プラント、それは地球より離れた宇宙空間に建造された、砂時計型の人工の大地──スペースコロニーの事だ。
また同時に、遺伝子改良を施した人類、コーディネーターが統治する国家である事も意味している。俺もコーディネーターの一人であり、プラントが故郷でもある。
今でこそプラントを離れオーブで准将の任に就いているが、とある事情もありしばらくの休みを取って里帰りをしていた。かつて地球とプラントは敵対していたが停戦条約によって落ち着き出して、今では割と行き来が可能になっていた。
そしてここに来た、一番の理由は。
プラントのとあるライブ会場にて。俺はステージ横の控えに隠れて、『彼女』の晴れ舞台を見守っていた。
「──プラントの皆さん! 今日はあたしのライブを観に来てくれて、嬉しいです!」
舞台に立っている喜びで、ステージ上で晴れ渡った笑顔で応えるのは、ラクス・クラインに次ぐもう一人の歌姫──ミーア・キャンベル。
それから改めて感謝を伝えるようにして、続けた。
「こうして今、ラクス・クラインではなくてあたし自身……ミーア・キャンベルとして! また皆さんの前で歌う事が出来て……応援してくれて、とても幸せです」
満面の笑顔を心から彼女は見せているようで。そして改めてステージの観客を見回して、感謝を込めて……
「それでは聞いて下さい。一曲目は──」
始まったミーアのライブコンサート。普段は俺と一緒に地球で、オーブで暮らしてはいるが、それでもこうして宇宙に出てプラントに公演に来ていた。
元々彼女は、ラクス・クラインとしてプラントで活動していたし、それに故郷でもある。戦争も停戦した事で地球からプラントの行き来も自由に……とはまだ行かないが、随分と緩和されている。ただ、それでも心配ではあるから、ミーアがプラントにライブに行く時には必ず俺も同行しているが。
(幾ら停戦したとは言え、何か危険な事がないとは限らないからな。──だが、これまでそんな事が起こる事もなく、プラントでのライブも良い感じにやって来れている。
元々、ラクス・クラインとして、結果としては偽る形になっていた。ミーアがまたプラントでも活動したいと言い出した時には、正直心配でもあった。……しかし)
ステージの端から伺える、ライブに来た観客の熱狂と、それに応援。ミーアの事をみんながこうして迎えてくれている。
世界全体も平和への道を進んでいる。だからこそ今度は政治の道具としてではなく、ただ純粋に歌姫として歌う事が出来ると。
ライブで歌うミーアの晴れ渡った横顔。そんな表情も、歌って踊る姿も何もかもが輝いて見える。きっと観客にとっても彼女はそう見えているのだろう。
精一杯にミーアが歌うライブ。その輝くような、夢のような時間に俺も夢中にもなり……気がつけばあっと言う間に終わりに差し掛かっていた。
最後の曲も歌いきり、小さく一息つくミーア。肩の力を抜いてリラックスしてから、改めて観客席を右から左へ見回して。最後にステージ端にいる俺にも、ちらと視線を向け、そしてぱっと笑顔になって再び観客席の方へと。
「みなさん、最後まであたしの歌を聞いてくださって、ありがとうございます!」
みんなは歓声で応えてくれた。ミーアは嬉しそうで、そして……あることを告白した。
それは俺にとっても意外で、驚きの告白だった。
「そして皆さんはどうしても、この場をお借りして報告したいことがあります。
実はあたしには、大切な人が──」
────
ライブも無事終わり、俺は私服に着替えたミーアと二人でプラントの街を歩いていた。
一応俺はサングラスで目元を隠すなど、正体を隠すくらいの変装をしてはいるが、ミーアの方は本当に私服で……途中彼女に気づいた人が何度もこっちを見ても来ていた。
「──ふふふっ!」
二人で街中を歩けて上機嫌な彼女は、人目を気にもせずに腕を絡ませて、傍にくっついて歩いている。そんな状況に俺は戸惑いながら、こう話してみる。
「しかし本当に良かったのか? ミーアがライブの最後に、あんな事を言うなんて驚きだ」
