狭間 駆は巻き込まれたい   作:もみじん

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7話:心意(what)

「ちょっと出かけてくね、ちゃんと今日は帰ってくるから。」

「はーい、いってらっしゃい。」

翌日、昨日の夜行きそびれたカウンセルに行くべく、朝一で家を出た。

柏木が居るかどうかはわからないが、早苗さんが居れば一応伝言はできる。

「どうも――――、早苗さん。」

カウンセルへと辿り着く。

「駆君か、昨日はどうした?」

案の定昨日の約束をすっぽかしたことを問い詰められる。

本当のことを言うべきかもしれないがそれだと妹のせいのようになってしまうのでその事は伏せることにした。

「家に帰って寝たら寝過ごしてしまって――――。」

「――――そうか、柏木にあったら謝るといい。

昨日はいろいろ準備もしていたからな――――。」

「準備――――?」

彼の謝るのは当然として、準備と言われてよくピント来ない。

「あぁ、昨日は――――。」

「言わなくていいよ、早苗さん。」

すると二階から柏木が降りてくる。

「柏木、昨日は――――。」

「それもいい――――、何やってたかはわかってるからよ。」

「え?」

柏木に謝ろうとすると、なにやら分かった雰囲気でそう謝罪を拒む。

「実はな、昨日駆が起きる前におまえの顔写真がそこら中に張られてるって噂になっててな。

いたずらかもと思ってそいつのところに行ったらよ、お前の妹なんていうから何も言わずに戻ってきたんだ。」

なんだよ、こいつそのこと知ってたのかよ。

それなら俺が出る前にでも教えてほしかったんだが。

「まぁ言わなかったのは悪かった、でもこういうのはお前が自分で見つけるべきなのかなって思ってな。

余計なお世話だったか?」

一応俺に教えなかったのは訳があったらしい。

余計なお世話といえばそうなのかもしれない――――。

ただ、まぁ甘んじてお礼はしておこう。

「――――いや、むしろありがとう。

おかげで仲直りできた――――。」

「そうか、それは良かった良かった。

そんで今時間あるか? あるなら昨日できなかった説明をさせてくれよ」

「大丈夫、夜七時までならいつまで付き合える。」

「ん? 七時までってそのあと何かあるのか?」

まぁ、不思議に思うよな。

当たり前だ、本来、俺達は人生の夏休み中であるアイアム大学生だ。

そんな人生を謳歌している最中だというのに、門限という規則に縛られている。

実に目をそむけたくなる事実だ、しかしこうなったのも俺が酔って家に帰れなくならないようにといった意見があってのことだ。

――――そんな風に心配されたら、その規則を呑まないわけにも行かないだろう。

「まぁ、色々事情がね」

柏木は、そっかとだけ言って深くは聞いてこない。

「まぁ、遅くはならないと思うから門限を破ることにはならねーよ」

柏木はそう言うと、開いているテーブル席へと移動する。

彼に促され、俺もテーブル席に向かい合って座る。

それと同時に早苗さんがカップ二つにコーヒーを入れて出してくれた。

そういえば、昨日出されたコーヒーの分払ってなかった気がするな、まぁそれはこの分の会計で済ませることにするか。

「それじゃあ、まず――――、何から聞きたい?」

「そうだな、それじゃああのビルでお前が使ってた緑色のオーラの説明が欲しいな。

正直一番気になってるのがそれだ、魔法なんて存在したのか?」

早苗さんの顔に動揺がないのをみると、緑色のオーラについては周知の事実ということがわかる。

別に聞くのがタブーというわけでもないらしいし、自分があんな魔法使えるなら使ってみたい。

すると柏木はまずそれだよな、と頷いてから説明を始める。

「――――結論、あれは魔法じゃない、と思う。

昔の人達があの力を魔法と呼んでいたなら魔法だと思うが、これは多分そういったものじゃないと思う。

俺たちはあの力を"心意"と呼んでいる。

"心意"っていうのは人の持つ信条、感情、信念が具現化されたエネルギーらしくてな、誰でも持ってると思う、もちろんお前もな。」

柏木の説明には所々憶測のような言い方がある。

まるで、誰かから自分も聞いたような――――。

というかそんな事より心意の話だ。

そんなエネルギーなんていう概念がこの世に存在していたことが驚きだ。

そして彼は俺にもそのエネルギーがあるという。

「俺もアレ使えるのか? 緑色のやつ。」

「いや、お前の心意がどういったものかはまだわからない。

いっただろ? 心意は扱うその人の信条や感情に左右される、人によって志す信念があるように心意にも人が持つ信念が宿るんだ。」

「それじゃあ、柏木のあの緑色のやつはなんの心意が宿ってるんだ?」

彼の話が本当にそうだとすれば、彼のその緑色のオーラには柏木優という人間の信念が反映されているということになる。

それは本来誰も見ることのできない場所だ、それは柏木本人も同様かもしれない。

