腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました   作:しらたま大福

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再会

 

 鏡の前で念入りに髪型をチェックする。目立つ地毛の赤毛を真っ黒に染めあげ、長かった髪の毛を短く切った。今までと全く違う自分の姿は妙に見慣れない。

 

「……うわ、ぴょんぴょん跳ねてる」

 

 おまけに今までずっとロングだった為気付かなかったが、どうやら私は癖毛のようだった。どんなに櫛を入れたり、整髪剤で整えたとしても、しつこくこの髪はぴょんぴょんと跳ねるのだ。

 

『それもまた個性です、愛らしいですよ』

「そうは言っても……まるで寝癖みたいじゃん」

『何、気にすることでもないだろう。誰もお前の髪など見ていないのだから』

「それはそれで酷い!」

 

 私の死刑認定から三ヶ月が経った。怨霊百鬼夜行で盛大に高専から逃げ出した私はとりあえず東京から逃れ、地方へとやってきた。そんな私はとりあえず身を潜めることにしたのである。呪術師界を変えると言っても、ちょっとやそっとですぐ変わる訳がない。どうせ一思いに上を殺したとしても、全ての膿を取り出せる訳がないし、一人だとただの反逆者で終わる。独裁政治というものは長続きしないと相場が決まっているし。とりあえず、革命を起こすためには仲間が必要だという結論に落ち着いた。急いては事を仕損じると言うし、今はゆっくりと仲間を増やしていこうと言う方針にしたのだ。

 

 まぁ案の定、将門公はすぐに戦わないことにつまらなさそうにしてはいたが、滝夜叉姫が何かと言いくるめていたので良いとしよう。いつの時代でも、父親は娘に甘いんだなーと場違いな事を思ったものだ。

 こうして、私と愉快な(?)怨霊二人で新生活をスタートさせたのだ。

 

『それにしても、貴女の父君はよく新たな戸籍なるものを用意していましたね』

「多分、何となく私も母様と同じ運命になるんじゃないかと思ってたんじゃないかな……」

 

 地方に逃れてきてまず最初にしたことといえば、新たな戸籍をゲットすることだった。戸籍がなければ仕事も探せないし、住むところも借りれない。そんな行き詰まりの中、私は父の形見を思い出した。「困った時に開けなさい」と言われたカラクリ箱、それを開ければ中に入っていたのは新たな戸籍と新たな戸籍の名前名義の通帳だった。

 

 ちなみに私の新しい名前は、伏黒花である。真っ新な戸籍に、新しい通帳に入っていた沢山のお金。父様……本当にありがとう、娘はこの2つで当分は穏やかに生活していくことが出来そうです。

 そんな訳で無事に戸籍問題を解決した後は、学生時代に疎かになってしまっていた勉強に励んでいた。組織を再建するためには、給料のなんちゃらや、組織の運営のなんちゃらは必要不可欠。そこら辺の物は通信教育で補なおうと、せっせと勉強を始めたのだった。

 そんな感じで分からないことをじっくり学びながら新たな土地で過ごす日々は中々楽しい。(一応、時々腕が鈍らないように呪霊を祓ったりもしているのでそこら辺は大丈夫!)

 

 新しい生活をそれなりにエンジョイしている私だが、今日は久しぶりに少しおめかしをして買い物へと出かけることにしたのだ。いつも引きこもって勉強ばっかりしていては、気が滅入るのだ。高専時代だってそんなに遊びに行くなんてことは無かったから、たまにはいいだろう。

 お供はいつも通り滝夜叉姫、将門公はお留守番である。(お留守番と言っても私が呼び掛ければ直ぐに召喚できるので、あまりお留守番感は無いが……まあいいでしょう)

 

「じゃあ行ってきます〜」

 

 声をかければ、霊体化した将門公はテレビから目を離さないままひらひらと手を振ってくれた。こうして行ってきますといえば返してくれるので、将門公は意外といい怨霊である。(怨霊の時点でいい奴が適用されるかは知らないけど)

 そして私の護衛役である滝夜叉姫は、玄関から一歩踏み出した私の影の中にすっと潜り込んだ。

 

 今日は大きなお店がいっぱいある大きな駅前へと向かう。最寄りの駅から、電車に揺られながらボーとしていれば、段々とウトウトし出す。そういえば、こうして電車でウトウトするなんて高専以来だなぁ……。高専に通っていた頃は意外と楽しかった。20年ちょっと生きてきたが、ああして同い年と話したり、一緒に任務に行ったのなんて初めてだったし。

 高専時代、唯一のクラスメイトだった彼は、天与呪縛のせいで呪力が一切無かった。でも、天与呪縛で極限まで研ぎ澄まされた五感、恵まれた体格を使って呪霊を倒す姿はいつ見ても圧巻だった。それなりに体術をこなせる私でも、さすがにあのフィジカルゴリラにはいつも勝てなかったなぁ……。

 私を綺麗に投げ飛ばした後、簡単に投げられた私を馬鹿にしながらも、彼はいつも私に手を差し伸べてくれた。彼の大きくて硬いくて優しい手が大好きだった。

 

 そして私はいつの間にか……彼に恋していたのだ。あぁ、初恋は叶わないとはよく言ったものだ。確かにそうだったのだから。私は高専を卒業する時、彼に告白をするつもりだった。この先悔いのないように、と。でもーーどうしても出来なかった。この心地よい関係が壊れることが嫌だったし、彼にこの思いを拒絶させるのが怖かったからだ。

