ザボエラ転生 ~魔王も勇者も不在の乱世なら妖魔司教も無双出来るようです~   作:円同

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※この作品の主人公はザボエラです。
※ザボエラに対して不当に美化することも貶すこともしないことを努力目標としています。
※オリジナルのドラクエ系異世界が舞台なので独自設定及び他作品からの引用も多めです。
※以上を踏まえた上でお楽しみ下さい。


第06話「炸裂!?最強の閃熱呪文の巻」

「いいんですよ、ネル。わざわざ無理して戦わなくても」

 

「そもそも私達、モンスターが未だ争うのは全ての者に破壊衝動があるからです。

 オーブから漏れ出る邪気を浴びて、破壊衝動に目覚めてしまった。

 

 だから全てのモンスターは暴力的で、争いをやめないのです。

 そうでなければ、どのモンスターも腹さえ満たしてしまえば暴れない。

 きっとこの世で最も無垢な存在となることでしょう」

 

「でも、この破壊衝動の正体って……つまるところ力を持て余してるだけなのですよ」

 

「邪気というものはそれ自体が力の塊。

 浴びた物を強化し、知性をも高める。時には空中浮遊など特殊な技も使えるようになる。

 この得た力をふつけたい、活用したいという疼きこそが破壊衝動の元なのです」

 

「だからその疼きさえぶつけられるならば、別に破壊でなくたって構わないのです。

 ましてや私達のように獣のレベルを超えた知性を得たモンスターならば尚更に、です。

 実際、邪気に当てられたことで人間の子を育てるようになった者すらいたとか……」

 

 

「それでも、みんな争いこそを好むのは、他の者に認められたいから。

 

 そして、認められるには強さと武勲こそが最も普遍的な価値基準となるからです」

 

 

「見上げるほど大きなドラゴンは、地べたを跳ねるスライムを矮小な存在と思うことでしょう。

 一方でスライムは足下の(たべもの)に気づかず踏みつぶすドラゴンを愚かと思うかもしれません。

 

 空を自由に飛び回るドラキーは水場に足止めされるキラーパンサーを哀れに思うことでしょう。

 一方でキラーパンサーは足の短いドラキーを走れないから飛んでるんだと笑うかもしれません。

 

 邪気の力で同じ場に集おうと、形も大きさも違う異種族は生き方が違う。故に価値観も異なる。

 全種族に通じていえることは生きていることと、その命は暴力で奪えること、それだけです。

 

 だから、暴力を振るって何を倒せたか? それが誰にでもわかる凄さの証しになるのです」

 

「自分に倒せぬ者を倒せる者は凄くて憧れる。憧れるから従う。従われることで認められる。

 そして従うことで自分も憧れる者に認められようとする。これがモンスターの基本的な性質」

 

「これが人間だと、こんな殺伐とせずとも仲間同士で仲良くなれたそうですがね。

 心が強く優しい生き物故、ともに力を合わせ喜びと悲しみを分かち合うことができたとか……

 まあ、排他的で異種族への差別や弾圧が非道いって風評も聞くので、一概には言えませんけど」

 

「ともかく、私達はみんな破壊衝動の赴くままに敵を討つことで認められたがっている。

 言ってしまえば承認欲求の虜なのです」

 

「この辺の心理は森羅軍団の三代目軍団長、フッディスポーン様の手記によく書かれてますね。

 数百年に一度、突然変異的に生まれる亜人面樹であった彼の方はとても強かった。

 しかし、植物系の魔物の常識を越えていた存在故に理解者も少なかった。

 

 『自分みたいな奴から戦場の手柄を取ったら何も残らない』とは文面に頻出した言葉です」

 

「それでも彼の方はその半生を地上で戦っていたからまだマシだった。

 あの時代であれば、戦うべき敵として分かりやすい人間が存在した。

 倒したのは英雄か民衆か、何人殺したか、滅ぼした集落はどれほどの規模だったか。

 

 地上はモンスターの値付けが人間を基準としてシンプルに出来た場所でした」

 

「でも今は違います。何せ魔界には人間がいません。戦うべきはモンスター同士です。

 倒した相手の価格でしか値付け出来ないのに、その相手の価格もハッキリしてないのです。

 例えばスライム百匹を倒した者とオニオーン五十匹倒した者のどちらが強いか。

 そんなのわからないでしょ?

