すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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第13話 わたしの青いバラ

 

『しあわせの青いバラ』

 

 あるところにふしぎなお庭がありました。そこには色とりどりのバラがさき、おとずれる人みんなにしあわせをあたえてくれます。

 

 ですがある日、そのお庭にだれも見たことのない真っ青なバラがつぼみをつけました。

 

 そんな青いバラを見て、まわりのバラたちも、お庭を見に来た人たちもみんな『青いバラなんて気味が悪い』『きっとふこうの花だ』と言いました。

 

 みんなにそう言われて、青いバラは『ぼくはだめなお花なんだ』とおちこんでしまいました。そして、だんだんとしおれてきてしまいました。

 

 そんなある日、しおれた青いバラの前に『お兄さま』がやってきました。

 

 お兄さまは青いバラを見つけると、とってもやさしい、おだやかなえがおで言いました。

『やあ、青いバラだなんてとってもすてきだ! きっときれいにさくにちがいない。ぜひ買い取らせてください!』

 

 しおれかけた青いバラを買い取ったお兄さまは、そのバラをあたらしい(はち)にうつしてあげて、毎日声をかけてあげました。

 しおれかけた青いバラは、お兄さまのやさしさにふれ、とってもきれいな花をさかせました。

 

 (うつく)しくさいた青いバラは、お兄さまのおうちの窓辺(まどべ)にかざられて、道ゆく人たちをたくさんしあわせにしました。

 

 

 

 

「……このえほんはね、ライスがいちばんすきなおはなしなの。ちっちゃいころにはじめておかあさまによんでもらって、いまでもだいすきなおはなし」

 

「とってもすてきなおはなしだね! わたしもこのおはなしがすきになっちゃった!」

 

「ありがとう、リリィちゃん。ライスもとってもうれしいよ。……ライスもね、このあおいバラみたいになりたいなぁって思ったんだ。みんなをふこうにしちゃう、だめなこじゃない……。みんなをしあわせにできる、あおいバラに」

 

 絵本を読み終えた黒い少女は、白い少女に自分の夢を語った。それを聞いた白い少女は、黒い少女をまっすぐに見つめ、にこにこと笑いながら答えた。

 

「じゃあ、わたしのあおいバラはライスちゃんだ!」

 

「……えっ?」

 

 太陽のようにキラキラとした笑顔で少女は言う。

 

「だって、ライスちゃんといっしょにいると、わたし、とってもしあわせだもん! だから、ライスちゃんはわたしのあおいバラだよ!」

 

「…………ライスが、あおいバラ……」

 

 穢れ一つ無い、その純粋な笑顔に、心が熱くなる。

 

「……リリィちゃんはすごいなぁ。リリィちゃんといると、こころがあったかくなるの。……ライスのあおいバラはね、リリィちゃんだよ」

 

「わぁっ! ……えへへ、うれしいなぁ」

 

 

 その笑顔が、その心が、その優しさが、本当に、ほんとうに綺麗で──

 

 

「だいすき……だいすきだよ、リリィちゃん」

 

「わたしもライスちゃんだぁいすきっ!」

 

 

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──────────────

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───────…

 

 

 

(……ちっちゃい頃の夢。……懐かしいなぁ)

 

 幼い頃の自分達の夢を見てライスシャワーは目を覚ました。懐かしくて温かい、とても大切な思い出。

 今日は彼女の初重賞レースである「京都ジュニアステークス」の開催日だ。事前に現地のホテルに泊まっていて、隣にはシロノリリィがすやすやと穏やかな寝顔を晒している。

 スマホのアラームが鳴ってないところをみると、どうやら少し早く目を覚ましてしまったようだ。二度寝をしようと思ったが寝つけそうにないので、ぼうっとシロノリリィの顔を眺めた。

 

(……綺麗だなぁ)

 

