10月で菊花賞まで書くって言ってたのに全然ダメでした。……えへへ。
日本ダービーへ向けてのトレーニングが完了したリリィちゃんです。今の私は超つよつよリリィちゃんです!
アンクルの効果ってすごいですね! 一ヶ月前と比べてなんかすごく強くなった気がします! ライスちゃんも私と一緒にアンクルを着けてトレーニングをしていたのですが、強くなった実感があるって言ってました。
でも効果がある分負荷もかかってしまうので、長期間の使用は推奨されないってるるちゃんが言ってました。皐月賞からダービーは期間が短いので使うにはいいタイミングだと言ってましたね。
そういえばブルボンちゃんも私達と同じようにアンクルを着けてトレーニングしていました。あれを装着しながら坂路トレーニングをするとは……さすがブルボンちゃんですね! 本番のレースが楽しみです!
話は変わるんですけど、こういう重りを着けている時に私はやりたくなることがあるんです。それはですね、重りを外して「なにっ!? まさかまだ本気じゃなかったのか!?」ってやるやつです!
さっきブルボンちゃんと一緒にやってました。ブルボンちゃんもノリノリでやってくれてとっても楽しかったです! もちろんライスちゃんも一緒にやりましたよ!
せっかくなので動画に残しておこうと思ったのですが、この三人でやってると動画が撮れないことに気づいてしまいました。ですが、私はとってもかしこいのでこちらの様子を観察していたタンホイザさんに撮影をお願いしました。
多分ダービーに向けての敵情視察中だと思います。タンホイザさんは私達のデータ収集が、私達は動画を撮影してもらえて一石二鳥だと思いました。うぃんうぃんってやつですね。さすが私です! とってもかしこいですね!
そういえば。少し話を戻しまして、アンクルの効果の話です。アンクルを使ってからライスちゃんは私が見てすぐにわかるぐらい筋肉が付いてました。ブルボンちゃんも同じで全身バッキバキでした。……そう、私だけ見た目に変化が無かったんです。
私のかわいいぷにぷにボディ……脂肪じゃないですよ? に変化がないのは少し残念でしたね。力を入れたらちょーかっちかちですけど。
ライスちゃんはこの至宝が失われるなんて人類の損失だよ!! って言ってましたが、やはり何も変化がないのは少し残念です。
そういえばライスちゃんは私達がアンクルを着けてトレーニングを始めてから前よりも私の身体を触ってくることが増えましたね。余分な筋肉が付いてないか確認してるって言ってました。そんなことも分かるなんてライスちゃんはすごいですね! でもなんか触り方がねちっこかったです。
まぁその話は置いといて……いよいよ日本ダービーが始まります。パワーアップした私達に元気になったブルボンちゃん、そしてこのレースのために全力でトレーニングをしたウマ娘さん達……きっと一筋縄ではいかないレースになるでしょう。でも私は負けませんから! 優勝目指してがんばるぞー、おー!
「……今日は、とてもいい天気です」
雲ひとつない青空を眺めながら少女は呟いた。少女の名はミホノブルボン。『三冠ウマ娘になる』という夢を持っていたが、シロノリリィに敗れその夢を叶える事が出来なくなった少女だ。
「こんな気持ちのいい天気の中で走れたら、きっと、とても楽しいレースになるでしょう」
「……楽しみか? レースが」
「えぇ、とても」
だが、その表情に陰りはない。この東京レース場を照らす青空の様に穏やかな微笑を浮かべている。
「お二人には借りを返さなければいけないので」
「……いい顔になったな。大丈夫だブルボン、そのために今日までトレーニングをしてきたんだ」
「はい、マスター。それにスプリンター同盟の皆さんも応援してくれているので、今日の私はとても強いです」
「ふっ……頼もしいな。作戦は覚えているな?」
もちろんです。と、返事をする少女の表情は明るく、もうすぐ始まるレースが待ちきれないと言った様子だ。
「それではマスター、行ってきます」
「あぁ、行ってこい」
「やぁやぁ青路くん、リリィちゃんとライスちゃんすっごくいい感じだったねぇ。過去一番じゃないかな? この仕上がり具合は」
「もちろんですよ。だって日本ダービーですから、生半可な仕上がりじゃ太刀打ちできませんからね」
「でも気になる相手はいるんじゃないのかな? 例えば最近リリィちゃんといるおかげで意外とアホの子だってバレてきてるあのウマ娘とか……」
「……リリィと関わると大体の子が頭ゆるふわになりますよ? なんて冗談は置いといて、ミホノブルボンの事ですよね?」
