追憶のレクイエム   作:菊薔薇牡丹

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先日投稿したシリーズの第二話です。pixivの方でも載せていた作品なのですが、このシリーズはハーメルンを主戦場としようと思い、先日から載せています。

ここまではpixivの方でもあげていますが、ここからはハーメルンで展開していく予定です。ハーメルンの方は使い始めたばかりの初心者なので暖かい目で見てくださると嬉しいです。


追想の協奏曲

「園子……さん?」

「久しぶりだね……鉄男くん」

零れた言葉に呼応するように、その女性――園子さんは静かに俺の名前を呼ぶ。

 

ずっと会いたかった人がそこにいる。

聞きたいこともいっぱいある。

知りたいことも沢山ある。

だけど……。

 

 

「なんで今更」

自分の口から飛び出たのは、今まで一度も出したことのないような低く冷たい声だった。

 

「姉ちゃんが亡くなってから、十三年が経ちました。あれから一度も、線香すらあげに来てくれなかったのに、今更、何をしようって言うんですか? なんで姉ちゃんを守ってくれなかった大赦なんかのトップになってるんですか? 姉ちゃんのこと、もう忘れちゃったんですか?」

 

俺の攻撃的な質問責めにも、園子さんはじっと耳を傾けて、甘んじて受け入れてくれていた。

 

俺だって、本当は分かっている。自分のこの意地悪は、八つ当たり以外の何物でもないということ。姉ちゃんが大好きだった友達の一人である園子さんが、姉ちゃんのことを忘れるはずがないということ。

だけどそれでも、質問という形で自分の思いを叫ばずにはいられなかった。

 

「すいません。ちょっと言い過ぎました……」

 

「ううん。鉄男くんの言うとおりだよ。ミノさんとミノさんの家族への後ろめたさから、ここに来るのが凄く遅くなっちゃったのは事実だし。ごめんね、鉄男くん」

 

本来、乃木家当主にして国のリーダーである園子さんにこんな事を言ったら、タダでは済まないだろう。だけど、彼女は俺の思いを否定せずに、謝罪の言葉を告げた。しかし、そこで終わりではなかった。

 

「だけど、一つだけ言えることは……ミノさんは、いつまでも、私にとっての大切な友達で、私がミノさんのことを忘れたことは一度たりとも無いってことだよ。これだけは信じてほしいな。私のことは嫌ってくれて構わないから」

 

どこか柔らかい声色でありながらも、一字一句、はっきりと丁寧に紡がれていく言葉には、暖かさと優しさ、そして覚悟と信念が感じ取れた。彼女の言葉を疑う理由がなかった。そして、それは……。

 

 

「良かった。その言葉を今までずっと望んでたから。本当に……良かった」

 

長く苦しいジレンマから俺を解き放ってくれるには 、十分すぎる言葉だった。

 

「本当は……ずっと信じてた。だけど、姉ちゃんが大好きだった二人が、姉ちゃんを大好きでいてくれた二人が、もし姉ちゃんのことを忘れてしまってたらって思ったら……怖かったんだ。そんな事あるはずないって否定しようとしても、悪い想像は消えなくて。苦しかった」

 

とめどなく溢れてくる涙を抑えられなくて、声を上げて泣き叫んだ。園子さんは何も言わずに俺をぎゅっと抱き締めてくれた。その優しい温もりに包まれて、もう一回泣いた。

 

 

 

 

 

 

「さっきは取り乱してしまって、すいませんでした」

 

園子さんに連れられてやって来た、姉ちゃんの墓参りを済ませて、改めて先の非礼を詫びる。

 

「いいんだよ、全然。それだけ鉄男君のミノさんへの思いを感じれたから」

そこで会話が止まり、空白の時間が生まれる。だけど、たとえ言葉で伝えなくても、二人の思いの先は同じところにある、そんな気がした。

 

「そろそろ帰ろっか」

 

園子さんの言葉で、帰路につく。大赦の車の中で、二人で姉ちゃんとの思い出話に華を咲かせた。楽しそうに、だけど、少し寂しそうに笑う園子さんの表情を見る度に、自分の胸が強く締め付けられるような感じがした。

 

「ここらでお別れかな。今日は本当にありがとね。凄く楽しかった」

 

車から降りて少し歩いた後、鳥居の先の十字路で園子さんはそう言った。夕日に照らされた彼女の顔は、眩しくてよく見えない。だけど、なんとなくこれで会えなくなってしまうような気がして。だから……

 

 

「園子さん、またね!」

俺は精一杯の笑顔で、再会の約束を意味する別れの挨拶を大声で叫んだ。

だけど……。

 

「ズルいよぉ……。ミノさんとよく似たその顔で、その表情で、そんな事言うのはズルいよぉ……」

 

「園子さん……」

 

「どうして一人で先に行っちゃったの……。どうして戻って来てくれなかったの、ミノさん……。三人じゃないとダメなんだよ。誰か一人でも欠けちゃったらダメなんだよお……」

 

そこにあったのは、今まで一度も見たことのなかった園子さんの泣き顔で。そしてそれは、大人っぽくなった『園子さん』としての表情ではなく、姉ちゃんと一緒にいた頃の『園子姉ちゃん』の表情だった。だからだろうか。溢れ出る涙や姉ちゃんへの想いが、俺の胸によりいっそう強く響く。

 

いつの間にか自然と、俺は自分の手のひらを、彼女の頭にそっと重ね合わせていた。いつの日か、姉ちゃんにそっと優しく撫でてもらった時のように。

 

「鉄男くん、お願い……その手を離して。このままじゃ、私……鉄男くんにミノさんを重ねちゃう」

 

「絶対に離しません。俺だって、周りの誰かに姉ちゃんのことをを重ねてしまう気持ちは凄くよく分かるから。今日、姉ちゃんに想いを馳せたり、その想いゆえに涙を流す園子さんを見て思ったんだ。姉ちゃんの分まで俺が、園子さん……いや、園子姉ちゃんの力になりたい。支えになりたい。その為なら俺は、姉ちゃんの代わりでいい」

 

「鉄男くん……」

 

考えるより先に口が動く。顔は紅潮して、声は震えている。何言ってるか正直分かんないし、でも自分でも相当恥ずかしいこと言ってるのも分かってる。だけど、この想いが自分の本心だというのも、分かっていた。

「なんなら、俺のことをミノさんって呼んでくれたって構わないから」

 

俺の覚悟は示したつもりだ。その気持ちが伝わったのか、彼女も慎重に口を開く。

 

「本当にありがとうね、鉄男くん。そう思ってくれてるってことが、凄く嬉しい。禊も済んだことだし、これ以上迷惑もかけたくなかったから、本当はもう、次はこないつもりだったんだけど、やめにする。だけど、鉄男くんのこと、ミノさんって呼ぶのはやめとくよ」

 

 

「だって、ミノさんはミノさんだから」

 

もう出尽くしたはずの涙が、とめどなく溢れた瞬間だった。

 

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