すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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第25話 復活のM!

 みなさんこんにちは! 皐月賞で優勝したリリィちゃんです! やりましたやりましたついにやりました! リリィちゃん初GⅠ勝利です!! いえーいぶいぶい!!

 なんというか、はじめは勝利したという実感が湧きませんでしたね。周りのみんなが強かったというのもありますが、ライスちゃんとブルボンちゃんがとっても強かったというのもあってゴール板を通過した後しばらくは頭がふわふわしていました。

 そしてライスちゃんとブルボンちゃんに今回はじめて勝利する事ができました。あの時のリベンジ達成ですね! でも今回のレースはギリギリの勝利でした。私の雨乞いと作戦、どれかひとつで欠けていたら結果は違っていたと思います。ですが、今回勝ったのは私です。……えへへ! 本当に嬉しいなぁ! 

 ……それとですね、皐月賞で勝った後に嬉しすぎてライスちゃんのほっぺにキスをしてしまいました。……やわらかかったなぁ。……あっ……えっと……い、今思うと少し大胆だったかもしれませんね! まあリリィちゃんはとっても大人なのでこれからは嬉しくなっても我慢できると思います! ……本当ですよ?

 あの後ライスちゃんはずっとぽわぽわしててとってもかわいかったです。ライスちゃんはいつでもかわいいですが。

 話は変わりまして、皐月賞を終えたということで次走は『日本ダービー』です。クラシック三冠の中で最も人気のあるレースです。皐月賞は出走せずにこちらに狙いを絞る人や、このレースで優勝する事を生涯の目標にしているウマ娘さんもいるほどの特別なレースです。私にとってはライスちゃんと走るレース全部が特別なので、日本ダービーであろうとなかろうと全力で走るだけなんですけどね!

 日本ダービー本番まで約一ヶ月ほどです。それまでに私も更なるパワーアップを果たさねばなりません。ライスちゃんもブルボンちゃんも私を倒すために更なる策を練ってくるでしょう。でも、私は負けません。次のレースで勝利するために、リリィちゃんがんばるぞ、おー! ……と、言いたいところなんですけど、ブルボンちゃんの事で気になる事があるんです。

 

 

「……ねぇリリィちゃん、最近ブルボンさんがスランプになってるって話……知ってる?」

「……うん、みんなから教えてもらったから知ってるよ。原因は……何となくは想像がつく、かな……」

「……そっか。……ライス達に何かできる事、ないのかな……」

「……『がんばれ!』とか『大丈夫!』とか……そういうのじゃきっとだめだろうなぁ。……うににぃ……」

 

 皐月賞は私が勝利しました。つまりブルボンちゃんの夢が叶わなくなったという事です。『三冠ウマ娘になる』というブルボンちゃんの夢、それはもう達成することはできません。

 もちろん私は後悔などしていません。勝って後悔するというのは打ち負かした相手に対して失礼です。レースで勝つという事は、倒した相手の夢を背負う事に等しいです。なので寧ろ堂々と胸を張らなければいけません。それが、勝利するという事なんです。……まぁ、これは私の持論なんですけどね。

 ……でも、ブルボンちゃんの調子が悪いのはイヤですね。日本ダービーで全力のブルボンちゃんと私は走りたいんです。だから私にできることは……

 

「ねぇ、ライスちゃん。……ちょっとだけブルボンちゃんのところに行ってもいい?」

「……ふふっ。もちろんだよリリィちゃん。ライスもね、同じ事考えてた」

「おおっ! ありがとうライスちゃん! じゃあちょっとトレーニングは中断して……るるちゃーん! ブルボンちゃんのとこ行ってきてもいいですかー!」

「ん? いいけど、あまり長居しちゃだめよ?」

「はーい! ありがとるるちゃん! ……それじゃあ行こっか、ライスちゃん!」

「うん! 行こう、リリィちゃん!」

 

 私の言葉で、本当の意味でブルボンちゃんを立ち直らせる事は多分できないと思います。でも、何もしないのは私がイヤなんです。今の私はわがままリリィちゃんです。だから待っててね、ブルボンちゃん!