「せいか〜い。15本田さんポイントあげちゃうよ〜」
そんなのいりませんよ……。とは思いつつも先程のパドックでの様子を思い出す。
「すっごい仕上がりでしたよね。それにあの表情から見るに皐月賞での敗北を引きずってる様子もなさそうですし、大変なレースになりそうだなぁ……」
「ね〜。敗北を乗り越えた娘は強いからねぇ。……ところでミホノブルボンの身体で特に気になったところを同時に言ってみない?」
「ライスやリリィのお友達目線だと元気になってくれてよかった! だけど、トレーナー目線だと『うわ……パワーアップしてる……』なんですよねぇ。気になってるところ……うん、それじゃあせーのっ……」
「「──お尻!」」
地下バ道を進むのは三人の少女。
カツンカツン……と蹄鉄が地面を打つ音が響く。
少女達の表情はとても穏やかだ。今からレースに出るとは思えないほどに。
「来ましたよ、私は」
「「うん、待ってた!」」
これ以上言葉はいらない。後は――レースで語るだけだ。
『全てのウマ娘が目指す頂点、日本ダービー! 歴史に蹄跡を残すのは誰だ! 3番人気にはミホノブルボン。この評価は少し不満か? 2番人気はこの娘、ライスシャワー。威風堂々とスタートを待つのはこのウマ娘、皐月賞ウマ娘シロノリリィ、1番人気です』
『二冠目をかけてダービーに挑みます! ゲートイン完了、出走の準備が整いました』
『――さぁゲートが開いた。各ウマ娘、キレイなスタートを切りました』
『誰が先頭に抜け出すか、注目しましょう』
『先行争いは――おっと!? ミホノブルボン、先頭を進みグングン後続を突き放す! まさかまさかの大逃げだ!?』
(……想定通り。とはいえ、やはりとても厳しいですね)
風を切り、彼女は走る。誰にも追いつかれぬ様に、全てを置き去りにして。
命を削り、命を懸けて彼女は走る。その先にある栄光を求めて。
ミホノブルボンの大逃げにシロノリリィは驚愕した。それは他のウマ娘達も例外ではない。
ある者は最初だけのハッタリだと思い、ある者は逆噴射するだろうと思う中、シロノリリィとライスシャワーはこう考えた。『絶対に垂れたりしない』、と。友でありライバルである彼女を信じているからこそこの考えに至ったのだ。
(最初、私は差しで行こうと考えていました。でもこのハイペースに着いて行ったらきっと末脚が残りません。……なら、私の選択は――)
シロノリリィはスピードを緩めてバ群の最後方に位置取った。いくらトレーニングしたとはいえ、この超高速展開についていけるほどのスタミナは自分には無い。故に最終直線での直線一気に賭けることにした。
(大丈夫、大丈夫。私は私の脚を、みんなと一緒に鍛えたこの脚を信じるだけです……!)
余分な力みを無くし、体力の消耗を最小限に抑える。例えどれだけ離されようとも己の加速力を持って差し切ってみせる。
シロノリリィはその時が来るのを待つことにした。噴火を待つ火山の様に、静かに。――先頭から最後方までは約20バ身。
マチカネタンホイザには今回のレースに向けて考えた作戦があった。その作戦は『ライスシャワーをマークし、その後方から差し切る』というものだ。
ライスシャワーがミホノブルボンをマークすると想定し、その恩恵にあやかろうという作戦だったのだが、その思惑は外れてしまった。
(あれ? ライスさんがいない……?)
そう、自分の前にライスシャワーがいなかったのだ。正確に言うとさっきまでいたはずなのに忽然と姿を消したというのが正解だ。
(あれれ? ちょっと嫌な予感がむんむんと――)
――その瞬間、己の喉元に妖しく煌めく短剣が突きつけられた。否、そう錯覚するほどの冷たい殺気が背後から襲いかかってきたのだ。
(はぐわぁっ!? ちょっ!? えっ!? なんでぇっ!?!?)
殺気を放つ者の正体はライスシャワーだった。びっくりして一瞬振り返ってしまったマチカネタンホイザに対し、ライスシャワーは安心させるかの様に微笑んだ。
(あっ……きれい。……じゃなくて、怖いっ!! なんでこの状況でそんな表情なの!? 逆に怖いよっ!!)
微笑んだのも束の間、一瞬にしてその表情が鋭利な刃物の様に変化する。
(もしかしてこれって……私が壁にされてる?)
自分の作戦が一瞬にして崩されてしまったが、彼女はすぐに意識を切り替えた。
利用されたから何だというのだ? その程度で屈するわけにはいかない。こちらにも意地があるのだ。
(上等っ! そっちがその気なら好きにすればいいよ。……なんかあのプレッシャーも来ないし平気なんだから!)
