モノローグ・リーパー   作:東風ますけ

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第一話「平和の為に来た」

 

「キリブさん。わしは、魔王軍を止めるよ。それが平和の為に来た、アナタという人間の役目だから」

 

「……っ。出来るんですか?」

 

「この村の人々だけでなく、たくさんの人と手を取り合えば、必ず」

 

「……お願いします。アナタ様。魔王軍を、どうか、罪なき人々が安心して暮らせるよう。力を貸してください」

 

 青年は深くおじぎをした。

 

「顔を上げてくださいキリブさん。……わしと蒼葉も、キリブさんと同じ想いですから。ね? 蒼葉?」

 

「ええ! もちろんですわ! 貴方!」

 

 ゴーレムの青年の手を、少年と死神がそっと握りしめている。これは語り、語られるべき物語の中の、大切な出会い──。

 

■■■■■■

 

 真っ暗な穴を抜けたわしは、空を漂っていた。……まあようはスカイダイビングじゃな。一つだけ違う点を挙げるなら、パラシュートがないことかな。

 

「……こうしてわしの第二の人生は、あっけなく幕を下ろしたのじゃった」

 

「いや、流石に諦めが早すぎですわよ」

 

 声がした方を向くと、そこにはわしを看取ってくれた死神がいた。死神さんはふわふわと浮遊していて、風の抵抗を一切受けていないようだ。なるほど。神様が言っていたサポート役というのはこの人か。

 

「久しぶりじゃな死神さん。わしの名前は八雲貴方。絶賛自由落下中なので、助けて欲しいんじゃが」

 

「お久しぶりですわね貴方さん。わたくしの名前は死神No.88ですわ。不束者ですが、これからどうぞよろしくお願い致します。……それにしてもこの世界は、随分と綺麗な景色ですわね」

 

「たしかにそうじゃな。まるでおとぎ話のようなものばかりじゃ。特に遠くにあるあの大きな木。あれはいわゆる世界樹というやつかな?」

 

 わしが指を刺した先にある巨大な木は、大気圏よりも高く、太さも何キロメートルあるかわからないほど巨大だ。

 

「確か名前は……ルシラドグユでしたわね。私たちの居た世界の北欧神話。世界樹ユグドラシルが元ネタですわね」

 

「……元ネタ?」

 

「まあ詳しい話は後ほどゆっくりと。そろそろ着陸しますわ」

 

「そうして貰えると助かるよ。……ちなみに方法は?」

 

「そんなのお姫様抱っこに決まってますわ」

 

「初めて聞いたんじゃが」

 

「わたくしの中では定番ですのよ」

 

「神様とボケ方がおんなじじゃな」

 

「神々の中では今このボケがブームなんですのよ。……さて、貴方さん。わたくしにしっかり捕まっていてください!」

 

「わかった!」

 

 わしは死神さんにお姫様抱っこをしてもらいながら着陸した。

 

「……なんかこう、男子としてのプライドというものがほんのちょっぴり悲鳴をあげてたような気がするんじゃが」

 

「貴方さんは意外とお喋りな方なんですわね?」

 

「貴方でいいよ。……そういえばまだあなたの名前を聞いていなかったね」

 

 自分でも人を呼ぶ時のあなたと、自分の貴方が紛らわしく感じる時が多い。わし今どっち言ったってよくなるんじゃよな。歳かな。

 

「わ、わたくしの名前は先ほど申し上げた通り、死神No.88ですわ……」

 

「なるほど。まだ識別番号だけで、自分の名前は持っていないんじゃな?」

 

「そうなんです。わたくしも自分で名前をつけてみようと色々考えたのですが、どうもピンも来るものが無くて。……もし貴方さん……いえ。貴方が良ければ、わたくしの名前を付けてくれませんか?」

 

「わしでよければ喜んで」

 

 というわけで名前をつけることになったが、うーむ。死神要素と、見た目や言葉遊びを入れたいなぁ。

 死神で、緑色の美しい瞳。

 死神No.88……。

 

「苗字は思いついたんじゃけど……」

 

「気になりますわ!」

 

「死神って部分を少し変える感じで、『死ノ神』ってどうじゃ?」

 

