「──正直舐めてたよ、シロノリリィの事」
地方のトレセンの近くにある学生御用達のファミレスで少女は呟いた。
彼女の名はハートシーザー。先日行われたジャパンダートダービーに出走したウマ娘の一人だ。今はインタビューのためにトレーナーと共に記者の質問に答えていた。
「デビューからずっと芝を走っていたウマ娘がいきなりダートに来たんだぜ? そんなのこっちを舐めてるとしか言えないだろ。だからシロノリリィの対策なんてしなかった。他の奴らもだいたい同じだったな。そんで、私はスイプロをマークしようとしてた。けど──」
メロンフロートをストローでかき混ぜながら、どこか遠い目をして少女は言う。
「──その結果が、これさ……」
その言葉に、絞り出された言葉に彼女のトレーナーが反応した。
「……シーザー。別にいつも通りで構わないよ?」
「え? でも、こんな感じの方が敗北者って感じしませんか?」
きゃるん☆ とハートシーザーの表情が一変する。今までのは演技でこっちが彼女の本来のキャラだ。
「うん、そうだね。でもね、いつも通りの君の方が魅力的だし、記事にしたときに喜んでもらえると思うよ」
記者の男が同意するように頷く。ハートシーザーは「マジかよ……」と小さく呟いた。
「こちらとしても素のあなたにインタビューをしたいので、いつも通りに答えてくれると嬉しいです」
「じゃあ、私がこの日のために特訓したこの演技の意味は……」
「ないね」
「──ぐっは!!」
はじめてのダートレースにわくわくしてるリリィちゃんです。メイクデビューからずっと芝で走っていましたが、そういえば私はダートの方が適性がありましたね。ライスちゃんと走るのが楽しすぎて忘れていました。うっかリリィちゃんです!
時期的に夏合宿と被っているので、私は夏合宿用特別メニューではなくレース前の調整だけをしていました。今回はどんな合宿になるのかわくわくしますね!
ライスちゃんは私より一足先に菊花賞へ向けて本格的にトレーニングをしています。でも私は焦ったりしません。このレースで得る経験は、きっと私にとって大きな経験になるはずです。より気合が入りますね!
るるちゃん考案の水中ダッシュトレーニングによって、今の私は日本ダービーの頃と比べてとってもパワーアップしました。ブルボンちゃんにも「綺麗ですね」って言われたから確実です! ふっふーん!
今回のレースにはお友達のスイプロちゃんも出ます。スイプロちゃんは私のクラスメイトで、たまにお魚料理を私にくれるとってもいい人です。
あとこの前一緒にアジゴというアジのこどもを釣りに行きました。私は何もやり方が分からなかったのですが、丁寧に教えてくれたからとっても楽しく釣りができました! また一緒に遊びに行きたいです!
スイプロちゃんは私とずっと走りたかったと言っていました。今までは私がクラシック路線で走っていたので機会が無かったのですが、今日やっとその機会がやってきたととても嬉しそうでした。
スイプロちゃんのバチバチの闘志に釣られて、私もこう……ぎゅわ〜っ! ってなっています。今の私はバーニングリリィちゃんです!
スイプロちゃんはデビュー時からダート路線で走っている強敵ですが、私は負けません! ジャパンダートダービーがんばるぞー、おー!
