すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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ほとんどトレーナー達が喋っている回です。
※タイトル変更しました。内容に変更はありません。


第16話 酒は飲んでも飲まれるな!です!

 焦点の合わない瞳で赤ら顔の女が大声で笑っている。その隣で同じように顔を赤くした男が顔面をくしゃくしゃにしながら咽び泣いている。それを死んだ目で女は眺めていた。時は年末。場所はどこにでもある居酒屋で、ここにいる三人の大人──トレーナー達は忘年会をしていた。

 飲み会で醜態を晒す姿はある意味風物詩とも言えるが、こんな光景は子どもたちには見せられないなぁ。なんて思いながら、私はコップになみなみと注がれた日本酒をグイッと一気に飲み干した。

 

「あ〜お〜じ〜くぅ〜ん! な〜ん〜で〜む〜し〜す〜る〜のぉ〜!!」

 

 いや、本当に見せられないな……。頭をぐりぐり押し付けてくる先輩トレーナーを無視してタコの唐揚げを口の中に放り込む。あぁ……タコうめぇ。若さゆえの特権か、まだ油物を食べても余裕の胃袋に感謝し、ついでに酒を追加するためにタッチパネルを操作する。

 

「あおじくん! わらしもおしゃけのむっ!」

 

 ぺちぺちと太ももを叩いてくる酔っぱらいを無視し、日本酒と天ぷら盛り合わせと刺身とお魚フライを追加で注文した。もちろん酔っぱらいに酒など飲ませない。ビールジョッキ3杯とハイボールジョッキ4杯と日本酒コップ3杯とウィスキーロックで1杯飲んだ自分は棚に上げておく。

 

「アルコール度数0でいっぱい飲んでも酔わない上に寧ろ酔い醒ましに効くヤツ頼んでおきましたよ〜」

「えぇ〜!! なにそれすっごぉい!! さっすがあおじくぅんたよりになるぅ!」

 

 ──ただの水である。酔っぱらいに正常な判断力など無いのでテキトーでいいのだ。そんな事は置いといて、ここにいる二人の酔っぱらい──キョウエイボーガンのトレーナーである本田さんとアッシュストーンのトレーナーである中村さんを眺めながら、どうしてこうなったのかを思い出してみた。

 

 

 

 リリィとライスのホープフルステークスが終わった後日、私は疲労でくたくたになっていた。理由としては私の愛バである二人が起こした事件「イチャイチャ☆ホープフル♡」と、その後のゲロ甘ライブとラブラブ勝利者インタビューがほとんどなのだが、幸せそうに寄り添う二人に何も言えず、静かに祝福した。

 いや、レースそのものは本当に素晴らしかったのよ。親友でライバル同士の対決にお姉さまの心は熱く燃えたわ。まあ、親友から恋人にランクアップしてしまったんだけどね。

 そんな二人なんだけど、今はトレセン学園にはいないわ。流石に年末は実家に帰るという事で新幹線に乗り帰省したの。ライス、別れ際にほっぺにちゅーするのはやめなさい、胸焼けがするのよ。「……待っててね♡」「……うん♡」じゃないわよ。

 最近は二人のイチャイチャに耐性ができていたのにこの短期間で急激なパワーアップを遂げた事で、耐性を凌駕するイチャイチャパワーによってお姉さまは死んだ。だがすぐに生き返ってまた死んで生き返って、それを延々と繰り返した。生と死の狭間を高速で反復横跳びする私に、流石に死神も哀れなものを見る目でこちらを見ていたわね。死神と言っても斬魄刀は持ってなかったわ。

 とはいえ今年のやる事は終わったので、今のお姉さまは暇そのものである。実家に帰る予定も友達と遊ぶ予定も恋人……そんな者はいないが、とにかく何も予定なんて無い。久しぶりに晩酌でもしようかなと思い、トレーナー寮から出かける為に上着を羽織ろうと手を伸ばした瞬間にピロロンとスマホから着信音が鳴った。誰からの電話だ? と思い見てみると、そこに「本田」という文字が表示されていた。

 