「あら。カミングアウトはあたしの好きな時でいいって、そう言ったのはアスランでしょう?」
「それは、そうだが」
言われると確かに。俺は以前そんな話をした事もあった。
「だが、実際あれを聞かされたらビックリもする。
──俺とミーアが交際していると、大勢の前で告白するだなんて」
戦争の後、俺はミーアと付き合い出していた。……しかし、彼女がまた歌姫として活動するなら邪魔になったらいけないと、活動が軌道に乗るくらいまでは、しばらくの間は交際している事を秘密にする事にしていたわけだ。
「アスランを驚かせたかもしれませんけど、ずっと秘密にするつもりはなかったですもの。そろそろ潮時と思いましたから。そライブに来てくれた皆さんも、歓迎して受け入れてくれたみたいでしたし」
「たしかに。正直心配もあったが、みんなも受け入れてくれたのは俺も良かった。ただ、これから騒がれるかもしれないし、色々……大変になるかもしれないが」
「大丈夫です。こうして、二人で一緒にいられるのでしたら」
そう言うミーアは愛おしそうな瞳で見上げて。それからいきなり右手を伸ばすと、ひょいと俺のかけていたサングラスを外して来た。
「──おっ、と!」
「こうして隠したりなんてしないで、堂々と恋人らしく。
そんなデートをしましょう。ねっ──アスラン!」
────
そう言うこともあり、プラントの街で俺とミーアは初めての、公の場でのデートをする事になった。
「……あっ! あそこのぬいぐるみ可愛いです。少しだけ見て行きましょう!」
ショーウィンドウに飾られたぬいぐるみにつられて、玩具店に入ったりもした。
「良いお洋服! アスランもとっても良いと思いませんか?」
それからファッションショップにも何軒か。ミーアは気に入った服を色々と試着してみせて俺に自慢げに披露したり、何着か買ったりもした。後は……少し歩きはしたが、街外れの水族館にも寄った所だ。
「水族館か。こうした所に来るのは随分と久しぶりだ」
「だってアスランとのデートですもの。デートならやっぱり、水族館が定番でしょう?」
二人で見て回る俺たち。今は水族館一番の見所である大水槽前を通りかかった所で、俺も、それにミーアも立ち止まって水槽を眺めている。
鮮やかな魚もいれば、銀色に輝いて無数に集まって群れで泳ぐ魚もいる。それにずっと巨大な、クジラのように大きな平べったい白い水玉模様の生き物……確かジンベイザメと言ったか、そんな生物も悠々と泳げるほどに水槽は大きかった。視界一杯に広がるこの景色、まるで自分自身が海の中にいるかのように思えた。
(改めて思うが、こんな光景が見られるなんてすごいものだな)
ふとそう感じていると、並んですぐ隣でミーアはニッコリとした表情で俺に話しかける。
「ねっ? やっぱり素敵な場所でしょう。水族館、アスランと来ることが出来て嬉しいです!」
とても喜んでいると言った感じの彼女、何よりだ。
「なら良かった。ミーアがそう喜んでくれると、俺も嬉しく思うから」
「うふふ、こうしていると本当に恋人みたいで……心が、ほっこりするんです」
珍しく照れたように、はにかむミーアは照れ隠しのように少しうつむいていて。そんな彼女も愛おしくて、俺はつい。
「えっ!! アスランっ!?」
つい、横から彼女の肩に腕をまわし、俺の方に寄せて抱き留めた。どきっとするミーアに、俺は微笑みかける。
「恋人みたいじゃなくて正式に恋人だろう。俺とミーアは」
せっかくの良いロケーションだ。それに結果的に初めての、ちゃんとしたデートでもある。彼氏なら彼氏らしく、ここは決めたいと思った。
俺の言った言葉にミーアは一瞬驚いて、その後で一番のにこやかな表情で応えてくれた。
「そう──でしたね! あたしはアスランの恋人ですもの!」
────
デートの時間も、あっと言うまに過ぎて行く。
