穏やかな朝日に照らされて私は目を覚ました。今日の天気は晴れ、絶好のお出かけ日和。
隣ですぅすぅと可愛らしい寝息を立てる真っ白なあなたの頭を優しく撫でる。さらさらとした髪が、撫でるたびに私の指をすり抜ける。
撫でられた感触が心地良いのか、気持ちよさそうに小さく笑うあなたに私も微笑んだ。
──とっても綺麗。
あの頃から、はじめてあなたと出会った時から私はあなたに夢中になっている。
こうしていつまでも撫でていたいが、そういうわけにもいかないので撫でる手を止めてあなたの頬にキスをした。
ピクン、とウマ耳が揺れてあなたは微睡から目を覚ます。寝ぼけ眼で周りを見回したあなたは、私を見つけてふにゃふにゃとした笑顔を浮かべた。
「……おあようライスちゃん」
「おはようリリィちゃん。ふふっ……お誕生日おめでとう、リリィちゃん」
今日は2月27日。あなたが生まれた奇跡の日。
まだ若干寝ぼけているあなたは、嬉しそうに笑って私に抱きついてきた。
「……んふふ。ありがとうライスちゃん」
あなたのあたたかさが、この温もりが心地良い。
あなたの匂いが、私の心を満たす。
あなたの声が、私に安らぎを与えてくれる。
「ねぇ、リリィちゃん。今日はどこに行こっか? ……どこでもいいよ。リリィちゃんと一緒なら」
「う〜んとね。……じゃあ、わがまま言ってもいい?」
「もちろん大丈夫だよ。リリィちゃんのお願いなら、ライスはいつでも大歓迎だから」
「本当? ……えへへ。それじゃあね──」
朝の支度を終えた二人は、寮を出て目的地を決めずに気が向くままに歩いていた。シロノリリィがお願いしたのは「細かいことは決めずに二人でお出かけすること」だった。どうしてだろう? と少しだけ思ったが、シロノリリィが上目遣いでお願いしてきたので光の速さで了承した。かわいいですね。
「ふんふんふふ〜ん♪」
ライスシャワーと手を繋いで歩くシロノリリィはとってもご機嫌だ。「すっき〜すきすきライスちゃ〜ん♪」とかわいらしい歌を歌っている。今は2月なのでまだまだ肌寒いが、彼女と繋いでいる手はぽかぽかとてもあたたかい。
そのまま歩いていると、シロノリリィが立ち止まってコンビニのものだと思われるのぼりを見つめ、そしてキラキラと目を輝かせながらこちらに振り向いた。
「あそこのコンビニ、ポテト半額だって! 行こーよ!」
……半額ポテトがなぜ彼女を惹きつけたのだろうか? よく分からないがシロノリリィがかわいいので「うん、いいよ!」と返事をしてコンビニへと向かった。
「……リリィちゃん、本当にそれ食べるの?」
「うん! だっておもしろそうだもん!」
「……食べものにおもしろそう……って感想は、普通は無いと思うんだけど…」
ライスシャワーはシロノリリィが持っている商品に思わず顔が引き攣ってしまった。当初の目的通りにポテトを買おうとしたのだが、お菓子コーナーにあったソレにシロノリリィが気づいてレジへと持っていったのだ。
その商品の名は「肉ガム」。その名の通り肉の味がするガムだ。
なぜこんなものがコンビニに置いてあったのかは謎だが、正直言って絶対に不味いと思う。
「……ポテトを先に食べてからにしようね?」
「うん! でもこのガム、多分美味しくないよね!」
分かってるならやめようよ……。と思ったが、彼女の好奇心あふれるきらきら笑顔を止めることができなかった。
近くに公園があったので、ベンチに座ってポテトを食べることにした。
