腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました   作:しらたま大福

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第一章 第三勢力の立ち上げ
はじまり


「長い物には巻かれなさい」

 

 幼い頃から私にそう言い聞かせていた母は、私が7歳の時に死刑判決が下され、執行された。死刑の理由は表向きには術式の暴走、一般人の大量虐殺とされたが……母が自分の術式を制御出来ない訳がないと私は知っていた。母が殺された本当の理由は――上層部による策略だった。

 

 母が殺された理由はたった一つ。それは強力な力を持ちすぎた為だ。

 

 私の生まれた神無月家は、かの日本三大怨霊の1人である平将門の血筋の家である。惜しくも御三家にこそ数えられないが実力はあるし、正直頑張れば御三家に張り合える程の力を持つ。我が家に伝わる相伝の術式『怨霊操術』は、怨霊を自ら召喚し、使役する術式だ。一部の家からは怨霊を使役するなどと言われているが、呪霊を操る術式を持つ者もいるのもまた事実。怨霊も呪霊もさして変わらないだろうと言うのは持論である。

 けれど、この身に刻まれた術式と、使役する怨霊の暴走を恐れ、縁の下の力持ちとして徹していた。世の中の為に、決して表舞台には出ず細々とその血を繋ぐ。それが私たち一族の願いだったのだ。

 しかし、こうして細々と生きている中で、時に強力な力を持って生まれる子供がいる。

 

 それが、私の母だったのだ。

 

 母は数百年に一度生まれる、生れつきの怨霊憑きだったのだ。母を守るのは平将門の娘、滝夜叉姫こと五月姫の怨霊。史実では尼寺に入り、尼となったと記されているが母が使役するソレは妖術にも長けている伝説に則った怨霊だった。史実と伝説、混ざりあった性質を持つ彼女は、きっと怨霊と仮想怨霊が混ざりあった物だろうと推測されていた。そんな滝夜叉姫は怨霊という身ではあるが、一部の特級呪霊のように意思疎通も取れる。もちろん滝夜叉姫を通して使役する妖術は、申し分の無い程の強力な力。呪術師として活躍するには十分利用できる力なのだ。

 

 しかし、上層部はそんな母の能力に恐れ――排除する事を決定した。

 

 

 あれは、冬の寒い日だった。「今年のサンタさんは何をくれるのかな?」なんて数日前に母とコソコソ話し合ったばかりだった。

 家に訪れた黒服の人達。泣き崩れる私のお世話係のばあやや、何かの間違いだと必死に抗議する父、どこか諦めたように笑みを浮かべた母の姿に、幼い私は首を傾げるばかりだった。父の抗議は受け入れられず、黒服の男達は母を拘束しようとした。しかし、黒服の男達に連れて行かれる間際、母は私を抱きしめた。

 

「澪花」

「……母様?」

 

 いつもと変わらない母の優しい匂い。私を抱きしめた母の体は――震えていた。どうして母が震えているのか私は分からなかった。そして、母は私の耳元でいつものように言い聞かせたのだ、あの言葉を。

 

「長いものには巻かれなさい」

 

 いつもはそこで終わるその言葉。しかし今日ばかりは、その言葉に込められた本当の意味を告げる。

 

「そうすればきっと――あなたは、長生き出来るはずだから」

 

 母は誰よりも私が生きる事を望んでいた。生きて、生きて、生き抜いて、その生涯を老衰で迎える事を強く望んでいたのだ。

 

「愛してるわ、澪花。幸せになってね」

 

 そう言った母は黒服の男達に連れて行かれ、もう二度と帰ってくることはなかった。――遺体すらも帰ってこなかった。

 父は中身のない空っぽの棺桶で葬式を行なった。幼い私は、その葬式を見ても母が死んだ事を理解できなかった。そして、いつまで経っても大好きな母が帰ってこないことに癇癪を起こし、ついには術式を暴走させた。手当たり次第に怨霊を召喚する私、統率が取れていないその怨霊達は手当たり次第に家の物を破壊した。使用人の悲鳴、物が破壊される大きな音、全てが自分のせいなのに手に負えない力に泣くだけの私。それは、誰が見ても最悪の事態だった。

 その時、私の周りを守るように張られていた結界を突き破って父はボロボロの状態で飛び込んできた。そして、私をきつく抱きしめた父は泣いていた。

 

「頼む、これ以上その選ばれた力を使わないでくれ。お前まで連れて行かれてしまったら、わたしは――」

 