『やあやあ青路くん。ちょっと大事な話がしたいんだが今暇かい?』

「大事な話……愛の告白ですか? 私は今からお酒でも買おうかなぁと思ってコンビニに行こうとしてたぐらい暇なので大丈夫ですよ」

『ふっふっふ……。それはとても魅力的な話だが今回の件はそれとは関係無いよ。そうだねぇ……丁度いいし、忘年会も兼ねて居酒屋にでも行くかい? 青路くんがオシャレな店がいいって言うなら今から必死にスマホで検索させてもらうがね』

「オシャレな店より気楽な居酒屋の方が好きなのでそっちでいいですよ」

『そう? 嬉しいねぇ。どうやら私達は気が合いそうだ。お店の名前は○○、場所は後でLANEで送るよ。時間は……そうだねぇ……18時ぐらいでいいかな? 予約とかは心配しなくていいよ。私行きつけのお店なんだが、いつも客が少ないんだ。あぁ、あと中村くんもついでに呼ぶけど構わないかい?』

「大丈夫ですよ。でも女性二人に囲まれて気まずくならないかだけは心配ですね」

『美人二人に囲まれるんだ。寧ろ本望だろう? ……それじゃあまた後で会おう。じゃあねぇ〜』

「はい。ではまた後で」

 

 本田さんとの通話を終了して現在の時刻を確認すると時刻は13時ちょっと。なので飲み会までまだ時間がある事に気づいた。仕事があれば時間などいくらでも潰せるが、生憎もう終わらせてしまったのでやることが無い。

 

「…………ライスとリリィがいれば構ってもらえたんだけどなぁ。……マンガでも読むか」

 

 

 

 

 集合時間の5分前に目的の居酒屋に到着した私は、本田さんと中村さんがいないか周りを確認した。すると、少し離れたところからゆらゆらと片手を振る本田さんと、そこから少しだけ離れてついてくる中村さんの姿を確認できた。

 

「遅れてごめんね〜。もしかして結構待ってたりするかい?」

「大丈夫ですよ。私もさっき来たばかりなので」

「そうかい? ならよかった。……デートだと定番のやりとりだが、そうすると中村くんがお邪魔だねぇ」

「呼んだのはあなたでしょ……」

 

 くすくすと笑いながら「怒った? ねぇねぇ?」と揶揄うが、普段からよくやられているのか中村さんは慣れた様子で「いいからお店入りますよ。青路さんに迷惑でしょ……」と本田さんを店へ入るように促した。

 店に入ると確かにお客の人数が少なく、本田さんが言ってたように繁盛しているとは言い難かった。お姉さまにとっては気にすることじゃないのでスルーしたが。店員に席に案内されて四人席へ着くと、「青路くんの隣も〜らい!」と本田さんが隣に座った。私も中村さんも特に気にする事なくメニューを手に取った。

 

 

 

 

 

「──じゃあそろそろ本題に入ろうか。今日君達を呼んだのは『領域』について伝える必要があったからだ」

「「領域?」」

 

 バトル漫画かな? と思ったが、噂程度の話なら聞いたことがあったなと思い出した。中村さんもこちらと同じようなリアクションをしている。

 

「まあ名称なんて領域でもゾーンでもなんでもいいんだが……とにかくこれについて説明させてもらうよ。……といっても私達『ヒト』は基本的にこれを感知する事はできないんだがね。ウマ娘のみがこれを発生させたり感知したりできるんだ」

「……もしかして先日のホープフルステークス……ライスの最後の加速が関係しているんですか?」

「ややっ……正解だよ。よくわかったね? ……といっても多分なんだけどね。別に悪い事じゃないから心配はしなくていいよ。本当はこの話はしない予定だったんだが……まさかライスちゃんが領域を使えるようになるとは思ってなくてねぇ……。恐らくだがリリィちゃんも片足ぐらいは突っ込んでるよ」

「……その話って俺にも関係あるんですか?」

「もちろん。アッシュストーンも片鱗を見せているし、この前戦ったミホノブルボンだってそうさ。他にもチラホラいるよ。まあ完全に領域を出せたのはまだライスちゃんだけだと思うがね。今年は豊作すぎて困っちゃうねぇ…」

「…………ミホノブルボン、か」

 

 どうやら中村さんは先日の朝日杯フューチュリティステークスの事を思い出しているようね。アッシュストーンとミホノブルボンが対決し、惜しくも敗れてしまった苦い記憶を。私も偵察の為に当日一緒にいたんだけど、その時アッシュストーンは「そんなに気にするなよ。オレはまだ走れるんだ、次がある」って言っていたけど、やはり勝たせてあげたいと思うのがトレーナーという生き物だ。それが表情に出てしまっているわ。