 

 だから、魔界だとオーブを得るか、我武者羅に戦い続けることでしか、誰かに認められない。

 

 幾重にも積み上げた死体を見せびらかし、恨みと恐怖を買う。

 そうやって初めて"歴戦の猛者"という誰にでもわかる箔付けを手に入れられるのです」

 

「ねえ、ネル……

 あなたもそんな"歴戦の猛者"となった末に、疲れ果ててここに辿り着いたのでしょう?

 

 その荒みきった瞳を見れば判ります。死体を映しすぎて心まで腐ってるのが透けてる瞳を。

 島の外からこの街にやって来たのに暴れない。そういう者はみんなその瞳をしています」

 

 

「あなたが何故、そんな瞳になったのか。私は知らないし、聞く気もないです。

 

 ただ一つ言えるのは、この"街"にいる限り、戦わなくても私が貴女を認める(・・・・・・・・)ということです」

 

 

「この街は元々、私が"夢"を叶えるために作った街です。

 父さんの戦友を守ったとか、平和を実現したとか色々言ってるけど……正直全部後付けです。

 私が、私の抱く疼き(・・)のままに、私が満足するべく作ったんです」

 

「だからこの街の全ては私の夢に繋がるように出来ています。

 一見無関係に見える施設も、ちゃんと巡り巡って目当ての産業を支えています。

 こういうの、人間は経済活動って言ってるらしいですね」

 

「よって、この街で平和に暮らすもの全てを、私は認めます。

 各種研究に携わる者も、住み処や食べ物を作る者も、街を守るために戦う者も、全てです。

 この町に住んで、学んで、働いて、食べて、寝て、生きて死ぬ者みんなが私の力です。

 

 他の誰が認めなくても、私が認めるから、戦いに拘る必要がないのです。

 

 ネル、貴女も好きなことをしていいんです。

 研究所で働くために学校に入ってもいいんです。建築現場で荷運びしてもいいんです。

 畑で収穫を手伝って、日銭を稼いだらあとは公園でボーッとしててもいいんです。

 

 なんだったらまた戦いに出てもいいんです。戦って疲れたら、また帰ってきてください」

 

「ねえ、ネル。ネルジェラ。貴女はこの街で何をしたいですか?」

 

「ネルジェラ……ネルジェラ……ネルジェラ……

 

 

 

***

 

 

 

 星霊蝶がひらひらと舞い、目の前で煩わしく右往左往する。

 それでも双剣を構えた騎士ネルジェラの意識は闇の奥底に沈んでいました。

 

 彼女だけではありません。この辺一帯の魔物のほぼ全てが同じ状況です。

 

 ダンジョンエビも、グランドシャークも、レッサーデーモンも、きりさきピエロも。

 普段持ち歩いている鉄球から外した鎖で、"敵"を拘束するオーガーも。

 みんながみんな、虚ろな瞳のまま佇んでいます。

 

 正気を保っているのはただ三人。

 

 高笑いをするザボエラ。頬を濡らしながら呆然とするラスチェ。

 そして、オーガー四体掛かりで拘束されている、ディブルです。

 

「おのれ……離せ! 離さんか馬鹿共!!」

 

「ククッ ムダムダ!! こやつらにはもはや、ワシの言葉しか届かん!!」

 

 拘束を振り解こうと藻掻くディブルに対して、ザボエラが勝ち誇ったように言い放ちます。

 その間にも彼の体から立ち上る、魔法の力は増していく一方です。

 まるで怨嗟の声を上げる人魂のごとく、禍々しき妖魔力が彼を中心に渦を巻き始めました。

 

 両の掌に集ったそれは、やがて眩い黄色の光を放つアーチ形へと姿を変えていきます。

 

「……この呪文はハドラーの専売特許みたいなもんじゃった。

 実際は他にも使える者はおったし、あやつが魔王だった頃には使えなかったんじゃがな。

 それでも魔軍司令となり、大魔王バーン様からいただいた力の象徴じゃった。

 

 ゆえにこのワシもあやつが会得した暁には使用を控え、こうして練り上げるのも久方ぶりじゃ」

 

