狭間 駆は巻き込まれたい   作:もみじん

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8話:それぞれの信念

 

 

翌日、大学が終わってカウンセルに訪れる。

中へ入ると早苗さんが出迎えてくれ、お客さんもちらほら居る。

「早いな、柏木はまだ来てないぞ。」

「アイツとは学科が違うんで、終わる時間も違いますよ。」

「そうか――――、それじゃあ早速だが皿洗いを頼む。」

と、早苗さんは台所に積まれた食器を指を指す。

「了解です。」

俺は荷物を置いて用意されている制服に着替えて食器洗いを始める。

家でもやっている事なので難しいことではない。

一通り食器を洗い終わって早苗さんに報告する。

「次はトイレ掃除を頼む。」

これも家でやっていることだ。

対して難しいことじゃあない。

トイレの掃除も終わって再び早苗さんに報告する。

「次は床磨き――――。」

床磨きが終わって早苗さんに報告する。

「次は――――。」

そうやって次々と言われたことをこなしていくといつの間にか時刻は十八時になっていた。

「やるな、駆君。

ただ雑だな、仕事は早いがどこかしらに中途半端さが目に見える。」

「うぅ――――、すいません。

気を付けます・・・・・・。」

仕事の雑さに少し注意を受け、唸りながらも謝る。

「よう、頑張ってるか。」

すると柏木が入り口のドアを開く。

どうやら柏木は連れがいるらしく後ろからも数名続けて入ってくる。

「あの人?」

彼の後ろに着く短い金髪の女性が俺を指さしてそういう。

「あぁ、アイツ。」

柏木はその金髪の女性を肯定する。

「どうも、私は御上皐月(おかみ さつき)、気軽に御上って読んでね。

実家は古くから続いている旅館なんだ――――!!」

実家が旅館で苗字がおかみか、凄く覚えやすい。

金髪なのが唯一女将らしくないような気もするがまぁどうでもいいだろう。

すると御上さんの後ろからまるで中学生のようにシャイな男性が現れる。

「桜井悠馬(さくらい ゆうま)ですッ! 宜しくお願いしまっすッ!!」

何処か人懐っこそうな恐らく年下の桜井は元気いっぱいに挨拶してくる。

「どうも、二人とも。

俺は狭間駆です、えーと特に特徴とかはないけど妹がいます。」

最低レベルの自己紹介を終えると、御上さんは、じゃあかけるんだね――――とか、桜井は狭間さんッ!! とか勝手に言い出して凄いフレンドリーな奴らだと思った。

「二人ともうちの志衛団メンバーだ、悪い奴らじゃないから仲良くしてくれ。」

柏木はそういうと彼らを連れて開いているテーブルに着くとコーヒー一杯とオーダーが入る。

俺はコーヒーをまだ入れたことがないので、早苗さんに声を掛けにカウンターを後に厨房へと向かう。

「早苗さん、柏木たちがコーヒーって。」

「――――ん? 君が淹れてくれないか、私は今立て込んでいてな。

豆は入ってるからスイッチ押してポンだ、簡単だよ」

すると早苗さんは簡単だかと付け足して俺をカウンターへと追いやる。

簡単だからと言っても初めてなのには変わらない。

今日昼間早苗さんが淹れるコーヒーを見よう見まねで何とかするか――――。

「はいどうぞ――――。」

苦悩すること数分、俺は何とか三人分のコーヒーを入れることができた。

御上さんはここのコーヒーおいしいんだよねと期待を膨らませながらもコーヒーカップを口に運ぶ。

俺はドギマギしながらもその口から出る感想を待つ。

「あぁ――――、やっぱりおいしいね。」

「はい、そうっすねッ!!」

御上さんと桜井のその感想を聞いて、心から安堵する。

なんとかうまくいったみたいだ。

「いや、なんか味薄いぞ。」

と、柏木が口にすると俺はなるほどな、と納得し御上さんと桜井のお世辞に感謝した。

時刻はいつの間にか十九時になっており、門限の二十時まで残り一時間だ。

俺は携帯を取り出して、今から帰ると香澄に連絡しようとする。

すると――――。

御上さんが持っていたコーヒーカップが床に崩れ落ちる。

そんなに無理していたのかと俺はそのコーヒーカップを拾おうと近づくと柏木が声を上げる。

「駆ッ!! 携帯はしまってくれ。」

柏木の異様な忠告に俺は違和感を感じつつもその指示に従う。

「――――駆、ちょっとこっち。」

柏木は手招きして俺を外に連れていく。

「どうした――――?」

俺は状況がよくわからず、そう彼に聞く。

「携帯、悪いけど御上の前では出さないでほしいんだ。

昔いろいろあってな、このお店電子機器が少ないのは気が付いたか?」

確かに、言われてみればそういった機械的なものはこの店に存在していない気がする。

そもそも今時ではない少しレトロっぽい雰囲気が今の時代に反している異質な空間ともいえる。

「――――わかった、ごめん。

御上さんの前では今後携帯は出さないよ。」

「ありがとう。」

「――――理由聞いても良いか。」

深入りするのはあまり褒められたことではないのはわかっているが、俺は知るべきだと思った。

「――――御上の実家は旅館ってのは聞いただろ、実は結構歴史のある旅館でな。

家でも規律が厳しくて携帯電話なんて持たなかったそうだ、今こんな時代だし小学生でも持たされている家庭はある。

もちろん御上の学校のクラスメイトも皆携帯電話を持っていたらしい。

そんなんで御上だけ携帯電話を持っていなかったもんだから、周りの連中は馬鹿にして虐められてたんだってよ。

でも御上は優しいから携帯電話を持たせなかった親を恨まなかった、携帯電話なんていうちっぽけな機械を恨んだんだ。」

「そうなのか――――。」

俺は特に私情は挟まずに頷くことしかできない。

人にはそれぞれ過去がある。

それは俺も同様だ。

そして過去というものが今を作っていると俺は思っていた。

ただ、彼のその話を聞いて過去という出来事は今を壊しているわけでもあるんだとも思った。

彼らが掲げる信念である"更生"。

その対象は世界全てなんていう抽象的なものではなく、人間個人を取り巻くすべての内情を含んだものなんだ。

彼女のそんな過去をしってそれを俺は否定できるんだろうか。

俺はできないだろう。

何故なら、それを否定するものは恐らく異常者となるからだ――――。

カウンセル内に戻ると、御上さんが立ち上がって謝ってくる。

大丈夫ですよ、と伝えて俺は早苗さんが居る裏へと向かった。

そしてそろそろ上がりたいと早苗さんに伝えて、俺は制服から私服に着替る。

「それじゃあ。」

「おう、またな――――。」

俺は彼等に声を掛けるとまたねー、など御上さんの声も返ってきて少しうれしかった。

今度香澄も連れてこようと意気込んで、カウンセルを後にした。

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