「あいつ、どこで何やってんだよ。」
俺は公園のベンチに腰を下ろし、自販機で購入した缶ジュースを片手に呆けていた。
大学を出た後、柏木の動向を探ろうと街中を探し回ったが結局一目も見ることはできなかった。
時刻は十八時を指している。
辺りはすっかり暗くなっており、夜の街灯が街を照らしてゆく時刻だ。
「そろそろ帰るか。」
家は門限があって、八時までに家に帰らなければ香澄に怒鳴られてしまう。
今朝のケンカの後で再び怒鳴られてはこの先が思いやられる。
ベンチから腰を上げ、飲み干した缶ジュースを缶用のごみ箱に入れてから公園を後にする。
公園から自宅までへの帰り道。
数本先の道路の辺りが夜だというのに何故か明るい。
興味本位でその明かりに近づいてみる。
「嘘だろ――――。」
その明かりは目の前で燃えるビルの火の手だった。
『火事だ――――!! 逃げろ、周りも巻き込まれるぞ!!』
そんな男性の声と共に周りの人間がごちゃごちゃと動き回る。
何をすれば――――。
消防隊は呼んでいるのか? この規模ならきっと誰かが――――。
他にはなにかすることはないか。
『ビルの中に人はいないか――――。』
ふと、周囲の誰かがそんなことをつぶやいた。
居たらどうなる。
そんな可能性が余計にも脳裏を刻む。
無駄だ、もう遅い。
この勢いならもう例え、中で生きていても――――。
『隼人坊ちゃんは!? 居ねーのか!?」
すると突然、ガラの悪い男たちがそう言って周囲を見渡しだす。
『居ねーっすよッ、兄貴!! まだ中に居たら――――。』
『そんな事考えんじゃねーよッ!! 居る可能性があるなら行くしかねーんだ!!』
『兄貴!! それは自殺行為っすよッ!? 兄貴まで死なれたらおでッ――――。』
そうだ、誰かがやってくれる。
俺が代償を負う必要なんてないんだ。
ガラの悪い男たちの会話を聞きながら、そうやって自分自身を説得していく。
帰ろう。
ここに居るだけ――――、無駄だ――――。
燃えるビルを背に構え、その場から俺は去っていこうとする。
「――――」
風を切る音。
誰かとすれ違う。
"ソレ"は今俺が背中を向けたアレへと向かっていく。
何故ッ、お前がッ!! そこに居るッ!!
燃えるビルへと自ら足を傾ける異常者(ヒーロー)がそこに居た。
「柏木――――!!」
異常者(ヒーロー)の名を呟く。
まず前提として、この燃えるビルの中に逃げ遅れた人が居るという保証はない。
なのに、なんでそこに向かっていくんだよ。
そこにお前の求めるものは何もないぞ。
そこに悪は居ないんだ。
犬死になるだけだ。
なのに、なのになんでお前は駆けるのを止めない?
まるでそこへ飛び込むのが正解だと言わんばかりの彼の背中。
その背中に迷いはない。
「なんで――――。」
――――彼は、異常者のハズだ、ヒーローではない。
それなのに、なんで、なんで!!
知りたい。
なんであいつが、ヒーロー(異常者)が悪が居るはずもない燃えるビルへと足を運ぶのかを。
知りたい。
なんで俺は今、異常者がヒーローに見えてしまっているのかを。
知りたい。
なんで俺は、今異常者であるアイツをカッコいいと思ったのか――――。
気が付いた時には、燃え盛るビル内へと駆けるあの背中を追っていた。
理由は今はわからない。
ただ、あの場で"俺も"と思ってしまったのかもしれない。
その時、俺は"再び"異常者になっていた。