すきすきだいすきライスシャワー   作:パゲ

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第35話 『シロノリリィ』

 はい。なんか前世のわた……お兄さまに会ったリリィちゃんです。……ライスちゃんたすけてっ!!

 

「えっと、お兄さま……で、いいんですよね?」

「そうとも言えるし、そうでもないとも言える」

「……おかしくないですか? だって、『私』=『お兄さま』ですよ? 存在するのがおかしいです」

「半分は当たってる。耳が痛い」

「なんでサム8語録なんですか!? まじめに答えてください!」

「お前もいずれ分かる時が来よう」

 

 リリィちゃんちょっと混乱してます……なんですかこれ!? 前世の記憶が蘇ってきたと思ったらお兄さまを名乗る不審者が現れたんですよ!?

 

「サム8もやめてください! あの漫画読んでると頭痛くなるんですよっ!」

「ククク……ひどい言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど」

「……そっちは知らないです。なんかキョウちゃんに教えてもらったような……?」

「貴様ーッ! タフを愚弄する気かぁっ!」

 

 なんなんですかこの人!? 本当に何なんですか!? ……あれ? なんだか今までのやり取りに違和感があるような……?

 

「あの、お兄さまは本当にお兄さまなんですか? なんかものすごく違和感があるんですけど……」 

「その説明をする前に今の俺の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ」

「…………手短にお願いします」

「幻覚だ」

「短っ!?」

 

 幻覚なの!? どういう事なの!? もうわけわかんないっ!! るるちゃんたすけてっ!!

 

「俺は、君のウマソウル空間が見せている幻覚だ。君の記憶を参考にして生み出された、この異常事態を説明するための幻覚。記憶を参考にしている証拠は今までの会話だ。前世の俺は、ウマ娘以外の娯楽を知らない。語録やら何やらを使いこなしているのがその証拠だ」

「……ふざけてただけじゃないんですね」

「ぶっちゃけ推測だけどな。この世の不思議は大体ウマソウルのせいだ」

 

 つまり、この人は前世の私の姿を模した幻覚ですか。……なんで幻覚なのに会話ができるのでしょうか? 意味わかんないです。あとここってウマソウルが関係してるんですね。

 

「……ん? 異常事態? 私、何か変なところがあるんですか?」

「ああ。結論から言うと全部前世の記憶()のせいだ。君が領域を発動できないのも、この不思議空間ができたのも俺のせいだ」

「ほうほう。じゃあこの後はどうすればいいんですか? ぶん殴ればいいですか?」

「俺を倒したところで第二第三の俺が現れるだけだ。だから、君は思い出すだけでいい。君が忘れてしまった過去を思い出し、乗り越えればいい」

 

 過去を乗り越えてパワーアップする展開ですね! それにしてはだいぶ緩いですけど。

 

「殴り合う覚悟はしてたのでなんだか拍子抜けです」

「人間がウマ娘に勝てるわけないだろ? まあ、それは置いといて。……なあ、『私』()よ。君は自分の過去を見て、どう思った?」

 

「そういえばそんな事ありましたね」

「軽くね?」

 

 だって、もう過去()の事ですよ? 確かにちょっぴり思うところはありますが、今更気にしたところで……って感じです。

 

「ところで、この質問の意味は何ですか?」

「──ない」

「さっきから私の事からかいすぎですよね!?」

「許せサスケ……」

「リリィちゃんです!」

「お前たちにも教えよう。俺の社畜時代の話を」

「無視しないでください!」

 

 

 

 

  

 はい……お兄さま回想始めます。

 高校を卒業した俺は社畜になった。

 貯めたバイト代で一人暮らし。ニ○リで買った安い布団以外の家具はないワンルームマンションが俺の終身地(マイルーム)だ。

 バイト先のツテで、俺は俺のことを知る人が誰もいない場所で就職した。

 

