幼馴染彼女NTR転生   作:効果音

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ずっとぼざろの二次週刊更新してました。申し訳ないです。
頑張ってこっちも更新進めます。


真実(ミスキャスト)

 期末テストも終わり、夏休み前日で一部の生徒が熱狂を抑えられずに暴れそうな七月下旬。少しだけ例年よりも空間震が多いと言われているが、一般学生の俺に何か関係あるかというとちょっとしたトラブル位の感覚でしかなく、部活にも入らずにだらだらとバイトと学業をこなしていくだけの日々が続いていた。

 

「夏休みだからといってはしゃぎ過ぎないように、以上。解散」

『しゃっあああああっあああ!!!!』

 

 事務的な挨拶を残して教室を去った教師を見送ったクラスの一同は、沸いた。

 お気に入りのアーティストのライブにでも来たような盛り上がり方をしていたため、下手に動くとノリが悪いと言われそうだったので、動かずにいる。

 

「おおう……皆元気だな」

「そんな元気の無い人生二週目みたいなこと言ってますけど、私は知ってますよ。未埜先輩」

 

 隣の席のツインテール女子、飛び級で入学したっていう。名前は確か……岡峰美紀恵だったっけ。

 皆がみっきーと呼ぶせいでたまに本名を忘れる。年下には代わりないからという理由で同輩に先輩付けを忘れない娘なんだけどね、うん。

 

「知ってるって、何を?」

「未埜先輩が折紙さんと屋上で密会していたり──」

「やめなさいよ!」

 

 多分まだ事実なところで岡峰の言葉を遮る。

 密会と言われれば密会かもしれないが、これ以上話を掘られると尾びれの付いた噂が蔓延しそうだったので、それだけは阻止しなければならなかった。

 

「誤解ないように言っとくけど、アイツは昔ご近所だったのが、今もたまたまご近所だってだけ」

「あ、なるほど~。そうだったんですね」

 

 あっさり信じたな……別のクラスで有名なトリオだったらもっと根掘り葉掘り聞いた上で妄言を周囲にばらまくというのに。

 

「それはそれとして、私A……じゃなくて、アルバイト先で折紙さんとよく会うんですけど、空間震の度に人助けして逃げ遅れてるって心配してましたよ」

「アルバイト先のことはちょっと事情聞いたけど、そういうとこで働いてる人達に言われても……」

「そういう人達が無力感を覚えるのはそういう時なんですよ」

 

 教室の中だからか隠そうとしているのか、岡峰の悔しそうな表情とぎゅっと握った掌は夏休み気分で浮かれていたクラスメイトの誰一人気付くことはなかった。

 

「……なんか、ごめん」

「先輩が謝ることじゃないですよ。誰かが心配しているという事だけは覚えてくださいね?」

「出来る限りはそうする……俺は帰るわ。また夏休み明けにな」

 

 岡峰に釘を刺され、これ以上の話は外でするには踏み込んだ話になる予感がした頃。クラスメイトもボチボチ解散し始めたことに乗じて逃げるように帰宅する。年下の女の子に咎められて、それに居心地が悪くなって逃げるというのは我ながら情けない。

 

「夏休みか……バイトして、どっかで帰省して──」

 

 だらだらするか。と自宅でポストに入っていた郵便物をリビングのテーブルにぶちまけながら、夏休みにやることを考えていると、ふと折紙の顔が過る。

 八月三日。夏祭りの開催を告知する広告がポストに入っていたせいか同時に色々思い出してしまう。

 いくら再会の約束を覚えていた折紙だとしても十年近く前のあんな約束を覚えてましたなんて話をしたらよっぽど良い雰囲気でなければドン引きされることは間違いない。

 

「……大体、命日なんだし。そっちの方が優先でしょうが」

 

 実際に用事はあるのだから、それまではあまり考えないようにしたい。

 

「とは言え、買い出し行かないとだな……」

 

 一人暮らしに慣れたは良いものの、二人分の調理をしなくても良いという事もあって総菜をおかずに自分で米を炊いてレトルトの汁物を用意するだけのことも多い。

 そもそも料理を覚えたのは叔父さんが居たからという理由もある。自分だけ食べる分だけの調理は少しばかりコスパが悪い。

 若干の面倒臭さを感じながら玄関扉を四十五度くらい開けると何かにぶつかった音がした。

 

