ザボエラ転生 ~魔王も勇者も不在の乱世なら妖魔司教も無双出来るようです~   作:円同

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※この作品の主人公はザボエラです。
※ザボエラに対して不当に美化することも貶すこともしないことを努力目標としています。
※オリジナルのドラクエ系異世界が舞台なので独自設定及び他作品からの引用も多めです。

※ザボエラ視点で進むため原作キャラを批判するような内容も含まれますが、
 あくまでもザボエラ故の言動であり、作品にアンチ・ヘイトの意図は全くございません。

※以上を踏まえた上でお楽しみ下さい。


第07話「ラスチェの正体の巻・後編」

「私はね、かつてここから"夕日"というものを見たことがあったんです。

 

 それをもう一度見るのが"夢"なんです」

 

「なんじゃと?」

 

 指と指の隙間から遠くを眺めるラスチェ。

 その視線の先を追ってザボエラは振り返りました。

 

 そこに広がるのは地底海の水平線。紫色の光を反射し、視界いっぱいに広がる水面。

 

 上を見上げれば曇天で埋め尽くされていて、周囲を眺めれば星霊蝶に照らされている。

 狭苦しさこそ感じませんが、そこは地上などではなく地下空間なのだと明確に悟れる光景。

 当然のことながら、どこを探しても存在するわけがない物が存在します。

 

 かつて大魔王バーンですら作れず、魔界に欲してやまなかった物。即ち―――

 

「太陽など、どこにもないではないか」

 

「そうですね。私が見た事あるのは"作り物"でした。

 だから今度は"本物"を見たいと思っています」

 

 視線を全く逸らさずラスチェは語り出しました。

 見据える先は現実ではなく遙か彼方、もう思い出にしかない景色です。

 

「今から約五十年前。ジョズネイド父さんが魔王となって丁度五十年を記念した日。

 家族や戦友に祝福されて気分を良くした父さんが一発芸を披露してくれたんです。

 

 それこそが"太陽の再現"であり、私が見た夕日の正体です」

 

「おぬし、思ってたより歳食っとるな」

 

「巫女の血を引いてますのでね。いわゆる不老長寿って奴なんです。

 ……もっとも、この姿で成長しきったとは思っていませんがね??

 まだ五十七歳ですし???? まだまだ身長とか伸びて当然ですし????」

 

「……そうか。わかったわかった。なるほどの。小娘、お前も同年代か?」

 

「ワタシは十八歳だ。まだ見た目通りに、な」

 

 話がそれた折に何か触れてはいけないところに触れたのか、静かに興奮するラスチェ。

 然りとて自然と無視する方向で結託した二人を見て冷静さを取り戻し、話を続けました。

 

「……ともかくですね、父さんがみんなへの御礼と力を誇示するために太陽を作ったんですよ。

 

 前にも話しましたが目の前の地底海は本物の海と繋がっています。

 水底の何処かに大穴が空いていて、水路となっている。そこから海水が流れてきている。

 当時はまだ噂でしかなかったんですが、父さんは実際にそこを通ったことがあったんです。

 

 何かあったのか二度と同じ事はしませんでしたが……

 とにかくその時に『自分は地上にでて本物の太陽を見てきた』のだと豪語していました。

 その証明として魔法で夕日を再現してくれたんです」

 

「ほう、どんな魔法を使ったんじゃ?」

 

超越閃熱呪文(ギラグレイド)の応用技です。

 父さんは"サウザンドボール"と名付けていました。

 

 実は父さん、真空(バギ)系呪文だけでなく閃熱(ギラ)系呪文も極めていまして……

 この魔界で唯一超越閃熱呪文(ギラグレイド)を使いこなすことが出来ていたんです。

 兄さんのように無理矢理ではなく、完全に自力で。

 

 そのエネルギーを一箇所に集め、超越火炎呪文(メラガイアー)のような球状にして放つ。

 それが"サウザンドボール"です」

 

「なるほど、それもあって極大閃熱呪文(ベギラゴン)には微妙な反応を……待て、"メラガイアー"じゃと?」

 

「あっ、すみません。メラゾーマの方が分かりやすかったですか?」

 

「……いや、構わん。水を差して悪かったの。話を続けよ」

 

