エクレシアに義兄として慕われたいだけの話 作:永続魔法《自給自足》
全て仕事が悪いんです
──追記──
全く説明していなかった私が悪いんですが、今作のデュエルルールとして、表側守備表示召喚が可能という召喚ルールのみをアニメ設定から輸入しています。その他の蘇生制限などはOCG準拠です。
なので今作のデュエルでは、11期のOCGルール+表側守備表示での通常召喚が可能なアニメ設定を取り入れた、OCGとは似て非なるデュエルルールで進行していきます。
そのため、今話のデュエルシーン冒頭でエクレシアが自分自身を表側守備表示で召喚するシーンは、この作品のルールにおいてはなんの問題もありません。
違和感を感じる決闘者の皆さんには申し訳ございませんが、ご理解の程よろしくお願いいたします。
聖女兼騎士団長のフルルドリスは、その日も夜遅くまで書類仕事をこなしていた。
騎士というと戦いばかりしていると思われがちだが、実のところ邪教徒との戦いよりも書類仕事の方が多い。これは下っ端騎士から騎士団長のフルルドリスまで全員がそうだ。
というのも、騎士団を動かすには多大な手続きが必要だからである。例えばフルルドリスなら、遠征などで消費が予想される食糧や人員の使用申請や、帰還後の遠征成果を報告するための書類など、遠征前後に必要な書類は多く、量に比例して書く時間も多く取られるのだ。
そして下っ端騎士も、自分が戦場でどんな活躍をしたかを報告書として仕上げて上司に提出する義務があるため、下っ端でも書類とは付き合わなければならない。
それ故に戦場で戦う時間より、書類を書く時間の方が長いと言えるのだ。
フルルドリスが最後の書類を処理した、ちょうどその時。控えめに扉がノックされる。
「開いています」
「失礼します……」
フルルドリスが入室を許可する。召使いによって開けられた扉の向こうから現れたのはエクレシアだった。
「どうしました聖女エクレシア。こんな夜遅くに」
「フルルドリス、さま……」
エクレシアが何かを言うのを少し躊躇った。その様子から話の内容を察したフルルドリスは、傍に控える召使いに一言命じた。
「……」
「すみませんが、聖女エクレシアと二人にしてください。どうやら聖女同士でしか出来ない話のようです」
「かしこまりました」
フルルドリスが召使いを部屋から退出させる。その足音が部屋の前で待機するのを聞いてから、フルルドリスはエクレシアに座るように促した。
「さて、これで大声を出さなければ聞かれることもないでしょう。どうしましたエクレシア、貴女らしくもない」
「……フルルドリスねえさま」
フルルドリスと同じ時代に、2人目の聖女という前代未聞の存在として現れたエクレシアは10年前──聖痕が目醒めて聖女として任命された、およそ5歳の時からフルルドリスの元で聖女としての修練を積んでいた。
先達として時には師のように厳しく、時には実の姉のように優しく接してくれたフルルドリスのことを、エクレシアは今でも姉として慕っている。
エクレシアはフルルドリスを"ねえさま"と呼び慕い、そしてフルルドリスもまた、エクレシアを実の妹かのように可愛がっていた。
血の繋がりは無くとも、二人は血の繋がった姉妹よりも強く、堅い絆で結ばれているのだ。
そんなエクレシアは、自分がおかしいと感じた事に関して素直に質問を投げかける事が多い。答えづらいことも何気なく無邪気に聞いてくるため、フルルドリスが困らされた事も一度や二度ではなかった。
そんなエクレシアが躊躇うのは珍しかった。しかしそれ故に言わんとすることを何となく理解できたフルルドリスが先んじて話題を振る。
「付き人ユーリの件ですね」
「……はい。何故なんです、なんであんなことを言ったのですか」
「それが、付き人ユーリの為になるからです」
フルルドリスとて、ユーリが嫌いだから'付き人選びの儀'のやり直しを提案した訳ではない。
フルルドリスとユーリに直接の関係はない。昔からエクレシアの話の中に良く出てくるから名前は知っていたし、付き人としてのユーリと顔を合わせた事もあるが、それだけだ。