ジャパンダートダービー当日。シロノリリィを応援する為にお姉さまとライスシャワーは
「夜のレース場で応援するなんて、ライスはじめてだからわくわくするよ!」
「普段のレースは日が昇っている時にやるからね〜。……ところで、あなたは今日リリィの偵察に来たのよね?」
「はい。菊花賞に向けて、リリィさんの成長具合をこの目で確かめる為に来ました。もちろん他意などありません」
そこには
「……まぁ、別にいいけど。黒沼さんはリリィのハッピとハチマキはいりますか?」
「……いらん」
「マスター、私から提案があります。敵の思考を探る為に同じ格好をするというのはいかがでしょうか? 私のハイパーブルボンアイとマスターの観察眼が合わさり、敵情視察の効果が通常の3倍程になると予想します」
「……遠慮しておく」
ミホノブルボンはぷくっと頬を膨らませた。
ライスシャワーは餅のようなほっぺをツンツンしている。
彼女が装備しているリリィちゃん応援グッズは自前で用意したものだ。合流した際におもむろに装着し出したのでお姉さまと黒沼はびっくりした。
お姉さまは「……最初は警戒してたんだけど、なんか警戒して損したわ」と内心思っていた。
「あのね、この前ライスとリリィちゃんとブルボンさんでお出かけした時に買ったの。ブルボンさんも応援に来てくれてありがとう!」
「友達のためなら当然です」
敵情視察という建前が崩れたがおそらく気のせいだ。ちなみにこの悪知恵を授けたのはキョウエイボーガンだ。シロノリリィの応援に行きたいと言ったら断られると思い、彼女の知恵を借りたのだ。トレーナーには敵情視察と言い張り応援に駆けつける完璧な作戦。もしも通らなかったらやだやだと駄々をこねるつもりだったのだが、あっさりと許可が出たのでやだやだモードは発動せずに済んだ。
「ブルボン、本当に敵情視察のために来たんだよな……?」
「はい、もちろんですマスター。この格好はリリィさんを応援してフルスペックを発揮できるようにするためのものです」
「……そうか、そうだよな。疑って悪かった……」
ライスシャワーとミホノブルボンがきゃっきゃっとじゃれあっているうちにパドックでのお披露目が始まった。
「……そういえばダートレースはあまり観戦する機会がありませんでしたね。決して軽んじているわけではないのですが」
「ライス達はクラシック三冠路線だからっていうのもあるよね。でも聞いていたよりもお客さんがいっぱいいるような……」
「な〜んかいつもの3倍ぐらい来てるらしいわよ。多分リリィがかわいいからじゃない?」
「そんなに来てるんだ……! さすがリリィちゃんだね!」
「さすがです、リリィさん」
実際この観客の数はシロノリリィのせいである。皐月賞ウマ娘である彼女が本当にダートを走れるのか? といった疑問。そしてなによりかわいいリリィちゃんを生で見られるということで、例年よりも客数が大幅に増加した。
「あの娘は……スイプロね。リリィのクラスメイトで今回注目のウマ娘ね」
「ダート路線で注目を集めているウマ娘だな。重賞勝利経験もあり、シロノリリィがいなければ最有力候補だっただろうと言われている」
「……ダートの事も調べてるんですね。クラシック三冠路線だけだと思ってました」
「芝ほどじゃないが、一応な。ダートから転向して芝で結果を出すウマ娘もいるかもしれん。厳しい戦いを制すためにもデータは多くあった方がいいからな」
「そんな変態みたいな所業、普通はやりませんよ」
「……勇者と呼んでやれ」
その逆をシロノリリィがやろうとしているのだが? と思ったが、そんな黒沼の心の声を察知したライスシャワーが氷の様な微笑を浮かべていたので声に出さないことにした。
「あ゛っ!! 見てっ!! リリィちゃん!!」
「なるほど、素晴らしい仕上がりですね。ドヤ顔がとてもかわいらしいです」
シロノリリィの仕上がりを見た黒沼は「……精錬されて、いや……その途中といったところか。ダービーの時よりも更に磨かれているが、まだまだ伸び代がある。それでも見事なものだ」と心の中で評価した。
だが、「まだ先がある」と付け加えた。この短期間での成長は見事。これからの夏合宿の伸びを考えたらこの評価が妥当だろう。
プールの中で走っていると聞いた時は「いったい何をやってるんだ?」と思ったが、彼女達の実力を更に伸ばす手腕に舌を巻いた。変なトレーニングだとは思ったが。
「……いい仕上がりだ。シロノリリィはどのレースも調子が良いが、何かコツでもあるのか?」
