すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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第22話 私達の夢

 私がまだ幼い頃にお父さんに連れて行ってもらったレースを今でも覚えている。

 私の『憧れ』。ターフを駆ける偉大なる演出家。

 

 皐月賞。雨の中、不良バ場をものともせずに走り、泥すらあしらって、バ群を切り開き先頭に躍り出たあなた。

 最初の一冠、始まりの一冠。その綺麗な空色の瞳に夢中になる。

 

 日本ダービー。緑鮮やかな初夏。出遅れたあなたの表情に焦りは無い。

 当時の常識など無視して、終始後方に控える。そして、4コーナーを回りあなたの末脚は爆発する。直線一気、前を行くライバル達を、常識すら切り裂いてあなたは駆け抜けた。

 二冠目、強さを証明してみせた二冠。少年のように無邪気に笑うあなたに夢中になる。

 

 菊花賞。柔らかな日差しが心地良い。いつものように後方を陣取り、あなたは不敵に笑う。

 『タブー』。淀の坂は3コーナーからゆっくり上りゆっくり下る、それが常識だとされていた。だけどあなたは坂の手前で先頭に立った。

 誰もが無理だと言った。誰もが失望した。──だが、あなたにはそんなもの関係なかった。あなたの脚は衰えない、誰もあなたに追いつけない。大地が弾む。そして、全てを力で捩じ伏せた。

 三冠目、タブーなど存在しないと証明した三冠。ここは、あなたの為の一人舞台。あなたの強烈な生き様に私は夢中になる。

 ──嗚呼、ミスターシービー。私のヒーロー。

 

 私の夢は、『三冠ウマ娘になる事』。あの強烈な原風景が私を捉えて離さない。

 私はお父さんに言いました。

 

「お、お父さん、私……私、その……三冠ウマ娘になりたいです」

「……! ……そうか。そうか、そうか。ブルボンは、三冠ウマ娘になりたいか」

 

 私のお父さんは、昔トレーナーをやっていました。当時のお父さんの夢は『自分の手で三冠ウマ娘を育てる事』でした。

 それを聞かされた時は、とても驚きました。そして、それを語るお父さんの柔らかな笑顔も印象的でした。

 トレセン学園に入るまで、私はお父さんの特訓を受けました。特訓はとても厳しかったです。ですが、夢の為なら辛くありませんでした。でも、三冠ウマ娘を目指す私の前に壁が立ち塞がりました。距離適正という、壁が。

 

「ブルボンは、とても頑張り屋だね」

 

 短距離走者(スプリンター)。それが私の素質でした。クラシック三冠を目指すなら、それは致命的だと言えるでしょう。

 

「確かに君にはスタミナが足りない。でもね、スタミナは努力すれば伸ばせるんだ」

 

 私は諦めません。

 

「君の才能は、決して諦めない信念……努力し続ける意志だ」

 

 夢の為に。

 

 

 そしてトレセン学園に入学して、私はマスターと出会いました。

 初めの頃、周りのみんなは言いました。

 

「あなたには短距離の才能がある。適正外を走るのなんてやめた方がいい」「才能の無駄遣いだ、無謀にも程がある」「何故分からない? あなたの為を思ってるんだ」、と。

 

 どれだけ言われようと、どれだけ否定されようと私はこの夢を諦めませんでした。そして、そんなある日の事です。

 いつもの様にトレーニングをする私の元へ誰かがやって来ました。その人は私に言いました。

 

「……何故、三冠にこだわる?」

 

「私の夢だからです」

 

 真っ直ぐにその人の瞳を見つめながら答えました。すると、突然その人は大笑いしました。

 

「……そうか、そうか。……実はな、俺の夢も同じなんだ。三冠ウマ娘をこの手で育てあげること。……それが俺の夢なんだ」

 

 お父さんと同じ様に、柔らかく微笑んだその人は、私の前にゴツゴツとした手を差し出しました。

 

「……必ず一緒に、叶えよう」

「…………っ! はい、よろしくお願いします、マスター!」

「…………マスター?」

 

 

『私の夢』は、いつしか『私達の夢』になっていました。私と、お父さんと、マスター。3人の夢。

 負けられない、絶対に。

 

 だから私は──

 

 

 


 

 

 スプリングステークスでブルボンちゃんと戦って、私は考えました。どうすればあの強いブルボンちゃんを倒せるのか。

『領域』。──るるちゃんから教えてもらいましたが、私には使う事ができません。今から覚えようとしても時間が足りないと思います。それに、どうすれば使えるようになるかも分かりません。

 考えて、考えて。とにかくいっぱい考えました。……でも、何も思い浮かばなかったので、とりあえず走ることにしました。悩んだ時は走れば大体解決するってテレビでスズカさんも言ってましたしね!

 

 

「ライスちゃんも走るの?」

「うん。ライスもちょっと……そういう気分だったから」

 

 休日の朝、私が朝食を食べた後に走るための準備をしているとライスちゃんが話しかけてきました。どうやらライスちゃんも一緒に走りたいようです。もちろん大丈夫です!