 魔法を構築しながら、ザボエラが語り出します。またしても異世界の者にはツッコめない話を。

 実際のところ、そもそも彼は率先して戦場に出ようとしなかった。そんな事実はひた隠しです。

 唯一、これ(・・)を使う機会があった時も奇襲で片腕を失ってたから使うこと自体出来ませんでした。

 

 別にこの呪文(・・・・)を使えようが使えまいが誤差(・・)でしかない動きをしていた。

 その事実を知らぬ者達にまるで自分が魔王に気を遣って手加減していたかのように話す。

 

 正しく自分を高く見せること以外が頭にない、ザボエラならではの話術です。

 

「じゃが! この魔王なき異世界においてはそんな配慮も無用!!

 ならば、ワシの華々しい門出を彩る祝砲として使わせてもらうぞ!!

 

 そう、この極大魔法……ベギラゴンをな!!!」

 

 完成した呪文の名をザボエラは高らかに叫びます。

 程度が低いと見なした異世界で、格下と見なした相手に放つ、閃熱(ギラ)系最強の呪文。

 気分は正に最高潮といったところでしょう。それ故に気づくことが出来ませんでした。

 

「……極大呪文?」

 

「力の象徴が、ベギラゴン?」

 

 異世界で仮にも魔王を名乗っていた怪物。その血族が抱いた違和感に。

 疑念が膨れ上がり、やがて確信に変わる前にザボエラは先手を取りました。

 

「さあ、これで終わりじゃ!

 勇者との戦いでも披露しなかった一撃を受けられること、光栄に思って……死ねぃ!!

 

 

 極大閃熱呪文(ベギラゴン)!!!」

 

 

 そしてザボエラの両手から閃光が放たれました。

 それはまさしく破壊の一撃。大地を引き裂き、大気を焼き尽くす。

 ごく僅かな例外を除き、あらゆる呪文の中でも王者に君臨する極大の一撃。

 放たれる轟音と衝撃で我に返ったラスチェが、思わず叫びました。

 

「ちょっ、駄目! ザボエラ様!!

 

 兄さんにベギラゴンだけは(・・・・・・・・)撃っては駄目です!!!」

 

 その悲鳴にも似た声を掻き消すように眩い光がディブルを包みました。

 全てを焼き尽くす灼熱が彼を飲みこみ、その身を拘束していた鎖も真っ赤に溶かします。

 周囲にただ立ってる者すら火傷する輝き、誰も生きているはずがないその中心から―――

 

 

「……どんな力でも身につけておくものだな。例えそれが、身の丈に合わぬ力でも」

 

 

 あまりに不自然なほど静かに響く低い声。

 その言葉と共に光が消え失せ、そこには健在なディブルの姿がありました。

 全身が焼け焦げながらも、彼はまだそこに浮いていたのです。

 

 その両掌は黄色く輝いており、強い力を発していました。

 

「!? 馬鹿な、何が起きた!?」

 

「その答えを貴様に教えてやる義理はない……

 だが、これほどまでに正しい威力でこの呪文を放てるのはこのオレにとっても初めてのこと。

 この経験に免じて一つだけ教えてやろう。貴様の知る技術を上回る、この世界の技術を!!」

 

 ディブルが叫ぶと同時に、両掌から巨大なアーチ形の光が伸びていきます。

 それは、ザボエラが練り上げた光と似ているようで、それより更に強力な光。

 その圧力に自分自身が押されて、歯を食いしばりながらもディブルは続けました。

 

閃熱(ギラ)系最強の呪文、それはベギラゴンではない……!!

 極大呪文を超えた最強の呪文、超越呪文(・・・・)がこの世界にはある!!

 

 

 さあ、食らうがいい……超越閃熱呪文(ギラグレイド)!!!」

 

 

 両手を交差させるように振り下ろした瞬間、今まで見たこともないほどの閃光が広がりました。

 そして、それに続いて鳴り響くは凄まじい爆発音。

 あまりの衝撃で空気が揺れ、空間そのものが振動したような錯覚に陥ります。

 

 閃光が消えた時、ディブルの目の前には抉れた屋上の床だけが残されていました。

 

 放たれた光の角度が地平線を越えていたためか、建物ごと壊れてはいません。

 しかし、マグマの如く煮えたぎり煙を上げる床を見るに相当な高熱で焼かれたのは確かです。

 処刑場に残るはディブルと、その側面に居たオーガー三体しか居ないように見えました。

 