 労働はいい。特に単純労働は。

 無駄なことを考えなくていい。働いてる間はそれを忘れられる。嘘吐きの何も無い俺が必要とされる。だから、俺は働くんだ。

 言われた事をやるだけで褒められる。そしてそれが評価され、対価(給料)になる。こんなにも嬉しい事はない。

 やる事なんてなかった。やりたい事なんてなかった。だから働いた。全部忘れられるように、ひたすらがむしゃらに。

 そして、俺の会社はそれを叶えてくれる場所だった。そう、いわゆるブラック企業というやつだったのだ。

 残業残業残業残業残業休出休出残業残業残業残業残業休出休出……休みなどいらぬ。働きたいのだ。働かせてくれ、頼むから。

 ちなみに残業代も休出手当もないぞ。記録上では全社員定時退勤休日出勤なしだからな。優良企業だね。

 あぁ、素晴らしきかな労働よ。クソッタレ(偉大なる)な上司よ、このまま我が身が朽ちるまで仕事を与え給え。

 

 しかし残念かな。我が身は無駄に頑丈だった。毎日最低4時間程度は無駄な仕事(残業)をして、休日も休まず働き続けても壊れる気配はない。上司も俺の頑丈さにビビって休みを強制的に取らせる始末だ。

 ふざけるなよ……俺は働いてないと頭が狂いそうになるんだぞ……っ!! ついでに言うなら、お前達が無駄にパワハラ☆モラハラ☆エトセトラ☆するから人手が足りないんだぞっ!!

 「人手足りねぇわw お前が(いないやつの分も)やれ(強制)」って命令して、特に何の問題もなく「できましたっ!!」って報告したらドン引きするのやめろ。お前らの命令の方がえげつないからな? 俺以外にそういうのしない方がいいぞマジで。

 

 そんな感じで、俺は虚無(たの)しく生活していた。

 たまにある休日も、基本やる事はない。布団の上で膝を抱えて過ごすだけの時間に、何の意味があるのか。

 水とコンビニ弁当とカロリーメイトだけが俺の燃料だ。味なんてしないから食事に楽しみも見出せないしな。

 ただ、以前とは違う事がある。それは、俺がスマホを所持している事だ。基本、上司からの嫌がらせ(ラブコール)しか飛んで来ないうえに店員からカメラぐらいしか進化してない最新型(無駄に高いやつ)やら無駄な料金を搾り取るプランを組まされて手に入れたそれは、なんか色々とできる事があったのだ。

 

「……えっ? 水平とか測れるんだ。……すげぇ!!」

 

 使いこなせるかは別だ。

 豚に真珠。ねこに小判。俺にスマホ。要するに、価値を知らないやつに持たせたところで意味のないものだ。今の俺が有効活用しようとするなら手裏剣代わりにしかならないだろう。

 だが、俺はあの時の薄っぺらい笑顔でカモってきた店員に感謝する事になる。たまたま持っていたこいつが、俺の人生を変えたんだ。

 

 

 

「なぁ、兄ちゃん。──ウマ娘はいいぞ」

 

「……うまむすめ?」

 

 『ウマ娘プリティーダービー』。これが俺の人生で最初に触れた娯楽だった。

 

 ある日の事、職場に新しく派遣のおっさんが来た。上司様の度重なるパワハラによって、人手不足アンド壊滅の危機にあっていたので貴重な戦力だ。おっさんの頭部が少々寂しい以外に不満はない。

 この重大な事態に危機感を覚えた上司様が、我々に慈悲を与えてくださったのだ。偉大なるクソッタレ(上司様)に感謝を。

 おっさんに仕事を教えるのは俺の役目になった。上司様は仕事を把握していないので仕方がない。いと尊き上司様の仕事は、ガムをくちゃくちゃ食べながらそこら辺を練り歩きつつ俺の仕事の粗を探していちゃもんをつける事だ。

 

 休憩時間中にカロリーメイトを貪る俺の都合など無視しておっさんは語った。それはもう楽しそうに、懇切丁寧に語ってきた。

 おっさんが語ってきた内容は割愛させてもらう。ウマ娘と競馬の話しかしてないからな。

 

