腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました 作:しらたま大福
そんな訳で私達は沖縄へとやってきた。一晩寝て考えた結果、黒井さんが向こうのチームと合流するために、彼女には一芝居打ってもらう事となった。その名も「黒井美里最強伝説」である。沖縄まで連れてこられた彼女は、一瞬の隙を付いて敵をバッタ、バッタ、と切り捨て自力で脱出したという作戦である。
……うん、かなり無理が厳しい話だと思ったが、無事に星漿体の子や五条の坊ちゃん達と海水浴を楽しんでいる姿を見れば、何とかなったようだ。沖縄まで来れば、気軽にお小遣い稼ぎでやってくる呪詛師の数もぐっと減り、私達は完全にお役御免となった。
楽しそうに砂浜を駆ける若者達の姿を遠くから眺めながら、私は隣に座っていた甚爾に問いかけた。
「所で相棒」
「あ、何だ?」
「どうしてこんな遠くまで彼女を連れてこいなんて言ったの?」
「んなもん、アイツらの油断を誘うために決まってんだろ」
「やっぱりかー」
なんとなくそんな気はしていたんだ。遠く離れた地、攫われた人質、仮初の制限時間。きっと彼らは、高専の結界内に入ったら安心して警戒が緩むはずだ。特に五条家の坊ちゃんは無下限術式の使い手、常に無下限を張り続けているのが現状であろう。
無下限を張ったままでもいけると思うが、少しでも障害は少ない方がいいに決まっている。だから彼はこうしてまどろっこしい事を考えたのだろう。
「大方、無事に人質を助けられ、懸賞金の時間も過ぎ、高専の結界内部に入って安心したところを襲撃するつもりでしょ?」
「流石だな」
「なんたって相棒ですからね」
「フン、そうだったな」
そして、きっと彼は否定すると思うけど――星漿体の子の思い出づくりをさせてあげたいと思う気持ちもあるのだろう。
『星漿体』それは普通の人と違う特別な人間。きっと彼女は、こうして今まで友達や
そんな優しい甚爾ではあるが、一つだけ釘を刺しておかなければならない。
「でも、くれぐれも"保険"をかける時にやりすぎるのは辞めてね?」
「あー……善処はする」
そう言う彼は、不自然に視線をそっとズラしていた。この男、さてはあまり自信がないな。
「甚爾の善処は当てにならないんだよなぁ」
「相棒を信じられないのかよ」
「7割は信じてるよ」
「この野郎」
ムッとした甚爾は、私の頭へと手を伸ばしそのまま突いてきた。
「いたっ、ちょっと小突かないでよ!」
フィジカルゴリラの力は強い。彼にとってはちょっと構う程度のつもりなのだろうが、私にとっては地味な痛さである。そんなフィジカルゴリラに物申そうとすれば、彼はニヤニヤしながら人のつむじを押し始めた。
「こら、つむじも押すな!」
「ちょうどいい所に頭があったんでな」
「チビと言いたいのか⁉︎」
「女はこれぐらいの身長の方が可愛いぜ」
「そうやって雑に機嫌を取ろうとするな!」
「ほら、これ食って機嫌直せ」
「むぐっ!?」
口に突っ込まれたクッキーみたいな何かをもそもそと咀嚼する。
「……おいしい」
「ちんすこうだとよ」
「ちんすこう……」
「沖縄の菓子らしい」
「変わった名前」
優しい甘さのお菓子を咀嚼していれば、いつの間にかさっきまでのムスッとした気持ちはなりを潜めてしまった。……というか私、チョロすぎなのでは??
流石にこれでは良くない、そう思って再び抗議しようとしたその瞬間。
「ほら、もっと食えよ」
「ちょ、!」
再び甚爾は私の口にちんすこうを突っ込んできた。楽しそうに人の口にちんすこうを突っ込んでくる甚爾の腕をバシバシと叩く。無駄にムキムキでムチムチな太い彼の腕には、全くダメージが入っていない。う、己の非力さが悲しい……。
もそもそと与えられたお菓子を食べていると、ふと高専時代も二人でこうしていたことを思い出した。
「こうしてると、何だか昔を思い出すね」
「そうだな」
「あの時は確か、夜蛾先生が買ってきてくれたお土産を甚爾がひたすら私の口に突っ込んできたよね」
私達の恩師である夜蛾正道先生、多分今も高専で教鞭を取っているはずだ。ちなみに、明日は交渉のために彼に会いに行くつもりだ。
「お前が飯も碌に食わねえまま任務に行ってんのが悪いだろ」
「だってあの頃は上に逆らわず、言われるままに生きてたから……」
「俺はそれが気に食わなかったんだよ」
「本当に甚爾には感謝してるよ、多分あのまま言われるままに任務を受け続けていたら――きっと死んでたもの」
今なら分かる。学生にしては妙に多い任務、早く上がる等級。その頃の上層部は手っ取り早く任務で私を殉職させたかったのだろう。殉職まで行かなくても、等級の高い呪霊を祓いまくってもらう事によって向こうは得していたのだろうし。
「お前を
「ありがとう」
久しぶりに穏やかな時間がゆっくりと流れていったように感じた。
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