイツが街で学校開いて、俺を含めた魔物に勉強させてること! それが罪だ!!」

 

「? どういうことじゃ?」

 

「俺はかつて逸れ者だった……

 びっくりサタンという魔物は踊り好きで、踊りが命綱の弱い魔物だ。

 さそう踊りやみかわしきゃくで強敵の攻撃を躱し、生き延びてきた。踊れねば話にならん。

 

 だから、踊りが下手な俺は、邪魔者だと忌み嫌われ、滝の洞窟から追い出されたんだ……

 

 そんな俺を拾ってくれて、勉強を教えてくれて、城の仕事を割り振ってくれた。

 そのことを最初は感謝してたよ! 最初は俺もそこまで賢くなかったからな!!

 

 だが、知識を深め、仕事を覚え、街の姿を書類で捉えられるようになると気づいちまった……

 

 あの街には根本的に防備が足りてねえ! 強者の庇護がなければ簡単に滅ぶ!!

 

 大砲とかいう玩具を開発させたり、誰も使えねえ魔法研究させたり、避難所作ったり……

 小細工重ねて誤魔化そうとしているが、ジョズネイト様がいなければ安全が保証されねえ!!

 仮にディブル様を引き込んでも、あの方が成長するまでは平和なんぞありえねえんだ!!

 

 そして何より、ラスチェ自身がそのこと許容してやがる!!

 アイツは今後絶対起こりうる他勢力からの襲撃を、普通に受ける気だ……

 

 犠牲者が毎度出て、一部しか生き残らない。

 それが日常になる街に、それと教えず今まで通りの街だと思わせて棲まわせるつもりなんだ!!

 あんなの沈み行く船に気づかせず閉じ込めているのと同じだ!!

 

 そのことに気づいても、結局力がなければ何も変えられん……それが許せなかった!!

 だから俺はディブル様の元で出世し、街ごとあの女を滅ぼすと決めたのだ!!」

 

「……そうか。わかったわかった。なるほどの。あの街は防備が薄いとな。

 ネルジェラって奴はどうじゃ? あやつはどの程度の実力なんじゃ?」

 

「えっあっ……ネルジェラは……なんか知らんが強い奴だ……

 俺と同じ逸れ者だったらしくて妙に目を掛けてくれていた……

 なんの魔物かもわからないから『実は人間では』という噂もあったが本人は否定している……

 

 アイツの"爆氷の剣技"としなやかな素早さはディブル様も一目置いているらしい」

 

「ばくひょうの剣技とな?」

 

「ああ、魔法と剣術を併用する技らしいが……俺にもよく分からん……」

 

「ふむ……? ではそういった情報を仕入れるならどこに行けば良いんじゃ?」

 

「うっ……それなら……やはり……サイラムの街の魔法研究所……だ……

 蔵書量だけは魔界でも随一だ……他の街の研究所もそう劣らん……

 いくら魔法を集めても使える奴がいないから活かせてるとは思わんが……

 

 それ以外だと悪竜魔団と呪霊魔団で研究が進んでるという話だが……

 前者は閉鎖的で余所者を受け入れんし、後者は気の狂った不死族(アンデッド)だらけで話が通じんだろう」

 

「おっ、よその勢力の話が出たか。折角だからそっちの話も色々と訊かせて貰おうかの」

 

「色々って……そんなには知らねえよ……ここどこかわかってるのか?

 地底海に浮かぶ島なんだよ! 他の軍団は大陸に居るから噂でしか知らねえよ!

 

 精々、悪竜魔団のドランと鉄兵士団のデスマシーンがグラコス様と同類……

 初代様の代から仕えてるって話しか知らねえよぉ……」

 

「なんじゃつまらん。それじゃ次はのう……そうじゃな、あの外で光ってた蝶ってなんじゃ?」

 

「ええ? 星霊蝶か……? ありゃ星々から降り注ぐ魔力が結晶化したもんだよ!

 夜中に地表に取りこまれて、昼に地下へ溢れるから、魔界は地上同様に昼が明るいんだ!

