幼馴染彼女NTR転生   作:効果音

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またこの作者見切り発車して誤字脱字確認してない……ってコト!?


泣かないで、蓋をして

 未埜連理(いまのれんり)の一番古い記憶は、幼馴染みと結婚の約束をした時のことだ。

 ベタだベタだ。スティックのりみたいな外国産の飴みたいにベタベタなことだけど、どうにも夢で見る位には記憶に残っているらしい。

 

「それ、いらないの?」

「流石に男なのに、これ持ってるのはヤだよ」

 

 近所で毎年八月三日に行われている夏祭りを幼馴染みで家が近所の女の子の鳶一折紙と親同伴で回っていて、鞘が安っぽい金で塗られ刀身はペラっペラな刀を欲しがった俺は、親にくじ引きを引かせてもらったものの、当たったのはオモチャの指輪。

 女子向けのオモチャにガッカリしていたら折紙が羨ましそうな目でこちらを見ていた。

 

「……欲しいの?」

「……ほんのちょっぴり」

 

 いらない上に家にあるのが男友達にバレたらからかいを受ける物を恥ずかしそうだが引き取ってくれるのは願ったり叶ったりで、俺は折紙にそれを渡した。

 

「左手のくすり指にハメてくれないの?」

「なんでさ?」

「この前、テレビで男の人が女の人に指輪を渡すときは左手薬指にするって言ってた」

 

 それは結婚式の話であって、こういうのとは違うのでは?

 そもそも結婚って大人同士でするものだし、そうツッコミを入れると折紙は恥ずかしそうに、こちらに小指を差し出す。

 

「じゃあ、十年後に……け、結婚しよう。指輪、それまで捨てないで取っておくから」

「……えー、うーん。まぁいいや。ん、約束」

 

 折紙の提案した約束に何故か頭の中で『止めとけ、ロクなことにならない』と制止する気持ちがあったが、それを無視して、小指と小指を絡ませる

 ──指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ます。

 こどもの儀式をしていると両者の両親が、微笑ましいものを見る目をしながら頷いているのに気づいた俺はすぐに小指を離したところで記憶は途切れている。

 

 

 そんな夢を小学六年生の八月三日に見てしまっていた。

 来年からは中学生だ。小学生最後の夏休みをそんなちょっと人様には言えない経験は、さっさと忘れて時効にしてしまいたい。

 

「なんか、嫌な予感がする」

 

 八月三日。

 例年通りなら、夏祭りにたこ焼きでも買い帰って家で食べてお祭りの楽しさを捨てたような日を過ごす予定だったのだが、何故か今日は家に居ては行けない気がする。

 

「何でだっけ……?」

 

 ベッドから抜け出し身支度を済ませ、少し駆け足でリビングに向かって母親に挨拶も忘れて出掛ける口実を思い付きで話した。

 

「母さん! 今日は父さんも家に居るし、どっか出掛けようよ! 車で良い感じのとこにさ! ばあちゃんの家の畑でも良いからさ!」

「朝起きたら先に挨拶って言ってるでしょ! それにアンタ去年行ったら手伝わずに暇そうにしてたじゃない」

 

 母さんが痛いところを突いてくる。確かに去年の夏休みに行った時は暑くて疲れるからっていう理由で縁側で麦茶飲んでた記憶しかないけど、今回は引けない。

 

「父さんは?」

「そうだなぁ……たまには突発で行くのも良いだろう。行こっか」

「すーぐそうやって連理を甘やかすんだから、たくもう」

 

 父さんの気紛れか、それとも機嫌が良かっただけなのか分からなかったが出掛けることが確定して安堵していた。

 俺の両親は特別厳しい家庭でもなかったし、かと言って放任主義でもなく、やりたいことは言えばできる限りの範囲で叶えてくれる親だった。

 

「そういえば、連理。もう夏祭りは折紙ちゃんと行ってないのか?」

「いや、行かないけど? 普通に夏祭りでも何でも遊ぶなら友達と行くし」

 