ただ具現化されエネルギーまでなり得る信条が一体どれほどのものなのか知りたい、そしてそれは俺が柏木優という人間を知る切っ掛けになる。

「俺の心意は、多分"更生"だろうな。

――――すまん、俺も正直自分でも核心を持てないんだ。

ただ、俺が志衛団を始めよう誓った瞬間、俺はこの世界を本気で更生しようと意思が固まったんだ。

だから今の俺が動く原動力、志衛団として活動するための原動力は"更生"という信念なんだと思う。」

更生というと、こいつは今の何かを元の何かに戻したということなんだろうか。

「更生――――か、なぜ更生しようと思ったんだ?」

少し意地悪と思いつつも聞かなければならないと思い、そう問い詰める。

すると柏木は戸惑うこともなくさらっと説明してくれる。

「当時付き合っていた女の子が居たんだ、その子はある日無残にもこの世界でさらし者にされながらこの世を去った。

――――自殺したんだ、クリスマスの夜に。

クリスマスの夜に自殺なんてだけで、亡くなった後も彼女を不謹慎だとか異常者だとかと罵るメディアの声は一向に止まなかった。

そんなのおかしいだろう、誰も亡くなった彼女の思いも信念も聞き取ろうとしない。

その理由はこの腐った社会に適用しようと進化してきた人間なんだ、多分それが何世代も前だったならああはならなかった。

時代が進むにつれ厳しくなっていく法、段々と躍進していくインターネットそれらすべてがこの時代の汚点だ。

俺は、その汚点を一つ残さず取り除いて、元の世界に更生する。

これが俺の信念だ――――」

彼は自身の信念を語る。

まるでその信念が正しいのだと言うように。

「――――そう、なのか」

彼が掲げている信念がわかった。

その為に今までの行動があったということも。

ただ、それでもわからないことがある。

――――銀行でのあの一件、あれだけはどうしてもわからない。

あの場で出た犠牲が彼の信念を貫くうえで必要な犠牲であったのかも。

「――――その為の犠牲は」

だから、俺は聞かなければならない。

彼の信念を貫いた先に犠牲になる法、インターネット、それらを彼はどう思うのかを。

「――――犠牲はすべて俺があの世に持っていく」

異常者(ヒーロー)はそんな事を呟いた。

「死んで――――、死んで解決なんて絶対にさせないぞ」

そう、そんなことは許さない。

いいや、許されないんだ。

「俺が死んでも問題なんてないだろ」

違う、そんなことを言ってるんじゃない。

「勘違いするな、別にお前がどう死のうが関係ないんだよ。

俺が言いたいのはな、お前が望む世界なのにそこにお前が居なくてどうするんだよってことだよ。

更生した先にある世界になってほしいと思って、"これ"をやってるんだろ?

――――もし、仮にお前のその信念が自分以外から受け継いだものだっていうんならそんなのは信念じゃない。

そんなのはな、ただのお前の自己満足に過ぎないんだよ」

他人に任されたものに責任、という重りは付きまとわない。

そして、自分自身がその責任を負う必要はない。

仮にそれが義務だとするのなら、そんな世界は滅んでしまえ。

「――――お前の信念はどっちだ?

自分以外から受け取った信念を他者に振りまく異常者(ヒーロー)か、自分の信じた信念を貫くヒーロー(異常者)か」

「俺は――――」

その先に言葉が続くことは無かった。

 

時刻は十五時。

「――――今日はもう帰るよ」

一通り柏木からも話が聞けたので、区切りがいいと思い席を立つ。

伝票がテーブルに置かれてなかったので早苗さんに直接コーヒー代を確認する。

「お代は結構だ、その代わりなんだが君ここでバイトしてくれないか?

実今日の今日まで私一人で切り盛りしていたんだが、近頃私の外出が多くなるかもしれなくてな。

店番が欲しいんだ――――。」

会計しようと財布をポケットから取り出そうとすると、早苗さんからそんな提案をされる。

正直お金などは両親の仕送りがあるのであまり困っていないのだが、いつまでもそれに頼るわけにもいかない。

それに、妹と合わせて携帯電話の契約も検討中だ。

お金がたまって困ることはないだろう、俺はその誘いを受けることにする。

「はい、いいですよ。だた平日は大学もあるんで時間は要調整ですけど。」

「それは構わないよ、だったら早速明日大学が終わったら店に来てくれ。」

明日は午前中の一講義だけで大学は終わる。

「わかりました、昼過ぎ頃にまた来ますね。」

頼むよ、と手を上げて早苗さんはカウンターの裏へと消えていく。

「じゃあな――――。」

「おう、またな。」

俺は今もテーブル席に着く柏木と一言交わし、店を後にする。

途中、寄り道したので自宅に戻ったのは十七時頃だった。

「おかえりー。」

自宅の居間では香澄が寝転がりながらくつろいでいた。

「ただいま――――、これお土産ね。」

「お土産って、どこ行って――――って。」

俺は新しいスマートフォンを片手にもう片方の手に持った紙袋を妹に渡した。

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