「ふ〜……ふ〜……。はい、あ〜んして」
「あ〜ん……もぐもぐ……おいしい!」
二人で食べさせあってポテトを完食した。そして、にこにこしているシロノリリィが問題のブツを手に取った。
「どんな味なのかなぁ……。リリィちゃんわくわくです!」
包装紙を剥がして肉ガムを口の中へパクリと入れた。もぐもぐと咀嚼する彼女の表情が笑顔から段々と変化し、虚無を見つめる様な表情へと変わった。
「……えっと……リリィちゃん、大丈夫?」
「…………あのね、肉汁の味がして……甘ったるくて……それが混ざって……。うん、おいしくない……」
「……さっき買ったお茶飲む?」
「……うん」
この後がんばって全部食べた。
シロノリリィのやる気が下がった。
体力が10回復した。
「…………なんであれが商品化したんだろ。世の中不思議なことだらけです…」
「そうだね……。次は美味しいもの食べに行こ?」
現在二人は電車に乗って移動している。肉ガムを食べた影響で若干耳がへにゃへにゃしているシロノリリィを自分の膝に乗せ、二人は窓の外の景色を楽しんでいた。
「……お〜。ねぇ見て、ライスちゃん! すっごい派手な車!!」
「えっ? どこどこ……わぁ、本当だ。真っ赤ですごい目立ってるね」
街中を走る真っ赤なスーパーカーに二人は目を奪われる。なんだかイケイケなオーラを感じたが、その姿はすぐに見えなくなってしまった。
「そういえば、今はどこに向かってるの?」
「えっとね、○○駅で降りて、その近くにあるゲームセンターだよ」
「そうなんだ。リリィちゃんは何かやりたいゲームがあるの?」
「あのね、ちょっと見たいやつがあるの。……あっ! そろそろ着くみたいだよ!」
電車が駅に止まり、二人はドアから降りた。
当然のように二人は手を繋ぎ、互いに顔を見合わせて笑い合った後に出口へと向かっていった
「……どこにあるかな〜。……あっ! あったあった! ほら見てライスちゃん、私達のぱかプチだよ!」
「あっ……本当だ! ライス達のぱかプチがあるね!」
ゲームセンターに到着し、シロノリリィは目的のものを見つけ出した。それは「ぱかプチ」と呼ばれるウマ娘達をモチーフにしたぬいぐるみだった。
「リリィちゃんが見たかったのってこれのこと?」
「うん。るるちゃんが私達のぱかプチの見本を見せてくれたでしょ? でも実際に並んでるところが見たいなぁって思って」
「そうだったんだ。ねぇ見てリリィちゃん、ライスとリリィちゃんのぱかプチが一緒に並んでるよ。こっちでも仲良しだね!」
「あっ、本当だ! ……えへへ、嬉しいなぁ! ……それじゃあ私が今から取ってみせるよ!」
「がんばって、リリィちゃん!」
硬貨を投入してクレーンゲームをスタートした。慎重にアームの位置を調整して狙いを定める。
「……ここかな? よし、ここにするよ……!」
「……どきどきするねっ……!」
ふわふわと独特な効果音と共にアームが下がってぬいぐるみを掴み……そのまま目的の物を掴み上げた。
「…………っ! よしよしそのままそのまま……!」
「わわっ……! もうひとつくっついてきた!」
ゆらゆらアームが元の位置に戻り、見事に目的の物を獲得することに成功した。
「やったぁー!!」
「わぁっ! おめでとうリリィちゃん!!」
クレーンゲームに成功した二人は大喜びしている。
ライスシャワーとシロノリリィのやる気が上がった!
