600   作:灯火011

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私は只、見守るだけの存在だ。


URAファイナルズ

 

『さあ、最終コーナーを抜けてウマ娘達がスパートを掛けて参りました!』

 

 今日も今日とてウマ娘達がスパートをかけ、仕掛けていく。全力でターフを駆けていく。

 

 さあ、今日の主役は誰だろうか。私はそう思い、迫りくる彼女らを眺めながら、想いを馳せた。

 

 トップを走っているのはかの有名なサイレンススズカ。あの逃げ足は、夢のような走りと言ってよいであろう。誰もが追いつけない。そう思う。

 

 だが、私の目の前でその順位は一気に動き始めた。

 

 サイレンススズカの脇を通り、爆発するような末脚でスペシャルウィークが一気にサイレンススズカに並んだのだ。そしてそれを追いかけるようにグラスワンダー、ライスシャワー、シンボリルドルフが横一線で駆け抜けていく。それに追いすがるようにメジロマックイーン、トウカイテイオー、オグリキャップ、ダイワスカーレット、アグネスタキオン、ナリタブライアンらもスパートをかけていく。そこから少し遅れてナイスネイチャ、ウオッカ、マヤノトップガン、スーパークリーク、マチカネフクキタル、そして殿にゴールドシップ。彼女たちは、一団となって私の前を通り過ぎていった。

 

 サイレンススズカ。君は一度、私の目の前に現れずにレースを終えた。だが、今君はここを走っている。これほど嬉しい事はないと感じている。

 

 スペシャルウィーク。君は私の前では絶対的に強かった。ああ、ただ、一度目のジャパンカップは残念だったなと思う。だが、あれはライバルが強かったのだ。いい世代だ。

 

 グラスワンダー。君はスペシャルウィークの良きライバルであった。こうして君が彼女と競い合う事。それを見れるだけでどれだけ幸せか。

 

 ライスシャワー。君は私の前では今一歩、届いていなかった。でも、その瞳は誰よりも勝ちたい思いに溢れていたね。ここで走っているということは、きっと、その想いが実を結んだのだろう。

 

 シンボリルドルフ。君は皇帝として私の前で堂々とレースをしていたね。ああ、でも、一度目のジャパンカップの時の君は余裕が無かった。しかし、2度目のジャパンカップの時は絶対が君にはあった。ああ、皇帝。君はいつまでも憧れるウマ娘だ。

 

 メジロマックイーン。その走りをあまり見れなかったが、君は美しいウマ娘だった。天皇賞秋、ジャパンカップ。共に残念な結果であったが、君は誰よりも自信に満ち溢れた走りだった。ああ、出来れば私は君の勝利を見たかった。

 

 トウカイテイオー。君はあのシンボリルドルフに並ぶ実力を持ったウマ娘だ。だが、ダービー、そしてジャパンカップを最後に私の前を走る事は無くなってしまっていた。ああ、だが、今日、こうして君の姿を見ることが出来て、非常に嬉しく思う。

 

 オグリキャップ。君を見たのは有馬記念だった。そこからの破竹の勢いは見ていて楽しかった。タマモクロス、スーパークリークと走り抜けた君達の雄姿は未だにこの心に残っている。

 

 ダイワスカーレット。君は私の前で一度しか走っていない。だがウオッカとのあの競り合い。天皇賞秋を君達で支配したあの空間。あの一瞬のきらめきを忘れてなるものか。

 

 アグネスタキオン。君の名前は知っている。アナウンスでキミの名前を何度か聞いた。あの年、ダービーを私の前で獲ったあの娘。あのレースでも君の名前が出ていて非常に気になっていたのだ。ああ、そして、今日君の走りを見れて納得した。君はクラシックの器であっただろう。

 

 ナリタブライアン。君の末脚は未だに私の脳裏に残っているとも。ダービーを先頭で駆け抜けたあの末脚を。だが、次に現れた時に君はその時の力を失っていた。だが私は知っている。君の闘志は、全く衰えていなかったのだと。だから君は今日ここにいるのだろう。

 

 ナイスネイチャ。君は長い間私の前を走ってくれていたね。何人ものウマ娘が怪我や引退で私の前を走らなくなる中で、君は最後まであきらめずに走ってくれていた。まぁ、ついぞ君の一着を見届けられなかったのが心残りではあるが。

 

 ウオッカ。女王よ。ダービー。ジャパンカップ。幾多の強者を前にして堂々と勝鬨を上げた君の姿は心に深く刻まれいているとも。ああ、君もまたウマ娘の夢だ。

 

 マヤノトップガン。君は天皇賞秋の時、私の目の前で勝負を仕掛けたね。一気に勝負を決めに行ったあの顔をよく覚えているとも。あのレースの後君を見ることは無かったが、やはり、私の目に狂いは無かったようだ。

 

 スーパークリーク。君も天皇賞秋。私の目の前に初めて現れた時、鮮烈に勝利を勝ち取って見せた。ジャパンカップでは残念だったが。だが、あのオグリキャップらを抑えての大外からのまくり。ああ、君はあの時、まさにヒーローだった。

 

 マチカネフクキタル。君はダービーの時に追い込みをかけていたことを覚えている。だが、正直ぱっとしなかった。だがきっと、ここにいるということは無事に結果を残せたという事なのだろう。ああ、再び逢えるとは。幸運に感謝せねば。

 

 ゴールドシップ。君はなんというか…真面目にやっていたのかい?私の前を走る時は毎度毎度力を抜いていたようにも見えたのだが…まぁ、そんなことはないか。ただ、君は現れるたびにその歓声が大きくなっていた。きっと君も、大きく成長して、人気を獲得していたのだろう。 

 

 とりとめもなく、彼女らの思い出を噛みしめていると、スタンドからは割れんばかりの大喝采が響き始めていた。最終直線にもつれ込んだそれは、きっと、誰かの勝利で終わるのであろう。

 

『先頭は変わらず、スペシャルウィーク。スペシャルウィーク!突き放す!』

 

 サイレンススズカを抑えてスペシャルウィーク?やるな。そう思いながら、私は彼女らの背中を見送っていた。

 

『一着はスペシャルウィーク!他のウマ娘達をねじ伏せ、レースを制した!』

 

 そして降り注ぐ大歓声。どうやら、今日のセンターはスペシャルウィークで確定の様である。更に大きくなる大歓声。遠くに見えるスペシャルウィークが、観客席の声援に答えるように手を振っていた。

 

 ああ、やはりこの決着の瞬間、この熱気は素晴らしいものだ。

 

 私はそう思いながら、彼女らの通ったターフを見下ろしていた。えぐり取られたターフに、彼女らの本気が沁み込んでいる。いや、彼女らの、過去からの全てが刻まれていると言ってもいいであろう。

 

 

 さて、少々自分語りにはなるのだが、私は物心ついたときからここに立っている。

 

 雨の日も、雪の日も、カンカン照りの日も、夏の日も冬の日も。私に休みは無い。

 

 故に、何度、彼女らの希望を、何度、彼女らの挫折を見た事だろうか。

 

 私の前を通り過ぎることが出来なかった彼女らもいた。

 

 私の前を自信たっぷりに通り過ぎた彼女らもいた。

 

 私の前を、競い合いながら、高め合いながら駆け抜けていった彼女らもいた。

 

 

 

 ――――ここは、ゴールまで残り約600メートルのラチの脇。

 

 6、と言う数字を掲げ、只そこに在り続ける。それが、私だ。

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