腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました   作:しらたま大福

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電話

 甚爾が拾った高専の生徒2名は、数日前に目を覚ましたらしい。私の仕事がひと段落着いた所で、私は甚爾と二人でマッドさんの研究室兼、治療施設へとやってきた。マッドさんの助手からの報告では、「あの人の心がないマッドサイエンティストは、起きたばっかりの怪我人に「キミ、術式死んじゃったね~。どんまい~」なんて軽率に話してて、本当に人の心がないやつだと思いました」などという報告が上がっている。

 ……これは、本当にその子のメンタルのことを考えると申し訳ない気持ちになる。これは確実に上司として、頭を下げなければならない案件だ。部下の責任は上司が取る……これはいつの時代になっても変わらない常識だ。いくら相手が年下の未成年の子供だとしても、彼は立派な呪術師だ。……本当に申し訳ないことになってしまった。

 

「……はぁ」

「ため息つくと幸せが逃げるぞ」

「……分かってるよ」

 

 重い足を必死に動かし、彼らが入院している病室の扉を開けた。ガラガラと病室の扉が開けば、中にいる青年達は一斉にこちらの方へと振り向いた。

 

「あ、こんにちはー!」

「……こんにちは」

 

 黒髪の青年は元気よさげに、金髪の青年は落ち着いた態度で私達に対応した。どちらの子が例の灰原君なのかは分からないが、思ったよりもそこまで落ち込んでなさそうで少しだけ安心した。

 

「こんにちは――」

「あーっ!! その髪色――もしかして、あなたが例のマスターさんですか!!」

「……えっと、はい。マッドさんにマスターと呼ばれているのは私ですけど」

「やっぱり!! そうだと思いました!! なんかオーラが凄いので直ぐに分かりましたよ!! ところで――」

 

 回る、回る黒髪の青年の口。ポンポン出てくる言葉と、わやわやと楽しそうに話す黒髪の子のテンションに私はついていけなかった。こ、これが若さというものなのか……。そっと助けを求めるように甚爾へと視線を向ければ……甚爾はそっと目を逸らした。ははぁーん、さては私を助ける気は無いな。後で覚えておきなさい!!

 

「あ、僕の名前は灰原雄っていいます! あ、こっちは同級生の七海です!」

「……七海建人です」

 

 彼らの自己紹介に思わず目を見開いてしまった。だって、この元気の良さそうな黒髪の子が――灰原君だなんて、予想外だったのだ。

 

「えっと、神無月澪花です。そしてこっちが、伏黒甚爾です」

 

 ツンツンと甚爾を突っつけば、彼はひらりと手を挙げ挨拶する。そんな私達に対して灰原君は「よろしくお願いしまーす!!」なんて元気よく挨拶した。……包帯ぐるぐるなのにとっても元気だなぁ、もしかして……これが若さと言う奴なのか。

 

 

「本当、ここ秘密組織みたいでかっこいいですね!」

「灰原」

「マスター? 澪花さん? ボス? 親分? 大将? 一体どれで呼んだらいいですか!!」

 

 灰原君、勢いが凄すぎておばさんついて行けないよ……。こ、これが若さと言う奴か……。(二回目)

 

「えっと、その……」

「おい、そこら辺でやめてやれよ。ウチの相棒が困ってんだろ」

 

 私が若さについて行けず、しどろもどろしていると、ようやく甚爾からの天の助けが入った。甚爾ならきっと助けてくれると信じていたよ……!!

 

「そうですよ、こちらは助けて貰った身。そうやって迫るのはやめてください」

「七海のケチ〜!」

「ケチではありません、教育です」

「俺と七海、同い年なのに?」

「同い年もクソも関係ありません」

「え~~」

 

 ギャーギャーと言い合う灰原君と七海君。あまりにも普段(?)と変わらない態度に、本当に彼らはマッドさんからあの話を聞いたのだろうか……。この態度ではどう考えても聞いてないと言われた方が納得出来る。

 ……うじうじ考えていてもしょうがない。ここは覚悟を決めて彼に伝えなければ。

 