「えへへ……! それじゃあ……はい、こっちのやつはライスちゃんにプレゼント!」
「わっ……! えへへ……! ありがとうリリィちゃん!」
シロノリリィが獲得したぱかプチは「シロノリリィ」と「ライスシャワー」だ。その「シロノリリィ」の方をライスシャワーへと渡した。
嬉しそうにぱかプチを抱えたライスシャワーは、こちらを向いて「抱き心地は本物の方がいいね♪」と言い、シロノリリィもそれに力強く同意した。
そんな二人の様子を見守っていた店員は尊死した。
その後二人はゲームセンターを見て周り、興味を惹かれたものをやってみることにした。
「ダンスゲームだって。そういえば私、こういうのやったことなかったなぁ」
「じゃあやってみる? ライスもあんまりやった事ないけど、ウイニングライブやってるからいい点数が取れるかもしれないよ」
「そうだね! 私達のトレーニングの成果を見せてあげます!」
早速シロノリリィがやってみると、なんとウイニングライブと同じ振り付けの曲があることに気がついた。
「おぉ〜……あの曲の振り付けがありますね。これならちょーかわいいリリィちゃんをお見せできますよ」
「ライス、応援してるね!」
曲の始まりと共にシロノリリィが動き出す。ダンスゲームの初心者とはいえ彼女は重賞レースに勝利したウマ娘だ、大きなミスをする事なく可憐に踊り切った。
「……ふふん! どうですか私のダンスは!」
「あ゛っ!! かわいいっ!! 最高だよリリィちゃん!!」
ドヤ顔のシロノリリィとそれに興奮するライスシャワー。自信満々だったシロノリリィだが、ダンス結果の点数を見てびっくりした。
「……っ! 私よりも上の人がいっぱいいます! すごいです!」
「わぁ……本当だ。えっと、一番上の人は……TEIO……『ていおー』って読むのかな? ……トウカイテイオーさん……じゃないよね?」
「……さすがに違う……とは言い切れないよね。本当にトウカイテイオーさんだったら面白いね!」
その後シロノリリィはライスシャワーと交代し、同じように可憐なダンスを披露した。シロノリリィはライスシャワーのダンスにめちゃくちゃ興奮していた。
「あ゛っ!! ライスちゃんかわいいっ!! すきっ!!」
「えへへ……! ありがとうリリィちゃん!」
ゲームセンターを出た二人は昼食を食べ、その後もぶらぶらと気が向くままに街を巡った。
途中で立ち寄ったウマ娘グッズ販売店で自分達のグッズがある事に喜び、いくつか購入した。自分達もグッズが出るほどのウマ娘になったのだと感慨深いものがあった。
服屋に行って春物の服を二人で見て試着した。なんとなくお嬢様っぽいコーディネートをシロノリリィにした結果、本物の深窓の令嬢っぽくなってしまいライスシャワーが悶絶した。
おやつの時間になったので二人は直感で選んだお店でスイーツを食べることにした。何も調べずに選んだので少しドキドキしたが、とてもふわふわなパンケーキが出てきて二人はにこにこでそれを食べさせあった。彼女達の笑顔は、パンケーキよりもふわふわであまあまだった。
「あ〜……楽しかったぁ!」
「ふふっ。おつかれさま、リリィちゃん。今日はいっぱい遊んだね」
部屋へと帰宅した二人は心地良い疲労感に包まれていた。シロノリリィはベッドにダイブしてゴロゴロしていた。それを見てライスシャワーは優しく笑い、机の中にしまってあった小箱を取り出した。
「……ねぇねぇリリィちゃん、今日はとっても楽しかったね! ……だけど、どうして何も決めずに行ったの? もちろん不満があるわけじゃないよ。でも、なんでなのかなって思って」
ライスシャワーがそうやって聞くと、シロノリリィはゴロゴロするのを止めて手招きをした。
「……ん〜とね、特に深い理由とかは無いよ。本当になんとなく、何も考えずにそうしただけ。強いて言うなら、小さい頃を思い出したからかなぁ」
「小さい頃?」
「ん。……私達がちっちゃい頃って、『○○をするぞ!』とか何も考えずに好きなようにあっちこっち行ってたよね? ……そんだけめちゃくちゃでも、すっごく楽しかったって私は覚えてるの」
「ふふっ! ……そういえばそうだったね。……二人で泥だらけになって、お母さまやリリィちゃんのママを困らせたりしたよね。……懐かしいなぁ」
