「どうも――――」
「ん、今日は随分と早いな、昨日は無茶をしたようだが仕事に支障はない・・・・・・か」
翌日、俺は大学を休んで朝一でカウンセルのドアを叩いた。
そう、――――妹を連れて。
案の定、早苗さんは俺の背後からひょっこりと顔を出す妹を見て唖然としている。
「駆君、その子は――――」
「妹の香澄です」
すっと真横にずれて早苗さんにお披露目するような形で妹を紹介する。
すると前の道が開かれた香澄はスタスタと前に出て、ヒーローの名を上げる。
「柏木優って人はどこですか?」
何故、妹から彼の名前が出るのかというと実は昨日自宅に戻った後に負った手の傷が妹にバレてしまい、泣く泣く傷の経緯を話すことになった。
そして悲しいかな、残念ながら昨日の出来事において、彼の存在を伏せておくことはできない。
よって俺は仕方なく隠していたバイト先も含めて、隠していたヒーローの存在を明かしてしまったのだ。
「あれ? 確かあの子って、駆の妹――――」
なんとバットタイミング、妹の呼びかけに答えるかのように柏木は二階から降りてくる。
その姿を見た妹はまるで笛と同時に駆けだすスプリンターの如く床を蹴った。
「なんだ!?」
その姿を見かねた柏木は咄嗟に防御姿勢に入る。
対象の前までたどり着いた妹は平手打ち――――、なんて可愛げのあるものではなく拳を丸めた一突きを柏木へと放った。
だがその拳は大人げなく本気で避けた柏木の真横を通過した。
「この、このッ!!」
「まてまて、何事!?」
一度避けられても怯むことのない妹はまるで駄々を捏ねる子供みたいで、それを軽々と避ける彼は今もこの状況が理解できていないようだ。
「柏木、悪いが一発受けてくれ――――」
俺が柏木に諦めるように伝えると、はいはいと言ってその場に立ち止まりやってくる拳を顔面で受け入れた。
「――――で、なんで俺は殴られた??」
妹の制裁は終わり、俺はテーブル席に腰を下ろしてコーヒーを嗜んでいる。
しかしどうやら制裁を受けた彼は納得がいっていないらしく、妹に問いただす。
「駆に危険な真似はさせないでください。これは警告です。
今後は駆にケガなんてさせる前にあなたが何とかしてください、次もし同じようなことがあったら呪い続けますから」
さらっと怖いことを言う妹にわかりました・・・・・・、と潔く謝る彼の姿はとても見てられない。
第一、その言い方だと完全に柏木が俺の子守してるみたいじゃん。
あながち間違ってはいないが、男として護られる側というのは少し腑に落ちない。
「俺は自分の意思で行ったんだよ、昨日も言ったろ。
だから別に香澄が気にすることじゃない。」
「駆は黙ってて!!」
俺が会話に口を挟むと倍以上の声量で怒鳴り抑えられた。
そのせいでこの場はシンと静まり返る。
お客さんが居なかったのが唯一の救いだ。
落ちつくまで口を開くのはやめておこう――――。
「――――香澄ちゃん、すまなかった。
これからはこいつを危険な目には合わせないようにするよ、ただ。」
シンとしたこの空間で柏木は謝罪するが、最後付け加えるようにこう言う。
「知らないと思うが君の兄貴は勇敢で頼れる人だよ、だから――――もう――――」
何か言いたげな柏木は結局最後まで言うことはなく、カウンセルを後にした。
釈然としない雰囲気の妹はその彼の姿を見送って、コーヒーに手を付ける。
「――――はぁ、おいしい・・・・・・。」
そんな何処かで聞いたような感想をぼやいた妹は何故か嬉しそうだった。