「──ええ! かっこいいですわね!」

 

「で、名前なんじゃけど。……君のその綺麗な蒼の瞳。夏の木の葉のような元気な緑色から、『蒼葉(そうは)』ってのはどうじゃ? 一応88番から『双ハ』ってのも考えたけど、どうせなら可愛くしてみたいと思って『蒼葉』にしたんじゃよ。……どうじゃ?」

 

「『蒼葉』……なんだかしっくり来ますわ。わたくしは今日から『死ノ神蒼葉』ですわ!」

 

「よろしく! 蒼葉!」

 

「よろしくお願いしますわ! 貴方!」

 

 お互いに名乗り合い、わしたちは村を目指し始めた。

 

「蒼葉はわしの能力について知らされているかい?」

 

「ええ。わたくしは貴方のスキルに相性がいいということで選ばれましたわ。わたくしのスキル『背借(はいしゃく)』は背後から()()()()()()()で攻撃することで相手の魂を借りることができるんですわ。借りた魂は天界のコインランドリーで綺麗さっぱり浄化いたしますわ」

 

「なるほど。魂を浄化する。つまり魔王軍の悪の心を浄化して、罪の償いをさせられるわけだ。……それにしても()()()()()()()でなければならないなんて難しいね」

 

「そこは貴方に任せますわ。……時間も惜しいですし、ここからは歩きながら話しましょう。たしか南東に、人間の村があったはずです」

 

「ああ。そうじゃな。行こうか」

 

 わしたちは少し早歩きで村に向かう。

 

「蒼葉はこの世界についてどれくらい知ってるんじゃ?」

 

「わたくしが知っていることは、この世界が誰の手によって創られ、今どんな状況か。その程度ですわ」

 

「さっき、世界樹を見た時、あの世界樹はわしの世界の北欧神話を元にして創られたと言っておったよな? ……つまり、この世界『ソフトワールド』は、わしの世界の人間が創った世界か!」

 

「ビンゴですわ貴方。創造神カッミによって創られたこの世界は、ハードワールドのコピーのようなものですわ。創られた目的や経緯は残念ながら知りませんわ。お役に立てず申し訳ないですわ」

 

「いや。十分だよ蒼葉」

 

 本当に十分な情報だ。あとはこの世界の宗教、および聖典を見ることができればこの世界の真実がわかる。

 しかしそれは後回しだ。一人でも多く助ける。まずはそこからだ。

 

「蒼葉。魔王軍について何か知っていることは?」

 

「魔王軍は現在二十万人ほど所属している異種族混合軍隊ですわ。狙いは人類の弱体化。魔王を失ってもその目的は変わらず、現在は5年前に生き残った三人の魔王軍幹部たちが指揮をとっていると。……しかしその三人は神々すら手がつけられないほどの怪物たちだと聞かされています。ヘビー様は現地の人々からの情報の方が貴方さんには大切だとおっしゃっていました。おそらく、神々が得た情報と、実際の情報に乖離があると判断したからでしょう。情報を操作できる能力者がいる可能性が高いですわ」

 

「…………」

 

 二十万人。戦闘員の比率はおそらく3割程度。約六万程度が敵の数だろう。当たり前だが正攻法ではまず無理だ。……となるとその三人の将を撃破することで軍の形をバラバラにするのが最適解か。情報がバレたら対策される。必要なのは同時。同時に倒すこと。一時間の内に魔王軍幹部を撃破する。これならなんとかなる。

 

「貴方、気持ち悪いんですか?」

 

「……あ、いや。癖なんだ。昔から考え込む時は口に手を当てる癖があってさ。心配かけてごめんよ。……それより、これからのことについてだけど──」

 

「……貴方。静かに」

 

「──っ」

 

 わしたちは歩みを止める。たどり着いた村の入り口に、馬の顔をした大きな魔族が立っている。手には大きなだんびらを持っていて、後ろ姿だけでも明らかに危険だということがわかる。

 

「……蒼葉。わしが動きを止める。『独白』で動きが止まった後は」

 

「わたくしを認識させて、『背借』で魂を抜く。ですわね?」

 

