モノローグ・リーパー   作:東風ますけ

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プロローグ 旅立ち

 

「八雲貴方さん。あなたは天寿を全うされました」

 

 気がつくとわしは長い白髪の、麗しい女性に話しかけられていた。特徴的な細い目が、穏やかな印象を与えてくれる。言葉遣いや雰囲気を鑑みるに、この方はおそらく神様だろうか。

 

「私は大地の神、ヘビーと申します。……とりあえず緑茶でいいですか?」

 

「あっ、どうぞお構いなく……」

 

 コポコポコポ……と心地のよい水音が狭い和室の中に反響する。

 

「……あの、ここって死後の世界ってやつですか?」

 

 神様は、そうですねと優しく相槌を打って。

 

「ここは死後の世界の中でも、神々しか立ち入ることのできない聖域のような場所なんです。貴方さんをここに呼んだのには、とある理由があるんです」

 

「異世界の魔王軍ですね」

 

「まだ何も言ってませんよ!? いや、本当におっしゃる通りなんですけど……」

 

「根っからの愛書家(ビブリオフィル)ですから。若い頃は特にライトノベルが好きでしたね」

 

「な、なるほど……。最近は河童が主人公の小説が流行ってると思っていたので、まさかこんなにも話がわかる方が居たとは思いませんでした」

 

「異世界転生モノが流行ったのは私が小学生の頃ですからもう……70年くらい前かな? 伝わらない人がいるのも無理はないですよ。あと河童が主人公の小説は別に流行ってないですよ?」

 

「私の脳内では流行ってたんですけど」

 

「それはただの妄想では? ……というか、あの。そろそろ異世界について聞きたいんですけど」

 

「それもそうですね」

 

 神様はこほんと小さく咳払いをしてから、異世界について語り始めた。

 

「世界の名前はソフトワールド。貴方さんの住んでいるハードワールドの対の世界です。現在、ソフトワールドでは魔王軍によって人間族が絶滅の危機に瀕しています。というのも、魔王は5年ほど前に勇者によって撃ち倒されたのですが、魔王軍の残党が人間狩りを始めたことによって人間族は急激に数を減らし続けています。……今の魔王軍は、私たち神々をも上回るほどの強大な力を有しています。……そこで八雲貴方さん。ハードワールドで永劫の平和を築き上げた貴方さんに、ソフトワールドの救済をお願いしたいのです」

 

「お話はわかりました。しかし、神様。私はもう80の老体。戦いとかは流石にちょっと、厳し──」

 

 そう言いかけた時。神様は手のひらをこちらに向けて何かを唱えた。

 

「【肉体逆行(ボディトラベル)】! ……はい。これで解決ですね!」

 

「わーお。力技。……おー。声が高くなったなぁ」

 

 ふと手を見てみると血管が全く見えないほどぷにぷにした手になっていた。腰も痛くないし、呼吸に違和感もない。

 

「肉体をそのまま巻き戻しました。なので、病気のタイミングとかも大体同じだと思うので、早めの検診をお勧めします」

 

「異世界にレントゲン写真とかの技術ってありますかね?」

 

「貴方さんが持ち込むんですよ」

 

「わーお。力技。……というか私、若返りすぎでは? 8歳くらいですよね?」

 

「可愛いですよ」

 

「そりゃ子供はみんな可愛いですよ。……そういえば神様。スキルとかってありますかね?」

 

「えぇ。勿論テンプレ通りに用意してありますよ? 貴方さんには『独白』というスキルをお渡ししようと思っています」

 

「『独白』?」

 

「話すことで聞いている相手の身体を拘束するスキルです」

 

「おお! 強いですね!」

 

「……そうですね」

 

 神様と急に目が合わなくなった。こりゃなにか大きな欠点があるな。……もしかして。

 

「……スキルを使っているとき、自分も動けない……とか?」

 

 神様の肩がびくっと揺れた。どうやら正解らしい。

 

「てことは誰かサポートしてくれる人がいないと困りますね」

 

「そこはご安心を! 私が選んだ子が貴方さんをサポートしてくれるので!」

 

「助かります。このままだとよく喋るただの少年だったので」

 

「可愛いですよ」

 

「だからそれだけじゃダメなんですって。しかも中身はジジイですよ?」

 

「ショタジジイですね」

 

「そんなロリババアみたいに言わないでください。……ところで神様。それ、なんですか?」

 

 神様は何処からか紙コップを取り出した。

 

「この天界との通信機器ですよ?」

 

「もうすこしファンタジーな感じになりませんか?」

 

「アイツはまぁ……いい奴だったよ」

 

 意外とこの神様ノリノリだな。

 

「異世界から人を送るだなんて、我々神々からしても初めての出来事ですからね。ヘビー、ワクワク!」

 

「さっきからネタが古いんですよ」

 

「貴方さんの若い頃に合わせてるんですー! で、紙コップの使い方なんですけど、『もしもし』と言ってくれれば繋がります」

 

「試してもいいですか?」

 

「もちろんどうぞ!」

 

「では。『もしもし』?」

 

『亀よ亀さんよ〜♪ 世界のうちでお前ほど〜♪』

 

 数秒ほど、四畳半の和室の中が静寂で包まれた。

 

「…………歌。お上手ですね」

 

「なんか褒めるまでタイムラグありましたね」

 

「ソンナコトナイデスヨ」

 

「目を見て話してください貴方さん。人と喋る時は目を見て話すんです」

 

「でも神様だから人じゃないですよね?」

 

「そういえばそうでした。…………さて。じゃあそろそろソフトワールドに行きますか?」

 

「そうですね。一刻も早く、より多くの人々を助けたいです」

 

 わしがそう言うと、神様は先ほどとは打って変わってとても真面目な表情になった。

 

「……八雲貴方さん。あなたは既にその命の灯火を燃やし尽くした方。そんなあなたにこんなことを頼んでしまう私たちの弱さを、どうか許して下さい」

 

「神様」

 

 わしは一言だけ答えた。

 

「任せて下さい!」

 

 わしの言葉を聞いた神様は、女神と呼ぶのに相応しい、柔らかい笑顔を浮かべて。

 

「よろしくお願いします!」

 

 そう言うと、神様は素早く地面に魔法陣を描いた。わしは魔法陣の上に立って神様と別れを告げる。

 

「貴方さんを待つのは大変な旅路です。ですが私も力になりますし、きっと現地の子どもたちも手伝ってくれます。願わくば、飢えや争いのない、幸せな世界になるように、ここからいつも見守っています。どうか、貴方さんの未来に大いなる祝福を!」

 

「はい! 神様もお元気で!」

 

「それじゃあいきますよ! あ〜! 魔法陣の音〜」

 

 ブゥン。と重低音が響き、わしの足元には黒紫色の穴ができた。

 

「意外とこわいいいいいい!」

 

「いってらっしゃーい!」

 

 わしは重力に従って穴の中に落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがきキャラクター設定

八雲貴方
若返ったけど髪の毛は白髪のまま。
白髪ショタジジイ。

大地の神様。ヘビー
白髪の美しい神様。
糸目。
お胸は控えめ。
こんな軽いテンションだが、八百万の神様の中では創造神の次に偉い。神様ランキング2位。
戦いの際には大地の巨獣、ヘビーモスに変身する。

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