すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

27 / 46
口内炎が治ったので投稿を再開します。楽しみにしていてくれた皆様にはご迷惑をお掛けしました。



第21話 スプリングステークス! 激突! ミホノブルボンとサクラバクシンオー!

 みなさんこんにちは。14歳になったリリィちゃんです。ライスちゃんもお誕生日を迎えて17歳になりました。それでですね、なんと……ライスちゃんからお誕生日プレゼントで指輪を貰っちゃいました!! とっても嬉しいです! ライスちゃんだいすきっ!! 私もお返しにライスちゃんに指輪を贈ったちゃいました。えへへ! それでですね、ライスちゃんは先日、弥生賞に出走して見事に優勝しました。やっぱりライスちゃんは強いですね! レースを観戦していたのですが、ちょー絶好調って感じでしたね。タンホイザさんは2着でした。

 そして今日はスプリングステークス当日です。今年に入ってからみっちりトレーニングをしてきたので今の私はつよつよリリィちゃんです! ライスちゃん達に私のかっこいいところをお見せしなければいけませんね!

 バレンタインにお誕生日デートやら色々ありましたが、私だってライスちゃんと遊んでばっかりだったわけじゃないんですよ! 今日はブルボンちゃんと初対決なので私も気合が入ってます! むんっ!!

 実はですね、今日私が注目しているのはブルボンちゃんだけじゃないんです。スプリンター同盟のリーダー的存在であるあの人も今回のレースに出走しているんです。その人の名前は──

 

 


 

「ハイッ、サクラバクシンオーです!」

 

 私はサクラバクシンオーです! 見ての通り学級委員長をやっております!

 

「今回のレースは君にとって過酷なものとなるだろう。距離的な意味でも、ライバル的な意味でも、だ。……だが、この作戦が成功すれば……勝機はある!」

「ええ、分かっていますとも! ですから、この学級委員長が見事にバクシンしてみせましょう!」

 

 私のトレーナーさんはこの日の為にものすご〜く、頑張って作戦を考えてくれました。私は短距離ではバクシン的な力を発揮できるのですが、マイル以上の距離になるとスタミナ不足でバクシンできなくなってしまうバクシン的なスプリンターです。将来的に長距離まで走れるようになる予定ですが!

 練習の際にトレーナーさんが「バクシンオー、マイルでバクシンは使うなよ?」と言いましたが、己の内から溢れ出るバクシンを抑えられず「了解ッ! バクシンッ!!」と叫び全力で駆けてしまいました。……反省せねばなりません! 己の未熟さをッ!! 私はどうしてもこのバクシン癖を克服する事ができませんでした。

 ですが、トレーナーさんは私に言いました。「……逆に考えるんだ。バクシンしても、いいんだ。って……」と。一体どういことなのでしょうか?

 そして、トレーナーさんは私にある作戦を授けました。その作戦を伝えられて私は「ッ!! なんというバクシン的発想ッ!!」と驚愕したものです。いつも短距離レースしかさせてくれないし、私の目標である『長距離制覇』を本当に考えてくれているのか? などとほんの少し疑問に思っていたのですが、この作戦を伝えられた時はあなたにスカウトされて本当によかった! と思いましたね!

 

「……さぁ、君の力を……新たなるバクシンを皆に見せつけてやるんだっ!」

「お任せください! このサクラバクシンオー……いえ、(スーパー)バクシンオーの走りをご覧あれ!!」

 


 

 パドックでの紹介を終えた私達は地下バ道を進みます。

 

(ブルボンちゃん……すごい身体をしてました)

 

 改めて見た彼女の肉体を思い出し、私は武者震いしました。

 鋼の如く引き締まった肉体、まさしく筋肉の鎧とでも言うべき完成度でした。朝日杯から壮絶な特訓を重ねてきたのでしょうね。今回のレースも一筋縄ではいかないと感じました。でも、恐ろしいと感じた人がもう一人います。

 

(……サクラバクシンオーさん。この人も警戒しなければいけませんね)

 

 恐ろしい程堂々とした彼女の様子に、私は戦慄しました。──何か、確実に仕掛けてくる。……そう感じるほどに。

 

(でも、私だって負けてません。約3ヶ月、じっくりトレーニングしましたからね!)

