今日も君の死を想う。   作:write0108

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21話

街風に揺らぐ木々が付ける葉も、赤く染まり始めている。今までの日々が嘘であったかのように、寒さで目が覚めた。おかげで準備が早く済んだので、冬服を出して見繕う余裕があったのだが。…とにかく、季節は着々と、冬に向けて歩み始めていた。

 

本日は生憎の曇り空だが、雨は降らないらしい。ただでさえも寒いのに雨まで降られたら外に出る気が失せるので、まぁまぁラッキー、くらいの感覚だ。曇りの時点で外に出たいわけではないが。

 

しかし一人でいると、今日のこの集まりには意味があるんだろうかなんてことを考えてしまう。葛木と過ごすことが嫌というわけではないが、葛木が知り得ない川原の秘密を知ってしまっている俺にとって、刑罰に近い時間になってしまうことは火を見るより明らかだ。

 

でも、来ないという選択肢は選べなかった。何か誘われて、大した理由もなく断るということがいつまで経ってもできない。ついでに言えば、改善すべきなのか、それとも今のままでいた方がいいのかの判断もつかない。だからこの問題は宙ぶらりんのまま、俺は俺の気が向くままに誘いを受けているわけだ。

 

待ち合わせの時間までは一時間半ほどあって、なぜこの寒い中こんな時間に外に出てきてしまったのだろうという自分への怒りが湧き始めた。いつものことだが、遅れるにせよ早く来るにせよ、計画性のない動きが多すぎる。…こんな状況になるまで何の疑問も抱かなかった時点で、次回以降も何も考えず外に出てしまうのだろうと思うけど。

 

寒いとは思うのだが、建物に入る気にはあまりならなかった。駅前のショッピングモールも喫茶店も、何となく一人で入る気にはならない。…そういえば、川原ともどこかに行ったことはないような気がする。河川敷だとか神社だとか、人口と自然の狭間みたいな場所には積極的に行っていたのに。

 

今考えると、あの頃の川原は根の部分が暗かったというか、俺のような人間とも話が合うほどに擦れていた、という印象がある。…高校生になってから、そんなことはなくなったんだけど。だからこそ俺は川原と関わることを控えていた時期があったし、川原も俺に絡んでこなくなったんだろう。

 

だとすれば、中学三年生から高校入学にかけてのタイミングで、川原には何か変化があったことになる。その変化が何なのかは、細かい部分までは分からない。俺の頭では、おおよそ何か大きな転換期だった、という誰でも思いつくような予測しか導き出せないままだ。

 

「須貝、早過ぎない?」

 

考え事をしている間に少しずつ時間は進んだようで、時刻は待ち合わせの一時間前になっていた。

 

「寒くて早起きしちゃってさ」

 

そう言って笑うと、葛木も何それ、と笑ってくれた。最近、葛木との会話は緊張する瞬間でしかなかったので、笑顔を見たのは久しぶりな気がする。

 

「今日はどこに行くの?」

 

聞くと、答えは返ってこなかった。行けばわかるとだけ言われて、電車に乗せられる。

 

車窓から見える景色はいつもと変わらない。新しいものもないし、かと言って見飽きるほどではない、言ってしまえば意識するには足りない景色だ。企業のビルだとか、何かの店だとか、そんな興味も惹かれない人工物の集合体。

 

それでも、これが誰かの暮らしの証で、誰かが必要としているものだということを、最近は強く感じるようになった。

 

よくよく考えれば、それが当たり前なんだけど。必要のない建物は建たないし、必要のない仕事は淘汰されていく。必要のあるものだけが、存在を許されていく。

 

…じゃあ、今は存在しないものが、全く必要とされていないかといえば、別にそういう訳でもない。終わってしまうことは選びようがなくても、終わらせることはいくらでも選べるから。

 

「須貝って、趣味とかあるの?」

 

他愛のない会話の中で、そんなことを聞かれる。…少し考えてみる。

 