 私の暴走で傷ついた父。その泣きながら強く抱きしめた腕の中で、私自身もまた”選ばれた”存在になってしまったと言うことに気がついた。術式の暴走で召喚された怨霊達、その中に一際存在感を放つ存在がいた。

 凛とした佇まいに、美しい着物。私と同じで赤く染まった長く美しい髪の毛は一つに結ばれており、その美しい顔かんばせが一層、彼女が人外である事を主張していた。

 

『我が主、改めまして滝夜叉姫でございます』

 

 そう私に口上を述べたのは、今は亡き母の側にいたはずの滝夜叉姫だった。滝夜叉姫は優雅に私の前で一礼をした。そんな滝夜叉姫と父を見比べていれば、父は大きく息をはいた。

 

「……やはり、か」

「父様?」

「澪花、名乗りをあげなさい」

「でも……」

「いいから」

 

 困惑する私に、父は名を名乗れと言い聞かせた。名を名乗ると言うことは、すなわち契約を結ぶと言うこと。それは幼い私でも知っていた。名を名乗って滝夜叉姫と契約を結ぶと言うことは、母が死んだと言うことを認めると言うこと。父は幼い私にそれを強いたのだ。

 首を振ってそれを拒否しようとしたが――困ったように眉を下げる父の姿を前にしてしまえば、そんな事はできなかったのだ。

 

「……神無月(かんなづき)澪花(れいか)です」

 

 私の名を名乗れば、私の中の何かが結ばれたような感触がした。それは世間一般的には縁と呼ばれる物だ、ただし私と滝夜叉姫を結ぶ縁は魂へと繋がる。この契約は私の一存で切れる物ではない。

 

『これにて契約は完了しました』

 

 そう述べた滝夜叉姫は、あっという間に彼女以外の怨霊の動きを止め、それらを消した。後に残ったのは、悲惨な惨状になってしまった神無月家の屋敷のみだった。

 

『わたくしはこれより貴方様の手足となりましょう』

 

 こうして、滝夜叉姫は私と契約した怨霊となったのだ。本来、生まれつきの怨霊付きでなければ滝夜叉姫は召喚できない。でも、私の元に滝夜叉姫は現れたのだ。きっとこれは母からの愛の呪い。私が生き残るための最後の手札として、母は滝夜叉姫を託してくれたのだ。

 

「長い物には巻かれろ」

 

 それから私は、母の遺言通りに必死に“いい子“を続けた。呪霊を祓うために己の技術を磨き、決して術式に頼りっきりにならないように体術も磨いた。一心不乱に稽古する私を父や、ばあやや、滝夜叉姫はとても心配した。それでも私は修行を辞める事はなかった。

 

 そして、呪術高専に入学して本格的に任務を受けるようになってからは、上から課せられるどんな命令にも従った。唯一のクラスメイトから、流石に詰め込みすぎだろうと注意されたとしても、止めることはなかった。(そんな私を見て彼は頭を掻き毟りながら勝手に任務についてきたこともあったっけ……懐かしいなぁ)

 

「長い物には巻かれろ」

 

 私はこの言葉を自分に言い聞かせた。上からの命令に反論せず、言われた通りどんな任務でも泣き言を言わずに呪霊を祓う。西に行けと言われれば西に行ったし、東に行けと言われたらすぐに東に向かい、どんなに惨たらしい命令を下されたとしてもそれに従った。呪霊を祓って、祓って、祓い尽くした。

 

 そんな日々を過ごしていれば――高専を卒業する頃には、気づけば私は特級呪術師へとなっていた。

 

 でも、この世の中は本当に理不尽だらけ。私がどんなに身を粉にして呪霊を祓ったとしても上は決してそれを認めない。そして、挙げ句の果てには力をつけた私を厄介者扱いしたのだ。

 

「特級呪術師、神無月 澪花」

 

 呪術高専の地下。暗い部屋の中には、オレンジ色の明かりがぼうっと照らしていた。部屋を埋め尽くす呪符、私の体に巻かれた呪術師用の鎖のせいで呪力を使うことすらできず、契約している滝夜叉姫すら呼び出すことが出来なかった。

 

「お前を――秘匿死刑とする」

 

 父が任務で亡くなった翌月。特級呪霊を祓う任務を立て続けに三件入れられた。それらを無事に祓いはしたが……流石に疲労も溜まった。呪力もかなり使い果たし、呪力の節約のために滝夜叉姫の顕現を解いたその瞬間ーー私は黒服の呪術師達に襲われた。