 

「ほらほらそんな顔しないの。この領域というやつはね、才能のあるウマ娘のごく一部が使えるようになる代物でね。効果は個人によって異なるが限界を超えて加速したり、体力を回復したりとそれこそゲームのような効果があるんだよ。一説によると己の魂の具現だとかなんとか言われているが本当かどうかは知らないよ。時期的には早くてクラシック級の後半……大体秋頃、ほとんどはシニア級に入ってから使えるようになるんだ。条件として肉体と精神の成熟が必要でね。つまり何が言いたいのかというと、ライスちゃんは使えるようになるのが早すぎたんだ」

「……それじゃあライスの身体に負担がかかってる……という事ですか?」

 

 もしそうだとしたら、愛バの変調に気づけなかった自分を許せないと思ったが、本田さんはふるふると首を横に振った。

 

「いや、それがね……私もそう思っていたんだが……多分大丈夫だと思うよ。普通この時期には使えないんだが、あの時のライスちゃんはリリィちゃんに対する強い想いで領域を発動させたんだ。まだ未熟な肉体を、尋常じゃない精神力で補ったんだと思うよ。だから肉体的な負担はそれほど無くて、ライスちゃんも特に何事もなく今も元気だろう? まあこれはあくまで推測に過ぎないけどね。……正直、私にも詳しい事はわからないよ」

「…………うそん」

 

 荒唐無稽な話だが、普段のあのイチャイチャを見ているとあながち間違いではないと感じてしまう。言った本人の本田さんも「まあ、ウマ娘自体が不思議な存在だから」と若干呆れた顔をしていた。

 

「というわけで青路くんにわざわざ話したのは担当のウマ娘が領域に目覚めたからなんだけど、基本的に領域については話すべきじゃないんだ。さっきも言った通り私達には知覚する事が出来ず、またそれを習得するのは困難なのと、領域を習得するために変な特訓をさせてウマ娘を壊しかねないというのが主な理由だ。中村くんを呼んだのはアッシュストーンもそれに到達する可能性があるからだ。君が彼女に変な特訓をさせないって確信している故の信頼と言い換えてもいいよ。……まあトレセン学園に入学してる時点で全員が領域を使う資格があるようなものなんだけどね」

「もちろんです。俺はアッシュを信じてる。領域についてはよくわかりませんが、今は彼女をもっと強くする事が大事です」

「なるほど、よくわかりました。……ところで領域を使えるかどうかってどうやって見分けるんですか?」

「ん? う〜ん……カンだよ。意外とバカにならないよ? レジェンドと呼ばれるウマ娘達のレース映像をよく観察してみるといい。先輩からのアドバイスはこれでおしまいさ。長くなってごめんね?」

「わかりました。ありがとうございます本田さん」

 

 話に区切りがついたところで先程注文した料理がテーブルに届いた。それを見た本田さんが「待ってましたー!」とはしゃぎ出し、先ほどまでの頼り甲斐がある姿が一瞬でなくなったなぁ、などと呑気に考えていた。

「領域」の事はひとまず頭の片隅に追いやり、まずはこの料理をいただく事にしよう。せっかくの忘年会だ、難しいことは明日の私に任せよう。

 

「よしよし。難しい話は今は無しだ! とりあえず二人とも、乾杯しようよ! ほらほら! ……よし、いいね? それじゃあ今年もお疲れ様でしたー!」

 

 カンパーイ! とみんなで言い、それを見た本田さんは満足そうに頷いた後、喉を鳴らしながらハイボールジョッキを半分ほど飲んで「ぷはーっ!」とおっさんみたいな声を出した。

 

「本田さん……あんまりお酒強くないんだから、そんなに一気に飲んじゃダメですよ?」

「なぁ〜にぃ? 生意気だぞ中村くん。君だってお酒弱いじゃないか!」

「分かってるからあなたみたいには飲まないんですよ。……そういえば青路さんってお酒大丈夫ですか? 苦手なら頼まなくても大丈夫ですからね。この人に言われても気にしないでいいですから」