「……なるほど、確かに驚かされたわ。この世界にはワシの知らぬ技術もあるらしいの」

 

 でも煙の向こう側から響く声がディブルの表情を凍りつかせました。

 ザボエラは生きていたのです。超越閃熱呪文(ギラグレイド)が放たれた瞬間、屋上から飛び降りていたことで。

 抜け目なく一緒に落としていたラスチェをぶら下げながら飛翔呪文(トベルーラ)で宙に浮いています。

 

(しかし、なんとも恐るべき威力じゃ……

 かつてハドラーと共にダイやマトリフとか言うジジイと撃ち合ったとき。

 もしまともに決まっていれば、あれにかなり近い破壊規模になったはず。

 

 溜めが長く、精度も粗かったが故に十分回避出来たが……

 あの程度の者がこれほどの威力を出せるとは、何か秘密があるのう)

 

 ザボエラはラスチェを抱えつつ考え込みます。

 その様子を余裕と見たのか、ディブルは舌打ちをしました。

 

「運良く避けやがって……だが次はないぞ……」

 

「ふん、強がるでないわ。

 今の一撃で貴様の魔力はほぼ尽きてるのが丸分かりだわい。

 それに、この場に居るのは別にワシらだけじゃないぞ」

 

 そう言ってザボエラが指を鳴らすと、静まりかえっていた周囲がにわかに騒がしくなりました。

 地上から屋上まで飛び上がってきたのは無事に回避させられてたネルジェラときりさきピエロ。

 少し遅れて壁を這い上がってきたのはレッサーデーモンとダンジョンえびです。

 

 元々屋上に居たオーガー達も合わせた怪物の群れがディブルを取り囲みました。

 

「キィヒヒヒヒヒヒ!!

 貴様があとどれほどの手品を隠しているかわからぬが……

 こう言うときは素直に数に任せてひねり潰すのが一番じゃ!!

 自分の部下達に殺されろぃ!!」

 

 ザボエラの嫌らしい笑い声と共にじりじりと距離を詰めていく怪物達。

 しかしディブルはそんな彼らを見てニヤリと笑みを浮かべていました。

 

「手品か……生憎期待されてるほどオレは器用ではない……

 だが、正しくこの状況でこそ力を発揮するとっておきならばあるぞ!!」

 

 ディブルはそう言うなりうずくまるように、腹に力を込めました。

 脂汗を掻きながら口も大きく開きます。

 

「ガッ……ハアッ!!」

 

 次の瞬間、ディブルの喉奥からずるりと何かが吐き出されました。

 掌に乗る大きさの宝玉。唾液でテカるだけでなく、自ら青く輝くそれには見覚えがありました。

 

「ブルーオーブじゃと……?」

 

「我らが地獄の帝王エスターク様。この身に流れる巫女の血を持って求めます。

 その偉大なる威光を、今この場に顕現させたまえ……

 

 

 ―――いてつくはどう!!!」

 

 

 ディブルがブルーオーブを高く掲げると、強大な力が放たれました。

 それは光なのか、音なのか、振動なのか、はたまた別のものなのか。

 形容し難い衝撃が周囲を駆け巡り、あまりの凄まじさにザボエラも一瞬意識を失いかけました。

 

 そして次に目を開けたとき、状況は完全に一変していました。

 

「うっここは一体……」「我々は何をしていたのか?」

「なぜここにいるのだ? 確か飯を食っていたはず……」

「おい見ろ!! ディブル様が怪我をしておられるぞ!?」

 

「ば、馬鹿な!? ワシの毒が無効化された、じゃと!?」

 

「見たか!! これぞありとあらゆる異常を無差別に消し去る、邪神様の力よ!!」

 

 予想外の事態に動揺するザボエラを余所に、ディブルは勝ち誇ったように言い放ちました。

 その間にも怪物達は混乱から立ち直り、事態を把握しつつありました。

 

 全身を火傷しているディブルとラスチェを抱えながら宙に浮くザボエラ。

 正気に戻ってしまえば誰が敵なのかは一目瞭然です。

 

「完全に形勢逆転だな……覚悟はいいか?」

 

(……こりゃいい加減、損切りを考える段階になってきたのう)

 

 ディブルを含めてギラギラと敵意の籠もった目で睨みつけてくる怪物達。

 彼らを見て、ザボエラはため息を吐きました。

 ぶら下げられているラスチェは先程からずっと、衝撃の展開続きで固まったままです。

 

 そんな彼女を見捨てて、さっさと瞬間移動呪文(ルーラ)で逃げてしまおうか?