「わかりました。

 それで、そのサウザンドボールは通常片手に収まるぐらいの大きさまで圧縮するんですが……

 あのときはそれを最大級に、ストロングアニマルも丸飲みにするほどの大きさで放ったんです。

 

 極めて巨大な光る球体を水平線の向こう側に叩き付けて、ゆっくりと水に沈める。

 

 それが父さんの作った"夕日"です。

 

 それを私は丁度この位置から見ていました。

 当時、この城はまだなかったので飛んでいるディブル兄さんに抱き抱えられながらです。

 私もまだ七歳になったばかりの子どもだったので、あの頃の記憶は曖昧ですが……

 

 あの日見た夕日の美しさだけは未だハッキリと覚えています」

 

 ザボエラがラスチェの方に向き直ると、彼女は瞳を閉じていました。

 まぶたの裏に焼き付いた光景をしみじみと反芻しているのが見て取れます。

 

「星霊蝶も散った後なのに辺りを眩く照らす光……

 その明るさが湖面に飲みこまれていくことでゆっくりと表情を変えていく景色……

 そして最後の一瞬だけ強く光ったあと暗闇に閉ざされる儚さ……

 

 今まで全く見たことのない光景で、一瞬たりとも目が離せませんでした。

 

 ただ地底海を眺めるだけであんなにも衝撃を受けたことは後にも先にもありません。

 

 ……でもそれを作った父さんは全然納得してなかったんですよ。

 水に直接沈めたから沸騰して湯気が出てて邪魔だの、空を赤く染められなかっただの。

 私には想像も出来ないところで不満が残る出来だったようです。

 

 だから『こんなのただの火遊びだ』って冷めちゃって、二度はやってくれませんでした」

 

「まあ、そりゃそうじゃろうな。その方法じゃ良くても馬鹿でかい照明弾にしかならんて」

 

「……やっぱり本物を知ってる方からするとそうなるのですね。

 

 でも私はアレをもう一度見たかった。

 父さんがしてくれた数少ない家族サービスということもあって、どうしても諦めきれなかった。

 

 いっそ、自分自身で再現しようと思った事もありました。

 でも私の魔力ではどれほど振り絞ってもメラゾーマ一発撃つのが精一杯。

 それすら手から離れるとすぐグズグズに崩れる始末。太陽どころか焚き火にしかなりません。

 

 力もセンスもない私に出来るのは最早ただ一つ。

 地上に出て、本物の夕日を見に行く。それだけでした。

 無論、それも極めて難題でしたが」

 

「それもまた当たり前の話じゃな。

 この世界は生まれた経緯からしても地上から封印されておる。

 例え力も技能もあろうと脱出できる方が異常じゃ。

 どちらもないなら尚更無理であろう」

 

「その通りです。でも当時の私は『寧ろ逆なのではないか?』って考えたんですよ」

 

「逆じゃと?」

 

「ええ、まず大前提として父さんが既に脱出できてますから……

 

 『この魔界が封印されているというならば強力な魔物ほど出したくないはず』

 『ならば父さんのような強い魔物こそ力尽くで脱出できるはずがない』

 『にも関わらず脱出できたからには力とは無縁の抜け道が文字通りあるはずだ』

 

 ……なんてことを考えてたんですよ。

 それで地上に繋がる道さえ見つけてしまえば、私でも外に出る手段はあると思ったんです」

 

「まあ、一応筋は通っておるが……実際どうじゃった?」

 

「後々それなりの結果は出せたと前置きした上で言いますが……

 それ以前の問題として、まず肝心の地上に繋がる地下水道に辿り着けませんでした。

 私もこの通り、エラ呼吸できますから素潜りでどうにでもなると思ってたんですがね。

 

 そもそも父さん以外は普段から水中にいる魔物ですら魔界の外には出ていない。

 それどころか地下水道の場所すら知(・・・・・・・・・・)る者がいない(・・・・・・)という事実を見落としていました。

 そのことがどれほど過酷な問題があることを意味するか……いやはや全然甘かったです」

 

 目を開いたラスチェは喉元を撫でながら苦笑いを浮かべました。

 その首には切れ込みのような鰓孔(えらあな)がずらりと並んでいます。

 

「まず第一に地底海は凄まじく深くて水底までの距離が単純に長い。

 普通に水面を泳ぐ場合でも私の体力では到底泳ぎ切れませんでした。

 それが潜るとなると自らの浮力や水流にも邪魔されますし、自力じゃ半分も到達できません。

 

 じゃあいっそ重石でも括り付けて沈んでしまえば良いのではないか?