「大丈夫ですよ、お酒好きなので。中村さんはどうなんです?」

「正直ジョッキ1杯で限界ですね。でもお酒自体は好きなんですよ」

「そうなんですか。……そういえばお二人ってなんだか仲がいい気がするんですけど、普段からこうやって食事したりするんですか?」

 

 普段の親しい様子から気になり質問してみたのだが、それを聞いた中村さんは微妙な笑顔になった。……聞かないほうがよかったかもしれない。

 

「……まあ、本田さんから誘われてたまにこうやって飲みに行ったりはしますけど、仲がいいかと言われたら……微妙ですね。トレーニングのアドバイスとかはしてもらったりしますが」

「おやおや? 私とイイ仲だと中村くんは困っちゃうのかなぁ?」

「そんなんじゃないですよ。本田さん、青路さんに失礼ですよ」

 

 簡単に一蹴される本田さんを見て、普段からこんな感じなんだろうなぁと思った。そういえば自分はトレーナーになってからはこうして誰かと出かける機会が無かったなぁ。ライスやリリィとはよく出かけるんだけどね。主に保護者役としてだけど。

 

「私はトレーナーになってからはこうして誰かと遊びに行く機会が中々ありませんでしたね」

「おやおや? こんな美人さんなのにかい? 世の中見る目がないやつばかりだねぇ」

「私自身が断ってたっていうのもありますけどね。でも、たまにはこうやって気楽にお酒を飲むのもいいかもしれません」

「うんうん! そうだよそうだよ〜! じゃあこれからは遠慮せずに誘わせてもらうね〜!」

「青路さん、断っていいですからね。この人は調子に乗ると鬱陶しいので」

「……中村くぅん?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと行けたら行くって返事しますから」

「それって行かない時の常套句だろう!? やだー!!」

 

 もう酔っ払ってるなこの人。なんか妙に気に入られてるのよね。別にいいけど。

 暫く談笑しながら食事を続け、お姉さまはハイペースでお酒を飲み続けた。それに釣られて本田さんと中村さんも飲むペースを上げてしまい、見事に酔っぱらい二人が出来上がった。お姉さまはウィスキーを瓶で一気飲みしても酔わない程度にはお酒には強い。(※危険なので絶対に真似してはいけません)私はお姉さまよ? 私を酔わせたければスピリタスでも持ってきなさい。

 どうやら本田さんは笑い上戸で中村さんは泣き上戸のようね。本田さんは啜り泣く中村さんを見て大声で笑っている。二人とも明日の朝は二日酔いで大変だろうなぁ。

 

「……大丈夫ですか? お水飲みます?」

「いらないっ! だっれわらし、ぜんぜんよっれないもん!!」

「……中村さんもお水どうぞ」

 

 暫く水を眺めていた中村さんは突然大声で泣き始めた。思わずぎょっとしたが、表情には出さずに優しく背中をさすっておいた。

 

「……俺は……アッシュのお荷物ですっ……! 勝たせて、あげられない……! ……ブヒッ!」

 

 今回は違うが、過去にアッシュストーンが敗北した相手がリリィであるため、お姉さまはかけてあげられる言葉がなかった。

 

「…………ライスとリリィは、何してるのかなぁ……」

 

 ぽつんと呟くが、その小さな声は酔っぱらいの笑い声と泣き声にかき消されてしまった。

 

 

 

 


 

 

 白い少女が真っ白な雪景色の中を軽やかな足取りで歩んでいる。その姿は、妖精のように可憐で美しい。金色の瞳が映す景色は、故郷を離れた時とほとんど変わらぬ様子で、その光景に少女は懐かしさを覚えた。

 

「久しぶりだなぁ……。トレセン学園に入ってからまだ一年も経ってないけど、すごく懐かしく感じますね」

 

 鼻歌を歌いながら暫く進んで行くと目的地にたどり着いた。そこには二人の大人が立っていて、少女を見つけた彼らは優しく微笑みながら声をかけた。

 

「……おかえり、リリィ」

「……おかえりなさい! リリィちゃん!」

 

 その声を聞いた少女は駆け出した。愛する両親の元へ。二人の胸へ飛び込みそのまま抱きしめ、そして少女の太陽のような笑顔が弾けた。

 

「──ただいまっ!」

 

 




ジュニア級編はこれでおしまいです。次回は怪文書です。
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