 彼女の顔を眺めながら、今までのレースを思い返した。

 彼女のレースは鮮烈で、眩しかった。ターフを抉る強烈な末脚は、まるで閃光のようで。彼女の眩い笑顔は、太陽よりも輝いていた。思い返す度に胸が熱くなる。

 今の彼女は重賞レースに勝利しているので、ライスシャワーよりも先に行っていると言える。トレセン学園に入るまでは自分が先を進んでいたのに、今では彼女の方が自分の先にいる。それが嬉しくもあるが、同時にもどかしくなった。

 

(……あの頃から……ライスがちっちゃい頃から、リリィちゃんはライスの憧れだった。でも、憧れるだけじゃ嫌だ。……ずっと隣で、歩んでいきたいんだ)

 

 ライスシャワーの瞳に、決意の光が宿る。

 

(……大好きだから)

 

 

 

 

 

 

 

 レース前、控室でトレーナーはライスシャワーの元に来ていた。今日のライスシャワーはどうやらご機嫌らしく、椅子に座り鼻歌を歌いながら足をプラプラさせていた。

 

「なあにライス、超ご機嫌じゃない。なんかいいことでもあったの?」

「〜♪ ……あのね、今日の夢でね、ライスとリリィちゃんがちっちゃい頃の夢を見たの。懐かしくて、とってもあたたかい夢。それがとってもうれしくて……。でもね、それだけじゃないよ。今日はライスの初重賞だから、リリィちゃんとお姉さまにかっこいいところを見せてあげられるもん」

 

 にこにことしながらライスシャワーは答えた。その様子にこちらも笑顔になる。

 

「そっかそっか。じゃあリリィと一緒に楽しみにしてるわね」

「期待しててね、お姉さま。……じゃあ、行ってくるね!」

「いってらっしゃい、ライス!」

 

 

 

 

 

 ──コツンコツン……地下バ道に軽やかな音が響く。その足音はとても楽しそうで、緊張など一切感じられない。

 

(天気は晴れ、お日様が綺麗。今日の風はちょっと冷たいけど、今のライスにはちょうどいいかも)

 

 冬の訪れを感じさせる冷たい風がライスシャワーを通り抜けた。その風から、青々としたターフの香りを感じる。

 ──血が滾る。だが、この熱は少々熱すぎる。冷風に感謝しながら歩みを進める。

 

(今日でこれだけ熱いのに、リリィちゃんとのレースだったら……。考えただけで火照ってきちゃう)

 

 微笑みを浮かべながらライスシャワーは進む。──コツンコツンと足音が鳴り、眩しい光の前に辿り着いた。

 

(……待っててね、リリィちゃん。すぐに追いつくから)

 

 黒い少女は進む。……さぁ、レースの時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、本日の注目ウマ娘の紹介です! 二番人気のマチカネタンホイザ!』

『手堅く掲示板入りしている実力派ウマ娘です。彼女が勝利を狙えるか、注目です』

『今日の主役は彼女しかいない! 一番人気ライスシャワー! ここまで無敗2連勝ウマ娘です!』

『彼女が出走したレースは、正に圧勝と言える強いレースをしていました。彼女を攻略することがこのレースで重要になるのは間違い無いでしょう』

 

 パドックでレースに出走するウマ娘達が紹介されている。ライスシャワーは有力候補として、出走者や観客からも注目されていた。

 

「おぉ〜! ライスちゃんかっこいい! るるちゃんみてみて!」

「今日の為にめっちゃんこトレーニングしたからね。ライスしか勝たん!」

 

 もちろんシロノリリィとトレーナーも応援している。彼女の実力は二人もよく分かっており、勝利を確信している。

 

「まっ、レースに絶対は無いから確実なんて言えないけどね。でもこの中ならライスが一番強いって断言できるわ」

「そうですね! それに、ライスちゃんは私の一番のお友達で、大切な人で……ライバルなので!」

 

 自信満々に胸を張るシロノリリィに、微笑ましくなったトレーナーは頭を撫でた。むふん! とドヤ顔になったのを見て更に笑みが溢れる。ファンファーレが鳴り、ゲートにウマ娘達が入っていく。

 

「さぁ、レースが始まるわ。……見て、リリィ。ライスの顔、すっごく楽しそう」

「本当ですね! こっちまでワクワクが伝わってきますよ!」

 