『以前先頭はミホノブルボン! 二番手との差は10バ身はあるぞ! 1000mを通過してタイムは……57秒4!? とんでもないペースだ!』
これまでの彼女からは考えられないハイペースにレース場がざわつく。
苦痛に顔を歪ませ、歯を食いしばり、それでもなおスピードを緩めずに駆けていく彼女を見守る者達がいた。
――スプリンター同盟とそのトレーナー達。彼女達はシロノリリィとライスシャワーを打倒する為にある作戦を立てた。
話は約一ヶ月前まで遡る。その作戦がこれだ。
「────バクシンしましょう」
その場にいたサクラバクシンオー以外の頭上に「?」が浮かんだ。
「いや、2400でバクシンするのは厳しいだろう? あまり否定的な言葉は言いたくないが、流石に無理があると思うぞ?」
「いいえ、いいえ! この作戦は普通のバクシンではありませんッ! そう! 何故なら通常のバクシンと違い、二回バクシンするのですからッ!!」
「……つまりどういうことだ?」
サクラバクシンオーのバクシン言語をよく理解出来ずにアッシュストーンが尋ねると、自信に満ちた表情で彼女が答えた。
「いいですかアッシュさん? 2400を2で割ると1200になります。この数字が何かわかりますか?」
「……まさかと思うが、短距離になる。とか言わねえよな?」
「そのまさかです! つまりブルボンさんは1200を一度バクシンし、その後息を入れてもう一度バクシンすればいいのです!」
一瞬だけ「バカみてぇな話だな」と思ったが、それを提案された本人が……
「……っ!! 素晴らしいです、バクシンオーさん。確かにこれならライスさんもリリィさんも対策ができます」
瞳をきらきらさせて、フンスフンスと鼻息を荒くしていた。そしてトレーナーが口を開いた。
「……確かにこれならいけるかもしれん。ブルボンは元々スプリンターだ。だから中距離のペースではなく短距離のペースで走れば必然的に大逃げになる。ならば、出来ない理由など無い」
「はい。それに、大逃げをする事でライスさんのプレッシャー範囲から逃れ、更には高速展開でリリィさんのスタミナも削ることができます。まさに革新的……いいえ、バクシン的な作戦です」
「……確かにそうかもしれません。でもその分ブルボンさんの負担が凄まじいものになってしまいますよ?」
ニシノフラワーが不安そうに聞くが、彼女の表情からその決断の固さが伝わってくる。
「――だから鍛えるんです。元々無茶だったものが少しだけその負担が増えるだけです。ならば、問題ありません」
その考えはだいぶ危ないと思いますよ? と思ったがぎりぎりで堪えた。
「作戦はその方向性でいこう。ブルボン、坂路トレーニングだが……」
そう言って立ち上がったトレーナーは、自身のスマホを操作してある画像を見せた。
「――アンクルウェイト。これを着けてやってもらう」
ただでさえ辛い坂路に加え、アンクルウェイトの重量が加わるのだ。その負荷は計り知れない。……そのはずなのだが――
「──かっこいい(はい、マスター)」
「……心の声が漏れてるぞ」
ミホノブルボンの瞳は幼女の如くきらきらしていた。流石にこれにはスプリンター同盟も少し呆れていた。
「やるぞ、ブルボン……!」
「了解です、マスター……!」
――そして現在に至る。
この作戦は彼女の意地だ。彼女が歩んで来た人生の全てがここにある。
苦しかろうが辛かろうが関係ない。どれだけの困難があろうと立ち止まる理由などないのだ。
(痛い……苦しい……辛い。でも、負けるのは……負けるのだけは――)
――――絶対に嫌だ!!
『現在先頭はミホノブルボン。おっと! ここでライスシャワーが仕掛け始めた! ジリジリと差を詰めにかかる! 注目のウマ娘、シロノリリィはどう動くのか!?』
(まさかブルボンさんが大逃げをするなんて。……少しも考えなかった……ううん、もっときちんと考えるべきだった。だけど、今はそれを考える時間じゃない)
想定外の大逃げによっていつものプレッシャーを避けられたが、それだけが彼女の武器ではない。スタミナ勝負なら誰にも負けない自信がある。
(……まだ、まだだ。領域はまだ使うべきじゃない。……使うのは、最終直線!!)