だからフルルドリスはユーリに好き嫌いといった、判断を鈍らせる感情は存在しない。そしてそれ故に、エクレシアのように理性が感情に振り回される事なく冷静に判断を下せていた。
(しかし、エクレシアがここまで執着するのも珍しいですね)
エクレシアがここまで一個人を気に掛ける所をフルルドリスは初めて見た。そしてそれくらい大切に想える人が出来ていた事に喜びを感じつつ、一抹の寂しさを感じてもいる。
「だから、その意味が分からないんですよ。にいさまはキッチリ戦果を出したんです。ちゃんと付き人として、成果を残したのに……!」
「確かにそうです。
「なら!」
「ただし、それはあくまで最低限の話」
詰め寄ったエクレシアの眼をフルルドリスは冷たく見つめ返す。昼のように兜の合間からでなく直接感じる鋭い眼光と、共に放たれた姉のように敬愛する先輩聖女の無言の圧に、エクレシアの背中から冷や汗が出た。
「いいですかエクレシア。貴女はこの国の中でも最重要人物の一人である教導の聖女なのです。そして聖女の付き人は、そんな貴女を守護する責務がある。
……文字通り、自分の身体を盾にしてでも」
「…………」
「そのため、聖女の付き人には高い実力が要求される。本来、聖女は戦場で付き人に護ってもらうのが普通だという事は分かっていますよね?」
「……はい」
「しかし、今のエクレシアは付き人に護られるどころか付き人を護ろうとしている。バレないように取り繕っているつもりでしょうが、見る人が見れば分かります」
図星なだけにエクレシアは何も言えず黙り込んだ。自分がユーリを選んだ理由が付き人本来の目的とかけ離れている事は自覚していたるから。
「世の中に代えの効く人間など存在しない。そして貴女が、付き人ユーリに強く懐いている。これらを理解した上で私は言います。
付き人などという幾らでも代えの効く存在を、代えの効かない聖女である貴女が護る現状は歪です」
「……それは、そうです。でも……!」
「大神祇官様は、現状が続いた先を危惧しています。いつか付き人ユーリに危機が迫った時に貴女が身を投げ出し、結果として聖女が一人失われる可能性を……」
確かにそれはやりかねないと、エクレシアは自分で納得してしまった。もしユーリに危機が迫れば、その時は迷わず自分の身を割り込ませて庇うだろうと。後先を考えず、きっとそうする自信があった。
「それに、前回の'付き人選びの儀'で選ばれた副団長ジュリウスの存在もあります。いくら貴女の直接指名とはいえ、付き人ユーリは事あるごとに比較されるでしょう。
少なくとも、今回の
一度決まった付き人を覆すというなら、一度は選ばれた副団長ジュリウスを越えなければならない。武力で無理だというのなら
「だから提案したというんですか」
「最良の選択だと思っています。これが最も穏便に物事を片付ける手段ですから」
「だからといって!」
「聞き分けなさいエクレシア。貴女のそれは子供のワガママなのよ。大人の理屈には通じないの」
「……ッッ!」
聖女から義姉へと言葉遣いが変わったフルルドリスに突きつけられ、エクレシアは言葉を詰まらせた。
エクレシアとて、これがワガママだという事は理解している。そしてフルルドリスも、滅多にないエクレシアのワガママを叶えてやりたい気持ちがある。
だが、そんな感情で社会は動かないのだ。子供のワガママが通るほど、世界は優しくもなければ寛容でもない。
それを分かっているから、フルルドリスは敢えてキツい言い方でエクレシアに突きつけた。
「大人って……大人って……!」
「納得しろとは言わないわ。でも理解なさい。世界は理不尽なものよ」
「……分かりたくない」
「そのうち分かるわ。嫌というほどにね」
顔を俯かせたエクレシアの頬にフルルドリスが触れて顔を上げ、目を合わせる。フルルドリスが久しぶりに触れたエクレシアの頬は、彼女が最近触れた何よりも暖かかった。
エクレシアは悔しさとやるせなさを半々にしたような顔でフルルドリスを見つめていた。