 そう考えて岩抱いて飛び込んだら死にかけました」

 

「当たり前すぎる話じゃな。例え魚でも自力で泳いでいけぬ深さの環境には耐え切れんわ」

 

「全く以て正解です。水は冷たいわ水圧で潰れそうになるわ……

 偶々通りがかったエビルアングラーに助けられなければ、そこで水死体になってましたよ。

 

 なので地下水道を探す前に水底で活動できる方法を手に入れる。

 それが第一目標となりました。

 

 ……そしてその探究を最初に行った場所こそ、今の魔法研究所がある場所です」

 

 ラスチェが屋上から身を乗り出し、眼下の街並みに指先を向けました。

 そこには古い基礎の上に幾重も継ぎ接ぎの如く増築された建物が立ち並んでいます。

 

「最初はね、ここに街なんてなくて、あそこに掘っ建て小屋があるだけだったんです。

 

 早々に自力で潜ることを諦め、深い水底でも活動できる道具を開発するための場所。

 どんな方法が相応しいか考えるための資料と試作品を保管するための倉庫。

 ついでに私自身も寝泊まりするのに使っていた住み処。

 それがあの一画の最初の姿でした。

 

 ただ、私だけで出来ることには限界がありましてね……

 次第に生まれた頃から面倒見てくれた父さんの戦友に手伝って貰うようになったんです。

 

 最初は炊事や洗濯など身の回りのことだけ。

 段々と私のやることに興味を持つ子も出てきたので研究品の整理など雑用も。

 作業の傍らで何をやってるか教えると理解してくれる子も増えたので研究そのものも。

 

 いつしか小屋は立派な館に作り直されて『深海研究所』なんて名前がついていました。

 

 そして規模が大きくなるにつれてそこで作られる物も高度になっていきました。

 私一人だったときは木のタルで手作りした潜水鐘(ダイビング・ベル)をただひたすら改良するだけでした。

 研究員が増えてからは潜る手段も多様に提案されるようになっていったんです。

 

 『潜水鐘を防具扱いにしてスカラやスクルトで頑丈に出来ないか?』

 『深いところの水が冷たいなら火炎(メラ)系呪文で温めたらどうだ?』

 『いっそ火竜変化呪文(ドラゴラム)で本体を強化したらもっと無理が出来るのでは?』

 『それなら鋼鉄変化呪文(アストロン)で身を固めてから海の魔物に牽かせる方が手っ取り早いのでは?』

 『伝説によるとマーメイドハープという楽器を奏でれば良いらしい』

 『それなら乾きの壺という道具もある』

 

 元々物理的に難しいことだったので全体的に魔法に偏った手段が多かったですね。

 現在中枢である研究所がシンプルに"魔法研究所"と呼ばれてるのもこれが所以です。

 

 不可能なことも提案されましたが……精査していくうちに一つの答えが浮かんできたんです」

 

 彼女がそこまで言い切ってから手を叩くとネルジェラが一枚の資料を手渡しました。

 一体いつの間に取りに行ったのか? ザボエラが問う間もなくラスチェは説明を続けます。

 

 掲げて広げられた資料には魚か鯨のような、奇妙な船の設計図が描かれていました。

 

「水に浮かぶのではなく潜って進む船……即ち"潜水船"と名付けました。

 

 結局、地底海は広いので単身で探るのは難しいし、何日もかかる大仕事となる。

 また水底まで辿り着けても夜目すら利かないほどの闇が広がっていて何も見えない。

 それ以外にもまだまだ何か予想外の事態が待ち受けているかもしれない。

 

 ある程度の人員や光源などの機材を居住区ごと積み込んで守る船の形こそが最適。

 そう結論づけたんです。

 

 もっとも、結論が出たからと言ってすぐには完成形には至りませんでしたがね。

 最初はすぐ浸水しましたし、水圧で潰れましたし、動力や空気が尽きて動けなくなりました。

 あまりに壊れすぎて救助を頼んでた大王イカやマーマンがストライキ起こしたほどです。

 

 それでも改良に改良を重ねて十二年前、私が夕日を見てから三十八年後。

 

 ついに地底海の最深部で外界に繋がる地下水道を発見したんです!」

 