 

 

 


 

(……やはり、リリィさんは強くなっていましたね)

 

 私は先程のリリィさんの様子を、パドックでの彼女を思い出していました。

 相変わらず綺麗すぎるリリィさんですが、その肉体はホープフルステークスの後とは比べ物にならないほど成長していました。見た目はほぼ変化がありませんが、中身──筋肉が格段にレベルアップしていました。

 

(リリィさんの肉体的な成長を観察するのは困難です。何故なら、とても綺麗なので他のところに目を奪われてしまうからです。ですが、私のハイパーブルボンアイは誤魔化せません。この3ヶ月、彼女も相当な特訓を重ねてきたのでしょう。……それでも勝つのは私です)

 

 そして、もう一人の事を思い浮かべました。

 

(バクシンオーさんは……まぁ、よく分からないので気にしないことにします)

 

 いつもより自信満々でしたが、いつも通りといえばいつも通りなので気にしない事にしました。

 

(私は、私の走りを貫くだけです。……見ていてください、マスター、お父さん)

 

 


 

 

『皐月賞への切符を掴むのは誰なのか。スプリングステークス! 天気は小雨、バ場は重となっています。3番人気はこの娘です、サクラバクシンオー。この評価は少し不満か? 無敗ジュニア級チャンピオンでありながら距離不安から2番人気となってしまいました、ミホノブルボン。そして本日の主役はこのウマ娘を置いて他にいない。色々と話題のウマ娘1番人気シロノリリィ! ゲートイン完了。出走の準備が整いました。──さあゲートが開いた。各ウマ娘、そろってキレイなスタートを切りました』

『誰が先頭に抜け出すか注目しましょう』

『先行争いはミホノブルボンとサクラバクシンオー! 二人が激しく競り合っているぞ! 注目のシロノリリィは前方から5番手の位置についています』

 

 ゲートが開きレースが始まる。シロノリリィはミホノブルボンを観察する為に前方から5番手の差しの位置についた。だが、今日のレースは今まで走ってきたレースと比べてある部分が違っていた。……そう、バ場が『重』なのだ。

 

(……なんでしょうか。違和感がある……じゃなくて、違和感が無さすぎる?)

 

 通常なら重バ場だと走る為にいつも以上にパワーが必要になるのだが、シロノリリィは自身の圧倒的なパワーによって逆に走りやすいと感じていた。……本人はよく分かってないようだが。

 

(……なんで走りやすいのかはよくわかりませんが、これはスタミナを温存するチャンスですね!)

 

 

 

 

 場面は変わって、レースはミホノブルボンとサクラバクシンオーがハナを奪い合う展開となった。二人が譲らず、他がそれに付いていく形だ。

 サクラバクシンオーはミホノブルボンに感嘆していた。自信に付いていくスピードと、それが落ちる気配のないスタミナに。

 

(そうッ! 今こそ、トレーナーさんからの作戦を実行する時ですッ!!)

 

 妙に自信満々なサクラバクシンオーだが、その作戦はというと「──バクシンオー。今回のレースは1800だ。君にとっては未知の距離であり、同時に厳しいものになるのは間違いない。……だが、この1800を2で割ると900になる。そう、900は短距離なんだ。だからね──900を、2回走ればいいんだよ」

 

(まさにバクシン的発想ッ!! トレーナーさんの思いに応えるために学級委員長として全力で……危ないところでしたッ! 最初の900は全力ではなく少しだけバクシンするのでした!! ブルボンさん、なんと恐ろしいバクシンッ! 思わず釣られてしまうところでしたッ!!)

 

 

 本当は全力でバクシンしたいところを寸前で堪えた。ミホノブルボンはサクラバクシンオーに構わず自分のペースで走っている。彼女は精密機械と呼ばれるほど正確なラップを刻んで走るウマ娘だ。むやみやたらとバクシンしては、後からバクシンする為のスタミナが無くなってしまう。

 二人が競り合いながら1、2コーナーを回るが、レース展開に大きな変化は無い。だが、直線に入ったところでバクシンオーに変化が起きた。

 

(──バクシンしたい。いえ、ダメですッ! 今ここでバクシンしたら、作戦が無駄になってしまいますッ!!)