「被害が出る前に仕掛ける。いくぞ!」

 

 わしは全力で走り出す。自分の身体を守るため、鍛え続けてきた運動神経は若返っても残っていた。八歳の身体でも相手に気づかれる前に大きく接近できた。そしてスキルを使用する。

 

「『これは、語り、語られるべき物語──』」

 

「!? お前! どこから!?」

 

「蒼葉!」

 

「わかってますわ! こんにちわ魔族さん。あなたの魂を抜かせてもらいますわね」

 

「うっ……」

 

 蒼葉は慣れた手つきで背後から魂を抜き取った。

 魂を抜かれた魔族の男はその場に寝るように倒れ込んだ。

 

「魂の浄化はどのくらいかかるんじゃ?」

 

「平均は10分くらいですわね。悪人ですと、30分はかかるかと?」

 

「あ、あなたたち何をしてるんですか!?」

 

 おじいさんが焦った様子でこちらに駆け寄って来た。

 

「この村の村長さんですか?」

 

「ええ。私はこのトーンス村の村長です。あなたたちは何者ですか?」

 

 この村長さんの様子から鑑みるに、わしたちはどうやら判断を間違えたらしい。

 

「わしの名前は八雲貴方と言います。そこに立っているのはわしの仲間の死ノ神蒼葉と言います。わしたちは異世界から来ました」

 

「い、異世界人ですか。……今はそれよりも、倒れているあの人は無事……なんですよね?」

 

「ええ。保証いたしますわ。おそらく、10分程度で目が覚めるかと」

 

「蒼葉。足元見てごらん」

 

「え? 足元ですか?」

 

「おはようございます」

 

「ええええええええ!? は、早すぎですわ!?」

 

「村長さん。見ての通り俺は無事だ。……村のみんなを広場に集めてくれ。大事な話がある」

 

「わかりました」

 

 村長さんは魔族の指示に従い、村のみんなを集めるようだ。この魔族の青年はこの村のリーダーじゃな。

 

「アナタ様。ソウハ様。お二人もぜひ私の話を聞いていってください。村の広場で待っていますね」

 

「すまなかった」

 

「ごめんなさい」

 

 わしたちは青年に対して深く頭を下げた。

 

「謝らないで下さい。むしろ俺は感謝してます。この村を守ろうとしてくれたこと。……ああ。そういえば名乗り忘れていましたね。俺はキリブ。石塊(ゴーレム)族です」

 

「「え?」」

 

 わしと蒼葉の声が重なる。

 驚いた。どこからどう見ても馬の顔をした筋肉質な魔族なのに。

 

「あはは……これは裁縫が得意な子が縫ってくれた着ぐるみなんですよ。なので広場で喋る時はゴーレムの姿です」

 

「了解した。わしらに出来ることがあるなら、なんでも言ってくれ」

 

「頼もしい限りです。では、失礼します」

 

 キリブさんは村の中央に向かっていった。

 

「貴方。大事な話ってなんでしょうか?」

 

「んー、ここは人間の村だし、十中八九、魔王軍への対抗策じゃろうね」

 

「魔王軍幹部についての情報があるといいですわね」

 

「そうじゃな。それ以外にもこの村についてや、戦い方も知りたいな」

 

「やることは山積みですわね」

 

「でも、やるしかないな」

 

「ですわね」

 

 わしたちは広場にたどり着いた。周りを見渡すと村人は100人ほど集まっている。中央の台の上に大きなゴーレムが立っている。

 

「みんなに集まってもらったのは他でも無い! 魔王軍についてだ!」

 

 周囲にざわめきが立つ。しかしリーダーとして信頼されてるのだろう。不安な声は聞こえない。むしろ期待を秘めているような雰囲気だ。

 

「魔王軍幹部。ガル、リル、ヘルの3人の能力がわかった! よって、俺たち【悪足掻き(レジスタンス)】は近日! 奴等を討伐する! 今日はそのメンバーを発表する! 俺! ズミ! ブアラ! モアン! グロマ! 以上5名だ!」

 

「え、5人?」

「いくらなんでも……」

「相手はあの魔王軍だぞ? 無謀だ」

「でも、あの5人なら」

「それでも無理だ」

 

