ライスちゃんを勝たせてあげることができませんでした。
弱いお兄さまでごめんね。
前話のアンクルウェイトくんの重さを、通常タイプは50×4=200キロ。シンザンモデルを150×4=600キロに修正しました。
大接戦の日本ダービーを終えたリリィちゃんです。結果は3着で、ライスちゃんとブルボンちゃんに負けてしまいました。でも次の菊花賞では私が1着になってみせます。リリィちゃんはつよい子なのです!
今私とライスちゃんとるるちゃんは、トレーナー室で菊花賞に向けてのトレーニング方針などを決めるミーティングをしています。
菊花賞まではだいぶ期間が空いてしまうので間に何かレースを挟んだりするのでしょうか? するとしたら神戸新聞杯かセントライト記念でしょうか。まあ今考えても仕方ないですね。
そして! 夏合宿ももうすぐあります! 今年はどんな合宿になるのかな? リリィちゃんとってもわくわくです! 去年と比べてお友達も増えたのでとっても楽しみです!
あとるるちゃんが私達のためにオムライスを作ってくれました。包丁で切ると半熟のとろとろたまごが出てくるあれです! あれって普通に作れるんですね、てっきりお店だけだと思ってました。味はとってもおいしかったです。ありがとうるるちゃん!
そういえばブルボンちゃん達はスプリンター同盟で勝利のお祝いとしてみんなで焼肉を食べに行ったみたいです。さっきLANEで写真が送られてきました。みんな楽しそうです!
「はい、というわけで今後の事を決めていくわよ〜。まずは目標だけど、これは『菊花賞』ね。ここの変更は二人とも無いわ。日本ダービーで負けたのは残念だけど、これなら菊花賞でも無事に通用するって証明できたからね」
「ハナ差なのはすっごく悔しかったです」
「うん。ライスもそう思った。でも次からライスの得意な長距離だから絶対に負けないよ!」
「ライスは問題ないけどリリィはそこが問題なのよねぇ。まあそこの対策は考えてあるから後で言うけど。で、菊花賞まで期間が空いちゃうでしょ? だから夏合宿の後にレースを一つ挟むけどこれはまあトレーニングの様子を見ながら決めてくわ」
皐月賞は2000で、ダービーは2400。菊花賞は3000なので距離の増え方がすごいですね。私はダートが得意なマイラーですが、苦手な距離でもリリィちゃんは負けませんよ!
「でね、今後のトレーニングの話をする前にもう一度日本ダービーの映像を見てほしいの。二人ともいいかしら?」
「大丈夫ですよ!」
「うん。ライスも大丈夫だよ」
「それじゃあ今から映像を流すから、少し待っててね」
るるちゃんがノートパソコンを操作して私達に日本ダービーの映像を見せます。……自分が負けるところを見るのは悔しいですが、ただ悔しがるだけではいけません。どうして敗北したのか、どこを改善すればいいのか、客観的に見て自分の経験にするのです。
「ブルボンちゃんの大逃げにはびっくりしましたね」
「ね。ライスもそう来る可能性をもっと考えとかなきゃって思ったよ」
「そこはトレーナーの仕事よ。私ももっと成長しなくちゃね。それで見てもらいたいのがここなんだけど……そう、この最後のゴールする瞬間よ。この時なんだけど、ミホノブルボンは最後に一瞬伸びて、ライスは変化無し、リリィは僅かに下がってるの。分かるかしら?」
「おお〜。確かにそうですね。……つまり私は体力を削られすぎて……」
「ライスは最後の伸びが足りなくて……」
「ミホノブルボンは根性で伸びた。ってところね。というわけで、それを踏まえて次のトレーニングなんだけど、夏合宿まではターフで走らないことにしたわ」
「「……えっ?」」
…………どういうことでしょうか? リリィちゃんわかりません。
「……えっと、プールで泳ぐの?」
「いんや、違うわよ。長距離に備えてスタミナトレーニングはもちろんするつもりだけど、それは夏合宿からする予定よ」
「……う〜ん。まぁいっか! あっ! ねえねえるるちゃん、日本ダービーで走ってた時なんですけど、多分領域みたいなの出ましたよ!」
「えっ? まじ? どんな感じだった?」
「人によって領域の景色は違うんだっけ。なんか不思議だよね」
「ねー! あのね、真っ白な空間で私の手と足と首にゴッツイ白い鎖がついてて、それをちぎったり踏み砕いたり握りつぶした後に白い鎖でぐるぐるされてるボロボロな真っ黒の扉の前に立つの。それでね、なんかいや〜な感じがしたからドアノブを握りつぶしたの。そしたらなんかぎゅお〜って力がみなぎって速くなりました!」
完璧な説明ですね! さすが私です、とってもわかりやすいですね!