 

 いつものレースならもうバクシンしている距離だ。それ故に身体がバクシンを求め出した。

 

(──ッ!?!? これは……自らのバクシンを……抑えられないッ!? …………ちょっとだけ……ちょっとだけなら……)

 

 バクシンしそうになったその瞬間、サクラバクシンオーはトレーナーとのトレーニングの日々を思い出した。

 

『バクシンオーっ! そうだ、己のバクシンに飲み込まれるなっ!! 自らのバクシンを制御しなければ、長距離など夢のまた夢だぞっ!』

 

『……くッ! バク……シン……ッ!! ……バクッ……シッ!!』

『いいぞ! そのまま抑え込むんだっ!!』

『…………バク……シ……』

 

 

 

「────バクシーンッ!!!!」

 

 ──サクラバクシンオーはバクシンした。

 

 

 

『サクラバクシンオーが掛かってしまいましたね。冷静さを取り戻せるといいのですが』

 

 

(バクシンオーさん……やはり掛かってしまいましたか。ですが、私は自分のペースで走り……少し、楽しそうですね)

 

 ミホノブルボンの中のバクシン因子がほんの僅かに疼いたが、気合いで抑え込んだ。

 シロノリリィは暴走するサクラバクシンオーを見てすごくびっくりしていた。

 

(……えっと、もしかして、作戦とかはなかったのでしょうか。……あの自信満々な雰囲気は何だったのかな……?)

 

 バクシンしたサクラバクシンオーが駆け抜けていくが、次第に体力を失い垂れてきた。

 

「…………バク……シン……シーン…………」

 

 ミホノブルボンがスッと避けて3コーナーへと突入する。それを見てシロノリリィは仕掛け始めた。

 外を回り他のウマ娘を交わしていく。ミホノブルボンとの距離は5バ身程だ。そして2番手まで上がったシロノリリィが彼女の背中を捉えようとしたその時……彼女の筋肉が隆起し、暴力的な加速を発揮した。

 

(確かに速いですね。……でも、私だって負けてませんよ!)

 

 

 ──ミホノブルボンの後方で、ターフが爆ぜる音がした。

 

 

『ミホノブルボンとシロノリリィが加速する! 勝負は二人の一騎討ちだ! 後ろの娘達は間に合うのかっ!? シロノリリィがミホノブルボンに追い縋る!』

 

 己の全力をターフへと刻み、シロノリリィは加速する。

 

(……やっぱり、とっても走りやすいです。……これなら、ブルボンちゃんにも追いつけますっ!!)

 

 徐々にミホノブルボンの背中を捉え始め、そして遂に彼女の背中に手が届くまでになった。

 

(あと……少し……っ!!)

 

(っ! ……素晴らしいです、リリィさん。まさか……ここまでとは、予想以上です)

 

 

『並んだっ! ミホノブルボンとシロノリリィが先頭争いだ! どっちだ!? どっちが抜け出すのかっ!?』

 

「……まだ、いけ……ますっ!!」

 

 その声に応えるようにシロノリリィの筋肉が躍動し、もう一段階ギアを上昇させた。

 その小さな足跡をターフへ刻み、シロノリリィが超加速する。

 

 

『抜けたっ! シロノリリィが抜けたっ!! 先頭はシロノリリィ! ミホノブルボンは──』

 

 

 

 

 

「────想定外でした。これを使うのは」

 

 ──世界が変貌る。ミホノブルボンによって染められる。

 

 彼女の周りにあるのは鉄の射出機(カタパルト)。遥か遠い彼処へと突き進む決意の具現。

 彼女の前方にあるのは儚き光が煌めく闇の海(無限に広がる宇宙)。生命など存在できぬ其処は彼女の覚悟の具現。

 光を纏って少女は進む。幼い自分の憧れを、父の、トレーナーを夢をその身に纏って昏い闇へと突き進む。

 決して止まらぬ。決して折れぬ。……其処に夢がある限り。

 