「確かにそれは私も気になります」
あからさまな誘導なので簡単にこちらの思惑に気づくだろう。だが、それでいい。「恐らく誤魔化されるだろうが、僅かでも反応があればそれだけでこちらの有利に繋がる」と考えた。
直接見たシロノリリィだけでなく、そのトレーナーから得られる情報というのはどんなに小さなものでも得難いものだ。
「……あぁ、あれはライスとイチャイチャしてるから調子がいいだけですよ。特別なことは何もしてませんね。まあ、ライスと過ごす日々全てが特別って言ってましたけど」
「ライスもリリィちゃんといられるだけでしあわせすぎて絶好調になるよ! ロイヤルビタージュースだってへっちゃらだもん!」
「……っ!! なるほどっ……!」
「…………そうか」
黒沼は真面目に考えるのをやめた。
地下バ道を進むシロノリリィに話しかけるウマ娘が一人いた。
彼女の名はスイプロ。シロノリリィとのレースを切望していた者の一人だ。
「リリィ。ちょっといい?」
「……っ! うん、大丈夫だよ」
スイプロに声をかけられたことに気づいたシロノリリィは、くるりと振り返り彼女の顔を見据える。
互いに勝負服に身を包んだ彼女達の姿は、今から最高位のレース――GⅠを走るのだと理解させられる。
スイプロはこの時を待ち望んでいた。シロノリリィという存在を目にした瞬間から、今までずっと。
「やっとだ。やっと、リリィと走れる」
そう告げるスイプロだったが、にこにことこちらを見つめるシロノリリィに照れてしまい視線を逸らした。
「私もね、スイプロちゃんと走るの楽しみにしてたんだ! でも私はダートでも強いよ!」
「私はずっとダートで走ってきた。だから経験値的に有利」
レース前の軽口に二人からくすりと笑みが漏れた。
言葉で語るのはここまでだ。ここから先は……
「走れば分かる。行こう、リリィ」
「うん!」
『夜空の星々が見守ります、大井レース場ダート2000ジャパンダートダービー。14人のウマ娘達が挑みます。虎視眈々と上位を狙っています、3番人気はハートシーザー。この評価は不満か? 2番人気はこの娘、スイプロ。GⅠレース初勝利となるか注目です。スタンドに押しかけたファンの期待を一心に背負って、1番人気シロノリリィ。彼女の豪脚が芝だけでなくダートでも炸裂するのか注目です』
『私が一番期待しているウマ娘。気合い入れて欲しいですね!』
『ゲートイン完了。出走の準備が整いました』
『――今スタートが切られました! 各ウマ娘、そろってキレイなスタートを切りました』
『みんな集中してますね』
『ハートシーザーとイッツコーリングこのふたりが競り合っているぞ。期待通りの結果を出せるか? 1番人気シロノリリィ!』
ゲートが開き、ウマ娘達が飛び出した。ハナを取ろうと2人のウマ娘が競り合う中、そこから少し離れてシロノリリィが展開を伺う。
彼女が今回選んだのは先行策、まずは他のウマ娘達を観察する作戦だ。練習では何度もダートを走ったことがあるが、本番でも練習通りの実力が発揮できるのかは未知数であったが……
(……違う)
シロノリリィの適性はダートのマイルだ。だが、メイクデビューから今まで走ってきたのは芝である。本来なら適性外のレースを走るのは無謀と言えるが、彼女は筋肉でそれを捩じ伏せてきた。
つまり、これが彼女にとってはじめての適性バ場でのレースとなる。
(こんなにも違うなんて)
馴染む、のではない。あまりにも自然。ここが彼女の本来の居場所だとでもいうかのような走りやすさにシロノリリィは驚いた。
(私は……超リリィちゃんです!!)
絶好調のシロノリリィを、後ろからスイプロがマークする。
他のウマ娘からの妨害などは特になく、あっさりとシロノリリィをマークする事ができた。
(リリィの走りに変なところはない。まあ、想定の範囲内。……寧ろ、芝の時よりいい感じ?)
シロノリリィの様子を観察しながらスイプロが1バ身離れて追跡する。
彼女はこのジャパンダートダービーで、他のウマ娘ではなくシロノリリィのみをマークすることに決めていた。ダートで走った実績こそないが、彼女が今回のレースで一番の強敵になるだろうとスイプロの勘が告げていた。
彼女はその直感こそが大事だと思った。と同時に、自分と同じように他のウマ娘達もシロノリリィをマークすることを選ぶと思ったのだが……
(リリィをマークしてるのは私だけ。……まじ? 私だけ?)
