腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました 作:しらたま大福
五条家の中でも、ごく一部の人間にしか伝わっていない無下限術式最終奥義「虚式――「茈」」。"順転"と"反転"、それぞれの無限を衝突させることで生成される仮想の質量を押し出す術。
それは、禪院家に生まれた禪院甚爾さえも知らない技。
五条悟はそれを"分かっていた"。甚爾は禪院家の生まれであり、どうして今までこんなに実力があったとしても表舞台に出てこなかったのか。それはきっと彼は呪力を全く持たない天与呪縛を受けた者であり、呪力や術式を持たない者は、"才能が大好きな"禪院家では人権が無いものだという事も想像がついた。
でも、五条にとってそんな事はどうでも良かった。この最終奥義を持って目の前に立ちはだかる伏黒甚爾(強力な敵)を倒すことにしか目がいってなかったからだ。
「虚式――「茈」」
甚爾が反応するよりも早く、それは彼の左腕あたりに向かって真っ直ぐ突き進む。彼がそれを天逆鉾で打ち消すよりも早く、彼の目の前に躍り出た赤が一つ。
「怨霊操術――『クロユリ』」
彼女の足元の影から勢いよく飛び出し、彼らを守るように立ちはだかったのは特級怨霊。
その特級怨霊は茈を受け止めはしたが、その勢いに負け相打ちという形でその姿を消した。はらはらと怨霊だったものが消えおちる中、ここにいるはずのない赤髪の女に――甚爾は問いかけた。
「っ澪花、どうしてここに」
「なんとなく、嫌な予感を感じてね」
彼に向かって振り返る女、神無月澪花は間に合ったのだ。己の相棒を失う運命の局面に――。
「……馬鹿だなぁ」
甚爾は、そんな彼女の姿になんとなく安心感を覚えた。彼にとって最初で最後の相棒であり、愛しいく、共に在るべき存在。まるで自分の半身のような彼女と共にあるならば、彼はきっとこの覚醒した呪術師にも負けはしないだろうなと漠然と感じた。
甚爾の中に巣食っていた"違和感"はなりを潜めた。
「この背は頼んだよ、相棒」
「わかってるわ」
彼らは二人で並び立つ。だって、正真正銘彼らは相棒同士なのだから。
「チッ、邪魔」
五条は、確実に甚爾にトドメを刺すために茈を放った。
しかし、予想外の乱入者に眉を顰めた。彼の茈を止めるために放たれた特級レベルの怨霊の召喚。特級怨霊を操る女、それは確実に彼女が自分と同等のレベルの術者という事実を実感させられた。
五条は反転術式を取得したことによって最強になったという自負はある。しかし、自分と同等レベルの術者二人と闘うには、少々骨が折れるなぁと五条は相変わらず空に浮かびながら思っていた。
そんな五条に、彼女は問いかけた。
「君は、五条君だよね?」
「そうだけど何、おばさん」
「お、おばさん……」
五条からの「おばさん」という言葉に、澪花はショックを受けた。彼女は自分はまだお姉さんの枠組みだと思っていたのに、年下の高校生からのおばさんという評価に現実を突きつけられたのだった。まぁ実際のところ、邪魔が入ってイライラした五条が嫌がらせのつもりでおばさん呼ばわりしただけではあるが……。まぁ、彼女はそんな事を知るわけも無い。
「おいおい、うちの峰不〇子に何言ってるんだよ」
「……ハ?」
「こら! そのネタはもういいでしょ!!」
「あぁ?」
「ガンもつけない!」
今までのシリアスな展開をぶち破り、突然始まった夫婦漫才。そんな場違いな雰囲気に、五条はボーッと新顔の女の顔を見てみる。なんだか、その顔に見覚えがあるような無いような気がしてきた。
「……オマエ、どっかで見た事ある顔だな」
澪花は、五条悟と会った記憶はない。神無月家は御三家のどの派閥にも所属しない中立的な立場。あえて言うなら、学生時代甚爾の同級生だった為か、何度か禪院家にはお邪魔したことはあるが、五条家には行ったことがなかった。
「いや、私は初めてあったけど……」
甚爾は、クソガキが人の嫁をナンパしてるななんて場違いなことを思っていた。彼は正妻の余裕で、全くもって
澪花からそう返された五条は、興味がなさそうに「ふーん」なんて返す。、向こうから聞いてきたのに、もう興味がないですと言った態度に、ちょっと澪花はカチンときたがいい大人なので水に流すことにしてあげた。
「で、所でオマエ何者?」
「私は、神無月澪花だって言えば分かるかな?」
「あぁ、例の上に呪詛師認定された特級怨霊憑き?」
「そうそう、その怨霊憑きだよ」
澪花は呪詛師に認定される前から特級呪術師&怨霊憑きだったこともあり、その名は有名だった。大体の人間、特に御三家の人間であるならば彼女の名前は知らないわけはなかったのだ。
