すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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第33話 リリィちゃんキックは破壊力!

「……またここですか」

 

 私リリィちゃん。今真っ白な場所にいるの。

 最近よく見る変な夢なのですが、なぜか頻度が上がって困っています。私の中の秘められたパワーが目覚める前兆でしょうか?

 しかもですね、この夢は起きたら記憶に無いんですよ。こうして“ここ”に来れば思い出すのですが、そういうところも不思議ですよね。寝不足とかにはならないから構わないのですが。

 

「今日で確か……4回目? 流石に飽きてきました。ライスちゃんもいませんし」

 

 特にここで出来ることもないですし、景色もほとんど変わりません。変わってるのも真っ黒な扉だけです。正確に言うと、扉に付いてる鎖が毎回少しずつ減っています。

 

「あと3本ですね。なんで減ってるのかは分かりませんが」

 

 ……もしかして、私の成長に合わせて減ってるのでしょうか? リミッターみたいな感じで、壁を超えるごとに鎖が外れていく仕様なのかもしれません。

 でも私、限界突破(はず)そうと思えば多分やれちゃうんですよね。壊れるって分かってるからやりませんが。

 レースで使ったらコケちゃいます。100%を超えるとそれだけでとっても負担になってしまいますからね。リリィちゃんボンバーも100%(げんかい)は超えないようになっています。

 

「――おっ? そろそろ起きる時間ですね!」

 

 私の意識がぼんやりしてきました。これは元の世界に戻る合図みたいなものです。さすがに4回目ともなれば慣れてきます。別に慣れたいわけじゃないのですが。

 

「やっぱり謎です。なんで私はこの場所に――」

 

 

 

 

 

 

 

 空っぽの器に、嘘という汚泥と醜い願望を込めたそれは、果たして皆の心にどう響いたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 今は8月の初旬。私達の夏合宿もついに後半戦です。

 日焼け止めはきちんと塗って、お肌のケアも万全のリリィちゃんです。塗ってくれるのはライスちゃんですけどね!

 

 私達が海を走っていたトレーニングを覚えていますか? 長いので“海上走行トレーニング”と呼ばせてもらいますね。そう、あのトレーニングです。私達が始めたての頃は、ちょっと走って海にドボンっ! と落ちていました。ですが、今のリリィちゃんはですね……

 

『リリィー! その調子よ、頑張って!』

「はーい!」

 

 なんと……最大3分ほど維持できるようになりました! どうですか? すごいでしょう! ぱちぱちぱちー! いっぱいほめてください!

 ふっふーん! さすがはリリィちゃんです! でもライスちゃんは5分ぐらい走れます。ステイヤーとマイラーの差でしょうか? やっぱりライスちゃんはすごいです!

 このトレーニングのおかげで、以前よりも長距離が走りやすくなった気がします。でもライスちゃんとの併走は1回も勝てた事がないです。ぐぬぬ……悔しいです! 合宿中に勝ってみせます! あっ……そろそろ私のスタミナが尽きてきました。

 

「――にゃぼおっ!!」

『2分58秒! 惜しいわ、もうちょっとだったわね』

 

 ごぼごぼ……私の最長記録は『3分1秒』です。るるちゃんが言っていた『長距離に慣れる』という目標からすると、まあ概ね達成したと言えるでしょう。菊花賞の歴代優勝タイムも大体3分とちょっとですからね。

 合宿を始めた時と比べて、私のスタミナは大幅に成長したと思います。もちろん他の能力もです。今のリリィちゃんなら桃白白も倒せそうです。

 

「むむぅ……なかなかタイムが伸びませんね。私とライスちゃんの何が違うのでしょうか?」

 

 実際のレースとトレーニングではスタミナの消耗は違います。当たり前ですが、コースには坂があったり、大勢のウマ娘さん達がいたりします。ただ海上を走り続けるだけならともかく、本番のレースとなれば今の私のスタミナでは厳しい戦いになるでしょう。

 今の私に必要なのは技術だと思います。私と違って、ライスちゃんはそういうのが得意なのでよく観察しなければいけません。

 

「じ〜っ……」

「どうしたのリリィちゃん?」

 

 今日もライスちゃんはかわいいですね! すき!