「貴女が彼を付き人にしたのが、恩返しという理由からだというのは分かっているわ。それは私情ではあるけれど、決して邪なものではない、とても尊ばれるものよ。誰にでも出来ることではないわ」
「…………」
「けれどね。その素晴らしい行いも、他人は悪いように捉えてしまう。嘆かわしい事だけれど……」
「……私は、にいさまに返せるものが、これくらいしか無いから……にいさまと離れたくなくて……」
フルルドリスの手がエクレシアの頬から頭へと昇っていく。エクレシアはフルルドリスにされるがまま、その頭を撫でられていた。
「そうね。あのまま彼が孤児院に残っていたら、もう二度とエクレシアと会えなかったかもしれない。だから貴女の行為は責められるものじゃない」
「でも、みんな陰で言ってます。にいさまが悪いって、にいさまが私を騙してるんだって。
欲張らず、他人への慈しみをもって日々を生きる。それが教導の教えの筈なのに、その教えを受けた人達が言ってるんですよ!」
知らずに溜め込んでいた鬱憤が爆発したのか、エクレシアは普段からは想像もできない激しい声色で吐き捨てるように言った。
ユーリを付き人にした事実を指して、一部ではエクレシアが乱心したとまで言われている。しかしそれ以上に、ユーリがエクレシアを誑かしたのではないか。という根も葉もない噂が騎士団内で広まってしまっていた。
それほどに付き人という存在が大きく、そして神々しいものとして知られているのだ。恩恵云々を抜きにしても聖女の付き人が尊敬される役職であるが故に、儀式に参加してもいない孤児を付き人に迎えるのに反発を抱く者は、やはりそれなりに多かった。
それで自分が悪く言われるのは良い。しかし、敬愛する義兄が悪く言われる事に対して、エクレシアは人一倍敏感だった。
「…………」
フルルドリスは何も言わない。言えない。不平不満を言う騎士たちの気持ちも、恩返しのつもりで付き人にユーリを任命したエクレシアの気持ちも、痛いほどに理解できてしまっていたから。
「分からないんです。にいさまを付き人にした事が、本当に良かったのか……むしろ、にいさまの迷惑になったんじゃないかって」
「それは無いわ」
フルルドリスが自信をもって断言する。エクレシアは思い悩んでいるようだが、その悩みは杞憂だとフルルドリスには分かっていた。
「だって彼、エクレシアのことが大好きなのよ」
「……どうして、そう言えるんですか」
「私は自分の人を見る眼に自信があるの。長いこと騎士団長なんてやっているとね……嫌でも分かるのよ。善い人のフリをした悪人や、逆に露悪的に振る舞う善い人もね。
その私の眼が、彼は本心からエクレシアの事が好きで、悪い人じゃないって言っている」
「………………」
「もしエクレシアの事が好きじゃない悪い人だったら、彼を付き人にする事を私は認めなかったでしょうね。でもそうなっていない。だから安心しなさいエクレシア。彼は、きっと善い人よ」
微笑むフルルドリスに、エクレシアは小さく頷く。ユーリがエクレシアの事を好いている事はエクレシア本人も良く分かっていることだ。
「私も彼にエクレシアの付き人を続けて欲しいと思っているわ。でも、大人の世界の事情……この場合は政治ね。これが邪魔をしてくる。
だから奪い取るしかないのよ。闘って、勝って、付き人の座を大人たちに正式に認めさせなければいけない。それは簡単な事ではないわ」
「にいさまは勝ちます。絶対に負けません」
「貴女はそう言うでしょう。勝利を無邪気に信じるのも悪いことではないわ。けれどね、
直近の征伐まで、彼は公の場で
…………本当に、こう言いたくはないけれど、良いカードを集められるだけの金銭なんて元孤児の彼には無いんじゃないかしら?」
「否定はしません。にいさまがカードを買ってくる時は、ほとんど安価なストレージを漁って掘り出し物を見つけた時ですから」
この世界ではカードは剣であり盾である。そして剣や盾は、当然ながら戦場において身を守り敵を倒すための武具だ。
故に、初めてそこを見た時からユーリがカードショップと認識している場所は、この世界では武具を扱うれっきとした武器屋として扱われている。