 

 

 


 

 

『………………ブルボン、よくやった。悔しいが、この経験はきっとお前を強くするだろう……』

 

 ……どうして、そんな顔をしているのですか? ……マスター。

 

『…………お疲れさま、ブルボン。本当に、いいレースだったよ』

 

 ……どうして、私を叱ってくれないんですか? ……お父さん。

 

 …………私のせいで……私の夢が、私達の夢が……終わってしまったのに。

 

 …………どうして。

 

 

 

 皐月賞で私はリリィさんに敗北しました。私の夢……三冠ウマ娘の夢はそこで終わりました。とても、とても悔しいです。……ですが、まだ私達のレースが終わったわけではありません。次のレース……日本ダービーが待っています。

 私の無謀な夢を応援してくれたお父さんにマスター……みんなのためにも、私は走り続けなければいけません。……そう、走り続けなければ、いけないのに……

 皐月賞の後、私はトレーニングを再開しました。ですが、以前の様に上手く身体を動かせなくなってしまいました。

 

(……なんで? どうして……?!)

 

 フォームは乱れ、上手く息を入れられず、ラップタイムはバラバラで……私は、私の走り方は……

 

(…………思い、出せない)

 

 心の中にあった熱が、すーっと……無くなって。今はただ……痛くて、寒い。

 

(…………あれ? 私の夢は、もう終わっちゃったのに……)

 

 ──どうしてまだ、私は走っているの?

 

 

「……私は、私は……」

 

 

 

 

「「──ブルボンちゃーん(さーん)!!」」

 

 

 

 ……リリィさんと……ライスさん?

 

「……どうかしましたか? お二人とも。私は今、日本ダービーへ向けて特訓中です。今は少々調子が悪いですが、本番までに完璧に仕上げて皐月賞での借りを返させて──」

 

 「ブルボンさん」と、私の言葉を遮り、とても真剣な表情でライスさんが私を見つめてきます。

 

「……あのね、ライス達の言葉だけじゃきっとだめなんだと思う。それでもね、言わなきゃいけない事があるの」

 

 二人が柔らかく微笑みました。

 

「……ライスね、考えたの。……『もしも自分の夢が叶わなくなったら』って。ライスの一番の夢は、リリィちゃんと一緒に走る事。……これがもしも叶えられないんだとしたら……きっと、ライスはとっても辛くて耐えられないと思う。……でも、ライスはブルボンさんじゃないから、ブルボンさんの痛みを本当の意味で理解する事はきっとできない」

 

 ライスさんが私の手を優しく包み込みました。……とても、温かい。

 

「……ブルボンちゃん。ブルボンちゃんと走って、私はとっても楽しかったの。……ブルボンちゃんの夢を終わらせた私に言われても嬉しくないかもしれないけど、本当に楽しかったの。……落ち込んじゃって、とっても辛くて……立ち上がれ、なんて言えないけれど、だけどね……私達がいるよ」

 

 リリィさんの手が、私の空いている方の手を優しく包みます。……小さくて、とても温かい。

 

「……私達はあそこ……ターフにいる。だから──」

「信じてる。……なんて無責任な事はライスには言えない。……だけどね、ブルボンさんを支える事は出来る。だから──」

 

 二人が私をその華奢な胸の中に抱き寄せました。……トクントクン……と鳴る優しい鼓動と温もりが、私の痛みと寒さを解いていく。

 

「「──日本ダービーで、待ってる」」

 

 …………どうして私を信じられるの? なんで、なんで……! 