 

「ライスちゃんすきっ!」

「えへへ。ライスもだよ」

『こらそこ、いちゃいちゃしない』

 

 おっと、これではいつもと同じです。ライスちゃんをよく見て、長距離のコツを探さなけれ……直接聞いた方が早いのでは?

 

「あのね、ライスちゃんを観察して長距離のコツを探してたんだけど、直接ライスちゃんに聞いた方が早いって思ったの」

「そうだったんだ。……ん〜とね、ライスが思うコツは息の入れ方かな」

「息の入れ方? 波紋の呼吸みたいな感じ?」

「そこまでじゃないけど、認識としてはそんな感じ。短い時間で効率よく呼吸したり、レースなら息の入れるタイミングを考えたりとか」

「ほほ〜ん……」

 

 私はそこら辺が結構雑です。ほとんどカンでやってます。

 そういう練磨された技能の事を『スキル』と呼ぶらしいです。かっこいいですね! 私のリリィちゃんボンバーもスキルと言えるのでしょうか?

 

「ライスちゃんライスちゃん! ライスちゃんのそれって、名前とかあるの?」

「な、無いけど……どうして?」

「だって名前あった方がかっこいいじゃん!」

「……そうかなぁ?」

 

 ライスちゃんにスキルのコツを教えてもらいます。今まであまり意識してなかった事なので、すぐに実践するのは厳しいと思いますけど。でも、菊花賞でみんなに勝つために覚えなければいけません。

 そういえば、スキルとは別なんですけど、強いウマ娘さんは二つ名が付けられます。例えばタマモクロスさんは『白い稲妻』、オグリキャップさんは『芦毛の怪物』、特に有名なのは7冠を達成した『皇帝』シンボリルドルフさんですね! 私もいっぱい勝ったら二つ名が付けられたりするのでしょうか?

 

 

 

 

 

「そういえば、キョウちゃんはこの後どのレースに出るんですか?」

「ん? あぁ、そういえば言ってなかったな。ワタシはセントライト記念か神戸新聞杯に出る予定だ」

「ということは……菊花賞ですか!? おぉー! 楽しみです!」

 

 お昼ご飯を食べ終え、みんなでおしゃべりをしていた時に私が尋ねました。今挙げられた2つのレースは菊花賞のトライアルレースです。リリィちゃんはちゃんと覚えていました。えっへん!

 

「ワタシがカノープスと合同練習しているのもそのためだ。君達に手札を晒さないようにし、さらに君達と近い実力を持つマチカネタンホイザ(彼女)の助力を得るためだ」

「言ってよかったのですか? 言わない方が本番で驚かせられたと思うのですが」

「甘く見てもらっては困るぞ、ブルボン。そもそもトライアルレースに挑んだ時点で意図が露出する。だから隠す労力が無駄なのだ。ならば、堂々と言った方が気分がいいだろう?」

「……一理ありますね」

 

 よく分かりませんが、多分高度な駆け引きというやつですね。リリィちゃんも、キリッとしたお顔をしておきましょう。

 

「……しかし、驚いたな。今の表情を見れば分かる。君達が、ワタシを侮っていない事にね。もう少し油断していてくれればこちらも楽になったのだがな」

 

「侮る理由がありません」

「油断なんてしません」

「そんな事しないよ」

 

 

『だって、(ライバル)だから』

 

 

「…………そうか。……そうか」

 

 そっちは分かります。キョウちゃんの頑張りはずっと見てきましたからね! リリィちゃんが油断なんてするはずありません!

 私達が断言した後キョウちゃんは目をパチパチ瞬き、少し赤くなった顔を逸らして立ち上がりました。

 

「どうやらワタシは、君達の事が大好きらしい」

 

「奇遇ですね、私もです」

「私もー!」

「ライスも、だよ!」

 

 一度こちらを振り返って、「では、トレーニングの時間なのでな」と離れていきました。周りでカノープスの皆さんがわちゃわちゃしていましたが、とっても楽しそうな雰囲気です。

 

「では私も。そろそろ『ミホノブルボンパーフェクトブーストバーニングファイアー』を完成させなければいけませんので」

「――ッ! なにそれ、ちょう見たい!!」

「さすがにそれは嘘だって、ライスでも分かるよ……」

 

 ……うそなの? リリィちゃん騙されちゃいました。……まあいっか!