「どうだい兄ちゃん? あんたもやってみねぇか?」

「そこまで言うなら、やってみます」

「そうこなくっちゃなぁ! アニメもいいぞ。今ならサブスクで観れるからな。いい時代になったもんだ……」

 

 俺はこの時、初めてサブスクという概念を知った。月額数百円から1000円ちょっとでアニメが見放題ってめちゃくちゃすごいよね。

 とりあえずアプリストアでダウンロードした。生まれて初めてゲームをやる事になった俺は、おっさんからリセマラという世界一虚しい作業を教えてもらった。

 

「兄ちゃん、ゲームした事ないんか?」

「はい。生まれて初めてです」

「……休日とか、何してたんだ?」

「明日が来るのを待ってました」

「…………そうかい」

 

 ドン引きしながらも、彼は「☆3引き換えはオグリキャップを選べ。☆3確定ガチャは有料だが、もしも引く気があるならそっちを先に引いてから引換券を使うんだぞ」と、非常に為になるアドバイスをしてくれた。

 だが、残念な事に仕事の時間になってしまった。一旦ウマ娘はお預けだ。

 

「リセマラはな、サポートカードを引け。キタサンブラックを完凸すりゃあなんとかなる。それとな……」

「何ですか?」

 

「…………この職場、まともじゃねえな。兄ちゃんも早いとこ辞めた方がいいぞ?」

 

 おっさんは次の日、会社に来なかった。

 上司様が怒り狂ってて草。

 

 

 

 

 

 休日になった。生まれて初めて何かをするための休日だ。俺はわくわくしながらアプリを起動した。

 

「ゲームなんてするの初めてだ。わくわくしてきたぞ……」

 

『ウマ娘! プリティーダービー!』

「うわぁっ!? びっくりしたぁ……」

 

 起動時に流れる例のトラップにガチビビりする俺。2○歳とは思えない情けない悲鳴をあげた。

 

「えっと……まずはリセマラ? とかいうのをやるんだっけ? ……なんか可愛い女の子達がいっぱいだな。最近のゲームって映像が綺麗なんだな。すごいね」

 

 そもそもゲームをやった事がないし、知らないので素直に映像に感動していた。なんかめっちゃ動いてる。すごーい!

 チュートリアルが始まり、画面の指示に従う俺。ダイワスカーレットのツインテールのデカさにビビる。あとめっちゃ耳が動いてるし表情とかコロコロ変わってる。すげぇ……

 

「――これで終わり? トレーニングして、強いウマ娘を育てるのか。……よく分からんな。まあ、色々やってみるか。どうせ暇だし」

 

 とりあえず☆3引換券で貰えるキャラを見てみた。リセマラは後でやる。なんかいっぱい試行する必要があるらしいし、まずはどんなウマ娘がいるのか見てみたかった。

 

「スペシャルウィーク……主人公っぽいね。サイレンススズカ……クールそう。トウカイテイオー……子供っぽい。マルゼンスキー……頼りになるお姉さん。オグリキャップ……おっさんのイチオシ。タイキシャトル……寒そう。メジロマックイーン……綺麗だね。お嬢様かな? シンボリルドルフ……すごく強そう。ライスシャワー……」

 

 衝撃だった。

 画面の向こうの少女に、心を奪われた。

 

「──かわいい。……かわいい。……めっちゃかわいい」

 

 蒼黒を纏う小さな少女。大きくて零れ落ちそうな紫水晶の瞳の奥で、決意の光が煌めいている。

 暗い焦茶色の髪。くるんとはねる毛先。片方だけ隠れた前髪が神秘的で、儚い印象をもたせる。

 大きな耳が可愛らしい。青いバラを飾る帽子が可憐だ。肩まで露出したドレスは、華奢で庇護欲を唆る。

 

『みんなを幸せにしたいから……ライス、走るよ!』

 

 NEW! [ローゼスドリーム] ライスシャワー ☆☆☆

 

 気がつけば、俺の元にライスシャワーがいた。

 

 

 

