狭間 駆は巻き込まれたい   作:もみじん

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0話:プロローグ

―――小さい頃、画面に映るヒーロー達に憧れた。

だって、カッコいいじゃないか。

憧れて何が悪い。

彼らは、悪と戦うヒーローだ、正義の味方だ。

時には困っている人を助ける。 彼らは人としての正解だ。

ずっと、そう今まで思い続けてきた。

ヒーローが正しいって、信じ続けてきた。

ただ、今、この瞬間、その希望はある異常者によって瞬く間に消し炭となった。

そして、今、この瞬間から俺の"信念"は大きくブレ始める。

『ヒーローは異常者だ――――』

そんな思考が頭から離れない。

こいつらは、周りの目なんてお構いなく自身が掲げる正義感を存分に振るう、まるで自分がヒーローだと豪語するかの様に。

俺、狭間 駆(ハザマ カケル)はそんなヒーローを否定する。

この物語は、そんな些細な偏見から始まった。

 

「いいか?大人しく手を挙げて、全員その場で跪くんだ。」

俺、狭間 駆は立ち寄った銀行で黒ずくめの男が銃を片手にそんなセリフを吐いている場面に遭遇した。

たった一人を除いて、この場に居る全員は男の言う通りにしていく。

怯えながらも指示に従う主婦、陰で携帯電話を取り出し外への連絡を試みるスーツの男性。

この場に居る誰しもがこの状況に見合った行動を取っている。

これは俺も例外ではない。

「おい、お前もだ。

手を挙げてそこに跪け。」

そこに異常者(ヒーロー)は居た。

 

