すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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第14話 ホープフルステークス!① 私達のスタートライン!

 私はママとパパが大好きです。初めて私を愛してくれたあの人達が、家族の温もりを、優しさを教えてくれた二人が大好きです。

 私はるるちゃんが大好きです。私達の事をいつも見守ってくれるあの人が、私達の事を大事にしてくれて、とっても頼りになるあの人が大好きです。

 私はアッシュちゃんとキョウちゃんが大好きです。ライスちゃん以外で初めてお友達になれた二人が大好きです。

 あのレースで本気の感情をぶつけてくれたアッシュちゃんが、ちょっと口は悪いけど実は面倒見がいいアッシュちゃんが大好きです。

 キョウちゃんはとっても物知りです。私が知らない事を分かりやすく教えてくれるちょっぴりお茶目なキョウちゃんが大好きです。

 アッシュちゃんとキョウちゃんといると、お姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかな?って思います。そんな二人が私は大好きです。

 でも、一番好きなのはライスちゃんです。優しくて、可愛くて、綺麗で……とっても温かいライスちゃんが大好きです。

 ……だけど最近ちょっと変なんです。ライスちゃんといると胸がドキドキします。前はこんな事ありませんでした。……でも、イヤじゃないです。この胸のドキドキは、熱さは……。

 もっと私の名前を呼んでほしい。……名前を呼ばれると嬉しくなるから。もっと私に触れてほしい。……あたたかくて安心するから。もっと私をだきしめてほしい。……その鼓動が心地いいから。

 この感情はよくわかりません。私にはまだわからないです。……でもこれだけははっきりと分かります。──私は、ライスちゃんが大好きです。

 

 

 

 ライスシャワーの京都ジュニアステークスが終わって今は12月の終わり頃。あれから約一ヶ月程経ちホープフルステークスの前日となった。

 明日のレースに向けて最終調整を終えた二人をトレーナーは呼び出し、本番に向けての話をした。

 

「はい、突然だけどお姉さまは今から無責任な事を言います」

「なぁにお姉さま?」

「なんですかるるちゃん?」

「お姉さまは明日のレースの作戦を……たてません!」

 

 トレーナーは勢いよく言い放つがなんとなく理由が分かる二人は特に動揺しなかった。

 

「ライスとリリィちゃんで思う存分戦えって事だよね?」

「手の内がバレるとつまらないからですね!」

「……二人がとっても優秀でお姉さま嬉しいけど悲しいわ。このレースで一番警戒しなきゃいけないのがライスとリリィだからね。まぁ、あなた達の事だからお互いを攻略する作戦をとっくに考えてそうだけど。……それは置いといて、このレースにはマチカネタンホイザも出走するから要注意よ。あなた達は強いけどこの子も油断ならない相手だわ」

「この前勝ったからって今回も勝てる。なんて事は無いからね。もちろんライスは油断なんてしないよ」

「私はどんなレースでも、どんな相手でも全力でやります!」

「頼もしくて何よりよ。じゃあ明日のレースに備えて今日は早めに休むのよ。夜更かししちゃダメよ? それじゃあ解散!」

 

 はーい! と元気よく返事をした二人は、その後食事とお風呂を済ませて自分達の部屋へと戻った。レースへ向けての調整は完璧だ。明日はきっと楽しいレースになる。そんな予感を胸に抱きながら二人はベッドの上で戯れあっていた。

 

「リリィちゃん、とっても楽しそうだね」

「えへへ。ライスちゃんもにこにこしてるよ!」

 

 お互い明日のレースが楽しみのあまりにその感情が表情に表れている。シロノリリィを膝枕し、愛おしそうに頭を撫でながらライスシャワーは告げる。

 

「ねぇリリィちゃん。ライス達がちっちゃい頃に『いっしょにはしりたい』って言ったの、覚えてる?」

「もちろんだよ! 一緒にテレビでレースを見てた時に私が言った事だよね!」

「やっぱり覚えててくれた。……あの頃はこんな風に一緒に走れるだなんて思ってなかったなぁ。しかもGⅠだよ?今でも夢みたいだなってライスは思うんだ」

「ほんとだよね。……でも、夢じゃない。私たちのはじめてのGⅠが、はじめて一緒に走ることになるレースだなんて。……なんだか物語みたい。……でも、勝つのは私だよ?」

「……それはライスのセリフだよ?」

 

 撫でていた手を止め、その手をするりと頬へと滑らせた。そのままお互いに見つめあい、微笑みながら言葉を続ける。

 

「……ライス達の夢、やっと叶うね」

「うん。だけど私思うんだ。夢が叶うけど、ここからが始まり……私達のスタートラインなんだって」

「そうだね。今までのレースも、もちろん大事だったけど、これから先は皐月賞、日本ダービー、菊花賞……他にもたくさんすごいレースがある。でも、まずは明日のホープフルステークスだね。……楽しみだなぁ」

「私もすっごく楽しみ! でも楽しみすぎてちょっと眠れないかも!」

「……ダメだよリリィちゃん? じゃあそろそろ寝よっか」

「うん!」

 