『さあ、ハナを取ったのはハートシーザー。このままリードする事はできるのか? シロノリリィ少しペースが早いか?』
『冷静さを取り戻せるといいのですが』
『1コーナーから2コーナーへ向かっていきます。煌々と照明が灯る大井レース場をウマ娘達が疾走していきます。依然先頭はハートシーザー。続きましたイッツコーリング。少し離れてシロノリリィ。その後ろ1バ身離れてスイプロ――』
「──リリィちゃんには弱点があるジャン。スタミナが(比較的)少ないという弱点。今回はそこを徹底的に狙うジャン!」
「くくく……リリィちゃんの末脚は脅威の一言。恐らく今回のレースは皆が彼女をマークするでしょう。まあ、スタミナが無くなったらどんなウマ娘でも走れなくなりますが」
この変な語尾のウマ娘と怪しい男は、スイプロが所属するチームの先輩とトレーナーである。
「スイプロのマーク技術はライスちゃんと比べたら未熟ジャン。それを数で補う合理的な作戦ジャン! ……スイプロと同期のライスちゃんのマーク技術はちょっと怖すぎるけどジャン。あんなのクラシック級の技量じゃないジャン」
「くくく……綺麗な顔して恐ろしいウマ娘ですよね、彼女」
ここで二人は失態に気づいた。
彼らの読みは『シロノリリィという最大の強敵に対し、ほぼ全てのウマ娘がマークするからそこに便乗する』というものだったが、現在の状況はむしろその逆だった。
「…………おかしいですね? うちのスイちゃん以外リリィちゃんをマークしてません」
「パァン? ……もしかして、ダート出走経験が無いから脅威と思われてないジャン?」
スイプロ以外、寧ろスイプロが他のウマ娘にマークされている。シロノリリィはほぼ完全に放置状態だ。
「…………くくく、読み違えてしまいましたか。……おや? なんだかリリィちゃんのペースが早いような気が……」
『2コーナーまわって向こう正面。順位を振り返って……シロノリリィがペースを上げています。掛かってしまったのでしょうか? 現在先頭はシロノリリィ、続いてハートシーザー。あとからイッツコーリング、外からスイプロ――』
逃げウマ娘2人がコーナーを抜けて直線に入ろうとしたその時、内側にできた僅かな隙間にシロノリリィがバ体を捩じ込みハナを奪った。
「う、お゛! なんか来た!?」
「どひゃー!?」
イッツコーリングとハートシーザーを交わして先頭になったシロノリリィは、その勢いのまま速度を上げていく。一方で彼女をマークしていたスイプロは……
(マークを外されたのは痛い、かな。リリィは……掛かってる? ……仕掛けるにしては早すぎる。このままスタミナを使い切ってくれれば好都合)
そう思ったところで、なんとなく、嫌な予感がした。
何か致命的なミスを犯したような、じわりとした不安。
(…………いや、違う……?)
2バ身、3バ身と距離が離れ更に加速する。減速する気配のないシロノリリィの様子に観客席が騒がしくなる。これでは掛かって暴走しているようにしか見えない。
だが、彼女をマークしていたスイプロだけがその違いに気づいた。――気づいてしまった。
(掛かって、ない……!!)
スイプロがシロノリリィを逃さぬよう距離を詰めるが、シロノリリィは更に加速していく。他のウマ娘も慌てて着いて行くが、その時にはもう遅すぎた。
徐々にざわめきは収まり、その光景に息を呑む。
(あぁ、くそっ……! バカだ、私は……っ!!)
先頭はシロノリリィ。そこから3バ身ほど離れてスイプロ。他のウマ娘達が全力のスパートをかけるがその差は縮まらない。3番手のウマ娘は5バ身離され、勢いは衰えるどころか寧ろ更に増していき、シロノリリィが最終コーナーに突入する。
ざわめきは静寂に、静寂は困惑に。
観客達は思う。自分たちは今、何を見せられている?
『な、なんということだ! シロノリリィが止まらない! 後ろの娘達が全く追いつけない!?』
そして、困惑は歓声に変わる。
(くそっ! ……こんなにも、こんなにも……っ!!)