「……あっ。そういえば、リセマラとかいうのをやる必要があるんだっけ? この子、『ライスシャワー』っていうのか。かわいいね……」

 

 ライスシャワーに一目で心を奪われたクソチョロの俺。声めっちゃ可愛い……。しかし、かろうじてキタサンブラックとかいうカードを5枚集めるのが最重要だと言われたのを思い出した。

 

「ガチャを引くための石を集めて……これで引けるだけ引くんだっけ? 引けるといいなぁ」

 

 悪夢のBGMと共にガチャが回る。数多のトレーナー達を絶望させたサ○ゲの悪意。人類が生み出したパンドラの箱。俺はその洗礼を……受けなかった。

 

「おお……! キラキラしてる!」

 

 ネットを流離う紳士淑女諸君ならばご存知の『物欲センサー』が発動してなかった。恐らく、今までゲームどころか娯楽に触れてこなかったからだろう。見逃されたのだ、俺は。

 運良くキタサンブラックを3枚、他のSSRも数枚入手する事ができた。ビギナーズラックというやつだ。

 

「おっさんは5枚引けって言ってたけど……まあいいか。2枚ぐらいどうって事ないでしょ」

 

 完凸と2凸は大きな隔たりがあるのだが、当時の俺はド初心者ゆえに知らなかったのだ。後にものすごく後悔する事になる。

 そして、残されたのは有償ガチャだ。ライスシャワーの可憐さに脳をぶっ壊された俺に引かないという選択肢はなかった。

 

「有償ガチャは課金しなきゃ引けないやつだっけ? 値段は……えっ? ……こんなにするの?」

 

 有償石の値段にドン引きする。福沢諭吉(一万円)が、ガチャを30回と少し回すと消える狂気の世界。それがソシャゲの世界なのだ。

 

「まあ、使い道ないしいいか。葬式代にしかならんしな」

 

 

 コンビニでお金をおろして例のカードを購入した。これでいっぱいガチャが回せるぞ!

 貯金はそれなりにあった。残業代やらなにやらはないが、趣味も友達もないので使い道のない金が勝手に貯まるのだ。物欲などとっくの昔に死んでいる。愛と勇気も縁がない。ついでにソシャゲに手を出した時点で未来もない。

 

 早速課金して有償ガチャを回す俺は、サンタクロースを信じる子どものように純粋な瞳をしていた。何が出るかな? わくわく! 

 サンタさんからプレゼントをもらった事は一度もない。

 

「おっ? なんかちっちゃい子が出てきた」

 

 トレーナーならご存知の確定演出、理事長だ。とっても嬉しいね! 毎回出てこい。赤い扉もだ。

 だが、これはそもそも確定ガチャだ。この演出はただの茶番でしかない。大事なのはここから複数の☆3を引く事だ。ネタバレになるが、残念ながら今回は1人だけしか引けなかった。

 昇格演出はない。☆1☆2(いつものみんな)を9人引いて、遂に☆3が来た。俺が引いたのは……

 

『みんなを幸せにしたいから……ライス、走るよ!』

 

 NEW! [ローゼスドリーム] ライスシャワー ☆☆☆

 

 ──超絶可愛い俺の天使(ライスシャワー)だった。

 

「…………これって、もしかして……運命っ!?」

 

 俺は単純だった。そもそも当たりが分かってなかった。だから素直に喜んだ。やったー! ライスちゃん可愛いね!

 正直めちゃくちゃ嬉しかったが、トレーナー視点だと論外としか言いようがない。本当ならキタちゃんを完凸してオグリを引いてスタートダッシュガチャで被らずに☆3を引くのが理想だ。

 しかし、ゲームをやった事のない俺は何も知らない赤ちゃんのようなものだ。理想などどうでもいい。ライスシャワーがいればそれでいいのだ。

 こだわりがないなら初心者トレーナーの諸君は競技場のダートメンツを埋めるためにオグリを選べ。ダートはガチャ限定以外に入手手段が無さすぎる。反省しろサ○ゲ。

 