 ライスシャワーの膝枕からコロンと転がり、シロノリリィはそのまま枕まで移動した。それを微笑みながら見つつ、掛け布団を自分と彼女に掛けた。

 シロノリリィはライスシャワーに抱きつき、彼女も同じように優しく抱き返した。

 

「……おやすみ、リリィちゃん」

「……おやすみ、ライスちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇっ! リリィちゃんの! GⅠレース! やっば! 超興奮してきたっ!」

「スズラン。気持ちは分かるけど落ち着こうね」

「賢司さんも顔に出てるよ! 超ニヤニヤしてる!」

「仕方ないじゃないか。僕達のかわいいリリィがGⅠレースに出るんだよ? 嬉しくてしょうがないよ。……ふふっ、もう泣きそうだよ」

「涙出てるよ!? 涙腺ガバガバじゃん!」

 

シロノリリィの初GⅠレースを応援するために二人はレース場に来ていた。GⅠレースは出走するだけでもそれはもう名誉ある事なので二人は大興奮だった。

シロノスズラン(ママ)は興奮のあまりにテンションがおかしなことになっている。白井賢司(パパ)はシロノリリィが生まれた時から現在までを思い返していて、まだレースが始まってもいないのに涙がドバドバ流れている。

 

「今日のレースはライスちゃんも一緒なんだっけ。リリィちゃんがちっちゃい頃から一緒に走りたいってずっと言ってたから、きっと喜んでるんだろうなぁ。で〜も、今日勝つのは……」

 

「──リリィちゃんよ!」

「──ライスだから!」

 

「「…………ん?」」

 

 なんだか聞き覚えのある声がすると思い振り返ると、なんとなく見覚えのある夫婦がいた。さっきの『ライス』発言と自分の記憶を照らし合わせ、二人がライスシャワーの両親だと気がついた。

 

「あぁっ! ライスちゃんのお母さま!?」

「……リリィちゃんのママっ!?」

「おや……驚きましたね。偶然とは言え同じ場所で出会うとは。失礼、お久しぶりですね。お二人も娘さんの応援に?」

「こちらこそお久しぶりです。はい、そうです。かわいい娘のGⅠレースですから、来る以外の選択肢はありませんよ」

「すっごいびっくり! うわー超懐かしい! うわっはー!」

 

 ライスシャワーの両親は二人を見て「父親は少し老けたかな? と思うが、母親は全く老けてない」と感じた。お母さまもウマ娘なので老けにくい体質だが、彼女はレベルが違う。さすがはシロノリリィの母親だ。

余談だが、シロノスズランは高校生の頃から全く老けてない。親子三人で歩いていると、よく姉妹と間違われた経験があるほどだ。

 

「……ほんとにびっくりです。でもよく考えたら鉢合わせる確率も無いわけではないですよね。まあそれは置いといて、お二人は娘さんの勝負服は見せてもらいましたか?」

「まだ見せてもらってないです。リリィちゃんにどんな感じ? って聞いたら「楽しみにしててね♪」って言われちゃって……。その時のリリィちゃんがかわいくてかわいくて!」

「あらあら。うちのライスも「内緒だよ♪」って言ってて……。あぁ……かわいい……。あっ、そういえば勝負服のデザインなんですけど、ライスは自分のとリリィちゃんの両方デザインしたって言ってました」

「あっ! それリリィちゃんから聞きました! 確かリリィちゃんがURAにお任せしようとしたからライスちゃんに「ダメに決まってるでしょ?」って言われたとかなんとか。リリィちゃんは昔から服とかあんまり気にしなかったからなぁ……。まぁかわいいから何着ても似合ってたし、私がいろんな服を着せられたからいいんですけど……」

「まあ、そうなんです? うちのライスはオシャレには気をつかっていましたね。『リリィちゃんに相応しいレディになるんだよ!』って言ってましたっけ。あっ! そういえば──」

 

 思い出話に火がついた二人の会話は止まる気配がなかった。父親達はゆっくりと頷き、穏やかな笑顔で時間が過ぎるのを待った。

 暫くするとパドックでウマ娘達が紹介と共に勝負服をお披露目しだした。

 勝負服とは、トゥインクル・シリーズの重要なレース─GⅠレースなど─にて着用する特別な衣装である。衣装のデザインはウマ娘がデザイナーに希望を伝える時もあれば、デザイナーが1から手掛ける時もある。ウマ娘にとって自分の勝負服を得る事、勝負服でレースを走ることは非常に名誉なことであり、強い想いが込められた衣装となる。

たまにそれで本当に走れるの? みたいな衣装があるが、よくわからないが走れるので問題ない。ウマ娘は神秘的な種族なのだ。

 

「あっ! ライス! ライスよあなた!!」

「…………美しい」

 

 黒い少女が現れ、肩にかかっていたジャージを宙に投げた。其処には蒼黒を纏った漆黒のウマ娘──ライスシャワーが居た。

 漆黒の髪に、青が映えるその衣装は彼女を華麗に飾っている。華奢な体つきと露出した肩からは妖しい魅力が溢れ、見るものを魅了していた。柔らかな微笑みと共に、黒い少女はふりふりと手を振っていた。