「で、その呪詛師が何の用だよ? オマエも「Q」みたいにアイツの命狙ってたのかよ」
「いいえ、私達は違う。むしろ逆、彼女を助けたいと思ってた人間だよ」
澪花からのその言葉に、五条は米神をヒクりと動かした。一体どの面さげてそんな事を言うんだ、とすら思っていた。彼女とその隣に立つ甚爾の様子から、彼らは仲間であることは確かだ。
五条の親友である夏油は言った「あの男が、理子ちゃんの脳天を撃ち抜いて……彼女は死んだ。私は……何もできなかった」そう悔しそうに。親友が嘘を言うわけがないし、あの場には大量の血痕が残され、天内理子の遺体は消えていた。
「ハッ、んなもん言い訳じゃねえか。実際にアンタの隣にいるおっさんは、天内の事殺したじゃねえか」
「彼女は死んでなんか居ないよ」
彼女の嘘に、五条の中から忘れかけていた怒りという感情が沸々と湧き上がる。
「――寝言は寝て言えよ」
「寝言なんかじゃない。例え怒っていたとしても、君はもっと周りに目を向けた方がいいよ」
「はァ?」
五条はもう一度その手を構えた。確実に目の前にいる二人を殺すために。
「――死ねよ」
五条は、もう一度茈を打つために指を彼らへと向けた。
「甚爾」
「おう」
甚爾と澪花もそれに対処するために身構える。
「順転術式――「蒼」」
「蒼」の引き寄せる力が彼女達を襲うが、甚爾はその力を天逆鉾を使い打ち消す。
「反転術式――「赫」」
「――ヒガンバナ」
「赫」の弾く力は、澪花が使役する怨霊を盾に使うことにより甚爾の天逆鉾を防御に回すことなく防ぐ。彼女達は、互いの長所と短所を分かり尽くしていた。言葉を伝え合わなくても、自分が動くべき行動が手にとるようにわかっている。澪花は甚爾を信頼し、甚爾もまた澪花を信用する。彼女達はそうしてずっと学生時代の頃から共に戦ってきた。
五条からの止むことない攻撃ラッシュ。その最中、彼女は甚爾の力を借りて大空へと飛び上がった。そして、その体は空中に浮かび上がる五条の前へと現れる。
「私達は、彼女を助けるためにあの場所にきた。――その言葉に嘘偽りはない」
ご丁寧に目の前に飛び上がってきた澪花に、五条はニヤリと笑った。空中では、彼女が影から怨霊を呼びその身を盾にする速さよりも、彼の術が彼女の体を貫く方が先だろうと。
「――ハッ、嘘つきは死ねよ」
絶体絶命的な状況に、彼女は笑った。そんな彼女の唇が「おかえり」と動いた。その謎の行動に五条は眉を顰めたが、己のやるべきことを遂行するためにそのまま指で印を組んだ――その瞬間。
「もうやめてッ――!!」
「――は?」
この場で聞くことのないはずの声が、五条の耳に確かに届いた。その声にゆっくりと下に視線を向ければ、そこにいたのは――死んだはずの天内理子とその世話係の黒井美里だった。
もう二度と生きて会うことがないと思っていた人物との再会。その予想外の出来事に五条はその目を見開いた。
「――っ、あま、ない……」
「ね、あの通り無事でしょ?」
地面に降り立った五条と澪花。信じられないものを見た五条は、「どうして」と震える声で尋ねた。その声を受けて黒井はそっと前へと歩み出し、その頭を五条に向かって深々と下げた。
「五条様、大変申し訳ございません……。全ては、私がお嬢様を助けるために、この方達にお願いしたことなんです」
その言葉に、五条は頭をぶん殴られたかのような衝撃に襲われた。
「私達は黒井さんに頼まれた通り、星漿体である天内理子ちゃんを助けるためにこの数ヶ月ずっと準備してきました」
「……傑が、確かに天内は脳天ぶち抜かれて死んだって」
目の前の光景と、親友の証言。その意見の食い違いは、彼の中で大きな齟齬を生み、目の前の現実を受け入れられずにいた。そんな彼に、澪花はこう続けた。
「甚爾が理子ちゃんの脳天を撃ち抜いたのは本当です」
「俺が撃った銃弾は、体質だか遺伝子情報か忘れたがとりあえず星漿体を使い物にできなくする弾だ。そのガキはもう星漿体としての役割は果たせねえよ」
甚爾からのその言葉に、理子は小さく頷いた。そして、申し訳なさそうに五条の前へと立った。
「……役目を果たせなくてごめんなさい。でも、――
「……」
彼女のその目は、もう悩んでいた
「……はぁーあ、俺達の頑張り損じゃねえか」
彼女のそんな顔に、五条はやってられねーと言ったようにその頭を掻いた。癪に触る点もあるが、天内理子は生きているし、黒井美里も無事だ。この事実は五条にとって最悪の事態にはなっていない証拠だった。
今までハイになったテンションが、スッと元の値まで戻った。冷静に物事を判断できるようになってきた頭の中で、彼は澪花へと問いかけた。