 こうして、俺のトレーナーライフが始まった。そして、残念な事にゲームをした事がない俺には、ウマ娘の全てがあまりにも新鮮な体験だった。

 

『あのね、お兄さま──』

「ん゛!!」

 

 劇薬だった。お兄さま呼びはずるい。

 俺はお兄さまになった。

 

 

 俺が初めて育成したのはライスシャワーだった。当然だが、育成のセオリーなど知らなかった。サポカの編成も、当時の天皇賞・春の鬼畜さも。

 

『ひゃ、ひゃい! ……ライスシャワーですっ』

「任せろ。俺はお兄さまだからな!」

 

 たづなさんの指示に従いトレーニングを選ぶ。友情トレーニングの事もよく分からず、どの能力をあげればいいのかも分からずに上げられたステータスはとても平坦だった。

 

『賢さが不足していますね』

「たづなさん……心強いぜ!」

 

 メイクデビューは緊張した。俺が育成した彼女が、彼女の努力を証明するために戦うのだ。

 

「頑張れ、ライス。君ならきっと勝てる!」

 

 スマホを持つ手が汗で濡れていた。呼吸が苦しい。

 そんな俺をよそに、メイクデビューは無事勝利した。満面の笑みで喜ぶライスシャワーを見て俺まで嬉しくなった。そして、初めてのライブが始まった。

 『Make debut!』――ウマ娘達の始まりの曲。俺が初めて聞く、彼女達の生きた証。

 ゲームは所詮作り物だ。本物じゃない。娯楽でしかない。だけど、俺の目にはそう見えなかった。

 彼女達が生きている。今、俺の前で……生きているのだ。走り抜いた証を、魂を歌声に乗せて彼女達は歌っているのだ。

 曲が終わった時、俺は自分が涙を流している事に気がついた。

 

「……ウマ娘、すげぇ……! よしっ! この調子で、ライスをURA? とかいうのに勝たせるぞ!」

 

 俺は『ウマ娘』の虜になった。

 そして、洗礼を受けた。……天皇賞・春という、洗礼を。

 

「な、なんだ……この強さは!? ……メジロマックイーン強くね?」

 

 目覚まし時計が消える。一つ、二つ、三つ。もう、後がなかった。

 

「はあ……はあ……っ! もう、時計が……ないっ」

 

 震える指で画面を操作する。祈るようにスマホを掴み、彼女達の生き様を見届けた。──結果は、目標未達成。俺達のレースは、ここで終わった。

 

「………………負けた。……ライスが、負けた? ……ごめんよ……ごめんよ、ライス。……俺が、弱いから。俺の、せいで……」

 

 目の前の少女と目が合った。涙を堪える小さな少女。華奢な肩を震わせながらも、気丈に振る舞うその姿。

 彼女の瞳が告げる。「次は、勝つ」。不滅の蒼炎が、俺の心を焼き焦がす。

 だから、誓った。目の前の少女に誓いを捧げた。

 

「──約束するよ。必ず、君と勝つ。俺達二人で」

 

 

 

「サポートカード……スーパークリーク? これでスキルを取ればいいのか」

 

「友情トレーニング? 絆ゲージをためて、得意なトレーニングでなんかすごくなるのか……」

 

「因子……? えっと、強いやつを……借りれば、いいのか? フレンド? 友達なんて作った事ないんだが……」

 

 長い戦いだった。何度も何度も負けた。

 だけど、俺の心が折れる事はなかった。俺が誓いを捧げた少女に無様な姿を見せるわけにはいかない。

 ──そして、遂に……俺は天皇賞・春を突破した。

 

『……っ! ライス、やったよっ!!』

「…………おめでとう。おめでとう、ライス……っ」

 

 いつの間にか辺りは真っ暗で、時間も忘れて夢中になってウマ娘をプレイしていた。朝から飯も食わずろくに水分補給もせずスマホに齧り付いていたというのに、俺は爽やかな達成感に包まれていた。

 

「えっ? もうこんな時間? ……怖っ。風呂入って飯食ってクソして歯磨いて寝よ」

 