 領域『G00 1st.F∞;』

 

 

 

 

『──ミホノブルボンっ!? ミホノブルボンがシロノリリィを再び追い抜いた! 凄まじい加速力! シロノリリィは追いつけない! 3バ身の差を付けミホノブルボンがゴール! 1着はミホノブルボン! 2着はシロノリリィ! 3着は──』

 

 

 

「…………はぁっ……はぁ……」

 

 ぽつぽつと、雨がシロノリリィを濡らす。

 

(…………届かなかった……)

 

 少女は固く拳を握る。悔しさを忘れない為に、強く握りしめる。

 

「──リリィさん、お見事でした。……ここで使う予定では無かった奥の手を……『領域』を使わなければならないほど、あなたは強かった。……ですが、私には負けられない理由があります。例え誰であろうとも、私の夢の為に負けられないんです」

 

 二人は視線を交わし、決して目を逸らさずに見つめ合う。

 

「──私は、三冠ウマ娘になります。そのために、今ここで躓くわけにはいきません」

 

 彼女の瞳──ミホノブルボンの瞳の奥から、その強い覚悟を宿した光が溢れ出る。

 

「……まずは一言。おめでとうございます、ブルボンちゃん。とっても強かったです。……でも、次は──」

 

 未だ雨は降り止まず、少女達を濡らしている。差を見せつけられた、未だ自分が届かぬ『領域』を見せつけられた。だが……

 

「──私が勝ちますから」

 

 ──白い少女の瞳から、光は消えない。

 

 

 


 

 

 ミホノブルボンが控室へと戻ると、トレーナーが労いの言葉と共に彼女にタオルを渡した。

 

「まずはおめでとう。そして、よくやったなブルボン。風邪をひかないように直ぐにシャワーを……どうした、震えているぞ。……まさか」

「……いいえ、マスター。……これは武者震いと言うやつです」

「……あまり強がりを言うな。俺の前でぐらい素直になっていいんだぞ」

「……はい。今回のレースで、私はリリィさんに勝ちました。……でも、少しだけ……不安なんです。勝つためとはいえ、彼女に切り札まで見せてしまったのが、この選択が本当に正しかったのかどうか……」

「……ブルボン。──信じろ、俺達の今までを」

 

 そう言うとトレーナーが彼女の頭の上に優しく手を置いた。普段はスパルタの鬼と呼ばれる彼だが、今の表情はまるで娘を気遣う父親の様だ。

 

「俺の過酷なトレーニングに耐え、そうして身につけた強靭な肉体と強い精神力は、誰にも負けない、負けるはずがない。お前は誰よりも強い……後は勝つだけだ」

「……はい。……ありがとうございます、マスター」

「……ふっ。いい顔になったな。……だが、まずは風邪を引かないようにシャワー浴びて着替えるんだ。この後ウイニングライブも控えてるからな」

「了解しました。ミホノブルボン、これよりメンテナンスモードに移行します」

 

 

 

 

「お疲れ、リリィ。いいレースだったわよ」

「お疲れさま、リリィちゃん。とってもいいレースだったよ。身体冷えてない?」

「……ライスちゃん、るるちゃん。……ありがとうございます」

「……ふふっ。落ち込んでると思ったけど、大丈夫そうだね」

「あらあら。落ち込んでたらお姉さまがハグしてあげようと思ったんだけど……これなら大丈夫そうね」

「大丈夫です、落ち込んでる暇なんてありません! 私はとってもかわいくてかしこくて……つよい子ですから!」

 

 ──シロノリリィは諦めない。どんな強敵であろうとも、決して。




以前まで私は小説を書く時、スマホのメモ帳に大雑把なあらすじを書いてそれを見ながらブラウザで直接書き込むゴリラスタイルでした。でも小説を書く為のアプリがある事を知ったので、これからはそれを使って書いていこうと思っています。
あと今回から小説の書き方を少し変えています。過去に投稿した小説もそれに合わせて一部変更しましたが、話の内容はほとんど変わってないので読み直さなくても大丈夫です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。