 素っ気なく父さんにそう言うと、落ち込んだ様子でメガネのレンズをメガネ拭きで磨き始めた。

 今朝見た夢が夢なせいで何のことを言っているか大体予想がついたが、もう向こうも忘れているだろうし男子と遊ぶことも早々ないだろう。

 

「よし、お昼過ぎに出よっか」

 

 こういう時、化粧をする母さんが一番時間を使うのだが、父さんは父さんでそれを読んで到着が丁度よくなる時に出発を決めた。

 それまで結構時間が開いていたせいで、暇になって近くを散歩しようと外に出るとこれから出掛けるタイミングだったらしい折紙と鉢合わせた。

 

「あ、おはよう。連理はこれからどっか行くの?」

「おはよ。ばあちゃんちの方に行くけど、まだ出ないかな」

 

 何だかんだで一対一で他に誰も居ない所で話すのはかなり久しぶりだ。

 こっちも言葉は出てこないし、折紙も何か言葉に詰まってる感じがする。

 

「そう、なんだ。あっ、連理は今日のお祭りは?」

「たこ焼き買うだけかな。ここ数年は買うだけで家で食べてる」

「私は毎年ちゃんと行ってるよ。母さんが浴衣着せてくれるから……その……」

 

 この調子だとあまり会話も続かなさそうだったこともあり、適当に話の落ちをつけて折紙とは別れて散歩を再開した。

 

「なんでああも母さんの化粧は長いんだろうか」

 

 誰に話してる訳でもない独り言を呟いていると、公園の近くで一人で寂しそうにしてる女の子を見つけた。

 年は三つくらい下で、炎髪灼眼と表せそうな短めのツインテールの子が夏休み真っ只中のこの時期に一人で公園に居るのは、少し気になる。

 

 ──止めておけ、関わるな。

 

 公園の方に足を伸ばそうとした瞬間に何かに足を止めさせられて、ふと目に入った時計が出発時間の五分前を指し示していて、後ろ髪を引かれる気持ちでその場を後にして、自宅前に待機していた父さんの車に乗り込んだ。

 

 嫌な予感から逃げるために起こした行動とあの女の子を見捨てたのは間違いだったと、言うように事故が起きた。

 車で天宮市から出て少しした位のタイミングで大火事が発生した。その大火事から逃げるようにスピードを無視して飛び出した車が俺の乗っている車に後ろから衝突。

 母さんは俺を抱いて庇って、父さんは俺の乗っている座席に何か危険が無いように限界までハンドルを離さなかったから死んだ。

 

 二人とも俺のせいで死んだのかもしれない。

 二人とも俺が確証もない嫌な予感で出掛けさせたから死んだのかもしれない。

 

 二人の葬儀はすぐに行われて、親戚の人や親の会社の人、交流がある人達を呼ばれていた。

 その一人一人が俺を見ると口を揃えて言う。

 

 ──君の両親は、君を守った。

 

 目線を子供の俺に合わせるために、屈んでそう告げてくる。

 ニュースでは天宮市の大火事の方が大事で、そっちのニュースが連日流れていた。

 見知らぬ人は、両親のことなんて知らないと言わんばかりに。

 身近な人は、親が死んだという話を綺麗な言葉だけを並べて美談にしようと。

 そう言っている様に見えただけだった。

 

「父さんは、母さんは──」

 

 違う。そうじゃない。

 

「──俺」

 

 一番、怖かったのは。

 

「何でこうなるって分かってたんだ……?」

 

 事故が起きた時に、驚きがなかった。

 人間極度の驚きに遭遇すると何も考えられなくなると言うが、そういうのじゃなかった。

 既に知っている感覚がした。

 

「──ん理! 連理!」

「折、紙?」

 

 葬儀が一段落して、待機所で座っていると折紙から話し掛けられていたことに気付いた。

 うちの近所で交流があったから呼ばれたのだろう。けど、彼女も彼女で大変だったはずだ。

 同じ地域に住んでるなら大火事の真っ只中にいたはずなのに血縁でもない人の葬儀に来てくれているのは何でだろうか。

 