 でもよく見るとライスちゃんのお顔がいつもよりちょっとだけ悩んでいるような感じです。きっと私と一緒で、ブルボンちゃんのレースで何か思うところがあったのでしょう。

 

「いいよ! じゃあ、一緒に走る?」

「……今日は一人で走ろうかな。でも、途中までは一緒に行ってもいいかな?」

「大丈夫だよ! それじゃあ行こっか」

「うん。行こう、リリィちゃん」

 

 

 ランニングコースに着いた私達はそれぞれ走り出しました。よーし、リリィちゃん頑張ります!

 

「それじゃあ、また後でね!」

「うん! いってくるね!」

 

 私達は達は走り出しました。迷いを振り切る為、何かを掴む為に。それぞれの道を走り出しました。

 

 


 この前のスプリングステークスで、ブルボンさんが見せた領域。……とっても強い覚悟だった。ブルボンさんの心が、こっちに伝わってくるぐらいのとっても強い覚悟。

 今のライスはとっても幸せなの。リリィちゃんに『だいすき』って伝えられて、同じレースを走ることができて。……でもね、今のふわふわライスじゃきっとブルボンさんには勝てない。……だから、リリィちゃんに甘えるのはちょっぴりおやすみするの。…………すっっっごく、辛いけど。

『三冠ウマ娘になる』。ブルボンさんの夢は、とっても強くて重い。覚悟も、その想いも。だけど、ライスだって負けられないんだ。

 ライスの夢は、リリィちゃんと走る事。だけどね、それより前から叶えたい夢があるの。それはね、『ライスの走りで、みんなを笑顔にする事』。

 まだリリィちゃんと出会う前、ライスがちっちゃい頃、お母さまに初めて連れて行ってもらったレース場。レース場は人がいっぱいで……迷惑かけたくないから、おうちでいつもじっとしてたライスのおめめ、ぐるぐるになっちゃったけど。

 でもね、それでもしっかり覚えてるんだ。周りの人みんな、レースをめいっぱいの笑顔で見てた。応援してる子が、がんばってレースで勝ったら……みんな、とっても幸せそうなお顔になってた。

 それでライスも……ライスもね、あんなふうになりたいなぁって、思ったんだ。みんなを不幸にするだけの、だめな子じゃなくて……みんなを幸せにできる、そんなウマ娘に。

 ……今はちょっと違うけど。リリィちゃんのおかげで、自分がだめな子なんて思わなくなったから。

 ライスにだって叶えたい夢がある。だから、この夢を叶える為に、この景色を見る為に……絶対に負けられないんだ。

 

 だからライスは──

 

 

 

 

 


 

 スプリングステークスで戦ったブルボンちゃん。その時見せられたブルボンちゃんの『領域』。とっても強いあの子の心。そして、私が聞いたあの子の夢。

 今の私はとっても幸せです。ライスちゃんがいて、ママやパパがいて、るるちゃんやお友達のみんながいて……。

 私の夢は、『ライスちゃんと走ること』。でもね、その夢はもう叶っちゃったの。ホープフルステークスでライスちゃんと走ったあのレース。とってもドキドキして、すっごく楽しかった。……別の意味でもドキドキさせられちゃったけど。

 じゃあ、夢が叶って終わりなの? ……そんなことありません。私の道は、私のレースはまだまだ始まったばかりです。これからもっともっといっぱいライスちゃんやみんなと走ります。それでね、私は思ったんです。『どうして私は走っているのか?』、と。……ちょっと哲学的ですね。

 私は小さな頃の記憶を辿りました。トレセン学園に入学する前、ライスちゃんとお別れしてからずっと走っていたあの頃まで遡りました。

 あの頃の私は毎日走っていました。ライスちゃんと再会するために、そして再会した時にかっこいい私を見てもらうために。毎日休まずに走っていました。

 そんなある日、ママが私に言いました。『リリィちゃんは、ライスちゃんとお別れして寂しくないの?』って。だから私は答えました。

 

『とってもさびしいよ。……いまでもないちゃいそうになるもん』

『じゃあ、どうして走り続けられるの?』

『ライスちゃんにあえないのはとってもさびしいよ。……だけどね……はしるのって、ちょーたのしいもん!』

 

 あの時のママはとってもびっくりしていました。でもその後優しく微笑んで私の頭を撫でてくれました。

 

『そっかぁ。そうだね、走るのって……ちょーたのしいもんね! ママも走るの大好きだから分かるよ』

『ママもそうおもうの? やっぱりおやこだからにてるんだね!』

『ふふっ! そうかもね。……だけどね、もし辛かったらママやパパに言ってほしいの。私達はね、あなたの事が大好きなの。とってもとっても大好きで、世界で一番あなたを愛してる』

 

 ママは私をふんわりと抱きしめました。とってもあったかくて、落ち着く匂いがします。

 