 さあ、ここからライスちゃんとの併走トレーニングです。ライスちゃんから教わった息継ぎのコツを覚えましょう! がんばるぞ、おー!

 

 

 

 

 

 併走トレーニングを終えたので結果から言います。だめでした。

 前よりちょっと楽に走れる様になりましたが、まだまだというのが現実です。でも間近でライスちゃんを観察して、ちょっとコツが掴めてきました。

 そのおかげで以前まで18バ身差をつけられていたのが、なんと15バ身まで縮みました! 初日の31バ身差と比べるととっても進歩しています。さすがリリィちゃんですね! ライスちゃんも私と同じぐらい強くなってるんですけどね。

 

「絶対に追いついてみせるからね、ライスちゃん!」

「ライスも楽しみにしてるよ」

 

 今は寝る前のちょっとしたおしゃべりタイムです。お部屋には私とライスちゃんとるるちゃんがいます。お風呂もご飯も済ませたので、とってもリラックスしています。

 

「息継ぎのコツ教えてもらったけど、やっぱりすぐには実践できないね。合宿が終わるまでには覚えたいな〜」

「リリィちゃんは合宿の後レースの予定がないから、まだ時間的な余裕はあると思うよ?」

「……そういえばそうだったね。でも覚えられたらかっこいいじゃん!」

「なぁに? 何の話?」

「スキルの話! ライスちゃんに息継ぎのコツを教えてもらってるの!」

「……スキル? お姉さまは瞬間移動が欲しいわ」

 

 るるちゃんはスキルという概念は知っていた様です。割と有名な話なのでしょうか?

 

「そういうのって名前とかつけないの? 魔閃光とかおすすめよ」

「ライスだけど、それじゃあ悟飯だよ……」

「リリィちゃんはギガンティックミーティアがいいです!」

「……ブロリリィちゃん……なんちゃって。あ、えっと……スキルの事はね、ルドルフさんが色々説明してくれたの。あの時びっくりしちゃったな……」

「え? ルドルフって、シンボリルドルフ? なんで接点も無いあなた達に話しかけてきたのよ?」

 

 ルドルフちゃんが話しかけて来たのはお昼ご飯を食べていた時です。なんか「君から私と同じ“波動”を感じた」とかなんとか言われて少しだけお話ししました。すっごくびっくりして「はぁ、どうも」とそっけない返事になっちゃったのは失敗でした。なぜかその後ものすごくご機嫌になってましたが。

 その波動とやらは何か分かりませんが、スキルとか領域とかなんか色々ためになる話をしてもらいましたね。

 ルドルフちゃんと私が呼んでるのは、みんなにもっと親しみを持ってもらいたいと本人が言ってたからです。

 スキルは本人専用のやつと汎用スキルがあります。汎用スキルは様々な人が習得できる技能の事で、ドラゴンボールで例えると舞空術とか気功派ですね!

 私のリリィちゃんボンバーは専用技と言えるでしょう。ルドルフちゃんも真似できないって言ってましたからね!

 お話の流れでリリィちゃんボンバーを披露したら、「“君専用の技”という点では正しく専用技だ。……しかし、技能(スキル)と呼ぶにはゴリ押しすぎないかな?」との評価でした。リリィちゃんのパワーで無理やり加速してるだけなので正しい評価ですけどね。一目で見抜くとは、ルドルフちゃんはすごいです!

 でもこの後「しかし、このまま磨き続ければ、いずれ唯一無二の君だけの刃となるだろう」って言ってくれました。ルドルフちゃんに褒められゃいました。ふっふっふーん!

 

「なんかね、お昼ご飯食べてたら話しかけられたの。それで色々お話しして、ルドルフちゃんの経験を交えた話とかすっごくためになる事を教えてもらいました」

「『領域は、勝敗を決める一要素になるが、あくまで一つの手札でしかない。真に勝敗を決めるのは錬磨された肉体、精神、技術だよ』……とか。昔、ルドルフさんも領域を頼りにしすぎてそこから崩された事があるって言ってたの」

「お姉さまからすると領域って超サイヤ人的なイメージがあるんだけど、基礎戦闘力が低かったらいくら超サイヤ人でも大した事はないって事ね。無理やり潜在能力を引き出してるのも、共通点かしら?」

 

 『領域は、絶対では無い』。そう語るルドルフちゃんはどことなく嬉しそうでした。何か昔そういう出来事があったのでしょうか?