「ようやく、返事してくれた。凄い顔してたから心配で声掛けちゃった」

「……居たの?」

「うん。最初からずっと」

 

 本当にそうなのだろう。ずっと隣で誰か相手が子供だから居てくれた大人じゃなくて、そうじゃない誰かが居てくれた気がしていた。

 

「ごめん……」

 

 昔から事故の時の既視感は、折紙と出会った時からずっと感じてた。

 それが気持ち悪くて、高学年になった辺りで避ける様にしてた。

 

「良いよ。そんなの……良いんだよ」

 

 その後、葬儀が終わるまで折紙はずっと隣に居たけど、何も話すこともなく、俺は親戚の家に引き取られる形で天宮市を去った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 それから丁度一年後、中学生になって住所も学校も変わり、ようやく俺は両親のことで折り合いを着け、嘘でも笑えるようになった頃に、折紙の両親が事故で亡くなった。

 俺を引き取ってくれた叔父さんは、鳶一家が両親の葬儀に来てくれたのを覚えていたらしく、俺に折紙家の葬儀に出るように言ってきた。

 

「……一年か」

 

 葬儀で焼香を上げた時に、既視感が一際強くなった。

 何故か折紙の両親の死について知っていた気がする。この事はどうやっても変えられない。どんな事があっても変えられないという確信だけがあった。

 一年前にこの感覚のせいで親を殺した筈なのに、人の親でもこうなってしまうのは無性に腹が立った。

 

「折紙」

「……あ、連理来てくれたんだ」

 

 一年前の写し鏡みたいに、俺と折紙は再会する。

 掛ける言葉なんて何が正しいかわからない。わからないけど、今は彼女の隣に居たくなった。

 このまま、あの時の俺みたいに喋らなくても良い。隣に居てくれただけで俺は──。

 

「……あのね、連理」

「ん」

「ごめんなさい……」

 

 俺に顔が見えない様に伏せた折紙が突然謝り出す。

 

「なんで謝るのさ」

「あの時、あんまり連理の気持ちわかってなかった。

 両親が亡くなって辛そうな連理を助けてあげたいってだけだった……」

 

 いざ自分もそうなって、という感じの折紙。彼女が感じているのは俺が当時感じてた物とは多分別種の、純粋な辛さだと思う。

 

「折紙。辛かったら泣いて良いんだと思う」

「連理はそうだったの……?」

「わかんない、わかんないよ。でも、こういう時は我慢しなくて良いと思う」

 

 そう言うと折紙は、決壊したダムみたい涙を流して泣いていた。

 それに対して何かする訳でもなく、ただ横に座っている。楽にしてあげたい訳でもなかった。気持ちを共有したい訳でもなかった。

 ただ、あの時みたいに泣けない所まで合わせ鏡みたいにならなくて良かったという気持ちが、心の中にある。

 

 それから何分か何時間経ったか、わからなかったが折紙が泣き止み、葬儀も滞りなく終わりを迎える。

 帰り道、叔父さんと折紙を引き取る予定の叔母さんが気を遣ったのか二人きりで話す時間を用意した。そういう関係でもないのに余計な気を遣ってくれる人達だ。

 

「今年も去年も夏祭り行けなかったね」

「折紙は行きたかったのか?」

「うん。毎年行ってたから、行きたかったよ。でも、来年からは叔母さんのとこに行くから難しいかな」

 

 そっか。と特に言うことも思い付かずに返事をする。

 

「ところでなんだけど、ちょっと手出して?」

「え? こう?」

 

 折紙に言われた通りに平手で手を差し出すと、小指以外を彼女の左手に畳まれて、逆の手で無理矢理指切りをさせられる。

 

「はい、約束。高校入る位に天宮市に戻ってきて、一緒にお祭り行こっか」

「いや、なんで?」

「教えてあげない」

 

 指切りを解いて逃げるように距離を取った折紙が振り向くと小学生時代の肩に触れるぐらいの長さから少し伸びた白色の髪と笑顔が妙に眩しく見えた。

 




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