 その決断をすべく、服を掴む手を緩めようとしたその時―――

 

 

「―――爆氷の剣技・氷結斬り」

 

 

 オーブを掴んでいたディブルの右腕を、鋭い光が走りました。

 人間で言えば橈骨と尺骨の隙間を綺麗に切り裂く一閃。

 その割れ目から噴き出た血しぶきを追い抜くように氷柱が生えてきます。

 

 竜の騎士が使う魔法剣とはまた違う(・・・・)、魔法と剣技が連携した(・・・・)一撃。

 

 まるで石畳を貫く筍のように傷口を押し広げる氷は、枷となって握力を奪い去りました。

 その冷たい痛みに悶絶するディブル。こんなことができる者を彼は一人しか知りません。

 

「ぐぅっ!? ネ、ネルジェラ……貴様も正気に戻っていたか!!」

 

「姫様のオーブを返せ、この薄馬鹿下郎!!」

 

 そこに虚ろさは既になく、怒りと使命感に燃える瞳でディブルを見据えるネルジェラ。

 彼を含め、その場の誰もが驚いている隙に更なる一撃を繰り出します。

 

 二本構えた剣のうち、氷結斬りを放ったのは右の剣。

 彼女は続けて左の剣を逆袈裟に振り上げ、氷の生えた腕を執拗に狙います。

 流石のディブルもこれ以上はやられっぱなしというわけにはいきません。

 

 身に纏う旋風を強め、全身を回転させて、回避すると同時に尾ヒレで彼女を弾かんとします。

 岩ならば砕けるどころか引き裂かれる程の一撃。しかし、ネルジェラも容易く食らいません。

 人間ならば背骨が折れる勢いで仰け反り、うねる尾ヒレを回避しました。

 

 その無理な動きで彼女の刃は腕に届きませんでしたが……しかし、それで狙い通りでした。

 

 剣先だけはディブルの掌に乗っていたブルーオーブを捉える事に成功したのです。

 

 握力が既に失われ、満足に動かせない腕では球体を握りしめることは出来ません。

 ほんの少し切っ先が触れるだけで、容易くオーブは弾かれました。

 

「姫様っ、ラスチェ様!! オーブ!! そっち行きました!!!」

 

「………………えっ、わっ、きゃっ、ほわっちゃあ!?」

 

 固まりっぱなしだったラスチェも忠臣の叫びで我に返り、飛んできたオーブを掴みました。

 戦えぬと言えど彼女もネコとサメ、生粋の捕食者の血を引く怪物です。

 逃げずに真っ直ぐ向かってくる宝玉を捕まえるくらいは普通に出来たのでした。

 

「なんてことだ! ラスチェにオーブが渡ったぞ!!」

 

「おのれ! ディブル様にオーブを返せ!!」

 

 目まぐるしく状況が動くのに困惑する怪物達でしたが、オーブが動くと流石に反応しました。

 いち早く事態を理解し、頭に血が上ったきりさきピエロ達がラスチェに襲いかかります。

 しかし、彼らはカッとなりすぎていました。オーブに纏わる大切なことを忘れていたのです。

 

「―――今じゃっ! オーブを奴らに突き出せぃ!!」

 

「えっ? あっそうか! とりゃっ!!」

 

 ザボエラの指示に従い、ラスチェがオーブを握った腕を真っ直ぐ前に突き出しました。

 彼女を釵で突き刺すべく迫っていたきりさきピエロ達も、その鈍い動きに容易く反応します。

 僅かな動きで邪魔な腕を躱し、武器を構えたところで―――突如走った紫電に弾かれました。

 

「ギャッ!?」

 

「しまった、オーブの結界だ!!」

 