「イヤだね。」

俺と同い年位の青年が、銃を持つ男性を前に躊躇なくそう言い放つ。

青年は見る見ると男へと距離を詰める。

「動くなッ――――!」

男の罵声が銀行内に響き渡る、がそれでも青年は怯むことはない。

しかしその青年の行動が裏目に出たか、男は銃を青年へと構える。

男のその行動に周りに居る全員は一斉に悲鳴を上げ、目の前で人が死ぬかもしれないという現実に目を背けた――――。

だが彼らの心配は杞憂に終わる。

青年は男へ向かって一直線に駆けてゆく。

武器を手にしている男へと向かってくる牙を剥いた一騎の歩兵。

勝ち負けを聞くほど程にも至らない簡単な問題だ。

銃を持った人間対生身の人間。

誰しもが銃を持った人間が勝つと豪語するだろう。

恐らくこの場で青年の命は散っていく。

彼が常識に通じる人間であったらの話だが―――。

時に、異常者(ヒーロー)は今まで人間が築き上げてきた定義すらも崩壊させる。

「なッ――――。」

青年の滑走はものの数秒だ。

その数秒で彼は男の目前へと辿り着く。

距離を詰められた男は咄嗟に懐に手を忍ばせ、持ち手のある何かを取り出そうとしている。

異常者(ヒーロー)は男のその行動に気が付いているのだろうか――――。

「ナイフだッ――――!」

二分の一の確率、俺は気が付いたら叫んでいた。

予感は的中。

男は懐からナイフを取り出そうとした――――、がナイフは青年の腕によって払いのけられる。

ナイフは宙へと舞う。

なんて異常な、彼はナイフを払うのにも一切の迷いを感じなかった。

誰だってナイフは愚か、先ず銃に怯えるというのに――――。

ナイフを払った青年は左足を軸に回転し、右の強烈な肘撃ちを男の胴体へと撃ち込む。

「ッ――――!!」

男は一歩後ずさり、苦しそうに蹲る。

「終わり?」

青年は余裕があるのか、乾いた表情で男を見下ろしていたが、すぐに男は歯を食いしばりながらも立ち上がる。

「家族の為だ――――。」

男がふと、そうつぶやく。

「いッ、一家の大黒柱がこんなことで金集めようとすんじゃねーよッ!!やっちまえ、兄ちゃん!!」

「こッ、子供が悲しむぞッ!!」

「あッ、頭悪いのか!? ちゃんと働けよ!!」

形勢が青年の方へと傾くと男のそのつぶやきに対して、周りの人間達がヤジを飛ばしだす。

これが普通の、一般的な、正常な人達の心情だ。

さて――――、異常者(ヒーロー)お前はどうする――――。

「家族の為か――――。」

異常者(ヒーロー)がつぶやく。

「で?」

この場でのヒーローはそう言って、弱者を切り捨てた。

再びヒーローの制裁が男へと下る。

青年は握りこんだ両手の拳を男の顔へと次々と叩き込んでいく。

「家族をッ、理由にッ、すんじゃッ、ねーよッ!!」

俺はその光景を見ながら背筋をゾクリとさせた。

あまりにも惨いその光景は決して直視できるものではない。

「やれッ――――!やっちまえ!!」

「いけぇいけぇ! もっとやれッ――――!」

「もっとッもっとッ!! やっちゃえッ――――!!」

それを好き好んで見るようなものこそ、真の異常者だ――――。

ヒーローの制裁が一通り下ると男はうつ伏せになりながらも、力をふり絞って立ち上がろうとする。

「まさ、や――――」

かすれた声で誰かの名前を呼ぶ。

「ッ――――!!」

意を決したかのように男は立ち上がり、銀行の入口へと駆けてゆく。

恐らく男は逃げようとしているのだろう。

「逃がすかよッ――――」

ヒーローが男の背中を追っていく。

男の動きはそう機敏なものではない。

今なら誰だって追いつけてもおかしくはない。

「止まりなさいッ――――!」

案の定、先ほどまで蹲っていた1人の老婆が立ち上がり、男の正面に立ちふさがる。

「邪魔だッ! どけぇ!」

男は声を荒げながら、老婆を身体毎払いのける。

――――これが、この行動の結果がヒーローの逆鱗に触れることになった。

身体毎吹き飛ばされた老婆は、近くの壁に打ち付けられたままぐったりとしている。

ヒーローは慌ててその老婆へと駆け寄ると、老婆を抱きかかえた。

そして何かを悟とその動かない身体をゆっくりと床に寝かせ、再び男に歩み寄っていく。

「ま、まて、殺す気なんて――――」

男の制止はヒーローには届かない。

一殴り――――。

ヒーローの拳が血に染まる。

もう一殴り――――。

男の真下に血が滴る。

さらにもう一殴り――――。

ヒーローの制裁は止まない。

人が死んだ。

こうなってしまえば、俺はもうあの男を擁護はできない。

ただ繰り返される制裁を見届ける他ない。

結局――――、俺も異常者だったわけか。

「ッ――――」

男が床に倒れこむ。

するとその衝撃で先ほど男が構えていた銃が俺の目の前に滑ってくる。

その時、滑りこんでくる銃に違和感を感じとり、実際に銃を手に取ってすぐに悟った――――。

今もヒーローは着々と死ぬ間際の男へと歩み寄っていく。

「殺すなッ!!」

俺はヒーローへと声をかける。

男の銃はエアガンだった、彼は初めから人を殺す気なんてなかったという証明だ。

老婆の件は事故であって、決して男が家族を残して死ぬ理由にはならない。

「もう、コイツに帰る場所なんてねーんだ」

――――そんな彼に訪れた災いこそが、異常者という名のヒーローだった。

彼は無慈悲にも、男の命を自身の手で終わらせた。

事が終わると、青年は何事もなかったように銀行を後にする。

俺はそんな異常者の跡を追っていった。

 

「――――あんた、志衛団だな」

俺は去っていった青年へと声をかける。

――――志衛団。

近年、若い世代に増えている字の如く志衛団だ。

彼らは同じ思考を持ったグループを形成し、ヒーローと言わんばかりに社会に反する悪の警戒・対処を行っている。

そんな志衛団の行動は社会的には善行的であると容認されてはいるものの、一方ではアンチと呼ばれる志衛団の活動を否定する存在も少なからず居るのが現状なのだ。

「だったらなんなんだよ」

青年は俺の声に振り返る。

「お前らは、そうやって自分勝手に暴れて何事もなかったように毎回帰っていくのか?」

青年は自身が掲げている異常な正義感によってあの場で二人の犠牲者が出てしまった事をわかっていない。

あの場で立ち続けず、男に従って誰しもが取る行動をしてくれていれば、こんな悲惨な出来事は起きなかった。

今、青年は自分があの場のヒーローだとでも思っているのだろうか。

「――――あの場で、何も出来なかった他人にそんな説教はされたくない。」

青年はそう今俺が最も言われたくなかった事を口にして、今頃駆けつけてきた警官の元へと向かっていく。

「優君、今回も対処してくれて助かった。

次も宜しく頼むよ。」

警官は優と呼ばれる青年へとそう伝え、悲惨な光景が広がる銀行へと足を運ぶ。

優は警官へと一礼し、本当にこの場を後にする。

 

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