 尤も、地上だと飛んでるのは夜らしいが……こんなの常識だろ!?」

 

「常識知らずですまんの。ふむ、他には……魔界で一番美味い飯は?」

 

「サイラムの街、三丁目の居酒屋で売ってた揚げグソクムシが一番……これ今訊くことか!?」

 

 だんだんと雑になっていく質問。びっくりサタンも流石に困惑し始めました。

 それでも気にせずヒゲを弄りながら問い続けたザボエラでしたが……やがて頷きました。

 

「よくわかったわ。もういいぞ」

 

「じゃ、じゃあ、この呪文やめてくれるんだな!? 助けてくれるんだな!?」

 

 ようやく希望が見えたと、瞳を輝かせるびっくりサタン。

 頭の中には今も死の言葉がガンガンに響いています。

 

「それについてなんじゃがな。一つ大切なことを教えておらんかった」

 

「大切なこと……?」

 

「うむ。実はザラキには拷問に使う上で非常に役立つ特性があってな……

 

 お前、気づいておらんのか?

 さっきから随分と長話しておるのにまだ死んでおらんことを」

 

「あれ……そういえば……」

 

「これはな、ザラキの『言葉の誘惑に負けることで死に至らしめる』という特性によるもんじゃ。

 いや『言葉の誘惑に負けなければ死なない』と言い換えた方がわかりやすいかの?

 

 通常でも精神力があれば耐え切れるし、場合によってははねのけることも可能ではある。

 だが、そうでない奴でも『死の言葉を聞き流すこと』さえ出来れば耐えられるんじゃよ。

 聞いてるけど聞いてない状態ならば、ザラキを掛けられても死なずに済む……

 

 それにはどうすればいいか……?

 答えは『別の者と会話する』ことよ。

 

 他人との話に熱中し取る時に横で喋ってる奴がいても、普通は頭に入らんからな」

 

「なるほど……確かに……こうして話をしてると……楽、だ……」

 

「そうじゃろう?

 実際に死が遠のいてるわけじゃから感覚的にも実感出来るわけよ。

 

 それでじゃな、ここからが重要な事じゃ。

 死が迫り来る苦しみの中で、喋り続ければそれから逃れることが出来る……

 そうなると対象は口が軽くなりやすいし、色々と大事なことに頭が回らなくなるわけよ。

 

 

 ―――例えば『喋れば助ける』と基本的なこと約束せんでも情報ペラペラ喋ったり、な」

 

 

 息を呑みました。理解しがたいことを聞いて一瞬本当に理解出来ませんでした。

 改めて上目でザボエラの様子を窺えば、そこにはニタニタと下卑た笑いが浮かんでいました。

 そこでびっくりサタンはようやく気付きました。気づいてしまいました。

 

 こんな、悪辣そうな男が、助けてくれるわけがない、と。

 

「ご苦労じゃった。もう用済みじゃ……何にも喋らんでええぞ……永久にな!

 

 キョエ~~~ッ ヘッヘッヘッ!!」

 

 汚い高笑いをあげ終えると、ザボエラはスッと黙りこくりました。

 後に残るは死の言葉だけ。それも一気に音量が上がり続けていきます。

 

「ま、待ってくれ! 待ってくれアンタ!! まだ黙らないでくれ!!

 俺はもっと知ってる!! 色んなことを知ってるはずだ!!

 頼む! 行かないでくれっ!!

 

 

 この俺ともっと話をしてくれえええぇえぇええっ……!!!」

 

 

 あわれにも懇願の悲鳴を上げるびっくりサタン……それが最期の言葉になりました。

 がくりと頭を垂れてそのまま動かなくなりました。もう望み通り喋ることは出来ません。

 ザボエラも念のため首筋に手を当て、脈が止まっていることを確認しました。

 

「……キヒヒッ! やっぱりザラキをきちっと決めると気持ちがええのう!

 

 前回がクソジジイにやり損ねた時以来じゃからスカッとしたわ!