 困惑は喧騒へと変わり、皆が動揺している。それは当然だ。相手は魔王軍。それをたった数人で挑むというのはどう見ても無謀だ。みんなの反応は正しい。しかし──。

 

「もちろん理由はある!」

 

 大きな声でキリブは語る。

 

「俺たちが戦ってきたのは魔王軍『残党』だ! 大々的に決戦を仕掛けしまうとまずいんだ! 他の幹部が隠れてしまうからな! だから俺たちは超少数精鋭で同時撃破を狙う! …………頼む。みんな、俺を…………信じてくれ」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 この村はキリブがリーダーだろう。みんな、彼の背中について来た。わしにはわかるよ。彼は、一人でここまで戦って来た。彼が、みんなの希望なんだ。……じゃけど、そうじゃけど。まだ、彼は若すぎる。当たり前じゃ。こういうときは、大人が導くんじゃよ。

 

「貴方?」

 

「ちょいと、スピーチでもしてくるよ」

 

「……応援していますわ。貴方」

 

「ありがとう。蒼葉」

 

 わしは、キリブが演説する壇上へと上がる。

 

「……え? アナタさん?」

 

「ごめんなキリブさん。少しだけ、わしに話させてもらえないか?」

 

「……わかりました」

 

「ありがとう。……あー。みなさん初めまして。わしは異世界からついさっきやって来た、八雲貴方と言います」

 

 側から見れば、突然見知らぬ子供が喋り出して、何故かリーダーがそれを止めないという、なんかよくわからんことになってると思う。

 

「まず結論から話しましょう。キリブさんの言ってる同時撃破は絶対に必要です。……しかし、みなさんの言ってることも正しいのです。……ですから、決戦と隠密。同時にやりましょう」

 

 みんなの顔は困惑で満ちている。

 

「3つの大隊を編成し、この【悪足掻き(レジスタンス)】全員が『囮』になります。そして1時間以内に幹部を撃破していく! それが最も良い作戦です!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 みんなわしを疑っている。というよりも迷っている。信じるべきかどうかを。

 

「わしをいきなり信じろとはいいません。……そうじゃなぁ。まずはみんなで飯でも食うか! みんなの得意料理教えてくれ! 一緒に作ろう!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 これが一番仲良くなるのに手っ取り早いんじゃよな。

 

「……おおっと。そういえばどうやって魔王軍幹部を倒すか伝えてなかったな。

 

『……これは語り、語られるべき物語──』

 

 ……どうじゃ? 動けないじゃろ?」

 

「マジか……!?」

「一歩も動けない!?」

「嘘だろ…?」

「これなら……」

「……もしかするか?」

 

 わしはニコリと笑いかけながらスキルを解除する。

 

「宴じゃあああああああ!!!!!」

 

「「「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

 みんなは宴の準備のために、忙しなく動き出した。

 

「マジかよ……ははは! 一瞬でみんなに信用されちまった!」

 

「貴方。やっぱり凄いですわね」

 

「そうでもないよ。それにね、これはほとんどキリブさんの力だ」

 

「え? 俺の?」

 

「そう。みんながあなたを信じていたから。みんなが、どうしようもないくらいのお人よしだから、わしは信じてもらえた。全部、あなたが積み重ねて来たことだ」

 

「俺が、積み重ねて来たこと……」

 

 キリブは石でできた自分の掌を、じっと見つめている。

 

「……キリブさん。わしは、魔王軍を止めるよ。それが平和の為に来た、アナタという人間の役目だから」

 

「……っ。出来るんですか?」

 

「この村の人々だけでなく、たくさんの人と手を取り合えば、必ず」

 

「……お願いします。アナタ様。魔王軍を、どうか、罪なき人々が安心して暮らせるよう。力を貸してください」

 

 青年は深くおじぎをした。

 

「顔を上げてくださいキリブさん。……わしと蒼葉も、キリブさんと同じ想いですから。ね? 蒼葉?」

 

「ええ! もちろんですわ! 貴方!」

 

 ゴーレムの青年の手を、少年と死神がそっと握りしめている。これは語り、語られるべき物語の中の、大切な出会い──。

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