命を預けるデッキという武器兼防具を磨くため、多くの人々が良いカードを求めて訪れるスポットなのだった。その販売形式などはユーリの慣れ親しんだ生前のものと殆ど変わらないため、デッキ強化という名目でストレージコーナーに良く入り浸っている。
しかし、付き人がストレージという余程のケチか貧乏人しか長居しない場所に入り浸る姿が目立ち、その事実から"付き人でありながらカード一枚も満足に買えない貧乏人"と馬鹿にされているのだが、それをユーリは知らない。
ただ(見たことないカードばっかで楽しいな……OCGに欲しいやつも多いし)なんて呑気に考えていたのだった。
「付き人になってから彼がストレージコーナーに入り浸りなのは噂に聞いていたけれど、あれは真実だったのね。でもストレージのカードだけで満足なデッキを組むのは──」
「贔屓目を無しにしても、にいさまが勝ちます。にいさまのデッキは私たちの常識の外にあるんです」
「エクレシア……?」
「今は何を言っても伝わらないから言いません。でも見れば、ねえさまも絶対に分かります。あれは……にいさまのデッキは……」
そこで言葉を区切ったエクレシアは、無言で首を小さく左右に振った。
「勝ち目が無いとは言いません。でも、ジュリウス様の勝ち目は殆どないと思います。にいさまとジュリウス様、形式は違えど実践形式で二人と闘った私の出した結論は、それです」
「…………それほどまでに、彼はやると?」
「少なくとも私は手も足も出ませんでした。ねえさまなら、それが何を意味するのかは分かりますよね」
エクレシアのデッキは強い部類に入る。武力と決闘力の双方を求められる騎士団の副団長ジュリウスとの
それが手も足も出ないという事は、このドラグマ国内で彼に敵う決闘者が殆どいない事を意味している。
とはいえ、それはエクレシアの言葉を額面通りに受け取った場合である。エクレシアと親しくない者なら誇張表現だと思うだろうし、エクレシアの義姉であるフルルドリスでも、その言葉を素直に受け取ることは出来なかった。
「信じられないと思います。私だって、目の当たりにしなかったら信じられなかったです。だから
「……そうね。正直に言って、エクレシアの言葉でも信じられない思いが強いわ。だから楽しみに待っているわ。そうまで言う彼の
エクレシアは、その言葉に小さく頷いた。
◇◇
「にいさま。壁打ちに付き合ってもらえませんか?」
エクレシアとフルルドリスが話した翌朝、デッキの調整をしようとカードを広げたユーリの前にエクレシアが現れ、そう言った。
ここでいう壁打ちとは、この世界では異例の──そしてユーリにとっては慣れ親しんだ──卓上でやる
この世界では
けれども実際にデッキを回さなければ分からない問題点を見つけるために、そしてカード同士のコンボを研究・開発するためにも実践形式でデッキを回す必要もあるだろう。
戦場で剣を十全に振るうためには日頃から素振りなどの鍛錬を要するように、ここ一番でデッキを上手く回すには日頃から展開ルートなどの確認をしておく必要があるというのは当然のことだ。
そのため壁打ちと称して、デュエルディスクを用いずに
対戦相手を動く壁と見立てることで(これは壁とやってるだけだからセーフ)と自分への免罪符を用意することが出来るためなのか、あるいは実践に即したデッキ回しの練習方法が壁打ちくらいしか無いからなのかは分からないが、ドラグマではこの壁打ちを禁止していない。
ただ、建前はどうあれ実際のところは神に隠れて
過去の記録には、この義務を守らなかったばかりに天罰が降り注ぎ、壁打ちを行っていた二人の決闘者とギャラリーが焼き払われた事もあるのだという。
「急だな」
「そうですか?」
そう言いつつも、ユーリは既にカードを纏めてデッキをシャッフルし始めていた。それを見たエクレシアもまた、自分のデッキをシャッフルする。
カードを広げるのに丁度良さそうなテーブルがある窓際に座り、二人は向かい合った。窓から射し込む陽光がテーブルと、その上のカードを照らしている。
「先行はどっちにする?」
「私で。にいさまに先手を取られたら勝ち目ないじゃないですか」
