腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました 作:しらたま大福
夜の呪術高専の校舎の中に、私と甚爾の影がゆらりと揺らめいたいた。甚爾は元より呪力を持たない人間なので、高専の結界に弾かれることも気づかれることも無い。呪力を持つ私も、貴腐人さんが作ってくれた呪力を封印する呪符のお陰で透明人間のように侵入することが出来た。
そんな私達は、久しぶりに高専時代の恩師の元へと宣戦布告をする為にやってきた。本当は私一人で来るはずだったのだが、甚爾に「俺も久しぶりにセンセイの顔を見てやる」と押し切られてしまった。
協力関係となった五条君から、夜蛾先生は春から学長になる事が決定しているらしいと話を聞いたので、今回我ながら話し相手にナイスチョイスをしたものだと自分を褒めたものだ。
そんな事を思っていれば、あっという間に職員室へと来た。扉のガラスの部分を覗いてみれば、そこには頭を抱えた夜蛾先生の姿のみがあった。その姿にグッと親指を立てれば、甚爾も同じようにグッと親指を立てた。
そして、私達はガラリと扉を開け中に入る。
「……お前達は」
扉の音に気付き、こちらを振り返る夜蛾先輩。その目が驚きに見開かれる。
「よぉ、センセイ」
「夜蛾先生、お疲れ様です」
「……神無月と禪院か」
「はい、神無月澪花です。こうしてお会いするのも随分久しぶりですね」
「俺はもう禪院じゃねえけどな」
卒業して以来なので、少なくても6年以上は経っている。久しぶりに見る先輩の顔は、昔と変わらず強面のままだった。
「そうだな……神無月、お前は本当に呪詛師になったのか?」
夜蛾先生の問いかけに、私はゆっくりと首を横に振った。私はこの人生、一度だって一般人を手にかけたこともないし、呪詛師になんて協力した覚えもない。
「なるわけないじゃないですか」
「確かに、お前はそういう奴だ」
「さっすが俺らのセンセイだなぁ」
「ねー」
「……はぁ、お前達のその舐めた態度も随分久しぶりだな。で、お前達はどうして今日ここまで来たんだ?」
夜蛾先生の態度が、ガラッと変わる。今まで私達の知っている夜蛾先生だったが、今は高専の教師であり、呪術師である夜蛾正道という男のものに。
その態度に、私はスッと背筋を伸ばしてこう答えた。
「今日は、私が立ち上げた組織の代表者として――
「組織、だと?」
「私達は高専とも違う独自の組織を立ち上げました。そちらの上層部は頭が硬い、今時
「――まさか、お前達!」
私が言おうとしたことを察して、彼はこちらに吠えるように声を荒げた。
「えぇ、貴方達が死んだと思っている星漿体、天内理子は私達の研究した体質変更薬によって体質が変わりました」
「――っ!」
「よって、天元様との同化は不可能となりました」
「……何を、やってるんだ」
「おいおい、センセイ。人の話は最後まで聞いてやれよ」
「そうですよ、学生時代散々私達に言ってたじゃないですか」
「……はぁ」とため息をついてお腹を摩り出した夜蛾先生。その様子に首を傾げつつも、私は胸とからそっと一つの人形を取り出した。
「星漿体の体質変更の薬とともに、発明したのがこちらのヒトガタです」
たたらたったら〜と某猫型ロボットが秘密な道具を紹介するかのように掲げれば、「真面目にやれ」と甚爾に突っ込まれてしまった。ごめん、ついついネタを挟まないと死んでしまう病が出てしまって。
「これには、限りなく天内理子とほぼ同じなデータが詰まっています。本人が同化するより多少は落ちますが、人間を抹消するよりはマシだと思いますよ?」
人間の星漿体がどうかすれば、数百年は持つだろう。だが、我々の開発したヒトガタでは精々百年ちょっとが限界だろう。だが、倫理的に考えてどっちがマシかなんて月とスッポンだろう。
「信用出来ない気持ちは分かります。でも星漿体を失った
「……」
「まぁ不安がある気持ちは分かります。だって、私は呪詛師と言われた女ですからね」
呪詛師として死刑判決を受けて、今まで逃げてきたのもまた事実。そんなやつから貰った物を信用できる訳がないのも分かっている。
「だから、今回はこちらを差し上げます。そちらで好きに調べて頂いて構いませんし、捨ててもらっても構いません。まぁ、星漿体を失ったそちらに"その覚悟がある"ならの話になりますが」
「……何が望みだ?」
「私が望むのはこの
別に大金が欲しいとか、地位が欲しいとか、そういった事のために動いている訳ではない。今回私達が立ち上がったのは、全てはあの腐った上層部にギャフンと泣きっ面をかかせてやりたかったからだ。
「これは私達からの挑戦状。呪術界から切り捨てられたゴミである私達が、この世界を変えるためのはじめの一歩。夜蛾先生、どうか上によろしくお伝えくださいね」
ニコッと笑ってから、夜蛾先生へとヒトガタを投げる。先生は私の投げたそれをしっかりと受け取った。
「という訳で、今日は宣戦布告でした! お付き合い頂きありがとうございました」
「……はぁ、お前も随分自分の気持ちに素直になったな」
「はい」
「これは私個人的な意見だが……良かったと思う」
そういった先輩は、昔のように呆れたような表情だったが、その表情から本当に私を心配してくれていることがわかった。
「さっすが俺らのセンセイだな」
「ふふ、やっぱり先生は優しいですね」
くすくすと甚爾と笑い合っているところで、そういえばもう一つ先生にやってもらいたいことがあったことを思い出した。
「あ、ところでおじいちゃん達の代わりに「ぎゃふん」って言ってもらってもいいですか?」
「は??」
何で??と言いたいばかりに顔を歪めた先生に、私たちはしつこくギャフンコールをしたのであった。(最終的に私達のしつこさに負けてものすごく小さい声で「ぎゃふん」と言ってくれた)(ありがとう先生、大好きです)
*
東京から離れた地に、一人の目立つ青年が立っていた。それに対するのは、小さなくせっ毛の黒髪のショタであった。
「伏黒恵君だよね?」
「お兄ちゃんだれ? どうしてそんなすごい顔してるの?」
黒髪のショタ、伏黒恵の前に立ちはだかる長身の青年――五条悟はその端正な顔を歪ませ、まるですごい物を見たような顔をしていた。
「いや、あのおっさんにソックリだなと」
五条は、想像の1000倍おっさんこと伏黒甚爾にソックリすぎる子供の顔を見て、峰不○子の遺伝子どこに行ったと思っていた。
「もしかして、お父さんの知り合い! じゃあお兄ちゃんもマグロ漁師なの?」
こうして、伏黒ピュア恵からの突然の腹筋へ「伏黒甚爾、職業マグロ漁師」攻撃に――五条悟の腹筋は死んだのであった。