腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました   作:しらたま大福

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本来の姿

 女子トイレの鏡の前。鏡に映るのはセミロングの赤髪に、金色の瞳の女。その姿は先日まで伏黒花として生きていた女の姿ではなく、神無月澪花としての本来の姿だった。

『よくお似合いですよ、我が主』

「滝夜叉姫、ありがとう」

 生まれ持った髪色、瞳の色を隠して五年の時を過ごした。初めは見慣れなかったあの伏黒花としての姿。しかし、五年という月日が経つにつれてあちらの姿にすっかり慣れてしまったため、本来の姿は何だか不思議な気分だ。

『では、そろそろ参りましょう』

 滝夜叉姫からの言葉に、私は念の為に用意している呪具が入ったバックを担ぎ直し、トイレから出た。そして、私達が向かうのは呪霊が出現してると噂の廃ビルだ。私たちは今から〝呪術師〟として、呪霊を祓いにいく。

 さてさて、どうして私が神無月澪花の姿に戻り呪霊を祓いに行くかというと――全ては将門公からの指示である。

 

◇ ◇ ◇

 

『この腐った世界を変えたいのであるならば、まずお前は本来の姿に戻れ』

 突然出た将門公からの言葉に、私は彼の言葉の真意を読み取れず首を傾げた。

「将門公、どうしてですか? 私はこんな見た目ですから、直ぐに他の呪術師に見つかりますよ?」

 正直、私の見た目はかなりド派手だ。瞳の色はカラコンなどですぐに変えられるからまだいい。だが、一番問題なのはこの見事な赤毛である。別に染めた訳でもないこの地毛は、知っている人物が遠くから見れば直ぐに私だとバレてしまうほど特徴的であった。

 だから伏黒花時代は髪を染め、カラコンをつけて過ごしていたのに……一体どうして突然元に戻せというんだろうか?

『なに〝見つかるだけ〟だろ。お前は殺されるわけがないと確信している、違うか?』

 将門公の言う通りだ。

「……そうですね、今の私は誰にもこの首をあげるつもりはないです」

 今の私は恵の未来のため、母の復讐のために東京(ここ)に舞い戻ってきたのだ。一応これでも特級呪術師へとのし上がった身である。そんじゃそこらの呪術師に負けるわけがないと自負できる。

「私を殺すんだったら、必要最低限特級呪術師でも連れてきてもらわないと」

『それもそうだ』

 一級の呪術師でも私には叶わない。まぁ、さすがに百人程一級呪術師連れてこられたらまた話は変わるけど。

『お前がこの先も己の善性を失わないと言うのであるならば、ありのままの姿で成すべきことをすれば良い』

「ありのままの姿?」

 ありのままの姿……それはきっと神無月澪花としての姿のことだろう。

『呪詛師である神無月澪花が……非呪術師を助ける為に呪霊と戦っている。これは本来ならば可笑しいことだ。呪詛師は人を傷つける害虫、人を助けるわけが無い。では、何故呪詛師であるはずの神無月澪花が呪霊と戦い、人を助けているのか?』

「……」

『それは――神無月澪花が、呪詛師ではないからだ』

 ……確かに将門公の言う通りだ。私は決して呪詛師などではなく、この心は今でも呪術師だ。それは向こうに裏切られた今でも変わることの無い事実。

 つまり、私は何も変わっていないということを証明し続ければいいということなのだろう。

「あえて人前に出て、呪霊を祓ったりして良い行いをし、私の無実を証明するって事ですか。でも、……そんなに上手く行きますかね?」

『さてな、無実の証明まで行くかは分からん。だが――今回の真の目的は別のところにある』

「真の目的?」

 首を傾げた私に、将門公はニヤリとその口角を上げた。

『それは――あの腐った上層部に不信感を覚える者を増やすことだ。小さな一つの亀裂が積み重なれば、それはいつか大きなヒビとなる。組織を率いるにおいて、一番大切はことは臣下を信頼させることだ。己の寝首をかかれぬよう権力を示し、現代的に言うとカリスマ性なるもので信用させる。世の天下人はそうして家臣の信頼を掴み取ってきた』

『一度でも疑えば後は簡単です。信頼を得るには時間がかかりますが、失うのは一瞬ですからね』

『呪術師の一部で、お前が受けた判決に対する疑問の声が上がれば、上はそれに対処しなければならない。対処をしなければ、それだけ信頼度も下がり、不満は広がる。最終的な対処の結果が、呪詛師判決の取り消しまでいったらそれは儲けもの』

 将門公の言いたいことは何となく伝わった。私が無罪かもしれないと人々が思えば、上層部に対する不信感が上がっていくという訳なのだろう。

「でも元の姿に戻ったぐらいで、皆私の事分かるんですかね? 高専所属時代から結構たってますし、私ってそんなに特徴的な顔はしてないんですけど……」

 そんな私の言葉に、将門公は馬鹿にしたように鼻で笑った。

『何のためにその髪を授けたと思っている? 大将首は目立つ方がいいに決まっているだろ』

「も、もしかしてこの髪色って……将門公チョイスとかだったりします?」

『あぁ、派手で血のように美しい色だろ?』

『父上は本当にこの色がお好きですね』

 通りで、神無月家でこの髪色を持って生まれたのは私だけだった訳だよ……! 父も母も普通の髪色だったのに、生まれた私は滝夜叉姫と同じ髪色の赤ん坊……。母が怨霊憑きだったから、何かの影響で滝夜叉姫と同じ髪色になったのかもと言われていたのに……。これが、まさかの将門公からの贈り物だったとは……もしかして、意外とこの髪色重要だったりする感じ?

「……大丈夫かなぁ」

『なに、難しいことではない。お前はお前のまま変わらず、なすべき事を行っていれば、自ずと結果は伴う』

 にっと笑った将門公。そのどこか悪役じみた表情に一抹の不安は感じるが、私は将門公の言葉を信用することにした。

 

 


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