「あの……灰原君、本当にマッドさんから例の話聞いたの?」

「あぁ、術式が死んだって言う話ですか? もちろん聞きました!」

「その……気になったりとかしないの?」

 

 術式と言うものは、呪術師にとって大事なもの。甚爾のように呪具で戦う人間もいるが、術式を持っているのであるならば普通は術式メインの戦闘スタイルになる。

 "初めから持っていたもの"と"初めから無かったもの"では、全然訳が違う。持っていないのであるならば、無いなりに自分の力で生きるという覚悟が自然とできるものだ。しかし、最初から持っていたものを亡くすというのは、メンタルが復帰するのにも時間はかかってしまう。

 もしも、私が自分の術式を使えなくなってしまったとしたら――かなり凹むと思う。私にはやるべき事があるから、決して折れることはないと思うが……落ち込まない訳では無い。

 

「まぁ、術式が使えなくなったのは正直痛いなーって思いますけど――でも、生きてれば何とかなります」

 

 灰原君はにっと笑った。その笑顔は、もうすっかり自分の中での折り合いを付けている人の顔だった。

 

「――灰原は、こういう奴なんです」

「いえーい! 切り替えが早い灰原君です!」

 

 ……なんだ、私の心配損か。それなら良かった。

 

「あ、甚爾さん!俺達を助けてくださってありがとうございます」

「おう」

「灰原君は強いね」

「人を見る目と、メンタルの強さは誰にも負けませんよ!」

 

 灰原君は本当に呪術師なのだろうか……。良い子すぎると言う意味で。せめて、高専に帰るまではここでしっかり休んでいって貰いたい。

 

「二人ともお疲れ様、ここにいる間はゆっくり療養していってね」

 

 ポンポンと彼らの頭を撫でる。

 

「……っ」

「……ぅ」

 

 このぐらいの年になると、人に頭を撫でられるという事は少なくなる。そのため、彼らの顔はじわじわと赤くなってしまった。うん、初で可愛らしい。

 

「事案」

「失礼な、私は可愛い後輩に手は出しません」

 

 幼気な後輩に決して手は出しませんよ。というか、私貴方との間に恵という可愛い息子と、津美紀という可愛らしい娘がいるんですから!

 さすがにそう言う訳にもいかないので、違う言い訳を述べようとした瞬間――。

 

 ポケットに入れていた携帯からバイブの振動が伝わってきた。ポケットに手を突っ込み、携帯のディスプレイの部分を見れば「由基ちゃん」という文字が表示されていた。

 

 

「ごめんね、ちょっと電話に出てくる」

「はーい」

 

 彼らに断りを入れてから病室を出る。後ろから大きなお荷物(とうじ)が付いてきている気がするが、そっとスルーすることにした。

 

「はい、もしもし」

『先輩ー久しぶり!』

 

 電話口の向こうから聞こえてくるのは、元気そうな由基ちゃんの声だった。ガヤガヤとうるさい環境音に、相変わらず外国で色々飛び回っているんだなぁなんて思った。

 

「久しぶりだね、どうしたの?」

『実はあって欲しい子がいるんですよ』

「会って欲しい子?」

『いい男ですよ? 先輩きっと好みです』

「本当、それは気になるなぁ」

「おい、堂々と浮気宣言か?」

 

 由基ちゃんの軽口に乗った瞬間、私の頭にドスという音と共に甚爾の顎が刺さった。何か気に食わないことがあった時に、人の頭に顎を突き刺すのは辞めて欲しい。それ、地味に痛いんだけど。

 

「甚爾、人の頭に顎を刺さないで」

「お前の頭がちょうど良い高さにあるのが悪い」

「横暴……」

『禪院先輩は相変わらずだね』

 

 カラカラと電話口の向こうから、由基ちゃんの笑い声が聞こえる。おおよそ学生時代の頃の事を思い出しているのだろう。甚爾は割と昔からこんな感じだったし。

 

「まあね」

『じゃあ、馬に蹴られたくないのでそろそろお暇しますよ。詳しい詳細は後で送るんで~』

「了解」

 

 電話を切った後、直ぐにメールが届いたという通知が届いた。さてされ、可愛い後輩からのお願いは叶えてあげますか。

 

 

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