「そうかそうか。それでどうなったんじゃ」

 

 段々と熱を込めて語るラスチェに対し、半ば飽きたのか適当に相槌を打つザボエラ。

 一瞬ふて腐れながらも彼女は言葉を続けました。

 

「……まあ、未だに夢だ何だと言ってる時点で察しはつくでしょうがね。

 結局この潜水船でも地上には出られませんでしたよ。

 

 なにせ本物の海と繋がっていて海水が入り込んでいる場所です。

 つまり、水が完全に逆流してるんですよ。だから押し流されて全く通れませんでした。

 

 オマケに繋がってる先が極北の海らしくて水温が異常に低い始末。

 周辺を彷徨くだけでもマヒャドを常時浴びてるかのように船内が凍り付いていきましたよ。

 付近に魔物もいなくて救助も見込めなかったので動けなくなる前に撤収するしかなかったです。

 

 力とは無縁の抜け道? ないない。ありません。そんなのあるわけなかったです。

 

 アレを突破するのに必要なのは水温で凍り付かない体力。真空(バギ)系呪文で水流を制御する技術。

 即ち、極端に強い力に基づいた高度な技術で無理矢理突っ切るしかありません。

 封印? あんな自然の障害があったら十分すぎます。わざわざ別に用意するまでもないです。

 

 父さんは最後まで何も語りませんでしたが……

 二度と地上に出なかったの、あれ突破するのが面倒だったからですよ。絶対」

 

 一息に語り尽くしたラスチェは深々と溜め息をつきました。

 当時の徒労を思い出してげんなりしているようです。

 

 それでもしばらくすると気を取り直し、フッと笑みを浮かべながら言い放ちました。

 

「まあ、それでも一応、収穫がなかった訳じゃ無いですけどね。

 なにせ父さんが見つけた地下水道は水が入ってくる一方だったことを確認できたのですから。

 

 それはつまり、他に出て行く場所があることも示唆しているってことですよ。

 そうでもなければ水量は増える一方なので、この六百年間で陸地が水没してるはずです。

 

 だから今は水の流れがどこに向かっているのか、その研究をしています。

 地底海から本物の海に流れる穴を見つければ、そこから外に出るのは容易いはずなので……

 そこさえ見つけてしまえば私の勝ちです。

 

 そして……得たものは外に出る手掛かりだけじゃありません。

 

 地底海の最深部まで辿り着く潜水船を作るために積み重ねたものも立派な成果です。

 

 なにせ潜水船は魔法だけでない技術の集合体。

 私の得意なメラとバギを推進力や暖房として活用できる動力機関。

 スカラで強化しつつも、ある程度自力で水圧に耐えるほど頑丈な鋼鉄製の装甲。

 

 これらを作るには高度な冶金技術と大規模な鍛冶場が必要でした。

 また、当然大量に金属を使うため採掘を行う鉱夫も大勢必要でした。

 

 技術者と労働者を養うための畑や住居も必要でした。

 畑の作物を料理する食堂も必要でした。住居を作る大工も必要でした。

 必要な施設や仲間が増えたので管理するための行政も必要でした。

 仲間が増えるとトラブルも増えたので取り締まる衛兵も必要でした。

 また行政運営に必要な文官を揃えるために教育施設も必要でした。

 

 他にも沢山沢山必要な物がありました。その全てを私は揃えました。

 必要なものを全て揃えたとき、そこにあったのは沢山の建物と住民達……

 

 即ち、この街が出来上がっていたんです」

 

 眼下の街並みに向けて手を広げ、ラスチェは誇らしげに語ります。

 その眼差しはあくせく働く住民を慈しむように見下ろしていました。

 

「この街が出来たから、私は父さんしか見たことがない地下水道を発見できたんです。

 この街があったから、私は引き続き夢を追い続けることが出来ているんです。

 この街の全てが私を支えてくれているから、今の私があるんです。

 

 だからね、私はこう思うんです……こんな街作った私って凄いなって」

 

「……うん?」

 

 悦に入りながら語り続けるラスチェに対し、ちょっと退屈そうに聞いていたザボエラ。

 しかし、なにか違和感をおぼえ、首を傾げました。

 

「ちょっと待て。おぬし、話の着地点はそこでいいのか?」

 

「え? なんでですか? あってますよ?

