腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました   作:しらたま大福

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少女の意思

 沖縄2日目。大きな水槽が自慢の水族館で、天内理子は魚を眺めていた。大きな魚達は水槽を泳ぎ回り、小魚達は群れになって泳いでいた。妙にうるさい男子高生二人は呪詛師狩りの為に離席し、世話係の黒井も飲み物を買うために席を外した。

 

 一人でゆっくりと魚を見ているところに、赤い髪が特徴の女がそっと姿を表した。一人で魚を見ていた彼女がどうしてか気になった。ちらり、ちらりと視線を向けていたところ、彼女がハンカチを落とした瞬間を目撃した。

 理子はすぐ様そのハンカチを拾い、赤髪の女へと声をかけた。

 

「すみません、これ落としましたよ!」

「あら、ありがとう」

 

 振り向いた女性は、理子の手からハンカチを受け取った。理子は女性が動いた瞬間に香る花のような匂いに、これが大人の女……なんていう感想を抱いた。

 そんな理子を優しく見つめる女性は問いかけた。

 

「貴女――観光に来た子?」

「はい」

「どう、沖縄楽しい?」

「……はい、とっても楽しいです」

 

 理子の頭の中には、この数日皆で過ごした思い出がいっぱい詰まっていた。特に沖縄に来てからというもの、皆で海水浴をしたり、ボートに乗ったり、美味しいものを食べたり、普通の子供として沢山の思い出を作ることが出来た。

 これが、最期の思い出だなんてとても幸せな事だろうと彼女は思っていた。

 

 でも――本当はこれで"最期"になんてしたくなかった。もっといっぱい長生きしたい、楽しい思い出や、恋だってしたい。沢山の思い残すことがある。でも、 自分は選ばれた人間。この身が天元様と同化することは、自分が生まれた時から決まっていたこと。

 彼女は、今更拒んだってどうにもならないことだっていうことを知っていたのだ。

 

 そんな理子の葛藤を読むように、女は言葉を口にした。

 

「貴女、とても悩んでいる顔をしているわね」

「……そんな、ことは」

「悩むことは悪いことではないわ」

 

 女はそう言って理子の頬を撫でた。その優しい手の感触に、彼女は覚えていないはずの"母"という存在を感じた。

 

「もしよかったら、これをどうぞ」

「……これって」

「お守り」

 

 理子の手の中に握らされたのは、1つのペンダント。ランタンの形の中に、彼女の髪色によく似た赤い石が嵌め込まれたペンダント。オシャレなそのペンダントは、不思議なことに何だか暖炉の炎のような暖かいものを感じた。

 

「――貴女が生きたいと願うのであるならば、私たちは全力で"貴女を守ります"」

 

 "貴女を守ります"という言葉に、弾かれたように視線をあげた。金色に光る瞳が、優しく理子の姿を捉えていた。

 

「あ、あなたは――!」

「私は、ただ子供の明るい未来を守りたい一人の親です」

 

 彼女の慈母のような笑顔に、理子の心はキュッと締め付けられるような思いだった。もしかして、彼女は自分の未来を――そう思わずには居られなかった。

 

「さぁ、お戻りなさい。この地で遊べるのも限りがありますから」

「……っはい!」

「よろしい、とてもいい返事ですね」

 

 そう言った女は、最後にぽんぽんと理子の頭を撫でてから再び歩み始めた。遠ざかっていくその背中を、理子はいつまでも、いつまでも見つめていた。

 

 

 コツリ、コツリ、靴音を響かせながら赤髪の女は水族館から出た。その緩やかな足取りに近づく一人の男、その男に彼女は声をかけた。

 

「最後の仕込みは終わったよ」

「おう」

「じゃあ、私は一足先に本土に帰るから」

 

 彼女の携帯には一通のメールが届いていた。

 

「もしも、例の時間より私が遅くなってしまう時は――手筈通りに"殺して"」

「あぁ、分かった」

 

 その男――甚爾はニヤリとヴィランという名が相応しいかのように嗤う。

 

「嫌われ役は慣れてる」

「私はそんな貴方が好きだけどね」

「――ハッ、んな事何年も前から知ってるわ」

 

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