 

「…………どうして、みんなは……マスターは、お父さんは! ……優しいんですか? 私は……夢を……みんなの期待に……応えられなかったのに……」

 

 私の押し込めていた感情が、今まで隠していたものが溢れ出しました。

 

「頑張ってる娘を応援しない人なんていないよ。それにね……『三冠ウマ娘を目指すブルボンさんだから』じゃないよ。ブルボンさんがとってもがんばってるから応援してるんだよ」

「みんなブルボンちゃんの事が好きだから応援してるんだよ。もちろん私達もね!」

 

 ……私よりも小さくて、私よりも大きな心の二人。……あんなにも冷たくて痛くて、空虚だった私の心が満たされる。

 

「……一番好きなのは、ライスさんですよね?」

「もっちろん! ライスちゃんがいっちばんだいすき!」

「ライスもリリィちゃんがだいすきだよ!」

 

 私の夢は終わりました。……でも、あなた達のおかげで新しい道が見えてきました。

 

「ありがとうございます。ライスさん、リリィさん。……もう私は大丈夫です」

 

 ライスさん、リリィさん。……優しくて強いあなた達に、私は──勝ちたい。

 

「待っていてください。……今度は私があなた達に勝ちます。それと、リリィさん。……皐月賞優勝、おめでとうございます」

「ありがとうブルボンちゃん! でも次も私が勝ちますよ!」

「うん、待ってるね! でも、次はライスが勝つよ!」

 

 

 

 

 

 

 ライスさんとリリィさんが自分達のトレーニングをするために戻っていきました。わざわざ私のために時間を作ってくれたあの二人のためにも、私はより強くならなければいけません。

 今ならきっと、大丈夫。私はマスターから指示されたトレーニングをするためにグラウンドへと再び足を向け……

 

「……おい、ミホ」

「……アッシュさん?」

 

 私の名前を呼ぶ声に振り返ると、そこには友人の一人であるアッシュさんが立っていました。

 

「何かご用でしょうか? 今からトレーニングを再開する予定なのですが……」

「ん、いや……なんだよ、タイミング悪りぃな……」

 

 なんだか少し困った表情をしています。もしかして……

 

「……私を、励ましに来てくれたのですか?」

「……はっ? あ? ……まぁ、そうだよ。でも結構立ち直ってるっぽいじゃねぇかよ。……無駄足だったか?」

 

 少し、驚きました。まさかアッシュさんも私を励ましに来てくれるとは思っていませんでした。

 

「いいえ、アッシュさん。私は今温もりに飢えています。なのでもっと私を甘やかしてください。……かもーんです」

「……なんで腕を広げてんだ? お前の様子から察するに、シロとライスあたりが来たのか? まぁなんでもいいけどよ。……おい、腕を広げたまま躙り寄るんじゃねぇよ。いや、まじでどうしたお前?」

 

 アッシュさんは私をハグしてくれないようです。……とても残念です。

 

「ライスさんとリリィさんは私をぎゅっとしてよしよししてくれました。ですから、アッシュさん……かもーんです」

「断る。……つーか、オレはテメェのケツを蹴りに来たんだよ。そういうのは期待すんな」

「……残念です」

 

 こっちをジト目で見た後、アッシュさんはやれやれというかのように肩をすくめ私と視線を合わせます。

 

「……なぁ、ミホ。お前言ってたよな? ミスターシービーに憧れてるって」

「はい。シービーさんは今でも私の憧れです」

「じゃあよ、どこに憧れたんだ? もう一度オレに話してくれよ」

「……? 私がシービーさんに憧れたのは、その強烈な生き様が眩しかったからです。誰よりも何よりも自由を愛し、己の生き様を示したから私は憧れたんです」

 

 そう、だから憧れたんです。あの強烈な背中に。

 

「……なら、もしもミスターシービーが三冠ウマ娘じゃなかったら……お前は憧れたのか?」

「…………えっ?」

 

 もしもの話。もしも、ミスターシービーが三冠ウマ娘じゃなかったら。……そんな未来は私には考えられません。けれど……

 

「……きっと、変わりません。私は、『ミスターシービー』に憧れたんです。……あっ──」

 

 三冠ウマ娘だからじゃない。……彼女だから、私は憧れたんだ。

 

「……まぁ、なんつうか……あれだ。そういうのはよ、走った後に付いてくるんだ。……皐月賞を逃したとか関係無い、お前はお前だ。……それに、次にシロに勝ってダービーも菊花賞も獲れば実質三冠ウマ娘だろ?」

