敵らしき青年の相手は矢朽に任せ、俺たちは別の出口を探していた。
「――――!! あった、出口です!!」
桜井は目線の先にある扉へと手を掛ける。
「よし、ここは開きそうです」
今度も力が必要かと腕をまくってまっていたがどうやらその必要はなさそうだ。
桜井はすっと楽に扉を開け、その奥へと進んでいく。
「着いたッ――――」
一先ず、早々敵に囲まれて――――、なんてことが起きなかったことに安堵する。
スマートフォンの位置情報もここがK区の隣の地区、S区であることを示している。
「よし、一先ず、病院に御上さんを連れて行きましょう」
「あぁ、そうしよう」
俺たちは真夜中の小道を小走りで駆けていく。
ふと――――、そんな中鈍い音がした。
パンッ
足音が減った気がする。
まぁ、気にすることじゃないか。
さっきから御上さんの呼吸が荒い気がする、急がないと。
パンッ
また足音が減った気がする。
いや、明らかに――――。
「おい――――、人数減ってないか」
駆けるのを止め、後ろを振り向く。
やっぱりだ、人数が減っている気がする。
この場で顔を覚えているのは御上さんと桜井だけだが、数が減ったことは理解できる。
「――――確かに、宮崎さん、森本が――――」
そう先ほどまで一緒に共にしたメンバーの顔を桜井が思い浮かべていると――――。
パンッ
まただ、また鈍い音が――――。
その音が鳴ったコンマ数秒後の出来事だった。
目の前に居た一人の頭が音もなく射貫かれたのは――――。
「――――!! サイレンサーッ!! 狙撃されてるぞッ!!」
俺の叫びに全員が状況を理解し、この場を瞬時に走り出す。
パンッ
パンッ
二発、獲物に気が付かれたことをいいことに投げやりにでもなったのか。
一発目、俺の目の前を走っていた男の頭を貫いた。
二発目、運悪く桜井の足に命中、その場に倒れこむ。
「グフッ――――!!」
「桜井ッ――――」
パンッ
そして、動けなくなった獲物を狙うかのように再び鈍い音が鳴る。
三発目、身動きが取れない桜井の頭を貫いた。
「――――」
落ち着け落ち着け、込み上げてくるな。
今"来たら"――――、俺も死ぬぞ――――。
「おおおおおおおお――――ッ!!」
桜井を見捨て、狙撃から身を身を守るべく物陰に隠れる。
誰だ、誰だ。
やっぱり待ち伏せされてたってのかよ。
死んだ――――、死んだ――――。
殴殺でもなければ、焼殺でもない。
射殺だ、射殺ッ!!
狙撃手がどこにいるかもわからない。
これからどうすればいい――――、これじゃあ病院に辿り着く前に死んじまうよ。
俺に、この謎の包囲網は抜けられない――――。
他のみんなは――――、うまく姿を隠せたのか。
「ンンンンン――――ッ!!」
声を押し殺されてるような悲鳴が近くから聞こえる。
しかしその悲鳴は、ジャキンと音がなると断末魔と共に消えていく。
――――殺されてるッ。
見えない恐怖に足が一歩も動かない。
「この辺に居るよね――――、どこかな――――?」
殺人鬼がスタスタと俺の近くへやってくる。
声出すなッ、聞こえないとわかっててもドクドクと音を鳴らす心臓が殺人鬼に聞こえないか不安になる。
「みーつけた、バアァッ!!」
黒い外套に覆われた殺人鬼が顔を覗かせてくる。
「――――ッ!!」
反射的に声を出しかけた、いや、恐怖が一周して声を出せなかったんだ。
この場から逃げるように御上さんを抱えたまま走り去る。
「えぇ――――、追いかけっこは好きじゃないんだけどな」
しかし俺は忘れていた。
何故物陰に隠れていたのかを――――。
パンッ
開けた場所に出た瞬間、死の音が鳴る。
その音と同タイミング、急に俺の足に力が入らなくなった。
四発目、俺の足に命中。
態勢を崩し、抱えていた御上さんを投げ捨てるような形で手放してしまう。
グサッ
その直後、とどめと言わんばかりに地面に横たわった御上さんの身体は鋭い刀によって心臓部を貫かれる。
「はい、二人目、そんであんたで三人目――――」
振り下ろされた刀を前に俺は死を待つことしかできない。
死ぬ――――、最後、妹に――――。
「まだあきらめんじゃねえぞ――――」
まるで自分自身を鼓舞するようにも聞こえるその声は、この場に一つのそよ風をもたらした。
緑色のオーラが、俺へと振り下ろされる刀を弾き返す。
「よかった、お前だけでも生きていてくれて」
「柏木優――――ッ!? なぜここにい――――」
殺人鬼はすべてを言い切る前に、目の前の柏木によってノックアウトされる。
一撃で気絶した殺人鬼、柏木はそれに絶え間なく拳による打撃を撃ち込んでいく。
一度、見たことがある光景。
銀行で目の前のこいつが無残にも男を殴殺した一件。
その姿が、重ねる。
これを、俺はコイツから取り上げたかったんじゃないのかよ。
だからここに来たんじゃないのかよ。
それなのに、それなのに、思ってしまった。
これで助かった――――、と。
パンッ
再び鈍い音が鳴る。
今度は柏木を狙ってのものだったのか、彼は自身の周囲に緑色のオーラを張り巡らせそれを防ぐ。
「狙撃手か――――、お返しだ」
そういうと狙撃手が撃ってきた方向と思われる方角へ、人差し指を掲げ、オーラを放つ。
バタッと遠くで人が倒れる音がする。
「無事か――――、駆」
そういって、ヒーロー(異常者)は俺に手を寄こす。
無言でその手を取り、立ち上がる。
「矢朽は見てないがどうなった――――」
矢朽は――――か、ということはその他はもう自分で見たんだな。
「矢朽とは下水道で分かれた――――、その後は俺もわからない」
「そうか――――、それじゃあ行くぞ――――」
「行くぞって、どこへだよ」
こんなこと言っちゃだめだ。
「他のやつらのところだよ――――、助けに行かないと」
わかってる、お前がそういう奴だっていうことぐらいわかってんだ。
だからこんな事を考えるのはやめろ。
ヒーロー(異常者)の士気を下げようとするのはやめろ。
「助けって、わかってるだろ、もう他のみんなも今頃――――」
「自分の命でもないのに、お前が勝手に諦めんなよッ!!
足掻いて足掻いて足掻き続けて、御上も桜井も死んだ。
こいつらはあきらめて死んだのか――――!? そんなわけないだろッ、必死に足掻いたからさっきまでここに居たんじゃないか。
だから俺は、全員が諦めるまで助けるのを止めない――――、帰りたかったら勝手にしろ。
カウンセルに戻れば早苗さんが保護してくれるだろう、ここでどうなったのかも伝えなくていい――――、俺が伝えるから」
そう言って、ヒーロー(異常者)はこの場を去っていく。
そして俺はその背中を追うことはしなかった。
俺は恐怖した、怯えたんだ。
つまり、俺は異常者ではない、だからあの背中についていく資格はない。
俺は――――カウンセルへと向かう為、引きづりながらも足を進めた。