 邪神を封じ込め、邪悪な怪物を寄せ付けぬ結界に阻まれ地面へと落とされるきりさきピエロ達。

 その無様な姿に後続の怪物達は尻込み、立ち止まってしまいました。

 ただ一人この結界を恐れぬディブルは氷の生えた腕が重くて反応し切れていません。

 

 その隙にネルジェラはディブルの元を離れてラスチェの元に駆け寄り、飛びつきました。

 不思議なことにオーブの結界は彼女もまたラスチェ同様に弾こうとはしませんでした。

 

瞬間移動呪文(ルーラ)

 

 間髪入れずに唱えられた瞬間移動呪文は一瞬にして三人の体を運び去りました。

 その場に残るディブルや怪物達の叫きも全く追いつけません。

 

 お昼過ぎの第九十六避難所。今はラスチェの処刑場となるはずだった場所。

 

 彼女達は無事にその死地を離脱することができたのです。

 

 

 

***

 

 

 

「こ、ここは私の城……サイラムの街? 帰ってきたんだ……」

 

「やれやれ、酷い目に遭ったの」

 

 先ほどとはまた違う石畳の屋上。地底海と街並みが一望できる場所。

 ラスチェもザボエラも溜め息をついて床に座り込みました。

 取り敢えず安全な場所に帰ってこられた。その安心感ですっかり気が抜けています。

 

 そんな二人の元に一人だけ緊張感を保った表情で近づく者がいました。

 ネルジェラです。

 

「あっ! ネル! 今日は本当によくやりましたね!! お手柄です!!」

 

 彼女の接近に気づいたラスチェはまるで子供のように喜びの声を上げました。

 そして信頼すべき忠臣を労ろうと手を伸ばし……素通りされてしまいます。

 予想外の行動にラスチェも笑顔で固まったまま小首を傾げました。

 

 主君を無視してつかつかと歩み寄った先に居るのは……ザボエラ。

 のんきに汗を拭いている老人を前にして、彼女はすらりと剣を抜きました。

 

「………………うん?」

 

「盛ったな、この私に、毒を。二度も」

 

 怒りが勝りすぎて最早片言の彼女。ネルジェラの瞳には憎悪の炎が燃え上がっています。

 そしてそのままザボエラに向けて二本の剣を勢い良く振り下ろしました。

 

「ひぇっ!?」

 

 大慌てでザボエラも身を捩り、ネルジェラの斬撃を躱します。

 無様で見苦しい動きですが、完全に気が緩んでた割には見事な回避でした。

 

「逃げるな!! 貴様!! 真っ二つにしてやるからそこに直れ!!」

 

「じょ、冗談じゃないわい!!」

 

「落ち着いてネル! ネルジェラ!! 真っ二つにしちゃ駄目!!」

 

 逃げるザボエラを全力で追い回すネルジェラ。その後ろから更に追うラスチェ。

 切羽詰まっていながらも、何とも間抜けな三人。

 

 そんな彼らを更に追いかけるかのように、光る蝶の群れもひらひらと空を舞っていました。

 

 

 

 ―――続く―――




次回:第07話「ラスチェの正体の巻」 2022/07/02(土) 19:00以降 投稿予定
※予定は大幅に変わることもあります

Q.ザボエラってベギラゴン使えるの?
A.不明です。特に根拠となるソースもありません。
  本編でクロコダインが言っていた「六軍団長は得意分野でハドラーを上回る」と言った
  趣旨の発言を元に「ザボエラならば使えるのではないか?」という創作です。

  ただ、一応「ベギラゴンを使うべき場面でベギラマ使ってたらおかしい」という
  想定の下に本編の展開を検証してみたところ

  「ハドラーとマトリフが撃ち合ってたところに加勢した場面以外でギラ系使ってない」
  「その場面では片腕が切り落とされていたのでベギラゴンは覚えてても撃てない」
  「以上の点からザボエラがベギラゴン使えても使えなくても本編の展開としては誤差」

  と言った結論に至ったため、使える扱いにしても問題無いと判断しました。
  こういった本編で起きた出来事の規模を超えない範囲での創作は
  今後も普通にあり得るのでよろしくお願いします。

Q.極大魔法のベギラゴンを上回るギラグレイドってダイの大冒険的になんなの?
A.(この情報はまだ閲覧できません)
  (この情報はまだ閲覧できません)

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