――ライスシャワーが普段から使っているプレッシャーには2つの弱点がある。1つは距離を取られると効果が薄くなる事。もう1つはこれを使っている時にスパートを仕掛けられない事だ。領域との併用も出来ないのだが、これは後者の弱点とほぼ同じなので実質的な弱点は2つだ。
『先頭との差を詰めるライスシャワー! このままミホノブルボンは逃げ切れるのか!? 大ケヤキを越え4コーナーへ。さぁ、いよいよ直線だ! 後ろの娘達は、シロノリリィは来ないのか!? いや――』
先頭を駆けるミホノブルボンとそれを捉えようと進むライスシャワー。
二人は確信している。彼女が――シロノリリィが来ると。
『――――来たっ!! シロノリリィだっ!! 純白の軌跡を描いてシロノリリィが大外から跳んできたっ!! 最後方からのごぼう抜きっ! 栄光まであと400!!』
三人の少女は破顔う。
今この瞬間、最高のライバルがいる事に。
「「「ああああぁぁぁぁ!!!!」」」
『先頭はミホノブルボン!! 最後まで押し切れるのか! ミホノブルボン、リードは3バ身! 残り200! 凄まじい脚で上がって来るのはライスシャワーとシロノリリィ!』
肉体の限界を超え、ただ勝つために前へ駆ける。
――そして、世界が
ミホノブルボンの心が――
領域『G00 1st.F∞;』
ライスシャワーの心が――
領域『ブルーローズチェイサー』
――世界を染める。
『ミホノブルボンとライスシャワーが抜け出した! 残り100! シロノリリィはここまでか!?』
――シロノリリィの世界が徐々に緩やかになる。まるで今の足りない自分に見せつけるかの様に、二人の背中が徐々に遠ざかっていく。
――それでもシロノリリィは諦めない。諦める理由など、存在しないのだから。
――――そして、シロノリリィは真っ白な世界に立っていた。
「……ここは、あの時の? ……あれ?」
アッシュストーンと戦った時に来た世界。そして、あの時破壊した真っ白な壁がある。
そんな世界の中、彼女の視線の先には白い鎖で厳重に封じられた真っ黒でボロボロの扉があった。
何かに惹かれて進もうとしたが、ガシャン……と、喧しい音を立てた物が己の進行を妨げている事に気がついた。
そんな不届きものを見るために視線を下に向けると、真っ白な鎖が自分の手、脚、首に付いてる事に気づく。
「……なぁにこれ?」
この白い世界から生えたソレは、恐らく警告だ。この先に行ってはいけない。あの黒い扉を開けてはいけないと暗に告げている。
「……たぶん、あれを開けたら……引き返せない」
――腕を振り、鎖を引きちぎる。
「……あの扉には何かがある」
――脚を振り上げて、勢いを付けて鎖を踏み潰す。
「……領域よりも、もっと恐ろしい何かが」
――最後に、首に巻きついてる鎖を握りつぶした。
彼女を縛るモノは、もう何も無い。
コツン、コツン……と小さな足音だけが世界に響く。
一歩一歩近づいて、シロノリリィの小さな体が扉の前に辿り着いた。
「…………ぼろぼろです」
白い鎖で厳重に封印された扉は、とても痛々しい雰囲気を放っていた。
安っぽいデザインの、ところどころが傷だらけの黒い扉。傷ついて剥き出しになった所は無理矢理黒く塗られて誤魔化されている。
「……なんでだろ。とっても懐かしい、のかな?」
見れば見るほどその感覚がやってくる。よく分からない感覚に彼女は不思議な気持ちになった。
「これはみんなが言ってた領域じゃないです。――でも、勝てる」
扉を開ければ、知ってしまえば、必ず。そう断言してしまえる何かがある。
シロノリリィは扉に向けて手を伸ばした。
そして、シロノリリィはその扉に……ドアノブに手を伸ばし――そのままドアノブを握りつぶした。
「――だけど、いらない!」
――その瞬間、真っ白な世界に罅が入った。
不完全領域『 』
『――先頭はミホノブルボン! だがその差は僅か! ライスシャワーが追い上げ……来たっ!! シロノリリィが加速する! ミホノブルボンか!! ライスシャワーか!! シロノリリィか!!』
ミホノブルボンが信念の光を、ライスシャワーが蒼炎を、シロノリリィが純白の光を纏って駆け抜ける。
『ミホノブルボンが!! ライスシャワーが!! シロノリリィが!! 今っ!! 大接戦のゴォール!! 誰が勝った!? ほぼ同時に3人がゴール板を駆け抜けたぁっ!』
「「「はぁ……はぁ……はぁ……」」」
ゴール板を通過した少女達は限界を超えて力を使い果たしたのか、よろよろと歩いた後地面に仰向けに倒れ込んだ。
