腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました 作:しらたま大福
「概ね作戦は順調……かぁ」
偵察用に出している怨霊の視界から星漿体の姿を視認する。(ちなみに現在将門公と滝夜叉姫は等級が高すぎて、下手に出しておくと向こうに気取られるため今回はお留守番だ。やろうと思えばすぐに召喚できるからあんまりお留守番という言葉も当てはまらないけど)
怨霊の視界越しから見る彼女は友達と笑い合っており、とても楽しそうだ。そんな彼女の姿は、誰が見ても学校生活をエンジョイしているように思えた。
早朝に呪詛師集団「Q」が真っ先に彼女たちに仕掛けた時は今後どうなるかと思ったが……今回高専から派遣された1級呪術師である五条の坊ちゃんと、同じく1級呪術師の子が彼女を助けたようなので我々の出番は無かった。特に最高戦力と呼ばれるバイエルなる人物が呆気なく五条の坊ちゃんにやられていたのは失礼ながらも笑ってしまった。あんなに弱いのに最高戦力だなんて笑うに決まっている。そして、最高戦力を失った呪詛師集団「Q」は呆気なく瓦解してしまった。
ちなみにライバルが減った事によしよしと思いながら、そう言えば甚爾は何をしているかと思って視界を移すと、呑気に欠伸をしてたので後でシバこうかと思った。
とりあえず、現在の布陣としてはこんな感じだ。おネエ様と私が車待機で全体の指揮を執る。甚爾は星漿体の近くで待機、ヒッキーさんは自宅で何かあった際のネットでの情報収集、マッドさんと貴腐人さんは引き続き身代わりの作成、ニチアサ君は雑用、その他数名の所属呪術師は待機という形だ。
今朝のQの一件以来、他は目立った動きはない。なので偵察用に放ってある怨霊の視界を代わる代わるジャックし、全体の動きを掴むことに集中していた。
「ボス」
すると、おネエ様が静かな声で私を呼んだ。彼女の手には小さなノートパソコン、その画面がこちらに向けられる。
「懸賞金、掛かったわよ」
パソコンの画面に映る呪詛師が使う裏サイトには、天内理子の姿と3000万という数字が記されていた。その数字を見て私は小さく頷いた。
「甚爾の予想通りだね」
「流石ガオガオ君」
「甚爾のこういう所、本当にすごいと思う」
甚爾は星漿体に懸賞金が掛かることを予測していた。彼は「盤星教の連中は非術師の集団だ。自分達でどうにも出来ねえから、呪詛師や術師殺しを雇うに決まってる。まぁ、俺だったら手っ取り早く裏掲示板にそれなりの額で写真を貼ってバカどもに処理させるな」などと言っていたのだ。その言葉を信じ、ヒッキーさんに張り込んでもらってた所……見事にその予言はヒット。こうして、星漿体は無事に賞金首となった訳だ。
「本当、孔さんを買収しておいて良かった」
「きっちりこっちの指定通りの11時ね」
「甚爾の作戦通りいけるといいな」
甚爾の作戦を採用するために、恐らく仲介役で雇用されるであろう孔時雨を買収しておいたのだ。そのお陰で、向こうは自分達で設定したと思っていると思うが、実際はこちらの為にやっていることになるだろう。
「さて、賞金首の場所は割れ、一般人が沢山いるこの学校に呪詛師がいっぱい来る訳だけど……」
「確実に面倒な事になりそうね」
「皆さんの動きはいかほどに――」
再び視界を怨霊の方に切り替える。すると、数名のいかにもと言った人間達が続々と集合していた。しかし、高専チームもそれに気づいたのだろう、素早く対処に当たっている。
「うん、多分私たちはまだ出なくても大丈夫そう。五条の坊ちゃんとその友達が応戦してる。しかも、圧倒的実力差」
流石学生の内に1級にまで昇格した子供達である。この分だとあまり護衛の件は心配しなくても良さそうだ。
「でも一応待機組の呪術師、何人か処理に回してあげて」
「えぇ、分かったわ」
流石に私たちも少しは働かなければ、ずっと子供たちに任せっきりというのも体裁が悪いし。うんうんと言いながら何体かの怨霊の視点を切り替えていると、あることに気づいた。
「……あれ、黒井さんの姿が見えない」
「なんだか……嫌な予感がするわ」
「私も嫌な予感がする……」
二人で顔を見合わせていると――ピリリとおネエ様の携帯が鳴った。
「……はい、アタシよ」
神妙な表情で電話口に向かうおネエ様。その顔は確実にトラブル発生したぜとありありと書かれていた。……正直、めちゃくちゃ聞きたくない。
「そう、分かったわ」
携帯を顔から離し、彼女は私をスっと見据えた。
「ボス――黒井さんが攫われた」
「っ!」
「ヒッキーから連絡が来たわ、攫ったのは盤星教が雇った呪術師殺しと信者らしい。相手方は星漿体との交換を求めて、高専側と取引を持ちかけたみたい」
「交換、ねぇ……。向こうが大人しく交換に応じてくれると思わないけど」
高専側が応じるかも分からない、盤星教が黒井さんに害をなさないとも限らない。まぁきっと盤星教は追い詰められてるから……。
「このままだと黒井さん、殺されるよね」
「きっとそうでしょうね」
人質の安全保障もない、高専側も取引に応じてくれるかも分からないこの現状。私がやらなければならないことは、1つに決まっている。
「分かりました――私が行きましょう」
「そっちにも応援回す?」
「要りません、私一人で十分です」
「了解、程々にしてあげなさいよ」
「えぇ、任せてくださいよ。あと、ついでにヒッキーさんに盤星教に引導を渡してあげてくださいと伝えてもらっても良いですか?」
「ボス、怒ってるわね」
「それはそうですよ、まさかうちの依頼主にまで手を出すんですから」
私たちの大切な依頼主に手を出すなんていい度胸だ。彼女が死んでしまったら、星漿体の子を助けても意味が無い。
星漿体の子――天内理子ちゃんの家族は、黒井さんだけなのだから。家族を離すのはとても大きな罪である。一緒に暮らせるのであるならば、共にある方が幸せなのだから。
「この借りは――きっちり返させてもらいます」