 二人が見守る中、静寂が訪れる。長いような短いような沈黙の中、ガコンッという音と共にウマ娘達が一斉に飛び出した。

 

「がんばれー! ライスちゃん!」

「がんばれライスー!」

 

 

 

 

 

 

 はじめての重賞レース。とっても緊張するって思ってた。けど、違った。今の気持ちは──

 

(──楽しいな)

 

 軽やかにゲートから飛び出したライスシャワーは、苦戦することなく前方3番手の位置につき全体を俯瞰した。

 

(今日のレースは9人で、ライスが注目しているタンホイザさんはライスの後ろをマークしている。うん、これなら大丈夫)

 

 ライスシャワーはこれまでのレースで先行策をとり、好位追走を得意としている。マチカネタンホイザは自分をマークしてからの差し切りを狙っているのだろうと考えた。

 

(リリィちゃんが見てる。お姉さまが見てる。……かっこ悪いとこ、見せられないなぁ)

 

 レースは一見普通の展開だった。ハイペースでもなく、スローペースでもない、正に普通の展開だ。しかし、コーナーを抜けたあたりで8人のウマ娘達は強大な圧を感じ取った。

 

 ──青々しいターフに、漆黒の狂気が降り注いだ。

 

 磨り潰されるような、黒い重圧。身体全体に鉛が纏わりついたかと思うようなプレッシャーに、ターフを駆けるウマ娘達は恐怖した。

 脚が重い、身体が言うことを聞かない、喉が乾く、呼吸が乱れる。──一体誰が……!? 唯一人、小柄な黒い少女だけは、その重圧をものともせずに走っていた。

 ──何故この少女だけが走れる……いや、違う! 違うのだ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「──バレちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、関係ないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ライスが勝つから」

 

 黒い少女が、先程までとは比べ物にならないプレッシャーを解き放った。

 

 

 

 

 

 

「…………嘘でしょ。圧倒的じゃない……」

 

 それからの展開は一方的だった。重圧に潰されたウマ娘達が、動きの精細さを欠いて徐々に体力を失い、それでも食らいつこうとしたが追いつけるはずもなく、ライスシャワーが後続に10バ身差をつけてゴール板を駆け抜けた。

 辛うじてマチカネタンホイザが10バ身差の2着だったが、それ以降の3着は大差をつけられていた。

 トレーナーは戦慄した、ライスシャワーの強さに。隠していた……いや、使う必要がなかったのだ。今までのレースは、本気ではなかったのだ。

 我が愛バながら恐ろしい。その強さに少々動揺し、冷や汗を流していた。そうだ、これを見てこの子はどう反応するのだろうか。と思い、隣にいるもう一人の愛バを見た。

 ──震えていた。だが、それは恐怖ではない……歓喜だ。

 太陽よりも眩しい笑顔が、満天の星よりも輝く黄金の瞳が、今、漆黒の少女だけを見つめていた。

 白い少女は言葉を発しない。顔が、胸が熱い。心が燃え上がる。大好きで、大切で、誰よりも愛おしい黒い少女から目を逸らせない。

 ──綺麗だ。夜を落としたような漆黒の髪が、紫水晶よりも煌めく瞳が、小柄で抱きしめたくなるような身体が、そして、誰よりも優しいその心が、全てが愛しくて仕方がない。

 白い少女の熱い視線に気付いたのか、黒い少女はこちらに振り向き、妖しく微笑んだ。──嗚呼、熱い。

 

 

 

 

 

 

 

 ──本当は使うつもりじゃなかった。でもね、我慢できなかったの。

 ずっと、ずっと待ってた。一緒に走るって約束してから、何年も待ってた。だけど、我慢できなかった。

 あともうちょっとだから我慢できるかなって思ってたんだけど、やっぱりできなかった。

 ねえ、リリィちゃん──

 

 妖しく煌めく瞳の奥で、()()()()()()()()()

 

 ──私だけを見て。

 

 

 




次回はたぶんホープフルステークスです。
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