『リリィ、リリィ。……私達の可愛いリリィ。とっても強くて優しい子。……もしも辛くて泣きそうになったら私が抱きしめてあげる。その痛みが無くなるまでずっとずっと……抱きしめてあげる。私の心で、あなたを包み込んであげるから』

『………………ママ』

『心の痛みが消えるまで、私の愛をあなたにあげる。だからね、リリィ。……強がらなくていいのよ』

『……………………ママ。……ひっぐ……』

 

 私はママの胸の中で泣いちゃいました。本当はとってもつらくて、寂しくて……。ママはそんな私の心をお見通しだったみたいです。

 

『いっぱい泣いていいの。いっぱい悲しんでいいの。どれだけ辛い事があっても、私達があなたを守ってあげるから』

『…………うん。……うん!』

 

 とってもあたたかい、優しい記憶。私の宝物。そして泣き止んだ私はママに言いました。

 

『あのね、ママ。……わたしねライスちゃんとはしるいがいにもゆめができたよ。……ききたい?』

『とっても聞きたいな! 教えてリリィちゃん!』

『うん! あのね、わたしのゆめはね──』

 

 ……思い出しました、私の夢。……ブルボンちゃんの夢に比べたら、とっても小さな夢。だけど、私だけの大切な夢。

 

 そうだ、私は……この夢を、この景色を見るために走るんだ。だから私は──

 

 

 


 

 

 少女達は(私達は)走る。己の夢を(自分の夢を)叶える為に。

 

 私は────

 

 ライスは────

 

 私は────

 

 

 

 

 

 

 

 ────勝ちたいんだ。

 

 

 

 

 


 

 ……ふぅ。なかなか充実した時間でした。気分すっきり爽快リリィちゃんです! 走ってる途中でいい感じのブルボンちゃん対策も思い浮かびました。これなら皐月賞もバッチリでしょう、さすが私です! 今の時間はお昼ぐらいでしょうか? お腹が空いて来ました。今日のお昼は何を食べようか悩みますね。いっぱい走ったのでガッツリしたものが食べたい気分です。……む? あそこから来るのは……

 

「……あれって……あっ! ライスちゃんだ!」

 

 やっぱりライスちゃんです。かわいいのですぐに分かりました。さすが私ですね! ライスちゃんもこっちに気づいてくれました。ライスちゃーん!!

 

「……あっ、リリィちゃん! すごい偶然だね! ……あれ? あそこにいるのは……」

 

 おおっ! まさかここでライスちゃんに会えるとは、とってもうれしいです! ……おや? あっちから走ってくるウマ娘さんがいますね。何だか見覚えがあるような……あっ! ブルボンちゃんです! 手を振ったら気づいてくれるかな? ブルボンちゃーん! ……どうやらこっちに気がついたみたいです。びっくりしておめめぱちぱちしてますね。

 

「……お二人もランニングですか? 偶然ですね」

 

 特に待ち合わせとかしたわけじゃないのにみんなに会えるなんて……偶然どころか運命なのでは? まぁ、私とライスちゃんは運命すら超越しているのですが。それにしても……

 

「なんだかみんなすっきりした顔をしてますね!」

「……確かにそうだね。ランニングの効果があったのかな?」

「……こういう表情をしている人は強敵になると聞きました。……皐月賞が楽しみですね」

 

 みんなにこにこしてます。やっぱり笑顔が一番ですね! みんなで笑っていると、ライスちゃんが「そうだ!」と言って提案をしました。

 

「ねぇねぇ、みんなはもう走り終わった? もし、終わってるならみんなでご飯を食べに行きたいなって」

「いいですね! 私は大丈夫だよ! ブルボンちゃんはどうですか?」

「……そうですね、大丈夫です。この三人でご飯に行くのは初めてですね」

「確かにそうだね。それじゃあ何食べに行く? ライスはね、ラーメンが食べたいな」

「おぉ〜、いいね! 私、お腹ぺこぺこだよ!」

「私もそれで大丈夫です。では、これより補給任務に移ります」

 

 そう言ったあとブルボンちゃんがスタイリッシュなポーズをしました。……なんというスタイリッシュさ……! これは私も負けていられません! ライスちゃんと一緒にスタイリッシュなポーズをし、それに負けじとブルボンちゃんはさらにスタイリッシュさをマシマシにしてきました。……手強いですね! 

 

「この先に美味しいラーメン屋があります。この前スプリンター同盟で行ったお店です。もしよければご案内しますが……」

「うん! ライスは大丈夫だよ! じゃあお願いしてもいいかな? リリィちゃんはどうかな?」

「大丈夫だよ! じゃあブルボンちゃん、お願いします!」

「了解しました。これより、道案内のミッションを開始します」

 

 どうやらブルボンちゃんが案内してくれるそうです。それではお願いします、ブルボンちゃん!

 

「「ついてく……♪ ついてく……♪」」

「……かわいい」

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