「あだっ!?」

「今なんか当たったな」

 

 それ以上扉を開かずに隙間から抜けるように外に出ると額を抑えて蹲っている折紙の姿があった。

 さっきぶつかったものの正体を察すると共に、今から出掛けようと思っていたのに出鼻をくじかれた気がして少しだけもう行かなくても良いかとも思い始める。

 

「こ、こんにちは。今日から夏休みだね」

 

 こっちに気付いた折紙が何もなかったかのように立ち上がって挨拶をする。

 

「お、おう。こんにちは。怪我とか大丈夫?」

「こんにちは!」

 

 どうやら無かったことにしたいらしい。

 一旦家に上げて打ち身に効く湿布を渡してみたところ、丁重に断れたため本当に無かったことにしたいらしい以上に圧が強かったのもあり、これ以上触れないようにした。

 水出しの麦茶を出して数分黙られてしまい、コップの中の氷が解け始めたせいでカランと音が鳴った頃に折紙が口を開いた。

 

「ところで、ダメ元でなんだけど、連理って夏休みの……八月三日の夜って空いてる?」

「……空けられない。ことはないけれど……なんでまた」

 

 覚えているし、さっき思いっきり後回しにしたことではあるのだが……こう、直球で来られると何とも言えない気持ちになってくる。

 

「これっ、今年は空間振が多くなってきたからこういうお祭りをしっかりやって市民や外の人を安心させようって目的で開催するから、サクラとして最低でも一人は連れて回っててほしいって上司からお願いされちゃったんだけど、さ……良かったら行かない?」

「……なるほどな?」

 

 テーブルに置きっぱなしだった夏祭りの広告で顔を隠している折紙の奇行は少し気になる。それでも大体の理由はわかる。

 おおよそ夏祭りの雰囲気は好きだから行きたいものの、浴衣着て行ったとしても一人では虚しいから着いてきてほしい。そんな所だろう。昔からそうである。そんなことで幼馴染を舐めるな。

 

「良いけど……叔父さんに話は通しておくから」

「じゃ、当日ね」

 

 折紙が広告をくしゃりを握り潰して小さくガッツポーズを作ってから、お邪魔しましたと捨て台詞のようにそそくさと帰っていく彼女の表情は嬉しそうであった。

 

「あのさぁ! ああ、もう」

 

 一人になったリビングで後頭部をガシガシと掻きながら悶える。最近薄々と思っていなかった訳ではないが、やっぱりそういうことなのだろうな。と自覚すると同時に自己嫌悪に陥る。

 彼女の前になると躊躇ってしまうというか、斜に構えがちというか。何というか色々情けない。

 

 

 ◇

 

 

 そうして夏祭り当日。今年は親戚の集まりも悪かったという理由もあって叔父さんと一緒に食事をして墓参りして、ちょっとだけ話したら解散となった。

 その際に夏祭りの件を話したら生暖かい視線を送られたので、即座にお帰りいただいた。

 

「人多いな……」

 

 それにしても、サクラなんていらないんじゃないか? という位には集合場所に指定されていた神社の入口は人でごった返していたため、少し離れた場所に位置取っていた折紙を見つけた。

 白い浴衣を藤色の帯で留めた、線の細い女の子がそこに居た。髪の色と少し遠くを見て何か考え事をしていそうな表情もあって、どこか浮世離れしたような綺麗さがある。

 その姿は大変好ましい姿である筈なのに、どうしてもASTの時の彼女を思い出してしまった。

 普通の女の子らしい姿なのに、似合っている筈なのに、違和感が拭えない。

 

 頭が、痛い。けれど、気合で無視をする。

 

「お待たせ」

「そんなに待ってないよ。ついさっき来たばっかだし」

「……こういうのってお世辞ってよく言うらしいけど──」

「じゃあ三時間待たされたから色々奢ってね」

「ごめんて」

 

 地雷を踏んでしまったらしい。いや、ああ言えば機嫌を損ねるだろうなという確信はあったのに、つい癖で言ってしまった。

 折紙もわかりやすく不機嫌ですというポーズを取っている辺り本気で怒っている訳ではない筈なので、彼女と横並びで神社の境内に入る。

 

「そういえば、浴衣似合ってるじゃん」

「お待たせの次にそれを言ってほしかったなぁ」

 