 あの時はスライム一匹巻き込み損ねたばかりにしくじったからのっ!」

 

 嬉しそうに笑いながら死体を蹴っ飛ばすザボエラ。一方でその表情は苦々しげです。

 頭に過るのはバルジ島での戦い。バダックにザラキを掛けるも邪魔された時のこと。

 ゴメちゃんに助けられたダイに妨害されたのが原因でしたので、それを悔いてるのでしょう。

 

 ……尤も、ゴールデンスライムにザラキを掛けたところで効くとも思えませんが。

 

 そんなことはつゆ知らず、ザボエラは次の行動に移りました。

 目をむけるは転がったブルーオーブです。通路に転がったまま美しく輝いています。

 

 ザボエラが近づき、腕を伸ばすとバチバチと紫電が走りました。

 しかし構わず指先を伸ばしていきます。すると電撃は収まり、やがて触れました。

 何も抵抗しないブルーオーブを拾い上げ、感触を確かめるように何度も握り締めます。

 

「ふむ……性質としてはマホカトールに近いの。

 邪気を防いで内側に閉じ込め、外からは魔物の接触を拒む。

 実に強力な破邪の力で守られている……

 

 じゃが、中身の力が強すぎるせいか本質的にちと荒い。

 全体を抑え込むことは出来てても、部分的に邪気が漏れ出ておる。

 さながら目の細かい布で水を掬って染み出ているかのようじゃ。

 

 オマケに結界の放つ破邪の力に紛れて邪気の漏れがわかりにくくなっておる……

 こんなもんが六つも世界に転がっとったら、誰も気づかぬ形で魔物が凶暴化するじゃろうな。

 そりゃ争いは終わらんの!」

 

 呆れ果てながら手の内でオーブを転がし、さらに観察していきます。

 すると、ザボエラはあることに気がつきました。

 

 邪気以外に漏れ出ている力があるのです。それも正体がよくわからない力でした。

 

「むっ? これは怨念か……? いや、よくわからんの……

 よくわからんが生物の肉体に干渉しようとする意思を感じる力じゃ……

 

 恐らく邪気と混ざりあって魔物が浴びれば異常な変化が起こりうる。

 突然変異で強力な個体が生まれたり、交わらぬ種同士で子を作れたりのう。

 

 先ほど聞いた"進化の秘法"……関係あるのか?」

 

 口元に手を当て、考え込みますが答えは出ません。

 如何にザボエラと言えど推測だけでわかることではないのでしょう。

 ただ、思考を切り替えて実例と照らし合わせれば思い当たる節はありました。

 

 ジョズネイドという突然現れた魔王。その子ども達。巫女の血筋。

 

 そして……"絵本を読むおばけきのこ"

 

 本来、おばけきのこは植木に水をやること(・・・・・・・・・)すら指示通り出来ないはずの魔物です。

 にもかかわらず本を読んでいた。その異常事態をザボエラはめざとく覚えていたのです。

 

「邪気の衝動を浴びるだけでも能力や知性が向上することは起こりうる。

 あのブラスっちゅう鬼面道士もそういうタイプの魔物だったと聞く。

 ハドラーの下で幹部として戦力増強の任務に就いていた、と……

 

 この世界ではこの奇妙な力のせいでそれが頻繁に起こるとしたら……

 沢山の魔物を教育すればするほど、幹部クラスの魔物を量産出来るかもしれん。

 あのネコザメ娘はそれに気づいておったのか?

 

 だとしたら、単なる頭お花畑の小娘とは違うのかもしれんの」

 

 腕を組んで深く考え込み、ブツブツと独り言を呟き始めます。

 しかし、やがて黙り込み。ふっと笑い飛ばしました。

 

「まっ、どっちにしろそれだけじゃ足らん話じゃ。

 いかに知性が高まれど、それだけじゃ戦いの場に最後まで残れぬ。

 ワシとてそれだけを頼りにしていたわけじゃないわ。

 

 ……それじゃあ、予定通りに話を進めようかの。キィ~ヒッヒ!」

 

 

 

***

 

 

 

「ラスチェ様……報告します。

 

 ザボエラが我らを裏切り、ディブル様と合流しました。

 

 ブルーオーブは完全に失われました……申し訳ありません」

 

 

 

 ―――続く―――




次回:第04話「魔王の血筋!ディブル登場の巻」 2022/06/11(土) 22:30頃 投稿予定

Q.ザラキって伝声管経由出来るの?
A.原作に伝声管が存在しないので不明ですが、原作(電子版04巻。59話。2P目)では
  「掌から細く放射状に広がるエフェクト(=音波?)」を放っているのを確認出来たので
  「あれは掌から発した音を浴びせて聞かせている」と解釈しています。

読んでいただきありがとうございました。
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