「うーん…ないかも」

 

趣味って、範囲が難しい。日常的にする必要のないことの中で優先度が高いものなのか、はたまた他の人に比べてしている頻度が高いものなのか。…そのどちらも、ピンとくるものは特にないんだけれど。

 

「趣味って、何を指してるのかよく分からないよね」

 

葛木もちょうど同じようなことを考えていたようで、どういう趣味があるか、ではなく、趣味という言葉そのものについて話が始まった。

 

…まぁ、お互いよく分からないという所から話し始めているので、結論が出ることはなかった。討論ではなくて雑談なわけだし、きっとそれでいいんだろうと思う。

 

「…じゃ、ここで降りるよ」

 

見覚えのある駅だ。つい最近も降りた気がする。ここに何かあるとすれば、俺の知る限り一つだけだ。…嫌な予感がしてきた。

 

俺は一歩遅れるような形で、葛木の後ろを歩く。葛木は何も言わず、俺が桐野と辿ったルートを歩いている。

 

「…さて、と」

 

つい最近二回も来た公園の、もう座り慣れてしまったベンチ。葛木はそこに腰を下ろして、俺にも座るように促した。

 

「ここ、なんかあるの?」

 

葛木はそう、笑顔で問い詰めてきた。俺は事情を説明する。…話しているうちに気づいたのだが、桐野と葛木には繋がりがあるのに、ここに三人で来たことがなかったという。ここを知っていたのは生前は川原と桐野だけで、つい最近桐野からこの場所を聞いた、とか。

 

「私、この場所には縁がないのかも」

 

葛木は冗談めかしてそう言うが、本気で落ち込んでいるんだろうなと思う。わざわざ桐野でなく俺に話を聞く辺りとか。

 

俺は桐野と川原の関係性を知っているから、葛木がここに連れて来られなかった理由もなんとなく見当がついている。二人の優しさと言えば優しさだが、葛木にそれを説明しても納得してはもらえないだろう。むしろ納得せず抱え込んでしまう辺りが、ここに連れて来られなかった理由と言ってもいい。

 

葛木より先にここに来たことのある俺は、きっと桐野の中で話をしても問題のない人物だったということなのだろう。…別に、葛木が問題のある人物だと言いたいわけではないが。

 

「…ここで、何を話してたんだろうね。二人で」

 

そこまでは流石に分からない、と返すと、そっか、と力ない返事が返ってきた。こんなに落ち込んだ葛木を見るのは、初めて家に来た時以来のような気がする。

 

友達だからこそ言いづらいこととか、友達だからこそ心配しないで欲しい時とか、そういうものが往々にして存在するということ。きっとそれは、葛木も理解している。だけど葛木にとっては、なんでも言い合えることが理想の友達だったんだろうと思う。

 

…葛木円歌という人間は、基本的に不器用だ。俺が言えたことじゃないけれど。空回りもするし、見当違いなこともする。だけど葛木円歌という人間は、基本的に一生懸命だ。だからこそ、報われて欲しいと皆に願われている。

 

きっと俺の知らない所でも、葛木は川原のことを調べていたりするんだろうと思う。言った覚えもないのに、今日ここに連れて来られたこともそうだが。

 

なにか声をかけるべきか、と迷っていると、葛木の方から話を振ってきた。

 

「…じゃあ、次は本題なんだけど」

 

俺は背筋が凍るような感覚を覚える。…今日の嫌な予感は、考えうる限り最悪の形で現実になりそうだ。

 

「中庭で、何を話してたの?」

 

葛木は真っ直ぐな目で俺を見据える。確信があるとでも言いたげな表情で。自分に告げられていない秘密を持っている。それに完全に気が付いている。

 

俺は過去の自分を責める。どうしてもっと上手く隠せなかったんだ。それと同時に、どうしてもっと早く話してしまわなかったんだという後悔に襲われる。…何はともあれ、俺は今、過去の精算を迫られていた。

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