随分と動いて回ったせいで気づくとお腹も減っていた。俺たちはすぐ近くにあったジャンクフード店に立ち寄って、食事を取ることにした。プラントにも、地球各地にも展開している最大手ハンバーガーチェーン店の、その一つに
俺とミーアは同じものを、ハンバーガーとMサイズのフライドポテト、それに飲み物にコーラを頼んだ。
「はむっ! ──うーんっ、美味しい! この味もたまりません!」
ハンバーガーを頬張って、味を満喫するミーア。それからフライドポテトを一つまみしてパクリと、俺の前で美味しそうにしている彼女を眺めながら、俺もコーラで喉を潤す。
「こう言うのも悪くない。ジャンクフードか、なかなかにやみつきになる味だ」
そう話しながらハンバーガーを一口。……やはり美味い。
「それこそどこにでも食べられる物で、デートに少しふさわしくないかもしれないが、こう言う味も良いな、ミーア」
「はい! ハンバーガーもポテトもあたしは大好きですから。それに……こうしていると昔を思い出します」
ミーアは少し懐かしむような感じを見せながら俺にこんな話をする。
「あたしがラクスさまの影武者になる前。ただ歌うことに憧れていた普通の女の子でしかなかった時も、お腹が空いた時にたまに食べに来ていたんです。
オーディションの帰りに寄り道して、ハンバーガーを。懐かしい味です」
「俺も長い事軍人として働いてはいたが、それでもたまに食べに来たな。懐かしいと言うよりは食い慣れた味だ。でも、これはこれで大好きだ」
「あたしもです。こう言うデートも、悪くないですよねっ!」
良い笑顔でこたえるミーア。だけど俺はあることに気づいて、彼女に顔を近づけてから……。
「くくっ。口元の、この辺りにケチャップがついてるぞ」
見るとミーアの右口元に、ハンバーガーのケチャップが少しだけ付いていた。俺に言われて彼女ははっとしたような様子で。
「えっ! 本当ですか!?」
「大丈夫だ。俺がこのまま拭き取るから」
そのままナプキンを取ると、目の前にあるミーアの口元を丁寧に拭う。本当にすぐ近くに彼女の顔が間近にある。少しドキドキしながら、俺たちは……互いに見つめ合う。
「……アスラン」
「……ミーア」
気づけばいつの間に二人の世界に入ってしまっていた。好きな相手であるミーアだけを見つめて、段々と顔の距離を近づけてゆく。
(丁度来ている客も少なくて、俺たちに注目している人もいそうにない。せっかくだ、このままミーアと)
「だめ……です。だって、ハンバーガーやポテト、食べたばかりですよ」
「気になんてしない。それよりも、ミーアに想いを少しでも伝えたい。
今なら人も少ない、だから──」
距離はもう一センチあるかないかだ。あと少しで……そうしていた時に。
「よぉアスラン! こんな所で会うなんて、とんだサプライズだな!」
「貴様がプラントに来ていたとはな。……ふん」
俺たちの元にやって来た私服姿の青年が二人。一人はくせ毛で褐色肌のムードメーカーな雰囲気の奴で、もう一人は銀髪でおかっぱ頭の気難しい感じの奴だ。どっちも俺と年齢は近く……それによく知っている相手だ。
「ディアッカ! それにイザークも、ここで会うだなんて」
「そりゃ地球に行ったアスランと違い、俺たちはプラントがホームだからな。今は休暇中で遊びに来ていた所だ」
「だが……なぜ俺まで付き合わねばならんのだ。ディアッカ一人で十分だろうに」
イザークの方は無理につれて来られたのか、やや不機嫌そうに顔をそむけている。ディアッカは彼に肩を回してまぁまぁと言う。
「とか何とか言って、イザークも割と楽しんでいたじゃないかよ。それにこうして昔の仲間である、アスランとも出会えたんだ。ラッキーじゃないか!」
「ははは、そうだな。俺も二人と会えて嬉しい」
俺も笑ってディアッカ達にこたえる。
「だろ? それにアスラン、可愛い彼女と一緒とは羨ましいじゃないか! ラクス……じゃなくて、えっと」
「もう忘れたのか? 以前話していただろう。彼女はミーア・キャンベル、元々はデュランダル議長が歌姫ラクス・クラインの影武者として用意した少女で、今は彼女自身が歌姫として活動するとともに、アスランの交際相手でもあるんだぞ」