最終コーナーでも減速することなく加速し続け、遂に彼女だけが最終直線へと突入した。
シロノリリィとの距離に他のウマ娘達の表情が歪む。だが、きっとこれが彼女の最高速だ。今から必ず捉えてみせると、彼女達は心を奮わせる。
だが、そんな彼女達の淡い希望を踏み砕くように、シロノリリィがラストスパートをかける。
華奢な脚が一回りほど膨らみ、ダートが爆ぜる轟音と共に彼女の背中が遠ざかる。
「──嘘でしょ……?」
今も必死に脚を動かすスイプロの後ろから聞こえた小さな呟きが、やけに鮮明に聞こえた。
『シロノリリィ! シロノリリィ!! その差は10バ身、まだまだ伸びる! なんという強さだ! 後ろの娘達は追いつけない!!』
シロノリリィの強烈な光――末脚に、届かないと思ってしまった。敗北が、灼き付いてしまった。
闇など寄せ付けぬ白い少女の輝きが、人工物の光よりも眩しいその光に誰も目を離せない。
人々はその
『――太陽だっ! 太陽が昇る!! 誰もその背に届かない! 誰も太陽に届かないっ!! 先頭はシロノリリィ、変わらない!』
夜の闇を、輝く星空すら呑み込み、純白の太陽が全てを灼き尽くした。
『1着はシロノリリィ!! 大差をつけて圧勝です! 今、大井レース場に夜明けが訪れた!! シロノリリィが見事に新たな砂の王者に輝きました! 2着にはスイプロ。3着に入ったのはハートシーザー』
後に人々はこう語った。
――「あの時、純白の夜明けを見た」と。
ぜえぜえと肩で息をしながら、スイプロは疲労で言うことを聞かない脚を無理やり動かしてシロノリリィの元へ向かう。
「リリィちゃん大勝利ですっ!! いえーい!!」
「…………リリィ」
「ライスちゃ──スイプロちゃん!」
愛しの少女の名を叫ぼうとしたが、スイプロの声と気配に気づいてこちらに振り返った。
レースを終えた興奮からか、頬は赤く大粒の汗が流れている。キラキラと輝く黄金の瞳はレース場を照らす星々より煌めいていた。
「えっへへ! どう? 私強かったでしょ!」
「うん、本当に。まずはおめでとう。全然届かなかった、すごく悔しい。……でも──次は絶対に勝つ」
スイプロは真っ直ぐにシロノリリィを見据える。
確かに負けた。言い逃れのできない大敗北だ。だが、その程度どうって事ない。
「あなたがいて、私がいる。私は走れる、まだまだ走れる。今はまだ届かないけど、いつか必ずあなたに勝ってみせる。その心に、私を刻み込んでみせる」
彼女の強い想いに、スイプロの宣言に、シロノリリィは眩い笑顔で応えた。
「うん!! でもね、次も勝つのは私だよ! スイプロちゃん、また走ろうね!」
「うん、また。…………あぁ、眩しいな」
「……うに?」
その笑顔が、その心が鮮烈で。
――こんなにも、こんなにも……あなたの背中が遠い。
シロノリリィの圧勝に皆が沸き立つ中、黒沼はシロノリリィが叩き出した時計に注目していた。
「リリィちゃあぁん!! おめでとうぅぅ!!!! かっこいいよおぉぉ!!」
「リリィさーん! おめでとうございます!!」
「おっしゃあぁ!! リリィの勝ちじゃい!!」
(18バ身の差をつけて1:59.5か。まるで良バ場の芝のタイムだ。ダートを芝と同じ速度で走る……いや、芝の速度でダートを走ったのか)
「あっ!! 今ライスの事見た!! あ゛あ゛あ゛あ゛!! だいすきぃぃっ!!!! 」
「心拍数の上昇を確認。このままではおこげになってしまいます」
「だって!! リリィちゃんが!! ねぇ!!」
「はい。──最高でした」
普通は芝とダートでは走り方が変わるため同じタイムが出ない。それ以前に芝と比べてダートは時計が遅くなる傾向にあるのだが、シロノリリィの豪脚の前では常識など通用しないようだ。
(菊花賞は長距離故にライスシャワーを最大限に警戒すべきと思ったが、やはりシロノリリィも侮れん。……だが、勝つのはブルボンだ)
シロノリリィの成長性。その脅威を再認識し、脳内のトレーニング計画を変更していた黒沼だったが、ミホノブルボンが彼の袖をついついと引っ張っているのに気がついた。
「どうしたブルボン?」
「マスター、気がついたことがあります」
「ほう? なんだ、言ってみろ」
友人のレースを楽しみつつも、本命の敵情視察を忘れない愛バを頼もしく思う。さすが俺の愛バだ。
ミホノブルボンは真剣な表情でこちらを見据え、ある重大なことを告げた。
「──ペンライトを使った応援のやり方を私は知りません。マスター、ご教授をお願いします」
「………………」
この後めちゃくちゃキレキレのオタ芸を披露した。
「──さすがです、マスター!」