「つーか、なんでオマエらが天内の為にそこまでしたんだよ」
五条にとっての疑問。それは、こんな面倒臭い事を、どうして他人とも言える彼女たちの為に行ったかと言う事だった。星漿体として活動できなくさせるための銃弾、
「そんなの――腐った
その顔は、ヴィランと呼ぶにふさわしいものだった。
「……――プッ、っぁははははははは‼︎ アンタ最高じゃん、人助けって言われるよりよっぽど信用できるわ」
そんな澪花の態度に、五条は爆笑した。いかにも呪術師らしい理由に、よっぽど人間らしさを感じたからだ。肩を震わせヒィヒィいと笑い転げる五条に、澪花は自分と近い何かを感じた。そんな五条に向かって、今度は澪花が問いかけた。
「ねぇ、老害(おじいちゃん)って好きかな?」
「もちろん――大っ嫌いに決まってんじゃん」
「奇遇だね、私も大っ嫌いなんだ」
「へー、おっさんの連れにしては中々趣味悪くねぇじゃん」
二人の間には、シンパシーのような何が芽生えた気がした。この分だったら、彼にあの取引のことを持ちかけてもいいのではないかと彼女は思い、そして決断した。
「ねぇ、五条君。私と協力関係を結ばない?」
「あぁ、協力関係?」
「そう」
彼女は、高専側にいる人物で協力関係を結べる者を探していた。それも普通の立場ではなく、できるだけ御三家に近く、それなりに発言力のある人物の協力者だ。
五条悟は、彼女が求める理想の人物である。御三家の人間であり、数百年ぶりに生まれた"無下限術式"と"六眼"の抱き合わせ。そして、先程の戦闘ではその実力を痛いほど実感した。きっと彼は本当に近い将来特級呪術師へとなるだろう。
「君はこのままでいいと思ってるの?」
「思わねえよ」
「でしょ? 私も同じ考えなの」
「……同じ考え同士なら、協力した方が効率的って事か」
「その通り」
澪花からの提案に、五条は考え込んだ。この神無月澪花という人物が信頼するに値するか、それともうまい事言って自分をたぶらかそうとしているのか――。
そして、彼は自分の目を信じて決断した。
「その提案――乗ってやっても良いぜ」
この神無月澪花という女の提案に乗ることを。
「よろしくね、五条君」
「おう」
ここに、彼らの間で協力関係という名の縛りが成立した。
「ところで、無理を承知というか、ちょっと面倒臭い事を一つだけお願いしたいんだけど――」
「あ? 何だよ」
「私と甚爾の子供のことをお願いしてもいいかな?」
彼女の口から出た、突然の子供の話。
「は?」
「えぇー夫婦!?」
「こ、子どももいるんですかぁ!?」
その子供の話題に、彼らは三者一様の反応を見せた。五条は会ったばかりの学生に、自分たちの子供を預けるなんて可笑しい奴らだと思ったし、こいつら出来てんのかよと思っての反応だった。しかし、一番最初に彼女達に接触しているはずの黒井さえも五条と同じように二人が夫婦で、子供もいるという事実に驚いていた。
「おい、五条の坊に頼んでもいいのかよ」
「だって、現状一番信頼できそうなのは彼でしょ?」
「だからってよりによってコイツかよ」
「しょうがないでしょ、彼が絶対一番最適解な気がするもん」
「もんじゃねえよ、もっとよく考えろ」なんて言いながら嫁を小突く甚爾と、「ちょっと、これ以上少ない脳細胞死滅させないでよ!」と言いながらムスッとする、そんな二人の突然のイチャイチャタイムに五条は「オエー、バカップルじゃねえか」とえずいた。この夫婦、直ぐにイチャイチャする万年新婚夫婦であった。
「あ、あの……」
「どうしました、黒井さん?」
「お、お二人って……夫婦だったんですか?」
「うーんと、元というか……何というか」
偽戸籍の際に結婚してました。なんて、複雑すぎる状況説明をしていいのか彼女は迷ったので、曖昧な表現方法となった。
「今は厳密にいうと戸籍は一緒じゃねえ、でも精神的には今でもこいつは嫁だよ」
「精神的には嫁って……、このおっさん頭イカれてんじゃん」
「あぁ? 何だと」
「こら、甚爾やめなさい! こちらにも色々と事情がある訳で……」
「ねぇねぇ、私子供の写真みたい!」
「私もぜひお二人の子供の写真みたいです!」
「えぇっ! ちょっと、無いけど……」
「あ? 俺の携帯の中にあるぞ」
「本当! 見る!」
この場はカオスな空間へと早変わり。ほんの数分まできっちりシリアスな雰囲気を纏っていた筈なのに、あっという間にシリアルな雰囲気へと変わってしまったのだ。
その数分後。
「ちょっとアンタ達! いつまでそんな所でブラブラやってんのよ!!」
そう言ってヒールを鳴らしながらやってきたおネエ様により、一行は茶でも飲むかと元盤星教の本部へと入っていったのであった。