 でも勝敗を決めるための後一手とか、そういう時に使えるといい感じだと思います。私ははまだ使えませんけどね!

 人によっては領域の景色は様々らしいです。ライスちゃんはチャペル? 結婚式場? みたいな場所でとっても綺麗でした! 私は剣とかいっぱい出してズバババーッ!! ってやりたいです!! でもどういう原理であれを発動しているのでしょうか? 不思議ですね。

 

「さすがに超サイヤ人ほど強力じゃないよ? 言葉にすると、『ものすごくテンションが上がって幻覚が見えてちょっと足が速くなってほんちょっと力が湧いて元気になる』ぐらいだし」

「ちょっと言語化するのを憚られるわね、それ……」

 

 

 

 

 

 それから色々あって、8月の終わり頃。過酷なトレーニングをこなした結果、リリィちゃんは(スーパー)パワーアップしました! 今の私のパワーはすごいですよ! どれぐらいすごいのか見せてあげます!

 まず、地面に根を張る様にしっかりと立ち、なおかつ全身の無駄な力を抜きます。次に左足を軸にして上半身を前に倒し、右足を後方上部へと伸ばして力を溜めます。フィギュアスケーターの様なポーズですね。そして精神を集中させ……溜め込んだ力を解放! 鞭のようにしなる私の足が、目の前の海を破裂音と共に切り裂きました。

 上がる水飛沫。抉れる砂浜。そして、時間差で降り注ぐ海水。どれもがこの技の破壊力と完成度を物語っています。さすがリリィちゃんです!

 

「…………名付けて、『リリィちゃんウィップ』です!!」

 

「……海が、割れた……!?」

「ふわぁ……」

 

 ふふーん! 新たな必殺技獲得です! さっきは足でやりましたが、腕でもできますよ!

 今回の海上走行トレーニングにより肉体が満遍なく鍛えられ、この前の水中走行トレーニングで身体の効率の良い使い方を学習した結果、この必殺技ができました。もちろんレースの方もちゃんと上手くなりましたよ!

 そして、なんとですね……私の『リリィちゃんボンバー』の改良に成功しました! 先ほどのリリィちゃんウィップに使われた技術が、私のリリィちゃんボンバーを進化させる鍵だったのです。詳しくは秘密です。本番の菊花賞を楽しみにしてください!

 

「これでるるちゃんの言ってた目標も達成ですね! ライスちゃんに一回も勝ててないのは残念ですが」

「まあそれはしょうがないんじゃない? さすがに夏合宿のトレーニングだけで勝てるほどライスは甘くないわ。さすが私ね!」

「……お姉さまがそれを言っちゃうの? ライスとリリィちゃん、両方同じぐらい育てあげたのはすごいけど」

 

 複数のウマ娘を育成すると普通は偏りが出ます。トレーナーの得意不得意、育成するウマ娘個人の才能、他にも色々な要素がありますが、それらの要素全てをまとめてなんやかんや上手くやってしまうるるちゃんはとってもすごいですよね。

 

「まあ、ぶっちゃけ私は二人の能力をいい感じに伸ばしてるだけなんだけどね。そしたらお互い競い合っていい感じに刺激しあって、なんかいい感じに同じぐらい成長したってだけなのよ」

 

 ……それを実践するのが難しいのでは? リリィちゃんは訝しみました。

 適性とか伸び代とか、普通は見ただけじゃわからないのですが、るるちゃんは「()れば大体理解(わか)る」と言います。スカウターよりも高性能ですね。

 実際に私のお友達とカノープスさんを見てもらった時、全員の適性を言い当ててました。そういえば初めてるるちゃんと会った時も普通に私の適性をぴったりと言い当てられましたね。

 そういえば、るるちゃんにトレーニングを見てもらってからは大きな怪我とかをした事がありませんね。小さい頃の私は加減が分からずによく筋肉痛になったりしていましたが、今ではそれも起こらないです。レース後の疲労とかはさすがに防げませんが、普通はどれだけ見極めても大小問わず怪我が発生するそうです。

