腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました 作:しらたま大福
時間というのは有限である。呪術師界に喧嘩を売るために始めた「星漿体奪還計画」。おおよその計画は立て、着々と準備を行なってきた。研究チームは、時には発狂、時には机に沈む仲間達を励ましながら日々を過ごしてきた。そして――ついに四日後が天元様の同化の日となった。
明日からは、私達の計画も本格的にスタートする。
そんな私たちではあるが、困った事が二つある。一つ目は星漿体の存在が、盤星教や呪詛師集団「Q」に漏れてしまったことだ。言っておくがこれは別に私たちが漏らしたわけではない、高専側から漏れたのだ。だからあんな時代遅れなパソコンを使うなとヒッキーが発狂していた。
二つ目は、星漿体の身代わりがまだ完成していない事だ。同化の日までに出来上がるかは五分五分だそうだ。イった目をしながらマッドさんは「必ず間に合わせますからね、ふふふふふふぅ」なんて言いながらキュインキュインしてた彼はホラーだった。……彼の助手の目は死んでたし、同じ医療課の人達は関わらないように5メートルほど離れて仕事をしていた。医療課は現在混沌の極みである。
そんな訳で割と前途多難な状況ではあるが、今の私にできることといったら彼らを信じることしかない。きっと彼らは大丈夫、ボスである私が信じなければ誰が信じるというのだ。
「ボス」
そんなことを思いながら、進捗情報のメールに返信を返していると声を掛けられた。
「ちょっといいかしら?」
私に声をかけてきたのは、おネエ様であった。部屋に入ってきた彼女は、何か小脇に包装された箱を抱えている。顔女達が所属する管理・情報課は所謂高専で言うところの"補助監督"にあたる役職だ。彼女達は明日からの任務が本番なので、今日は早めに解散した筈だ。……なのに、どうして一体こんな時間にやって来たのだろうか?
「いいけど……もしかして、何か不測の事態?」
「違うけど」
「あ、なんだ良かった……」
ほっと胸を撫で下ろした瞬間、彼女は私の前にその箱をずいっと差し出してきた。
「はい、ボス」
黒地の包装紙に、金色のリボン。いかにも高級ですといったラッピングがされた箱に、私は首を傾げた。
「……これは?」
「アタシ達からの贈り物よ」
「――え」
差し出された箱と、おネエ様の顔を何度も行ったり来たりする。そんな私の行動にクスクスと笑いながら、彼女は続けた。
「呪術師界に捨てられたアタシ達をすくい上げ、居場所を作ってくれたのはボス――アナタよ。絶対口では言わないけど、皆アナタに感謝してるの、これはその気持ち」
おネエ様が私に箱を開けるように指示をする。手触りの良いベルベットのリボン、それを解いてゆっくりと包装紙を開けてから箱を開ければ――そこには、一着のスーツがあった。
「これはボスの勝負服。あのスカしたクソジジイ共に舐められないように、最高級のブランド店でオーダーしたんだから」
おネエ様の笑顔に、私の胸には温かい何かが流れ込んだ。シワにならないように、丁寧にそれを抱きしめる。
「――っ、ありがとう」
「お礼はクソジジイの「ギャフン」がいいわ」
「オッケー、任せておいて」
この作戦、絶対に成功しなければならないなぁ。明日からは、しっかり気を張らないと。
「あ」
「え、何?」
「ガオガオ君が、勝負下着は俺が用意するって言ってたから今夜にでもくれるんじゃないかしら?」
「……甚爾のチョイス、絶対違う勝負下着じゃん!!」
「ボス達、本当に仲良いわねぇ。貴腐人じゃないから、そろそろアタシ火傷しそうだわ」
「私は尽く行われる甚爾の牽制にいつか発火しそう……」
今夜はちょっかいかけられないうちに、明日に備えてさっさと寝ようと心に決めた私であった。
時は来た。神無月澪花率いる第三勢力は、ついにこの日から呪術師界に喧嘩を売る。
上に立つものとして相応しい顔をした澪花は、部下から贈られたスーツに身を包み車へと乗り込んだ。
――そんな姿を建物の上から見つめる男女がいた。彼らの雰囲気は決して常人のそれとは違う。だって彼らは人ではないのだから。
『父上』
『五月か』
『はい、わたくしでございます』
彼らは、澪花と契約を交わした怨霊達である。あの日本三大怨霊の一人である平将門、そしてその娘である滝夜叉姫こと五月姫。
『何用か?』
『いえ、父上がとても楽しそうにしていらっしゃったので』
『そうか、この俺が楽しそうに見えると』
『はい』
『――あぁ、愉快、愉快。とても愉快だ』
堪えきれないといった笑みが、将門公の顔に浮かんでいた。
『見ろ、我が娘。アレが俺の選んだ珠玉だ』
彼が指差すその先、そこには数年前に権力に巻かれるようにひっそりと生きていた時の姿とは全く違う、上に立つべき人間として命を張る女の姿があった。
『さすが父上でございます、素晴らしい目利きです』
『アレこそが、新たにこの世を総べる新皇。俺の意志を継ぐ者。始まるぞ、この世をひっくり返す下剋上が――』
そう話す彼の口からは、くつり、くつり、押し殺すような嘲笑の声が漏れていた。
『嗚呼、楽しみだ』