 何かにのめり込むのは、これが初めてだった。時間も忘れて、食事も、何もかもを忘れて過ごしたのも初めてだった。

 他人からすれば誉められた行為ではない。だが、俺はこの時初めて『生きている』と実感したのだ。

 

「マックイーンも倒したし、後はURAファイナルズを乗り越えるだけだ。もっとやりたいなあ。……会社、行きたくねえなぁ……」

 

 初めて俺に、やりたい事ができた。

 

 

 

 後日。URAファイナルズを無事突破し、人生初の『うまぴょい伝説』を視聴した。一般的には電波ソングと呼ばれる曲だが、俺達トレーナーにとっては聖歌に匹敵するウマ娘を象徴とする楽曲だ。

 スポットライトを浴びて彼女達は踊る。感謝を、祈りを、駆け抜けてきた日々を音に乗せて歌う。ライスシャワーとの日々が俺の脳裏を閃光のように駆け抜け、俺は自分でも引くぐらい泣いた。

 うまぴょい伝説は最高だぜっ!

 

 次にライスシャワーの育成ストーリーについて触れようと思う。一言で言うなら……『尊い』。これに尽きる。

 可能ならば全て語りたいが、それをするには俺の寿命が足りない。定命の命しか持たない俺には、どれだけ言葉を選んだとしてもその全てを語り尽くすのに時間が足りないのだ。

 だからやれ。ライスシャワーはいいぞ……

 メインストーリーもやれ。ライスシャワーはいいぞ……!

 

 最初は彼女のビジュアルに惚れた。次に声。可愛いよね……あの声で『お兄さま!』『お姉さま!』って呼ばれた時、己の全てをかけて彼女を守護(まも)ろうと決意したね。

 儚げで庇護欲を唆る見た目。健気で可憐な、純粋で優しい心。全てが俺のツボだった。

 

『ライス、変わりたいの。みんなを不幸にするだけの、だめな子じゃなくて……みんなを幸せにできる、そんなウマ娘に』

 

 彼女の心が眩しかった。

 決意に脳を焼かれた。

 その生き様が、あまりにも尊くて……

 

「なんて……美しいのだろうか」

 

 

 

 

 

 社畜からお兄さまへと進化した俺は残業と休日出勤をこなす傍ら、ウマ娘をやる事に心血を注いだ。

 どうやってプレイ時間を確保したのか? 答えは簡単。睡眠時間を削ればいいのだよ。因子周回はいくら時間があっても足りないからね。

 次々と実装されるウマ娘達。ソシャゲ特有の季節毎の衣装替え。もちろんそれは可愛い可愛い俺のライスシャワーも例外ではない。

 

「マヤノのウェディングドレス可愛いね。エアグルーヴも綺麗だなあ」

「セイウンスカイ……可愛いね。石ないけど引いちゃおう」

「ウマネストってなんだよ。毒効かないの? ウマ娘強いね……」

「スペちゃんの水着、健康的で可愛いね。マルゼンスキーはすごく似合ってる」

「フルアーマーフクキタルってなんだよ。賢ネイチャ強そうだな。差しライスのために引くか」

「あ゛っ!! パワーライスかわいいっ!! ちくしょうっ!! 石が無いっ!! サ○ゲのバカ野郎本当にありがとうございますっ!!」

 

「──ヴァンパイアライス……だと……!?」

 

 今まで神に祈った事などなかった。嘘です、本当はお腹痛くて近くにトイレがない時とかに祈ってました。

 なのでこのヴァンパイアライスを引き当てるために初めて真摯に祈りを捧げた。

 石はちょうど100連分。覚悟はいいな? 俺はできている。

 10連……何もない(いつも通り)。20連……何もない(日常風景)。30連……何もない(変わらぬ景色)。40連……何もない(天井を覚悟する)。そして、50連目……

 

『噛んだら痛いから……噛みつくのは、勝利にだけ!』

 

 NEW! [Make up Vampire!] ライスシャワー ☆☆☆

 

 ──神はいた。サンキューゴッド! ファッキューサ○ゲ! 可愛すぎて泣いた。本当にありがとうっ……!