 壊れないギリギリを見極めて過酷なトレーニングをさせる。言葉にすると簡単ですが、実際にやるのはとっても難しい事です。リスクを負わなければ結果は得られない。当然の事ですが、失敗したら全てが水の泡です。それでも、強くなるためにそこへ手を伸ばし、そうして全てを失うのも珍しくない話です。

 私は私の事を頑丈に産んでくれたママとパパにいつも感謝しています。おかげで無茶に耐えられましたからね。私が普通の身体だったらとっくの昔に壊れていたと思います。

 トレーニング中に気になって「これ以上やったらどうなるの?」と聞いたら、「折れる。千切れる。走れなくなる」と、サラッと言われてあわあわしました。

 

「るるちゃんはすごいですね!」

「うふふ。ありがと、リリィ」

 

 

 

 

 

 トレーニング終えて色々済ませてお部屋に戻って来ました。明日は近所で夏祭りがあるので、みんなと一緒におでかけです! 去年はライスちゃんと一緒にデートして、途中で花火を見てライスちゃんとキ…………えっと、るるちゃん達と合流しました!! はいっ!!

 今年はブルボンちゃんも一緒に色々見る予定です。ブルボンちゃんは小さい頃にこういうのを不要と判断して行った事が無いから実質初めてだそうです。去年はずっとトレーニングしてたらしいです。ストイックですね。

 

「確か、浴衣持って来てたんだっけ? 去年も可愛かったから、お姉さま楽しみよ」

「かわいくて綺麗なライスちゃんが見れますからね!」

「かわいくて綺麗なリリィちゃんが見れるからね!」

 

 浴衣の着付けはライスちゃんがやってくれます。トレセン学園に入る前はママにやってもらってました。

 私の浴衣はライスちゃんが選んでくれたやつです。ライスちゃんの浴衣は、ライスちゃんが選んだ中から私が一番似合うと思ったやつです。なのでライスちゃんがとってもかわいいんです! 最高ですねっ!!

 というか、私の私服はほとんどライスちゃんに見繕ってもらってます。私自身、今まで服には余りこだわりがないのでママが選んだ服を着ていたのですが、ライスちゃんが「もったいない」と強く主張してきたので、それからはライスちゃんに選んでもらっています。

 正直自分で選ぶのがめんどくさいので助かってます。リリィちゃんはとってもかわいいので、よっぽど変なデザインじゃなければ大体の服が似合っちゃうのです。だから服にこだわりとかがもてなかったんですよね。

 トレセンに入る前はママの着せ替え人形で、今はライスちゃんの着せ替え人形です。楽しそうだからいいんですけどね!

 

「明日は晴れですよね? 花火がとっても楽しみです!」

「花火も楽しみだけど、ライスは屋台の方も楽しみ。焼きそば、綿飴、かき氷。にんじん焼きに、リンゴ飴……! えへへ、いっぱい食べたいなっ……! お姉さまは何か食べたいもの、ある?」

「焼き鳥とビール」

 

 パパもお祭りの時よく食べてたやつです。パパに分けてもらって、お膝の上で食べてたからよく覚えてます。

 甘いやつならわたあめとりんご飴が好きです! でもチョコバナナもおいしいんですよね……! おいしいものがいっぱいあるのも夏祭りのいいところです!

 お祭りといえば、射的とか他にも変な屋台もありますよね。私はくじ引きでゲーム機を当てたと喜んでいたら、パチモンの変なゲーム機もどきでがっかりしたことがあります。当てた時に嬉しくてパパに報告したら「粗悪な模造品だね」と言われてショックでした。なんですか、『威力棒○ii』って……

 

「お祭りのくじって、たまに変な当たりがありますよね。リリィちゃんはゲーム機のパチモン当てました」

「ライスはハズレばっか引いてたよ……」

「いつの時代も変わらないものね。私の時は、コピー用紙の“青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)”が当たりだったわ。もちろん当たらなかったけどね」

「しょぎょーむじょーですね」

 

 こういう理不尽を経験して、人は大人になっていくのでしょう。

 たまに悲しい事もありますが、お祭りは私にとって楽しい思い出がたくさんです。ちっちゃい頃はママやパパと。ライスちゃんと会ってからは私の家族とライスちゃんの家族と、それぞれお出かけしました。

 私がお引っ越ししたから、ライスちゃん達とお祭りに行ったり遊んだ時間は少ないですが、その分思い出はいっぱいです。これまでも、これからもたくさん増えますけどね!