「そうそう! だからそうしたの! ……ライスちゃんは、今日楽しかった?」
少し不安そうに尋ねるシロノリリィに、優しく微笑んで頭を撫でる。
「とっても楽しかったよ。……リリィちゃんと一緒なら、どこでも楽しいもん」
「そっかぁ……! えへへ……嬉しいなぁ!」
ライスシャワーの返答に安心したシロノリリィは、ほっと胸を撫で下ろした。
「……あのね、ライスちゃん。私ね、はじめてライスちゃんと出会った日からずっとどきどきしてるの。ライスちゃんと一緒に過ごした日々がとっても特別で、大切で……きらきらしているの。……これはきっと、いつまで経っても変わらない」
金色の瞳がライスシャワーを映す。
「──毎日が、特別。……どきどきして、きっと……いつまでも変わらない。……私ね、とっても幸せなの……ライスちゃんがいるから!」
……顔が熱い。なんて真っ直ぐで、綺麗な笑顔なんだろう……。
「……ライスもね、リリィちゃんといると……すっごく幸せなの。ふわふわしてて、あったかくて……とっても幸せ。……だからね、リリィちゃん。あらためて言わせてもらうね」
穏やかに笑うシロノリリィの前に綺麗な小箱を差し出し、その蓋を丁寧に開けた。
──其処にあるのは、白百合を象った指輪だった。
「あの時……リリィちゃんとお別れしてから……またお祝いできる日、ずっとずっと待ってたんだ。……リリィちゃん。生まれてきてくれて、ありがとう。──だいすきだよ!」
ライスシャワーはその指輪をシロノリリィの右手の薬指に優しく嵌めた。
シロノリリィは愛おしそうに指輪を撫でる。彼女の顔から笑顔が溢れ、止まらない。
「……えへへ。……どうしよう……嬉しすぎて、お顔が戻らないよ……!」
「……左手にするのは、まだ先だよ? ……ふふふっ! ライスはもっともっと……リリィちゃんのかわいい笑顔が見たいな!」
「んもぅ……! ……なんだか私ばっかりどきどきさせられてて、ちょっと悔しいなぁ……」
「ライスだってどきどきしてるよ?」
「えぇ〜? 本当にぃ?」
「ふふっ。本当だよ? リリィちゃんがライスのことをだいすきなのと同じぐらい、ライスもリリィちゃんのことだいすきなんだもん」
「む〜…。あっ! いいこと思いついた! ……ライスちゃん! ライスちゃんのお誕生日楽しみにしててね! 私がライスちゃんのこと、すっごくドキドキさせてあげるから!」
「本当? ライス、楽しみにしてるね!」
2月27日。あなたが生まれた奇跡の日。
あなたがくれた幸せが──
あなたがくれた温もりが──
あなたがくれた優しさが──
とてもとても大切で。
心を込めて、祝福を。
ありがとう、ありがとう。
あなたと出逢えたこの奇跡。
生まれてきてくれて、ありがとう。
後日、ライスシャワーの誕生日。彼女の希望で甘々ふわふわイチャイチャデートを終えて、現在は部屋へと戻ってきた。
シロノリリィが「ドキドキさせてあげる!」と言ってサプライズを計画していたので、ライスシャワーは内心ものすごくウキウキしていた。
(えへへ……! リリィちゃんに指輪嵌めてもらっちゃった! ……嬉しいなぁ。ライス、嬉しすぎてふわふわしてきたよ! ……リリィちゃんの言ってた『ドキドキさせてあげる!』って、何をするのかな? ……ライスの方がお姉さんだから、今までもがんばってお顔に出さないようにしてたけど、今回はちょっぴりピンチかも……)
シロノリリィがいつもと違い、ちょっぴり悪戯な表情でライスシャワーへと近づいてきた。普段と違う彼女の様子に内心大興奮していた。
(ふわぁっ!? リリィちゃんのお顔がちょっぴり悪戯っ子でかわいすぎるよぉっ!? ……だ、大丈夫! ライスは負けないもん! いくらリリィちゃんがかわいすぎるからって、そんなにすぐ負けたり……ふぇっ?)
ライスシャワーに近づいたシロノリリィは、ベッドの上でちょこんと座っているライスシャワーの頭を優しく胸に抱きしめた。
(ふぇぇっ!?!? あ゛っ!!! すきっ!! あったかいやわらかいっいいにおいするっ!!!!! 待って!!!!! ライス興奮しすぎておかゆになっちゃうっ!?!?)
ビクンビクンと悶えているライスシャワーの耳に、極上のスイーツよりも甘い声で囁いた。
「す〜きっ♡ す〜きっ♡ だぁいすきっ♡」
「あ゛っ!!!! あ゛っっ!?!? あ゛っっっ♡」