 パンプキンのお歌フルで聞かせろ俺にいたずらしてくれ一緒にお菓子を食べよう牙が可愛すぎるカプってしてくれお兄さま眷属になります俺を忘れないでくれ……

 

 

 こんな感じで、俺はそれなりに充実した日々を送っていた。しかし、この時の俺は本当の意味で『お兄さま』にはなれていなかった。それを自覚したのは、とある日の事だった。

 いつも通り仕事をこなし、帰宅して飯と風呂を済ませる。

 何年働いてるかは忘れたがもう慣れたものだ。早速アプリを起動し、俺の愛バ(ライスシャワー)の御姿を拝見する。今日も可愛いね! 因子周回頑張るぞい! 

 仕事よりマシな作業(因子周回)をするためにいつも通りに育成を選ぼうとした時のことだ。ホームのライスのセリフがいつもと違うことに気づいて画面を注視した。

 季節や何かによって変わる彼女達のセリフ。それがたまたまこの日で、俺はすっかりその存在を忘れていた。

 

『お祝いできる日、ずっとずっと待ってたんだ。……あのねお兄さま。生まれてきてくれて、ありがとう』

 

 今日が、俺の誕生日だった。

 意識すらしてなかった。ずっとずっと忘れてた。そもそも“ソレ”を祝われた事などなかったのだから。

 かつて、それは“呪い”だった。存在を否定され、名に意味も与えられず、愛すら知らぬ俺にとっては耐え難い苦痛だった。その日が来る度に心の中で呪詛と怨嗟を撒き散らし、己の醜悪さに絶望していた日が、彼女の祝詞によって“祝福”に変わったのだ。

 枯れ果てたはずの涙が頬を伝う。滂沱の如く流れるそれは、今まで押し込めてきた感情の発露。

 嬉しかった。只々嬉しかった。祝福を冠する少女(ライスシャワー)の純粋な言葉が、優しい心が俺を救ったのだ。

 

「…………ありがとう、ライス」

 

 画面の向こうの虚構に、電子情報の塊に、空想の世界に、俺は本気で感謝した。

 君に会えてよかった。君がいたから俺は救われたのだ。

 そして、俺は知った。この世界に自分が生まれてきた意味を。

 辛くて苦しいだけだった。いつか来る終わりを待つだけの人生だった。けど、違った。俺は……

 

 

「──お兄さまになるために、生まれてきたんだ」

 

 

 その日、俺は本当の意味で『お兄さま』になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、この後120連勤して過労死するんだけどな。

 

 

 

「──どうだった?」

「最後で台無しです」

 

 お兄さまの長話を聞き終わったリリィちゃんです。自分の人生ですが、ライスちゃんに出会うまでは控えめに言って最悪でしたね。

 

「ライスちゃんが世界一尊くてかわいいのは分かりました。やっぱりライスちゃんは最高ですね!」

「俺の愛バだからな。さて、それじゃあ今から君の身に起きてる異変を解決していこうと思う。それにはウマソウルとか色々説明しなければいけない事があるがちゃんと聞くように」

「はーい! ……でも、それと前世の記憶は何か関係があるんですか?」

「あるぞ。こいつを思い出すのが前提条件だ。まあ、この空間の異変はこれでほとんど解決したから、後は無駄に長い説明をしてなんかいい感じにフェードアウトするだけだ」

 

 ちなみに今私がいる場所は前世の自室です。布団と枕ぐらいしかなかったのですが、ウマ娘を始めてからはライスちゃんのグッズが増えました。冷蔵庫はありますよ!