「それは大袈裟だろ」
お互いに表情は柔らかく、
「取り敢えず《
手札に《ドラグマ・パニッシュメント》を加えます。そしてリバースカードを二枚セットしてターン終了です」
エクレシア 手札3枚
フィールド:《教導の聖女エクレシア》(表守備)
リバースカード2枚
ユーリ 手札5→6枚
フィールド:なし
「俺のターン、ドロー。手札から《
手札の《
ネフィリム、ウェンディの効果発動。ウェンディの効果で《シャドール・ビースト》を裏側守備表示で特殊召喚し、ネフィリムの効果で《シャドール・リザード》を墓地へ。更にリザード効果で《
「……やっぱり意味不明」
エクレシアにとって思わず聞き直したくなる呪文のようなシャドールの展開を、エクレシアは呆れと感心が混じる目で見ていた。
「そして《シャドール・ドラゴン》を召喚してバトル。ドラゴンで
「うっ……伏せておいた《ドラグマ・パニッシュメント》を発動。EXデッキから《中生代化石騎士 スカルナイト》を墓地へ送り、ドラゴンを破壊します」
「効果破壊されたドラゴンの効果で伏せられたもう一枚のカードも破壊だ」
「《サイクロン》が……」
凄い嫌そうな顔をしながら《ドラグマ・パニッシュメント》を発動するエクレシア。その効果により《シャドール・ドラゴン》を破壊したが、効果で墓地に送られた事で発動したドラゴンの効果によって、伏せカードが破壊されてしまう。
エクレシア自身の効果として、EXデッキから召喚されたモンスターとの戦闘で破壊されない効果があるため、このターンでフィールドが空になることは避けられたものの、決して良い状況ではない。
「カードを一枚セットしてターン終了」
エクレシア 手札3→4枚
フィールド:《教導の聖女エクレシア》(表守備)
ユーリ 手札2枚
フィールド:《エルシャドール・ネフィリム》(攻撃)《シャドール・ビースト》(裏守備)
リバースカード1枚
「ドロー。むむむ……」
エクレシアは四枚ある手札に手を掛けては戻す行為を繰り返し長考しだした。時間にしておよそ一分ほど使ったエクレシアは、一枚のカードをフィールドに出した。
「魔法カード《
その効果でアステル自身を生贄に捧げて、手札からドラゴン族・光属性・レベル7のモンスターを特殊召喚しますね」
「《
「うっ」
まるで本物のように、手札から唐突に奇襲してくるGを見たエクレシアは声を詰まらせた。それは、にいさまが見た目の劣悪なカードを用いている事に対する拒否感と、その効果の強力さから来るものだった。
「…………《聖夜に煌めく竜》を特殊召喚して効果発動。手札からの召喚行為に成功したことで、フィールドのカードを一枚破壊します。
私が選択するのは、その伏せカードです」
「増Gの効果でカードを引きつつ、対象にされた《
墓地の《
「むぅ……フィールド魔法《教導国家ドラグマ》を発動します。そして墓地の《中生代化石騎士 スカルナイト》の効果発動。
墓地のこのカードを除外してフィールドのモンスターを破壊します。破壊対象は《エルシャドール・ネフィリム》です」
「破壊されたネフィリムの効果発動。墓地の《
ここまでの動きでエクレシアの手札は減って僅かに一枚を残すのみ。だというのに対するユーリの手札は、エクレシアのターンにも関わらず何故か一枚増えて三枚になっている。
長期戦になれば間違いなく負ける。なら狙うのは短期決戦しかない。
「そして
「それ通したら死ねるから墓地の《超電磁タートル》の効果発動。このバトルフェイズを強制終了させる」
「ターンエンドです」
止められはしたが《超電磁タートル》を使わせた。短期決戦を狙いつつも決して焦らず、一瞬の隙を待つ。一枚一枚、丁寧に守りを剥がす作業に焦れない事が対シャドールで必要だと、エクレシアはユーリと行った数々の壁打ちで学んでいた。
エクレシア 手札1枚
フィールド:《教導の聖女エクレシア》(攻撃)《聖夜に煌めく竜》(攻撃)《教導国家ドラグマ》(フィールド魔法)
ユーリ 手札3→4枚
フィールド:《
「俺のターン、ドロー。フィールドのウェンディを反転召喚し、効果発動。デッキから《