 

「……ライスちゃん綺麗になったわねぇ」

「うぅ……ライスぅ……。すきぃ……」

「…………嗚呼、なんて……」

「……限界化してるね」

 

 ライスシャワーの両親が言葉を失ってるのを見て二人は「なんだか大変な事になってるな……」などと半ば他人事のような感覚で眺めていた。

 パドックを見守る観客達の興奮は、まだレースが始まってないというのにその最中かと感じるほどだった。そして、不意に観客達の声が止まった。

 

 コツンコツンと小さな足音が響く。やがてその足音は止まり、白い少女がその身を隠す邪魔な布を投げ捨てた。

 ──白だ。穢れなど何一つ無い、白。髪は白、肌も白、服も、何もかもが白い中で、その瞳だけは金色に煌めく。神秘的な輝きを放つ、白い──まるで聖女のような少女が其処にいた。

 白い長袖のワンピースは装飾が殆どなく、スカートの裾に目立たない程度に金色の糸で白百合が刺繍されているが、それ以外に特徴といったものはなく一見地味といえる衣装だった。脚は白いタイツで完全に隠れており、露出は皆無であった。

 だが、逆にそれがよかった。少女本人の圧倒的な美しさの前に、華美な衣装など邪魔にしかならない。この地味な白ワンピースが少女の美しさをより引き出していた。

 シロノリリィの美しさを前に誰もが言葉を失っていた。一部の者は感動の余りに無言で涙を流していた。それは両親も例外では無い。

 

「………………リリィちゃん」

「………………リリィ」

 

 止まることの無い涙を流す二人の脳裏に、シロノリリィとの思い出が駆け巡った。今まで彼女と過ごした愛しい記憶がまるで花火のように弾け、心を強烈に揺さぶった。──嗚呼、なんて尊い。

 ……まだレースは始まってないのにこの調子で本当に大丈夫か?

 皆がシロノリリィに圧倒される中、当の本人はそれを気にすることなく、肩幅に足を広げ、両手を腰に据えて軽く胸を張り──ドヤ顔をした。かわいいですね。

 惚けていた観客達も「あっ……いつものリリィちゃんだ」と思い、なんとか現実に戻ってきた。

 

「…………しゅっご」

「…………凄まじいとしか言いようがないですね」

 

 ライスシャワーの両親達も戦慄していた。小さい頃からとても美しい少女だと思っていたが、成長してここまで美しくなるとは思ってもいなかった。幼い頃からあの光を浴びてきた娘が夢中になるのも分かる。

 ちなみにこの勝負服に一番興奮していたのはその本人達だ。ライスシャワーがシロノリリィに似合うようにと10歳ぐらいの頃から考えていたデザインであり、それを最愛の彼女が着ているのだ。この勝負服が届いた当日は興奮しすぎて押し倒す寸前だった。もちろんライスシャワーの勝負服を見たシロノリリィも超興奮していた。興奮しすぎて語彙力が無くなり「あ゛ー!」しか言えなくなっていた。トレーナーも愛バの可憐な勝負服を見て死んでいた。

 

 

 ファンファーレが鳴りウマ娘達が続々とゲートへと入っていく。白と黒の少女の、最初のレースが始まる。

 

『誰をも魅了し、心を奪う希望の星が誕生する! ホープフルステークス! 3番人気はこの娘です、マチカネタンホイザ。この評価は少し不満か? 2番人気はこの娘シロノリリィ。さあ、今日の主役はこの娘をおいて他にいない! 1番人気はライスシャワー!』

『みんないい表情を見せていますね』

『ゲートイン完了。出走の準備が整いました。──ゲートが開いた! スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロノリリィは今日のためにライスシャワー対策を考えた。彼女が放つ強烈なプレッシャー……所謂デバフだが、何度もレースを見返した結果、ライスシャワーから離れているほど効果が薄くなる事に気づいた。なので、とても単純な作戦を考えた。

 

(ライスちゃんから離れるほど効果が薄くなるなら……私は最後方からの追い込みで行きます!)

 

 出遅れない程度のスタートを切ったシロノリリィは、バ群の一番後ろにつきライスシャワーの姿を探した。恐らくライスシャワーは先行策で来るだろう。スタミナに不安がある自分があのプレッシャーをまともに受けたら最後まで脚が残らないと考えられる。なのでこうして距離をとりつつ脚を残すのが最善だと思っていた。

 

(…………あれ?ライスちゃんが……どこにもいない?)

 

 ──出遅れたのか? あのライスシャワーが? 彼女の実力を一番に理解している自分からしたら、そんなミスを犯すはずは無いと考えた。見間違いかと思いバ群を再度確認したその時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──こっちだよ、リリィちゃん

 

 ──シロノリリィの背後から、粘ついた殺気が纏わりついた。

 

 

 ライスシャワーは……唯1人、シロノリリィだけをマークしていた。彼女を確実に潰し、勝利するために。──2000mの地獄が、始まる。

 

 

 

 




長くなりそうだから区切りました。許して……。
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