 意識を飛ばした後、目を覚ませば高専の地下。この部屋を見れば私の身にこの後何が起こるかなんて簡単に想像がつくだろう。私はここで殺される、それも惨たらしく。

 

「無関係の非術師の大量虐殺、呪詛師への密告。これにより呪術規定9条に基づき神無月澪花を『呪詛師』に指定する」

 

 目の前の男が述べた罪状。それは全て私に身に覚えのないものばかり。あぁ、こうして母は殺されたのかと漠然と思う。母の遺言通り、「長い物には巻かれてきた」つもりである。でも、その結果がこれだ。

 

「これは決定事項、覆ることの無い判決」

 

 薄々分かっていた。呪術師界は腐っていると。上層部は保身ばっかり、新しい戦力もリスクがあれば採用しないし、上に楯突く厄介な人間はどんなに素質があっても処分する。汚い人間の欲望を凝り固めたような人間ばっかり。これでは世の中から呪霊がいなくなる未来なんて訪れる訳がない。

 

『――娘よ、お前はこれでいいのか?』

 

 私の頭の奥から響くように聞こえてくる声。その声は幼い頃からずっと聞こえていた物。それは、恨み、辛み、呪いが籠った男性の声。

 

『このまま母親の無念を晴らさずに死ぬのか?』

 

 きっとこの声に応えたら、私の力は大きく変わる。私の中の第六感がずっとそう囁いている。

 

『お前は未来を望まないのか?』

 

 でも、この声に応えたらきっと私の人生は長い物に巻かれて生きていくという母の遺言を破ると思い、今まで無視してきた。

 

『答えろ、小娘』

 

 あぁ、分かっている。私はついにこの力に向き合わなければならないと言う事を。

 

『俺が見初めたお前の魂は――こんな場所で終わるわけがない』

 

 私はこんな場所で終われない。だって、今まで抑制された人生の中で諦めてきた事だっていっぱいあるのだ。だから、私は自分の心に素直になる。

 小さく息を吸い込み、私に問いかけてくる“彼“の名前を呼ぶ。

 

「――将門公」

「……っ、将門公!?」

 

 私の口から出た言葉に、男は驚愕の表情を浮かべ距離を取った。それもそうだろう、私の口から出た将門公と言うのは、あの日本三大怨霊の一人である平将門なのだ。そんな怨霊が今召喚されたとしたら――きっと彼は終わる。彼の中の警鐘が音を鳴らしているのだろう。

 

「私、やっぱり生きていたい。だから、力が欲しい」

 

 何者にも負けない強力な力。彼はそれを持っている。

 

「私はやがてこの腐った世界を変えたい――だから、私に賭けて欲しい」

 

 こんな腐った呪術師界は一度壊さなければならない。だから、私は上層部が望んだ通り反逆者となろう。

 

『……っ、はははははははっ!それでこそ、俺が認めた魂の器だ。その願い、叶えようーー』

 

 私の足元に黒い闇が現れる。私が座らせられた場所から半径3メートル程の大きな闇。その闇からはおどろおどろしい重圧のような冷気が立ち上がる。

 ブチリ、ブチリと体に巻かれた鎖が音を立てて引きちぎられる。一応言っておくが、これは決して私がゴリラ並みの腕力だからとか言うわけではない。フィジカルゴリラのクラスメイトじゃないんだから、私の腕力ではそんな事不可能だ。

 

「ひっ」

 

 私は自らの力で立ち上がる。闇の中から黒いモヤがゆっくりと人形を作っていく。それは、私よりも大きな形となった。彼の黄金色の瞳が私を真っ直ぐ射貫く。

 

「私の名前は、神無月澪花」

『我が名は平将門』

 

 魂との縁が結ばれ、今ここに契約は結ばれた。

 

「殺しはしないでね」

『あぁ、“殺し”はしない』

 

 足元に広がる闇から、ゆらりと立ち上がってくる影達。不定形の物から、人型のものまで、様々な形の怨霊が召喚される。その中には、私の髪によく似た美しい女――滝夜叉姫の姿もあった。

 

『我が娘よ、ひと暴れするか』

『はい、父上』

 

 ここにあるは――怨霊の百鬼夜行。そこら彼処から高専内にいた呪術師の悲鳴が聞こえる。それでも、私はこの歩みを止めることなど出来ない。

 

 これが私の選んだ道だから。

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