「……リリィ」
「……リリィちゃん」
「なぁに?」
「「たぶん、それ領域じゃない(わ)よ?」」
「…………えぇっ!?」
……ちがうの? しょんぼリリィちゃんです。
「まあ、それは置いといて。今回のトレーニングの場所はここのプールでやるわ」
「あっ、プールでやるんだね。普通に泳ぐんじゃないんだよね? どんな感じなのかなぁ?」
「どんなトレーニングかは……やだ、一生懸命考えるリリィちょうかわいい……!」
気を取り直して、リリィちゃんのかしこすぎる頭脳をフル回転させます。
――普通とは違う。――ターフを走らない。――場所はプール。ここから導き出される答えは……
「──何をするか全然分かりません!!」
「うふふ。かーわいっ♡ ……あっ! やめて! かわいいかわいいリリィのお顔を隠さないでっ!!」
ライスちゃんが私を背中に隠しました。ライスちゃんの髪は先の方がくるんってしててかわいいんですよね。
「やだ」
「ライスのいじわる! すきっ! かわいいっ! 小悪魔!」
「リリィちゃんは?」
「すきっ! かわいい! 天使!」
るるちゃんの表情が気になるのでライスちゃんの背中から覗いてみます。たぶんいつも通りのふにゃふにゃ顔だと思いますけど。
「……ちらっ」
「あ゛っ!! か゛わ゛い゛い゛!!」
「あっ……お姉さま白目向いちゃった。リリィちゃんがかわいすぎるから……」
「……罪深いかわいさですね」
というわけでいつものプールにやってきました。どんなトレーニングなのかな?
「ねぇねぇお姉さま。ここでどんなトレーニングをするの?」
「今から説明していくわ。今日からやるトレーニングの目的はまず、身体の使い方を上手くする事よ。いわば
「……よくわかんないです!」
「分かりやすくいうとミホノブルボンが超ベジータやムキンクスで、私達のがスーパーサイヤ人の負荷に慣れるために常時スーパーサイヤ人で過ごした悟空と悟飯よ」
「おおっ! とってもわかりやすいです!」
「……お姉さま、最近またセル編読んだの?」
「お正月に暇で読み返したのよ。それであなた達はこう思ったんじゃない。『何がいつもと違うのか?』、って」
確かにそうですね。普通に泳ぐだけじゃだめなのかな? どんなやり方をするのでしょうか。
「う〜ん。……水の上を走るとか?」
「……水中でシャドーボクシングとか?」
「概ね正解……いや、シャドーボクシングはしないわよ。気になる内容なんだけどね……はい、この水中用シューズを履いてプールの中を走ってもらいます」
「「……えっ? 走るの?」」
「そう、走るのよ。まぁとりあえずやってみれば分かるわ。二人とも準備して」
ふむふむ。よくわからないけどとりあえずやってみましょう!
「じゃあ二人とも、まずはゆっくりでいいからここのスタート地点から往復してここまで戻ってきてね」
「「はーい!」」
「うん、いい返事ね! それじゃ……ヨーイ、ドン!」
るるちゃんの合図とともに私達は走り出しました。水中で走った経験はほとんどないのですが、なんというかですね……
「「…………すっっごく走りづらい!!」」
「でしょ? これが目的だからね」
「全然前に進めないよね。ターフの上と感覚が違いすぎるよ……」
「全力で進もうとしたらめっちゃ水飛沫飛びました……。なんか必殺技みたいでちょっとかっこよかったです!」
「そう、そこなのよ! ただ力を入れるだけじゃ前に進めなくて、だからこそ最適な力を出せるようにするのがこのトレーニングの目的なの。それとね、リリィの長距離対策にも関係あるのよ」
「私ですか?」
「リリィちゃんの?」
「うん。リリィは今までその超パワーで苦手なバ場や距離を走ってきたでしょ? 私がこれまで観察し続けてきた結果、そこに僅かな力の無駄を見つけたの」
「……ほほん?」
「……よく分かってないわね。う〜んとね、普通のウマ娘が走る時に『10』の力で走るとするわ。それは最適な力なので消費するスタミナはその数字通りの『10』となるの。でもリリィの場合は苦手だから消費スタミナが増えて『20』の力で走らなければいけないの。でも今のあなたは『30』の力で走っているから消費は本来よりも大きい『30』になってしまっているの。力があるが故に、ね。……どう? わかったかしら?」
…………よくわかったようなわからないような。
「えっとねリリィちゃん。つまりね、歯磨き粉を本来の量より多くつけちゃってるの」
「──っっ!! なるほど!! そういう事ですね!!」
とってもわかりやすいです! さすがライスちゃんです!