 今の私があるのはこの街ありきです。しかしこの街だって私ありきの存在です」

 

 何に疑問を抱かれたのか心の底から分からないらしく、不思議そうに首を傾げるラスチェ。

 そして頭の位置を戻すと、街中に疎らに建つ塔の一つを指差しました。

 数ある塔の中でも高さが低い代わりに、敷地は広い塔です。

 

「あそこにあるのは農業塔……畑の一種です。

 あの内部に星霊蝶を集めて光で満たし、一階層ごとに作物を育てています。

 広く土地を使って農業すると魔物に襲撃されやすいので私が作らせました」

 

 続いて今さっき指差した塔の周辺に建つ塔の一つも指差しました。

 農業塔よりも高く細いですが、屋上に大砲が備え付けてあります。

 

「あそこにあるのは飛行する魔物を撃ち落とすための防空塔。

 屋上にある大砲という武器は、潜水船に使う冶金技術を元に近年発明されました。

 『力がない者でも使える弓矢より強力な武器を作れ』と私が命じて作らせた物です。

 ……まだ作りたてなので威力の方は不十分なんですけどね」

 

 更に今度は塔ではなく、中庭付きの大きな館を指差しました。

 館を出入りしたり中庭で休んだりする魔物の多くがその手に本を抱えています。

 

「あそこにあるのは図書館です。

 文官として教育している者だけでなく、幅広い魔物が書物に触れられるよう作らせました。

 文字が読めない者のため定期的に読み書きの授業を執り行わせてるのも私の命令です」

 

 最後に指差していた手で自分の胸元を押さえ、ザボエラを真っ直ぐ見据えました。

 一切の曇りがない細い瞳を向けて、自信満々に言い放ちました。

 

「この街の全ては私が必要とした物だけで出来ています。

 私が必要だと言った物を開発して、運用することで発展させてきたのです。

 

 だから、この街にある物は全て私に認められて存在しています。

 そして、この街で平穏に暮らす者も私によってその存在を認められています。

 

 この街は私ありきで存在しているんです。だからこの街の凄さは私の凄さです」

 

 キッパリと断言したラスチェに対し、ザボエラは口を開けてポカンとしていました。

 そのままゆっくりとネルジェラの方を向くと、彼女もまたゆっくりと真顔で顔を逸らしました。

 どうやらこの場にラスチェを止められる者は居ないようです。

 

「実際ですね、父さんはこれを認めて褒めてくれたんですよ。

 前に言った通りに街が父さんの戦友守るのに便利ってのもありますけどね。

 

 自分しか見つけられないと思っていた地下水道を弱い魔物の力だけで発見した。

 その功績をちゃんと讃えてくれたんですよ。魔王公認故にオーブを託されたわけですよ。

 だから兄弟の多くも私のことを素直に誉めてくれていたんですよ。

 

 ……にも関わらず、ディブル兄さんは本当何なんですか。

 

 自分が興味ないから、戦いと関係ないからって話すらまともに聞きやしない。

 じゃあ戦いに関係する武器や兵站に関する話をしようとしても『黙れ』としか言わない。

 自分自身を鍛えることと強い部下を持つことにしか全く関心がない。

 

 この期に及んでも私の街をどう使って他の軍団長を倒すかと言う話が全く出来やしない。

 

 私の街なんて『ただ面倒なだけ』で思考停止してるから交渉がまともに成立しない。

 そのせいで対策に追われて本来進めるべき研究も進められなかった……

 本当に本当に迷惑です。ちゃんと私の凄さを理解して欲しいです。

 

 兄さんだけじゃありません。びっくりサタンも何なんですかアイツ。

 

 『学んだことで街に未来がないと気付いた』だ?