荒い息を吐いて大空を仰ぎ、息が整うのを待つ。
「…………ねぇ、誰が勝ったの?」
「…………分かりません」
「…………わかんにゃい。でも――」
――悔いはない。そう全員が感じていた。
全力を出し切り、限界を超え、意地を貫き……そして、レースの結果が出た。
『お待たせしました!! 1着は……ミホノブルボン! 皐月賞の敗北を乗り越え、日本ダービーを制しました!! 2着はライスシャワー。3着はシロノリリィ――』
――ミホノブルボンの意地と執念が、二人に勝利した。
「……………………っ!!」
天に向かって拳を突き上げる。見せつける様に、高々と。
少女の頬から熱い雫が零れ落ちる。だがその表情は、雲ひとつない青空の様に爽やかな笑顔だった。
「――おめでとう! ブルボンさん!!」
「――おめでとう! ブルボンちゃん!!」
「――はい! ……はいっ!!」
ふんすふんすと鼻息荒く手を振り続けるミホノブルボンとそれを隣で支えるシロノリリィとライスシャワー。今の彼女達は限界を超えたレースの影響で立つのも精一杯になっていた。
手を離した瞬間に子鹿の様に震え出したので、先ほどレース場の観客達から別の笑いを貰ってしまった。
「ねぇねぇライスちゃん、ブルボンちゃん! すっごく楽しかったね!」
「うん! ライスもとっても楽しかった! ……でも、次はブルボンさんに負けないもん!」
「いいえ、次も私が勝ちます」
少女達から笑顔が溢れる。そして、ミホノブルボンはじっと二人のことを見つめた。
「……どうしたの? ブルボンさん?」
「……なあに? ブルボンちゃん?」
どうしたんだろう? と可愛らしく小首を傾げる二人を見つめながら言う。
「――私も、『ちゅー』をしたほうがいいのでしょうか?」
「…………えっ?」
「…………うに?」
突然の言葉に二人は固まってしまった。真面目な顔をしながら彼女は続ける。
「ホープフルステークスの時と皐月賞の時、お二人はちゅーをしました。なので私もそうした方がいいのかと……」
「…………えっ??」
「…………うにゃっ??」
「……というよりも、この感情を処理しきれません。エラーコード発生、へるぷみーです」
外見に反して中身は幼女なミホノブルボンの情緒が限界を迎えてしまった。――シロノリリィのせいで本来の歴史よりも中身が幼くなってしまった影響が出てしまったようだ。
仲間と共に乗り越えた達成感、最高の勝利を決めた高揚、その全ての感情が溢れに溢れてミホノブルボンをオーバーヒートさせる。
「…………ライスさん」
「……えっ? ……えっ!?!?」
ガシッと肩を抑えるミホノブルボンの瞳は、何だかよく分からないがぐるぐると渦を巻いていた。
いきなりの出来事にライスシャワーはあわあわと慌て出した。――が、すぐさまシロノリリィの手によって引き剥がされた。
「だめっ!!!!!! ライスちゃんは私だけなのっ!!!!」
「――――エラー、エラー! ミホノブルボン、オーバーヒート……!」
「――リリィちゃんっ♡」
嫉妬心を剥き出しにするシロノリリィにライスシャワーはキュンキュンしている。
そのままの勢いでミホノブルボンを抱えて観客席まで走り出した。
「……ん? なんかシロがミホを抱えてこっち来てんぞ?」
「……何だか嫌な予感がするな。……あれ? フラワーがいない……?」
「バクシン的な速さでしたね!」
いち早く危機を察知してニシノフラワーは避難した。彼女の唇はセイウンスカイ専用なのだ。
「――キョウちゃん! アッシュちゃん! バクちゃん! あとお願い!!」
「──ミホミホミホミホノブルブルボンボンボン……‼」
「んん? どういう事だリリィ……?」
「シロがぷんぷんしてんな。どういうこった?」
「――どうやらバクシン的エネルギーが行き場を失っているのでしょう。つまり、大バクシンですッ!」
爆発寸前のミホノブルボンをスプリンター同盟に預け、シロノリリィはすぐにライスシャワーの元へ走り出した。……汚い悲鳴が聞こえたが恐らく気のせいであろう。
日本ダービーというクラシック三冠の中で、勝てば最高の栄誉があるとされているレースだというのに、余りにも締まらない最後であった。
Qあの扉開けたらどうなるの?
A勝った! すきすきだいすきライスシャワー! 完ッ! リリィちゃんは死ぬ。
いわゆるBADエンドです。開けたら限界を遥かに超えた力を引き出せますが、心臓に負荷がかかってジ・エンドです。
私は愉悦部じゃないのでそんな酷い話は書けません。