「…………まぁ、分かったんならいいわよ。だからこのトレーニングでその無駄を無くすの。そうすればあなた達は以前よりも遥かに強くなれるわ。最適な力を最小の消費で行う。特にリリィ、あなたはこの効果が絶大なはずよ」
「おぉ〜。なんかかっこいいです!」
「さっきはああ言って説明したけど、本当に最適な力で走れている人はほとんどいないわ。いたとしてもシニア級のごく一部やすでに引退したレジェンドクラスのウマ娘達ぐらいね。それだけ難しい技術なのよ、これって」
言葉にすると簡単そうに見えますが、この技術を習得するのは凄まじい難易度です。でも……
「──私がこの先長い距離を走るためには、やらなければいけないことです」
「そうね、特に長距離のライスはめっちゃんこ強いからね。でも、このトレーニングならいけるって私は考えてるわ。……たぶん」
「……そこは言い切ってほしかったな、お姉さま」
「……えへへ。でもね、水中を走るのはただ力任せじゃダメでしょ? 足や手を動かす角度、他にも色々。私から見てあなた達の肉体はもうすぐピークを迎えるわ。だからこれからはフィジカルだけじゃなくてそういった技術も習得する必要があるって考えたの」
「生物的な限界もあるよね。……リリィちゃんのパワーはちょっとそれを超えちゃってるけど」
「ふっふーん! もっと褒めてください!」
確かにこのトレーニングは難しいかもしれません。でも私はやります、やってみせます。……強くなるために!
「研ぎ澄ますのよ。薄く鋭く、刀のように。……リリィは刀っていうより芸術品だけどね」
「えー!? 刀の方がかっこいいからそっちの方がいいです! あとライスちゃんの方が私より綺麗です!」
「リリィちゃんの方が綺麗だよ?」
「はいはい、いちゃいちゃするのはだめよ? 二人とも私の大切な宝物なんだからね」
「「……えへへ!」」
「それじゃ、トレーニングの続きやってくわよ? もっともっとパワーアップして菊花賞取ってミホノブルボンにもリベンジじゃい!」
「「うん!」」
それから私達は毎日水中ダッシュトレーニングをやりました。最初は全然タイムが出なかったのですが、だんだんと自分の動きの無駄が分かるようになってきました。
腕の振り方、足の伸ばし方、連動する筋肉。どの角度で地面を踏むか、蹴り出す力はどの程度か。言葉ではなく感覚で
このトレーニングは見た目と違ってとってもキツかったです。水の重さが私の動きを阻害して、地上で走っている時よりも遅くて回数も少ないはずなのに疲労がその比ではないほどでした。
でもある日の事です、私達は唐突に理解しました。
「…………わぉっ」
――刃のように鋭くて、無駄のない動きを。
「……できちゃった?」
「……うん?」
水中を切り裂く様な走り。地上と比べて少し速さは落ちますが、とても水中を走っている様には見えないです。
「……どう? 今の感覚?」
「えっと……言葉にするのは難しいけど、とりあえずターフで走ってみたいです!」
「うん、ライスも。今ならあの時よりももっと速く走れるよ!」
「ピッコロさんなら『俺はいま究極のパワーを手に入れたのだーっ!!!』とか言いそうね」
これなら私も前より長い距離を走れそうです。そういえば……
「ねぇねぇるるちゃん。これってるるちゃんの想定してたペースと比べてどうなんですか?」
「……正直、想定以上よ。夏合宿の前に形にして、夏合宿はスタミナを大幅に強化して、菊花賞の本番前にレースを挟んで完成させるつもりだったから。あなた達の才能と努力を見誤っていたわ」
「でも、まだターフで調整してないよ。……夏合宿まで結構時間があるから大丈夫そうだけど」
「……うん、そうね。リリィ、夏合宿ではスタミナ訓練もしつつもう一つやる事が増えたわ。それはね、『リリィちゃんボンバー』を完成させることよ」
「おぉ! わくわくしますね!」
「それとね、夏合宿の後に神戸新聞杯かセントライト記念に出るつもりだったけど止めるわ。あなたの次走は――『ジャパンダートダービー』よ」
はじめてのダート、はじめての得意なバ場。そして、パワーアップした私。……こんな気持ちははじめてです。こんなにも、自分の力を試したいのは。
私のもう一つのダービーが始まります。
次はジャパンダートダービーじゃなくてブルボンちゃんがライリリに挟まれる話です。
書けなかったのでジャパンダートダービーにします……。