 結果、私たちは笑って「またね」と言い合った。「またね」と言ってのは、呪術師として活動していくのであるならば、いつか高専で再び顔を合わせると思ったからだ。

 でも結局、卒業した後に再び彼と会うことはなかった。そして、私は呪詛師認定されーー死刑を言い渡された。

 

「……もう一度くらい、最後に会いたかったなぁ」

 

 私の小さな独り言が、静かな電車内に消えていった。すると、電車のアナウンスは次に目的地である駅に着くと告げた。しんみりしてしまった気持ちを切り替えるように、私は鞄を背負い直し席を立った。

 

 

 改札を抜け、駅構内から出た。東京ほどではないが、それなりに大きなビルが立ち並ぶ駅前に思わず心が踊った。

 まずは一番近いお店から見に行こうと足を踏み出したその瞬間――。

 

「よぉ」

 

 こんな場所で聞くはずのない声が聞こえた。その声に反射的に振り返れば、そこいたのはここにいるはずのない人物。そして、その私の大きな優しい手が私の手首を掴んだのだ。

 

「久しぶりだな」

 

 私の目の前には、サラサラした黒髪に口元の傷、誰よりもガッシリとした体格の男性が居た。彼が私の手首を掴む力は、痛いほどではないが決して離さないと言っていた。

 

「ーーな、なん、で……?」

 

 私の手首を掴んだ人物、それは私の初恋相手である――禪院甚爾だった。ここで見るはずのない甚爾の姿。一目見れて嬉しい気持ちと、ここから今すぐ逃げなければならないと言う生存本能がぶつかり合う。何か喋らなければと思うほど、口の中が乾いてうまく喋れない。

 

「イメチェンか?」

 

 甚爾の手が、私の短くなって元気に跳ねる髪の毛に触れる。その手は悔しいほど変わらず優しかった。泣きたいけど、泣けない。そんな複雑な感情を飲み込んで私は口を開いた。

 

「……私を、殺しに来たの?」

 

 私がそう言えば、彼は不思議そうにぽっかりとその口を開いた。

 

「あ? なんで俺がお前を殺さねぇといけねぇんだよ」

「……私は、秘匿死刑を受けた身だから」

「らしいな」

 

 あっけらかんに言う甚爾。私の死刑判決を知らないわけじゃないのに――どうしてそんな風に言えるの? 沢山の非術師を殺し、今ものうのうと生きている呪詛師。それが世間一般的に見た今の私の状況であるのに。

 

「なぁ、澪花。お前、本当にやったのか?」

「……やっていないよ」

 

 「信じて貰えないと思うけど」と続ければ、甚爾は真面目な顔をして私を抱きしめた。私と全く違う男の人の腕、父とも全く違うその力強さに私は固まった。

 

「俺はお前を信じる――何があっても」

「……っ、」

 

 甚爾のその声に、私の瞳からは思わずポロリと涙がこぼれ落ちた。一度こぼれてしまえば、あとはせき止める物など存在しない。ぽろろ、ぽろりと流れ落ちた涙は、甚爾の服へと吸い込まれていく。

 

「あーあ、泣くんじゃねぇよ。ブサイクになるぞ」

「だ、誰が泣かせてると……思って!!」

「俺だな」

 

 嬉しそうにクックっと笑う甚爾の背中をバシバシと叩く。しかし、その強靭な体には全然ダメージが全く入ってないようでちょっと悔しい。くぅと唸る私に、甚爾は私の耳元で「まあ俺の話を聞け」と囁いた。妙に言い声にぞわりと背中が粟立った。

 

「澪花、好きだ」

 

 彼が私の耳元で囁いたのは、愛の言葉だった。その言葉はずっと、学生の頃に聞きたかった言葉。

 

「わ、わたしっ……命を、狙われる身だよ?」

「んな事どうだって言うんだよ。俺が何処の馬の骨とも分からねぇやつに愛してる女を殺させる奴だと思ってんのかよ?」

「……ううん」

 

 甚爾はとても強い。それこそ、家の邪魔が無ければ特級呪術師になれるほどの実力だ。だから、きっと彼がそこら辺の呪術師に負けることなんて無いだろう。

 

「俺はそう言う言葉が聞きたいんじゃねぇ、お前の気持ちが聞きてぇ」

 

 じっと真っ直ぐ私の事を見つめる甚爾に、私は完全に白旗を上げた。そして、長年ずっと喉元で堰き止めていた言葉をようやく紡ぐ。

 

「……あのね、私も甚爾のことが好き」

「あぁ、知ってる」

 

 「ちょっと人の告白にそれは酷くない!」と声を上げようとすれば、私の唇はそのまま彼の唇と重なった。突然の口づけに私は固まってしまい、ファーストキスはレモンの味がするなんていうジンクスが本当かなんて確認出来なかったのである。

 

 

 

 その後、諸々の買い物を済ませた後。

 

「おい、お前ん家何処だよ」

「ここから電車で30分の所」

「今日から邪魔すっから」

「え、何で?」

「あ? んなの家飛び出してきたからに決まってんだろ?」

「……家飛び出してきたの?? え、なんで??」

「あんな家に拘る価値もねぇ」

 

「……おーう、さっすが甚爾君」

「という訳で邪魔すっから」

 

 そんな訳で家に甚爾を連れて帰ったら、将門公は「ほう、良い拾い物をしたな」と爆笑した。(ちなみにずっと陰から見ていた滝夜叉姫は、私の学生時代の片思いを知っていたためとってもいい笑顔でした)

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