「背に腹は……手札から《増殖するG》を発動します」
「うっわ」
かつては飽きるほど見た、しかし今となっては懐かしさすら感じる《
相手の特殊召喚という緩い条件でドロー出来る増Gは、効果による特殊召喚のタイミングで投げると確定で一枚ドロー出来る。
更に現代遊戯王において、多くのテーマは特殊召喚を多用する。それ故に《増殖するG》の役割は単なるドローカードに収まらず、相手にドローさせてまで展開するのか、ある程度で妥協するのかという心理的圧力をかけられるカードとして再評価されたのだ。
これを止める手段が無いわけではないが、代表格たる《墓穴の指名者》や《抹殺の指名者》は生憎と手札に無く、《灰流うらら》に至ってはデッキに一枚すら入っていない。
それはレアだからという訳ではなく、アンデット族や悪魔族といった闇の勢力を連想させる種族がドラグマでは忌み嫌われ、それらのカードを排斥しているために入手が極めて困難という事情からであった。
それはさておき、
「フィールドの《シャドール・ビースト》を反転召喚して効果発動。カードを二枚引いて一枚墓地へ送る。
そしてバトル。ビーストで
「手札の《オネスト》の効果発動。返り討ちです」
「……引いた一枚それかよ」
ユーリ LP4000→2500
尋常ではない引きの良さに、思わず"主人公補正"という言葉がユーリの脳裏をよぎる。記憶が正しければ、エクレシアのデッキに《オネスト》は一枚しか無かったはずだ。
「バトルフェイズ終了。リバースカードを二枚セットしてターンエンドだ」
エクレシア 手札0→1枚
フィールド:《教導の聖女エクレシア》(攻撃)《聖夜に煌めく竜》(攻撃)《教導国家ドラグマ》(フィールド魔法)
ユーリ 手札3枚
フィールド:《
リバースカード2枚
「私のターン、ドロー」
動かないことを選択したユーリのターンは終わり、エクレシアにターンが戻る。
(なんとか一撃を与えられたけれど……)
一撃を与えたといっても、1500という高くも低くもない数値。優位なのはそれくらいで、後はあらゆる面で負けている。
このターンか、次のターンで勝負を決めなければ負けるのはエクレシアだ。
「このままバトルフェイズ」
「待った。メインフェイズ終了前に永続罠《
更に《
俺が送るのは《聖夜に煌めく竜》だ」
「ではその効果後に手札の《
更にフルルドリスねえさまとは別のドラグマモンスターがいるため、フィールドのモンスターを一体選んで効果を無効にします。選ぶのは当然ネフィリムです」
「セットしてあった《
フィールドのネフィリムとウェンディで《エルシャドール・アプカローネ》を守備表示で融合召喚。ネフィリムとウェンディ、そしてアプカローネの効果発動。まずアプカローネの効果でフィールドのカード一枚を対象に取り、その効果を永続的に無効化する」
「でも《教導国家ドラグマ》が存在する限り、ドラグマモンスターをEXデッキから出たモンスターが対象に取ることは不可能です」
「知ってる。だから対象は《教導国家ドラグマ》だ」
フィールド魔法《教導国家ドラグマ》には、ドラグマモンスターが相手と戦闘を行った後にモンスターを破壊する効果が備わっている。
今ユーリのフィールドにいる《エルシャドール・アプカローネ》は戦闘破壊されない効果が備わっているが、効果破壊には無力だ。
その効果を潰すためという目的もあるが、そもそも《教導国家ドラグマ》にはフィールドの自分のドラグマモンスターを、EXデッキから出たモンスターの対象効果から護る効果もあるため、なんにせよユーリは《教導国家ドラグマ》以外のカードを選択できなかった。
「続いてウェンディの効果でデッキから《シャドール・ファルコン》を裏側守備表示で特殊召喚。更にネフィリムの効果で今使った《
「なんで私のターンで手札とモンスターを増やせるんですか?」
「それがシャドールだからかな」
知ってはいても、分かってはいても、それでも自分のターンに相手のカードが増えるマジックのようなアドバンテージ回収能力は、何度もシャドールにボコられて見慣れたエクレシアでも理解が及ばない。
