腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました 作:しらたま大福
――星漿体護衛任務、三日目の夕方。高専最下層、薨星宮参道にて。
夏油傑は激昂していた。
彼の目の前で、必死に「生きたい」と願っていた一人の少女は頭部を撃たれた。彼女は、自分の心に素直になって未来を望んだのに――。彼の脳裏には、二人で最強だと言っていた親友、星漿体に選ばれた以外は普通の女の子だった天内理子の笑顔、彼女を本当の家族のように愛していた世話係の姿が浮かんでいた。そして、彼は何も出来なかった自分に腹を立てた。
せめて、せめて天内理子と、親友のために――目の前に立ちはだかる男を殺さなければならないと決意した。
数々の呪霊を出しながら、夏油は甚爾との距離を縮めた。彼が使う[[rb:格納呪霊 > ぶきこ]]さえ押さえてしまえば勝てる、後は物量でなんとかすればいけると思っていた。
「終わりだな」
「オマエがな」
だがしかし、ここで夏油にとって予想外の出来事が襲った。それは――甚爾と格納呪霊の間に主従関係がなりたっていたのだ。格納呪霊を取り込もうとした夏油は、逆に甚爾からの反撃を喰らい床へと倒れた。
「……思ったより張り合いがなかったな」
呆気なく終わった戦闘に、甚爾はポリポリと頭を掻いた。天逆鉾を格納呪霊の中へ戻してから声を張り上げた。
「おい、もう来ていいぞ」
そう言って物陰に隠れている人物へと声を掛けた。その声に、物陰の人物――黒井美里はチラリと首を出した。そして、目の前の光景に言葉を失った。
「……っり、理子様‼︎」
まず最初に目に入ったのは、頭を撃ち抜かれ、絶命している大事な自分の主であった。縺れる足を叱咤くし、ノロノロと彼女の元へと駆け寄る。何度も転び、その身に小さな擦り傷を作ったとしても――彼女はその腕に、大事な家族を抱きしめた。まだ暖かい少女の体。流れる赤い液体が黒井の衣服を汚した。
「どうしてっ、……どうして!!」
「あー……そういえば、最悪プランになったこと言ってなかったな」
泣き叫ぶ黒井。その姿に彼は自分がやらかしたことを悟った。後で澪花にシバかれるななどと思いながら、彼女へと今の現状を軽く説明した。
「星漿体はまだ死んでねえ、今は仮死状態だ」
「……か、仮死状態?」
当時からの言葉と、天内理子の姿を見比べる。彼女の目に映る天内理子の姿は、全く仮死状態という言葉が信用できるような容体ではなかった。
「で、でもこの傷はどう考えても致命傷で!!」
「アイツを信用できないのか?」
「っ!」
甚爾からそう問われてしまえば、黒井は何も返すことが出来なかった。彼女の中には、確かに神無月澪花という人間に対する"信頼"があったのだ。はくはくと口を動かし、何か言葉を出そうとして辞めた。
神無月澪花という人物が信用する相棒がそういうのであるならば、きっとそうなのだろうと。彼女はそう自分に言い聞かせた。
「……分かりました」
「分かればいいんだよ」
軽く腕輪回してから、甚爾は黒井へと声をかけた。
「……時間がねえな。おい、とりあえず今すぐこの場を離れる。お前はその小娘を抱えろ」
「わ、わかりました!」
甚爾からの指示に、彼女はハッとしたように腕の中にいた少女を抱き抱えた。理子の血で汚れることも構わず、黒井はしっかりとその体を抱きしめた。決して二度と離すものかと誓いながら。
「外には俺が放った蠅頭がわんさかいる、上が混乱している今のうちに脱出するぞ」
彼女は小さく頷いてから、そっと視線を床に倒れ込む夏油へと向けた。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「五条様と、夏油様は……」
理子が仮死状態と仮定し、次に来なることと言えば彼らの安否の結果だった。血を流し、力なく倒れ込む姿は誰がどう見ても大丈夫じゃなさそうだった。
「あぁ、コイツらか。生きてるよ」
「そうですか……よかった」
生きているという言葉に、黒井は胸を撫で下ろした。黒井にとって、五条と夏油は信用出来る人間だったのだ。それを自分が雇った組織によって殺された時には――きっと彼女は深く後悔していたことであろう。
「おい、早く行くぞ」
甚爾はそう言ってエレベーターの方へと向かっていった。そして、黒井もまた彼の背を追いかけ薨星宮参道を後にする。エレベーターに乗り込む間際、黒井は小さく呟いた。
「……ごめんなさい、皆様」
ガシャリとエレベーターの扉は閉じられた。