 

「さっ、そろそろ寝ましょうか。明日も早いしね〜」

「そうですね。よい子は寝る時間です」

「うん。それじゃあ……リリィちゃん、お姉さま、おやすみなさい」

「おやすみ〜……」

 

 

 

 トレーニングはちょっぴりキツイですが、私は毎日とっても充実しています。

 そのトレーニングにしても、乗り越えれば達成感に満ちますし、自分が強くなってると実感できるから好きです。

 レースだって、ライバルのみんながいて、負けちゃったらとっても悔しいけど、勝った時はその分とっても爽快です。

 お友達がいて、私を応援してくれる人がいて、私を支えてくれる人がいる。……そして、ライスちゃんがいます。

 

(──……私、しあわせだなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? また来ちゃったみたいですね」

 

 私の目の前に、お馴染みの光景(真っ白な場所)が広がっていました。

 ふむぅ? さっき眠ったはずなのですが、またここに来てしまいましたか。明日はお祭りなので、正直来たくなかったのですが。

 

「ここ、やる事なくて暇なんですよね。広くて何もないとこだけ精神と時の部屋っぽいんですけど、何も負荷がかかったりしませんし、起きたら忘れちゃうから修行にも使えないんですよね」

 

 謎空間だというのにユーハバッ……斬月のおじさんもいないですし、白い私――私が白いので黒かな?――も出てきません。九尾も封印されてないし、洞爺湖仙人もいないです。ファラオもいないしシャドウもこんにちはしないです。

 

「あっ……両面宿儺だけはいやです」

 

 呪いの王はいらないです。さすがのリリィちゃんもあの人とは仲良くなれそうにないです。

 と、そんな事を考えていて気づいたことがあります。この場所でただ一つだけ変化していた例のあれ。そう、真っ黒な扉の鎖が完全になくなっている事に気がつきました。

 

「鎖、無くなっちゃいましたね。……ほほう? ……ふふん? ……何も起きませんね?」

 

 少し離れて注意深く観察します。もしかしたら近づいた瞬間に爆発するかもしれません。

 リリィちゃんアイに透視力はありませんが、見たところ変なところはありません。リリィちゃんイヤーは地獄耳というほどではありませんが、変な音は拾ってません。見た目に異常はありませんが、リリィちゃんはかしこいのでなんだかヤバそうなのは分かります。だから……

 

「──ぶっ壊しましょう!」

 

 ここでぶっ壊せば悩む事もなくなります。さすがリリィちゃんです! とってもかしこいですね!

 バックステップして扉から距離を取って構えます。余分な力は抜き、左半身を前にして、両手はあらゆる状況に対応するために自然体です。

 

「明日はみんなとおでかけでライスちゃんとデートなんです! こんなとこにはいられません! 私は元の場所に帰らせてもらいます!」

 

 そうです、私にはやらなければいけない事があります! みんなでお祭りも楽しみですし、菊花賞もまだなんです。長距離で最高の強さになったライスちゃんに勝ちたいし、まだまだいっぱいレースをしたいんですっ!

 

「うおぉぉぉ! トレーニングの成果をくらえぇ! リリィちゃん……キーック!!」

 

 全力ッ! 疾走ッ! 跳躍と共に放たれたリリィちゃんキックは、今まで繰り出したことのない威力(危ないから当然です)で見事に扉を粉砕し、私に勝利を確信させました。――けど、それは間違いでした。

 

 

(──やりました! リリィちゃん大勝利ですっ!!)

 

 

 浮かれる私の目の前に広がるのは、何も無い闇い(くらい)海。扉の向こうにあったのはさっきの場所と正反対の、真っ黒な世界でした。

 

「あわわっ!? なにこれなにこれゴバボボォッ!?!?」

 

 僅かな光すら無い黒い海に、私は勢いよく突っ込み……そして、そのまま沈んでいきました。

 




次回はキツくて重い内容なので、苦手な方は最初の方と最後の方だけ読めば問題ないです。
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