(これがあるから、にいさまのデッキは……)
これが実際の
壁打ちという命のやり取りを行わない卓上デュエルで、シャドールを見慣れていても思わず諦めそうになるほどに、その力は隔絶していた。
これを実際の戦場で初めて見せつけられた
「……とにかく、バトルフェイズ。
そしてフルルドリスねえさまの効果で、1ターンに一度だけドラグマモンスターの攻撃宣言時にフィールドのドラグマモンスターの攻撃力を500ポイント上昇させます。そしてバトルフェイズ終了」
「ファルコンは殴らないのか?」
「ファルコンを倒してもモンスターの総数は変わりませんし、効果で復活したモンスターのリバース効果も使わせたくないので攻撃しません。ターンエンドです」
エクレシア 手札0枚
フィールド:《教導の聖女エクレシア》(攻撃)《教導の騎士フルルドリス》(攻撃)《
ユーリ 手札4→5枚
フィールド:《エルシャドール・アプカローネ》(表守備)《シャドール・ファルコン》(裏守備)《
エクレシアの表情は険しい。
フィールドには攻撃力2000のエクレシア自身と攻撃力3000のフルルドリスがいるとはいえ、手札も、伏せカードも無い。
この状況で手札が潤沢なシャドールにターンを渡すという事が如何に危険かは身をもって理解している。
しかし、もうどうにもならない。
「ドロー。《
墓地のネフィリムとウェンディを除外して三体目のネフィリムを融合召喚。《
「……私の方ですか? フルルドリスねえさまではなく……あっ!」
「聖女フルルドリスは特殊召喚されてるからな。ネフィリムで対処できる」
カードとはいえ、自分より(権力的な意味で)遥かに格上のフルルドリスを呼び捨てに出来ないユーリは、フルルドリスのカードを指して聖女フルルドリスと呼びながら、フィールドのネフィリムを軽く突いた。
「ファルコンをリバース。効果で《
墓地のインカーネーションとウェンディを除外し、エリアルを裏守備から表守備に変更。そしてエリアルのリバース効果により、除外されているネフィリムを表側守備表示で特殊召喚。
特殊召喚されたことでネフィリムの効果発動。デッキから《
「にいさま、長いです」
「すぐ終わるから我慢しろ。
……それで、手札の装備魔法《
俺はフィールドのネフィリムとエリアルで、二体目のアプカローネを攻撃表示で特殊召喚。その効果で聖女フルルドリスの効果を無効にする」
ユーリのフィールドには、攻撃力2500の《エルシャドール・アプカローネ》が二体と《
そして手札の速攻魔法《
「バトル。まずはネフィリムで聖女フルルドリスに攻撃。ダメステ開始時にネフィリムの効果で聖女フルルドリスを破壊。
そして二体のアプカローネでエクレシアのライフを削って終わりだな」
「……負けました。完敗です」
「しょうがない。シャドールだしなっと……ちょっと待ってろ、すぐに戻る」
ユーリは椅子から立ち上がり、一度部屋を出る。少し経って戻ってきたユーリの手には、水差しに入った水と果物が載った御盆があった。
「やっぱり、にいさまは凄いです」
「シャドールのカードパワーがあってこそだ。褒められたもんじゃない」
「そのカードを手に入れるのも決闘者の実力ですって、何時も言ってますよね?」
「だとしてもだよ」
本心から誇れる事ではないと考えているからか、ユーリに喜びの感情は見られない。そんな極めていつも通りのユーリにエクレシアは微笑んだ。
「……強情なんですから」
「そのまま返す」
「私の強情は、にいさま譲りですよ?」
「俺の強情はエクレシアから貰ったもんなんだけどな」
「じゃあ、お揃いですね」
そう言ったエクレシアが笑い、言われたユーリも笑う。
二人の間に流れる穏やかな時間は、未来をある程度まで知っているユーリにとっても、知らないエクレシアにとっても、手放したくないと思える大切なものだった。
いつまでも続いてほしいと、願うほどに。
「エクレシアのデッキも弱くないんだけど、やっぱり手札が減っちゃうのが課題だな」
「普通は減るんですよ?」
──現代遊戯王に呑まれた者の末路──