 

 アッシュさんはにやりと笑いました。……不器用な励まし方ですね。嫌いじゃありませんが。

 

 

「──憧れは、理解から最も遠い感情だよ」

 

 

 なんだかかっこいい言葉と共に私の友人の一人――ボーガンさんが登場しました。

 

「ボーガンさん? どうしてここに?」

「落ち込んでいる友を励ます為に来た、ただそれだけだよ。そこにいるアッシュと同じさ」

 

 くつくつと笑うボーガンさんがアッシュさんの事をニヤニヤしながら見ています。アッシュさんはとてもイヤそうな表情をしていますね。

 

「……んだよ、悪りぃかよ」

「悪い、なんて言ってないさ。……ふふっ! いや、まさかワタシよりも先に行くなんてね……優しいねぇ、アッシュちゃん!」

「てめぇ……くたばれクソボー……!」

「こらこら中指を突き立てるなよアッシュ。……いや、アッシュの演説は素晴らしかったよ。ワタシも感動で涙が止まらないね」

「……テメェのジャージ全部ブルマに変えてやるよ……! 覚悟しとけよ!!」

「はっ? やめろ! 恥ずかしいだろ!!」

「うっせぇ! シロもシノもブルマだろ! 同じにしてやんよ!」

 

 相変わらず仲がいいですね。確かにリリィさんとフラワーさんはブルマが似合っています。

 

「……おっと、アッシュと楽しくおしゃべりしに来たんじゃなかったな。……アッシュに言われてしまったが、ワタシも君を応援しているんだ。もちろん友として、だ。三冠を目指しているだとかは関係ない、己の夢の為に足掻く君が好きなんだ。……この『好き』は告白じゃないぞ?」

「……ボーガンさん、ありがとうございます。それに、アッシュさんも。……告白じゃないのは残念です」

「冗談を言えるぐらいには元気になったようだな。……ブルボン、君を励ましたいと思っているのはワタシ達だけじゃないんだ」

 

 そう言ってボーガンさんは穏やかに微笑みました。そして遠くから私を呼ぶ声が聞こえてきます。

 

「ブルボンさーん! ブルボンさーん!!」

「ブルボンさーん! あれ? アッシュさんとボーガンさんもいますね?」

 

 バクシンオーさんにフラワーさん……あの二人まで。

 

「ブルボンさん、もう大丈夫です! この学級委員長が来たからにはもう安心です! さぁ! 共にバクシンしましょう!!」

「ブルボンさんが最近元気がないから、心配になっちゃって。……すみません、もっと早く声をかけるべきでした」

「バクシンオーさん、フラワーさん、ありがとうございます。こうして気にかけてくれるだけで私はとても嬉しいです。本当にありがとうございます」

「……おや? とても落ち込んでいると聞いていたのですが……はっ!? そういう事ですね! 完全に理解しました!!」

「アッシュさんにボーガンさん、多分リリィさんとライスさんが来てくれたんですよね? ……ブルボンさんが元気になってよかったです……! でも、私にできる事があったらなんでも言ってください。ブルボンさんも私の大切なお友達ですから!」

「……なんでも? じゃあ、フラワーさん……私をぎゅってしてなでなでしてください。かもーんです」

「……えっ? それぐらいなら大丈夫ですけど、本当にそれでいいんですか?」

「はい、アッシュさんはやってくれなかったので。なので私に温もりを下さい」

「それじゃあ……はい、どうぞ♪」

 

 お父さん、マスター。──こんなにも素敵な友達が、私にもできました。

 

「はぁい♡ いいこいいこ♡ ブルボンさんはとってもがんばっててえらいですね♡」

「……この暖かさが、この感情を人は──バブみと呼ぶのですね」

 

「……なぁ、アッシュ。ワタシはどうすればいい?」

「……何も言うな」

「美しき友情、ここにありッ! ですね!!」




ブルボンちゃんの変な知識は大体ボーガンが仕込んでいます。
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