 

 馬鹿言わないで下さい。私以外がそんな全貌見通せるほど学べるわけないです。

 犠牲云々も私が必要だと判断したから仕方なく許容してるんです。

 好き好んでそんなもったいないことやってるわけがない。

 

 どいつもこいつも……私が何を成したか分かりもしないで適当なこと言わないで下さい!」

 

 よっぽど熱が入ってしまったのか、最早周囲など関係なく声を荒げていくラスチェ。

 口調だけは丁寧なのに語る内容はどこまでも思い上がっているのが滲み出ています。

 側に控えるネルジェラも遠くを見ていて、自分の主に極力目を向けないようにしていました。

 

 その様子を白けた目で眺めるザボエラ。

 やがて彼は自分の中で一つの結論に辿り着いていました。

 

 

(……こいつあれじゃな。要するにクルテマッカⅦ世(・・・・・・・・)と根っこが同じなんじゃな)

 

 

 腕を組み、うんうんと頷きながらかつて居た世界で見た男を思い出します。

 軍備・商業ともに発達し"最も安全な国"と呼ばれていた王国"ベンガーナ"

 その国王と目の前のちっぽけな少女が彼には重なって見えていました。

 

(親から受け継いだ資産を元手に富を築き、築いた富を自身の力として振りかざす。

 プライドが高く自信過剰だが、それ故に行動力があり最後の瞬間まで勝利を疑わぬ。

 そして自分は正しい道を歩んでると思い込んどるから悪気もない。

 

 その反面、根が純粋なロマンチストだから話さえ合えば人から好かれやすい。

 理想を高く掲げ、リーダーシップにも長けてるため配下の忠誠心も非常に篤い。

 強引さが毒にも薬にもなるエネルギーを持っていた。

 

 ハドラーへの改造手術に手を取られたため途中で放置してしまったが……

 本来ならば機を見てザムザを送り込み、良いように使ってやるはずだったあの男。

 

 あやつの傲慢さと、このネコザメ娘の傲慢さは方向性が一緒じゃ。

 

 クルテマッカⅦ世は「世界最強の軍隊で魔王軍を退けて世界を平和にする」

 ネコザメ娘は「魔界から脱出する方法を研究して夕日を見に行く」

 

 それぞれ形は全く違うが自分の理想のために権力を迷いなく振るうタイプじゃ。

 自分で築き上げた力を間違わずに使えると疑わぬが故に、自分勝手な行動が取れる。

 

 だからワシの体に黒の核晶(コア)を埋め込むなどという真似も躊躇無く出来たんじゃ。

 

 それにしては最初物腰が丁寧じゃったからよく分からんかったが……

 よくよく考えればこやつの親は突然変異のポッと出。血筋に歴史が存在せん。

 つまり単純に育ちが王族じゃない(・・・・・・・・・)から王としての振る舞いを知らんのじゃろう。

 

 じゃからこやつの敬語も、単にそれが作法だと思ってるから使ってるだけ。

 恐らく本人に下手に出てるつもりはほとんどない。

 教育をし直せばすぐあの男のようにふんぞり返ることじゃろうな。

 

 じゃが、その育ち故にこやつはクルテマッカⅦ世と明確に違うところもある。

 こやつはあやつと違って折れ慣れておる(・・・・・・・)

 

 あやつは魔王軍との戦いに、常に勝たせてやっていた(・・・・・・・・・)が故に負けを知らんかった。

 人の社会でも成功続きだったが故に折れることを知らず、その耐性は全くなかった。

 

 故にミストバーンが派手にあやつの軍を潰した時も、全く耐えることなくボッキリと折れた。

 そして折れたまま開き直ることが出来ぬ故に自らの在り方を反省し、改心してしもうたんじゃ。

 アレは実に勿体ないことじゃった。

 

 しかし、このネコザメ娘は違う。

 血筋よりも力が重視される魔物故に、弱く生まれた時点から既に折れておる。

 生まれつき妥協しておるから、それ以降どれほど妥協しようが開き直れる。

 

 故にこやつは損切りが得意なんじゃ。

 無論、さっきの言い分からして仲間を切っても気にしない精神性はしておらんじゃろう。

 しかし、開き直りが得意じゃから感情を切り離して機械的(・・・)に損切りが出来る。

 

 ダンテとか言う奴を生贄にしたり、あの小娘を政略結婚に差し出したり。

 終いにゃ自らのプライドを守るために自分の命すら売り飛ばしたり。

 そしてワシの力を得るために躊躇せず土下座しに掛かったり。

 

 一見非道だったりヘタレたりしてるような行動全てが……

 『自分が必要だと認めたことだから仕方ない』と言う傲慢さ故に躊躇がないんじゃ。

 

 じゃからクルテマッカⅦ世とは違って……こやつは恐らく一生このままじゃろうな)

 

 未だにぶつくさ文句を言い続けているラスチェ。

 その後ろ姿を眺めながらザボエラはそう結論付けました。

 

