火の中に飛び込むのは生れて初めての経験だ。
そして、恐らく今後一生味合わないだろう。
呼吸をするたびに喉が焼かれそうだ。
痛い、という感覚が訪れる前に反射的に呼吸を止めてしまう。
――――苦しい。
火災という天災を軽視していた。
――――死ぬかもしれない。
ここは人間が生きていける環境ではない。
もって後五分。
そのタイムリミットはあくまで俺自身の生命活動に終わりが来る時だ。
今の俺の身体が動かせなくなるのは恐らくその内の二分程度だろう。
この瞬間から二分以内にビル内に居るであろう人を助け出す。
無理かもしれないなんてことは言わない。
それは出来なかったときに言えばいい。
動かなくなる前に足を動かせ!
このビルの構造上、一階に部屋は無い様で目標は"一階以外"へとすぐさま切り替える。
入り口の案内板にはこのビルが22階層であることが記されている。
紅いビルのエントランスを一気に駆け抜け、視界に捕らえた上の階へと続く非常階段へと足を運ぶ。
「なんだッ!?」
すると突如、上階から爆発音が鳴り響く。
自分の限界以前にこの建物の限界が近いか――――。
そう察して、再び身体に力を込める。
動けなくなる前に――――、早く、早く。
二階へとたどり着くと、見渡す限りの部屋のドアは開かれていた。
あいつの仕業か――――? と心の中で思いながら三階へと向かうことにする。
このビルの中に逃げ遅れた人が居るかわからない――――。
その認識は、柏木も同じのハズだ。
二階の部屋が全て開かれていることがその認識を決定づける。
柏木はビル内に居る"特定の誰か"ではなく、ビル内の全員を助けようとしているんだ。
だから二階から一部屋一部屋をしらみつぶしに見て回っている。
なんていう信念だ――――、何がアイツをそうさせるッ!!
三階へとたどり着く。
この階も既に各部屋のドアが開かれている。次だ。
段々と頭がボンヤリとしてくる。
風邪でも引いたか? 頼むからこの場だけでも持ちこたえてくれ、俺の身体。
恐らく四階へ辿り着いた。
この階も既に各部屋のドアが開かれているようだ。
次の階に辿り着いた。
この階にはまだ開かれていないドアがあった。
恐らくこの階に奴がいる。
それなら先回りして、次の階に進もう。
奴と協力なんてのは勘弁だが、今はそれよりも人命が優先だ。
銀行での一件で奴の人並み以上の身体能力は理解している。
この場で俺は足手まといだ。
だけど、アイツの手助けならできるはずだ――――。
俺はこの場ではそう長くは生きられない、そして最上階へも辿り着けないだろう。
それなら――――、アイツが全階見回れるように手を尽くすのが今のベストに違いない。
少しでも先に――――、少しでも上に――――。
熱に浴びられながら、朦朧とする意識を頼りに次の階へと再び足を運ぶ。
一段、二段、三段・・・・・・、よし次の階だ。
目の前に部屋がある。
ドアノブに手を掛けた。
ジュ―と肉が焼けるような音が聞こえる。
・・・・・・熱い、熱だな。
ガチャガチャ
開かない。
それはそうか、普通部屋のドアなんてカギ閉めるよな。
――――それじゃあなんであいつはドアを開けていた?
そんな疑問が浮かび上がりながら既に回らない頭が限界を迎えた――――。
意識が落ちていく。
こういった場合、視界は暗くなるもんだと思っていたけど生憎と視界は真っ赤だった。
「ガッツあんじゃん。弱虫。」