「はっ! イザークに言われるまでもなく分かっているぜ! ミーアの曲は俺だって何度も聴いた事だってある。けどよ、ラクスと同じ顔だったから一瞬……驚いて分からなくなっただけだ」
そう言うとディアッカはミーアに親しげに笑いかけて挨拶を交わす。
「君とも会えて嬉しいぜ、ラク……じゃなくて、ミーア! アスランの恋人なんだってな。……どうだ? アイツは色々と面倒くさい所はあるが、上手くやれているかい?」
「はい! 少し不器用な所はありますけれど、優しくて、あたしの事を想ってくれる大切な人です!」
彼女は負けないくらいの笑顔を返して応えた。
「褒めてくれるのは嬉しいが、イザークやディアッカの前でそう言われると、結構照れるな」
つい俺も恥ずかしくなる中、イザークは腕を組んでフッとした表情を浮かべる。
「随分な惚気ようではないか。くくっ、そんな貴様を見れただけでも儲け物だ。
──せっかく会えたんだ、良ければ色々と話も聞きたいものだ。今のアスランの様子など元同僚として気になるしな」
「俺も気になるぜ! 話してくれたって良いだろ、アスラン!」
更にはディアッカまでも。……困ったな、どうしたものか。迷いはしたが、そんな俺にミーアは口元を緩めて言ったんだ。
「アスランのお友達のお願いですもの、いいでしょう? あたし達の事を沢山知って貰いましょう!」
彼女もそう言っている。こうなっては仕方ない、か。俺は覚悟を決めた。
イザークの言葉どおり、せっかく久々に二人と会えた事だ。満足するまで話すのもまた良いだろう。
────
偶然イザーク、ディアッカと会ってから色々話し込んだ後、俺たちはまた二人で街通りを歩いていた。
「もう随分と長く楽しんじゃいましたね、アスランとのデート」
繋いでいる手から伝わるミーアの温もり。隣で一緒の歩く彼女の横顔も晴れ渡った良い表情で。かつてあれだけ大変な事に巻き込まれたにも関わらず、今は俺の傍で……こうして。それが何だか、嬉しくもあって。
「ああ。今日は素敵な時間を過ごせた。君がいたからだ、ありがとう……ミーア」
「あたしの方こそ。一緒にデートをしてくれて、嬉しかったです」
ミーアは笑顔で応えた。それから、少し空を上に眺めながら小さく口から笑い声をこぼしてから、こんな事を続ける。
「あたし達はこれで正式に恋人同士。ふふ! 今までは隠して付き合っていたけれど、これからはこうして公にデートだって。とっても開放的な気分!」
「けれどこれからが大変だぞ。……もう一度言うが、ミーアがライブで付き合いを公表してから、マスコミなどから色々と騒がれると思う。
歌の活動も思うようにいかなくなるかもしれない。それでも、本当に大丈夫なのか?」
もちろん俺自身も騒がれる事はあるが、それは構わない。それよりメディア、大衆への関わりがずっと多いミーアが、やはり気がかりだ。俺の心配に彼女は少し考えた後、頷いて答えた。
「はい! あの時に比べたら、それくらい全然です。アスランと二人で居られるのならどんな事だって……乗り越えていけますから。
そう──言ったでしょう?」
信頼のこもった彼女の眼差し。俺はその信頼に応えるように、真っ直ぐと瞳を投げかけて伝えた。
「ミーアが言うのなら、俺もその期待に応えられるように頑張らないといけないな」
話しながら歩いていると、ふいにミーアは立ち止まって正面から向き合う。気になった俺は彼女にたずねる。
「ん? どうかしたのか?」
「ちょっとだけ……伝えたい事を思い出しまして」
「伝えたい事だって? 一体、どんな──」
そう聞こうとした瞬間、彼女はぱっと俺の胸に飛び込んで来て抱きついて来た。
「!!」
積極的で、それにいきなりなミーアの行為に、ほんの少し戸惑いと驚きを覚えている俺に彼女は耳元で呟いた。
「ありがとうございます。アスランと居れて一緒になってくれた事、貴方がくれた何もかも、あたしにとって宝物なんです」