「まあ、ええ。正体はよく分かった。大した裏もなさそうじゃ。

 お人好しなんだか腹黒なんだかよく分からなかったが……

 

 実態はただ理想と欲望に素直なだけ。ワシにとって最もつき合いやすいタイプじゃ」

 

 そう呟くとザボエラはふわりと空中から城の屋上に降り立ちました。

 そして愚痴り続けるラスチェの元にペタペタと歩いて近づくと声を掛けます。

 

「おい、ええかげんにせんか」

 

「……はっ!? 失礼しました。つい興奮してしまいまして。

 私自身が何者なのか語るはずがすっかり醜態を……」

 

「全く、そんな調子じゃと足元を掬われるぞ。

 これからお前さんには色々動いて貰わねばならんのだからのう。

 しっかりしてくれんと困るわい。ワシだって全能ではないんじゃから」

 

「はぁ……って、それはひょっとして」

 

「うむ、おぬしには組むだけの価値があるし、信用もできるとみた。

 正式に組んでやっても構わんわい」

 

 その一言に少女の顔がぱあっと明るくなりました。

 

「じゃが、組んでやるからと言って気を抜く出ないぞ。

 ワシはおぬしの夢なんぞにつき合うために組むわけではない。

 

 おまえは道具なのだ。おまえだけではない。この世の生物は全てワシの道具よ。

 身につけた力を……知恵を……ワシのためにそれを役立てよ!!

 

 さもなくばおまえはゴミじゃ! ……そうじゃろう?

 役にも立たない道具……そりゃゴミ以外のなんでもあるまいて……!!」

 

「ええ、全くですね!

 この五十云年、研鑽に研鑽を重ねてきたのに拘わらず役立てぬならそれはゴミです……

 私は私の夢を叶えるために、あなたの良き道具になってみせましょう!!」

 

 最低なザボエラの発言に対し、笑顔でその手を掴むラスチェ。

 その瞳に曇りはなく、機械的な感情の切り離しもありません。

 ただただ、自らの存在を認める者への喜びが浮かんでいました。

 

 

 

 後に"魔界最弱の魔王"としてその名を地上まで轟かせる混血の魔物。

 

 そして彼女を裏から操り、後に世界の在り方を根底から覆す魔界唯一の魔族。

 

 両者が出会ってから早十日。魔界の歴史を変える邪悪な結束が今ここに―――

 

 

 

「いや、やめましょう姫様?

 どう考えてもこいつと組んでも碌な事にならないですよ???」

 

「こ、こら! ネル! ネルジェラ!! ここに来て話を元に戻すんじゃありません!!」

 

「またイチからか!? イチから話さんと駄目か!?」

 

 

 

 ……魔界においてただ一人"ザボエラに与したくない"という真っ当な感性を持つネルジェラ。

 昼過ぎから始まった彼女への説得は周囲が暗くなる夕暮れまで掛かったそうです。

 

 

 

 ―――続く―――




次回:第08話「サイラムの街防衛作戦の巻」

※次回投稿は一週間後を目安にしています。
※詳細な投稿日時はTwitter(プロフィール参照)または活動報告でご確認ください。

Q.ベンガーナ王とザボエラって面識あったの?
A.独自設定です。特に根拠もありません。
  一応「妖魔師団の担当はベンガーナである」という俗説はありますが
  作中の描写やファンブックの記述などでは全く確認できませんでした。
  これはあくまでも根拠がない憶測の域を出ない話だと思います。

  しかしながらクルテマッカⅦ世は作中の人間で数少ない、
  権力者としては唯一の「内輪揉め要員」であることと彼の登場シーンにおいて

  「ザボエラ本人はハドラーの手術で忙しくて動けない」
  「唯一人間側に潜り込めるザムザもハドラーのためにロモスに行っていた」
  「漸くザボエラが動けるようになった時には既に改心していた」

  という風に搦め手が得意なザボエラと悉く噛み合わない動きをしていたため

  「寧ろこの二人の接点のなさこそが関係性と言えるのではないか?」
  「もし出会ったら収拾つかないから意図的に引き離されてるのではないか?」

  という仮説を提唱したいと思ったため、敢えて接点を捏造しました。

  具体的にザボエラとベンガーナをどういう関係とするのかは
  また次回に描写がありますのでお待ちください。

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