「早苗さんッ!!」
俺は力加減を忘れ、乱暴にカウンセルのドアを開く。
「!! なんだ駆君か、どうかしたのか?」
「柏木の居場所、わかりますか」
ここ数日、柏木とは会っていない。
少し前から早苗さんと柏木らでコソコソと話していたのは気が付いていた。
だからここに来た。
絶対に早苗さんは柏木の居場所を知っていると思ったからだ。
「私は知らない――――」
正々堂々と胸を張ってそう主張する早苗さん。
しかし俺は負けない。
「教えてください、早苗さんは知っているはずです。
柏木は愚か、御上さんや悠馬とも会ってないです。それにコソコソと裏で話してたのは知ってるんですよ」
すると早苗さんは少し観念したかのように口を開く。
「ふっ、やはり君は視野が広いな。
あぁ、確かに柏木たちが今どこにいるか私は知っている。
だが悪いな、柏木たちに口止めされていてな、私の口から教えることはできない。
――――私の口からはな。」
すると突如として頭の中に膨大な記録が流れ込んでくる。
「ッ――――な、、んだ、これ。じ、事実なんですか――――」
頭の中に流れ込んできた記録には柏木の姿が映っている。
そこには御上さんや悠馬、そしてちらほらと知らないメンバーも居た。
そして俺が驚いたのは、その誰もが傷だらけであるということだ。
「一体今、何が起きてるんですか」
「――――今、カウンセルとアドバンスの戦争中だ。
K区はそれによって完全封鎖中、ネズミ一匹も入ることはできない。
分かっていても助けには行けないんだ」
「戦争中って――――」
今のご時世そんな言葉滅多にも聞かない。
先人たちの犠牲によって俺たちはその出来事を味わうことなく生きてこれた。
それなのに、彼らは自身の信念を貫くためにその手を血で汚すっていうのか。
俺は――――、彼らの力を良く知っている。
間違いなく戦争とは殺し合いだ、アイツならやる。
あの狂った異常者(ヒーロー)なら、必ず――――。
そして彼らは知っている。
一歩間違えれば命を落とす戦いであるということも。
「なんで大人のあんたが止めないんだ――――!! 何のためのスポンサーなんだよ!!」
早苗さんは何も答えない。
ただだんまりとして明日を見ている。
「早苗さん、あんたはなんであいつらの援助をするんだ」
早苗さんはやっと口を開く。
「私はね、彼らが変えようとしている世界が変化する瞬間を知りたいんだ。
この数十年、私はこの世のありとあらゆるものを探求し、解明した――――。
しかし私の探求には一片の見落としがあった、それが世界の変化だ。
戦争が終わって世界は変わってはいない、何故なら今でもこの世界は平和ではない。
戦争が時代を作ったわけではない、戦争はイベントに過ぎない。
イベントでは世界は変わらない、世界を変えるには信念が必要だ――――。
その信念を、彼らは持っている――――。」
「――――信念が世界を変えるという保証は」
「それは、この世の歪みはすべて人の掲げる信念が生み出したものだからだよ。」
「ッ――――」
「信念とは、形のないものだ。
それが故に、世界は知らぬ間に信念に侵され、変化する。
しかし、今の世界に反する信念に世界が侵された時、その変化は目に見えると思わないか。」
「そんなことの為に、あなたはあいつらに争いをさせようとしたんですか――――」
「勘違いしないでくれ、別に私が争わせようと企てたわけじゃない。
彼らが争っている理由こそ、彼らが掲げる信念が原因なんだよ――――」
俺は完全に早苗さんに言い負かされてその場で黙り込む。
「それでも、俺はやっぱり行きます――――、明日のバイトは休んでいいですよね」
居ても立っても居られなくなり俺はそう早苗さんに宣言する。
だっておかしいだろう。
この争いにヒーローは存在しない、互いが悪ともなり正義ともなる。
信念に正解はない。
だからこそ、そんなことに命を懸けるのは間違っているはずだ。
「――――好きにしろ、ただし、次来るときはアイツらも連れてこい」
「調子狂うな、早苗さんは味方なんですか」
「私が味方かかって? 私は少しだけ身内思いが強いただの探求者さ――――」
そういって、早苗さんは俺をカウンセルから見送った。