「ミーア……そんなに」
「当然です。だからこれからも、あたしの傍にいてくれたら……とっても幸せですから」
心から頼りに、求めてくれてくれていると分かる。俺もまたミーアの背中を抱きとめる。温もりがあって、けれどそれでいて小さくて繊細な感覚だった。
「分かっているさ。俺はこの先だって、傍にいるとも。
──守りたいんだ、君を」
心からの言葉だ。それを伝えたいのも、俺にはあった。
「うん。その想いが……一番嬉しいです」
こうしてデートに来れて、伝えられた事。そして何よりもミーアが喜んでくれた事。
何もかもが、とても良かった。勿論俺にとっても……大切な時間だったのだから。
────
「あの、準備の方はよろしいですか?」
「問題ない。──やや緊張は、しているかもだが」
オーブ軍服に着替えて、用意を済ませた俺は控室を出た。
ただ軍の仕事と言うわけではない。今日は別件、テレビ出演の予定があり、こうして放送局に俺は来ていた。
(この日がようやく来たか。まぁ予想はしていたが、気恥ずかしいな)
移動する中、改めてそう思う。しかしテレビに出るからにはちゃんとしないとだものな。何故なら──。
テレビ中継が行われるスタジオに入った俺を待っていたのは、番組の司会者と、もう一人。
「よく来てくれましたね、アスラン!」
ライブ衣装を身にまとった歌姫、そして……俺の大切な恋人であるミーア・キャンベル。彼女が俺を笑顔で迎えてくれた。
「当然だ。テレビに出るのは気恥ずかしくはあるが、立場上こう言う事はちゃんとしないといけないしな。
それが俺の責務でもある」
「そうなんですね。ふふ、アスランのそう言うところも格好いいですよ」
「歌姫の恋人として、俺の事も世間に広がってもいる。だからこそこの場で誠実に示さないといけないからな。心から君の事を、愛していると」
歌姫であるミーアが俺との交際をライブで公表してから、思った通り世間は大騒ぎになっていた。……ただ、それでも彼女の人気が傷つくような事はなく、むしろ歓迎し応援してくれた。
色々と騒がれる事は大変かもしれない。それでも変な事は何も起こらずに、ミーアの想いをみんなが暖かく迎えてくれた事が、俺にとっても何よりだった。
今日はその事でオーブの大手テレビ局の特集があり、ゲストとして俺とミーアが招待された訳だ。せっかくだ、色々と想いを伝えられたら良いと思う。ただ、その前に。
「アスラン? そんなにあたしを見つめて、どうしたの?」
俺の様子に不思議そうなミーア。
スタジオにいるにも関わらず、俺は愛している彼女を見つめて、それから──。
「好きだ、ミーア。──君の事が」
「!!」
そのまま顔を寄せて、ミーアの唇に自身の唇と合わせて口付けを交わした。
少しして唇を離すと、頬を染めて嬉しげな……けれどやはり驚きを見せたような彼女の表情が目の前にあった。
「とても……嬉しいですけれど、ここでキスだなんて。驚いてしまいました」
「テレビ放送の場だ。ただ、放送される前にこうして伝えたいと思った。俺の想いを」
放送が始まればこうは行かない。だからその前に俺はこうしたかった。好きな人への想いはやはり、一番の形で伝えたいものだから。
我ながら良い事だと思った、だが……。
「あの、アスラン」
俺の言葉を聞いて、心なしか申し訳ないような表情で、ミーアは声をかける。
「改まって、どうかしたのか?」
「アスランには言いにくいのですけれど……その、実は番組はもう放送されているんです」
「何だって!?」
見るとカメラは俺たちに向けられて動いていた。てっきり俺は、これから番組を始めるとばかり思っていた。
だから……と言う事は。
「もしかして、さっきのキスも放送されて……いたのか?」
顔を赤くしてドキドキしながら尋ねる俺に、ミーアもまた同じように赤面して、小さく頷く。
正直言えば滅茶苦茶に恥ずかしい、けれど。
「……まぁ、仕方ないか」
照れながらも俺は──いつものように、ミーアに微笑みかけた。