 彼女は冗談めかしたように笑っているが、似合っているという感想自体は事実なのだから、三つ位なら何か奢っても良い気持ちにはなる。

 それからかき氷を食べて、たこ焼きで舌を火傷し合い、射的屋で現役自衛隊の腕を自慢気に誇られたりと、有体に言ってしまえば楽しかった。

 

 頭は割れそうだった。

 

「そろそろ花火始まるらしいから、移動しない?」

 

 何か意を決したような表情の折紙に服の裾を引っ張られながら神社から少し離れた場所に、明らかに市の行政が設置したものではないベンチが置いてあった。

 流石にここまで来たら覚悟を決めるしかない。何があるかは考えなくてもわかる。

 

「十年前のコト覚えてる?」

「っ、躊躇わずにそういうことを……覚えてるよ」

「……そっか、それってさ──」

 

 マズイマズイマズイ。目を合わせられない。心臓がうるさい。環境音が何も聞こえない。思っていた数倍は動機が酷い。

 その場で俺は動けない。折紙が立ち上がって手に持っていた小物入れから大切そうに保管されていたであろうおもちゃの指輪を差し出す。

 

「未埜連理さん。貴方のコトが好きです。

 もし、あの日の約束が有効なら……この指輪を──」

 

 やっぱりだけども、ああもう、遠回しに飾るのは止めるとして、このシチュエーションで、この想いは否定しようもない。

 立ち上がって、彼女の持っている指輪を手に取る。

 

「俺も好きだよ。好きだ。だから、また別の約束。十年後にまた君に指輪を渡すよ」

 

 そう言うと折紙は目をほんの少し見開いた後に、辛抱堪らない様子で俺に抱き着いた。

 多分お互いに顔を真っ赤にしているであろう状態が数分続く。前に気不味くなって体感時間が長くなった記憶がある。今回はそれとは逆に数分あった筈なのにほんの一瞬に感じる。

 

「ありがとう……約束覚えててくれて、嬉しい。これからよろしくね」

「こちらこそよろしく」

 

 気恥ずかしさから折紙が離れて距離を取った。いつの間にか花火は打ちあがり始めていた。

 彼女か、花火か。どちらの綺麗さに見惚れていたかわからない少しだけ、気を緩めていると頬に何か触れる感触がする。折紙が自分の唇に手を当てながら震えているのを見ると何が触れたかは言われずともわかる。

 

「ゆ、油断したでしょ?」

「そんな満身創痍になりながらすることじゃないと思うんだけど……嬉しいけども」

「うっ……」

 

 少しだけそっぽを向いて呟くと折紙が心臓の辺りを抑えて蹲る振りをしていた。薄命系の純愛物だとこういうタイミングでヒロインの病気が発覚するパターンもあったりするせいで、それこそ心臓に悪いので止めて──

 

 

デート・ア・ライブ

 

 

 

「あっ……えっ……?」

「どうかした? 大丈夫?」

 

 少しだけ立ち眩んでしまったせいで、折紙を不安がらせてしまったが、嘘のように調子は良い。

 

「あ、ああ、いや……何でもない」

 

 今の一瞬で、今まで感じていた違和感や頭の痛みが無くなった。何でそうだったのかわからないくらいで、逆に何でそうだったのかわかるのに、頭が情報量に追い付いていない。

 

「なら、良かった。花火も終わっちゃったし……一緒に帰らない?」

「もう暗いしな……送ってくよ」

「お隣さんだから大して離れてないけどね」

 

 普段からの仕返しだと言わんばかりに微笑む折紙の顔が可愛く見える。見えるけど、それがおぞましくも感じてしまった。

 今は出来る限り帰って、横になって情報を整理したい。

 帰り道では何を話しながら帰ったか覚えていない程記憶が定かではないが、気が付いた頃にはベッドの上で見慣れた天井があった。

 

「ウソだと言ってくれよ……本当に」

 

 俺は所謂転生者で、ここが『デート・ア・ライブ』というライトノベルの世界で──。

 主人公は五河士道で、鳶一折紙という少女は彼に恋する筈だったという事実を、折紙が頬にキスしてしまった瞬間に全て思い出してしまい、その日は一睡も出来なかった。

 

 俺はきっと彼女には相応しくない。

 

 




NTRしたのでタイトル回収です。

原作知識(完結まで)を得たのでようやくタイトル回収です。

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