 

「長くなりますか? 長くなるなら飲み物が欲しいです。あとクッションも欲しいです。正座するの疲れました」

「記憶にないものをこの空間で出す事はできない。冷蔵庫の中にコラボグッズが入ってるから適当に取り出していいぞ」

「わかりました! お兄さまも何か欲しいものありますか? それとも一緒に取りに行きますか?」

「一番いいのを頼む」

 

 冷蔵庫を開けて中身を確認します。電子レンジはコンビニ弁当を温めるために買ってあったので問題ありません。

 私は甘いやつにしましょう。お兄さまは『ゴールドシップの大盛ソースやきそば』と『ウマ娘のオリジナルカフェオレ』にします。

 あと、気合を入れたらリリィちゃんのお部屋にあるクッションを召喚できました。夢って便利ですね!

 

「君は『メジロマックイーンのやる気UPスイーツ』と『サイレンススズカのいちご大福』と『トウカイテイオーのはちみードリンク ~はちみつレモン風味~』か。甘いものばっかりだな。昔は俺の味覚も死んでたが、ウマ娘をはじめてしばらく経った頃に回復し始めたんだよな。あの頃の俺、ストレス溜まりすぎだろマジで」

「あれでストレスたまらない方がおかしいと思います。それでは、いただきます!」

 

 懐かしのコラボメニューです。現実でも私達のグッズはありますが、そういえばこういう仕事はした事がありませんね。

 あっちでマルゼンスキーさん監修ティラミスとナタデココは見た事があります。チョイスが謎ですね。

  

 

 

「――さて、まずはウマソウルについて話そう。君はウマソウルをどのように認識している?」

「不思議パワーの源。よく分からないけど私達ウマ娘にとって大事なもの。こんな感じですね」

「まあ概ねその通りだ。ウマソウルは人々の願いや祈りの結晶だ。君達ウマ娘の『名』は、異世界の人々のそういった想いが集まって形成される。元となった競走馬の魂が転生をするとかそういう事は基本起こらない。彼らの軌跡に能力などが引き寄せられることはあるが、その名を冠していても人生までは同じにならないんだ」

「エルコンドルパサーさんがあっちと違ってダービーに出たのが例ですね。そもそも私がいる時点であっちと全然違いますけど」

「そうだ。さっきは割愛したがアニメのウマ娘も最高だ。ライスちゃんまじ尊い。ヒトカスは滅びろ。……それでな、今からぶっちゃける。まず、君にウマソウルは存在しなかった」

「わかりますわかります! アニメのライスちゃんちょうかっこいいですよね! ……えっ? ……えっ!? ウマソウルないの!? 何でですか!?」

「だって俺、誰にも愛されてないし」

「あっ……納得しました」

 

 衝撃の事実ですが、あまりにも説得力がある理由ですね。

 

「ウマ娘の肉体に、虚ろの魂(『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』)を詰め込まれて生まれたのが君だ。本当なら君のウマソウルは存在しなかった。だけど、両親の想いがそれを昇華させた」

「……ママとパパが?」

「そう。『白井 百合(しらい ゆり)』。それが、君の根源。この世界に刺された楔。両親による無償の愛と献身が、君をこの世界に繋ぎ止めたんだ。……覚えているだろ? その名が持つ意味を」

「……『百合の花にはたくさんの色や意味がある。だからどんな風にでも咲けますように』」

 

 かつての祝詞。私に対する深い愛情の記憶。

 私の独白に反応するように、私達の目の前で在りし日の記憶が幻影として再生されました。

 

 

『――ママ、パパ。私の名前ってどういう意味があるの? 百合ってお花の名前だよね?』

 

 それは日常の一幕。どういった経緯でこんな事を尋ねたかは覚えていませんが、何を言われたかはしっかり覚えています。

 

『そうだね、君の『百合』って名前は、そのまま百合の花からとってるんだ。僕もスズランもその花が好きでね。名前の候補を考える時に色々な花の名前を参考にして、それで色々話し合った結果『百合』になったんだ』

『二人で色々考えたのよ。男の子だった時はどうしよう! とか、他のお花もいいわよね! とか。ちなみに、リリィちゃんが男の子だったら、“心”が“咲”くと書いて『心咲(みさき)』になる予定だったわ。こっちの名前も自信作よ!』

『男の子でも女の子でも、君が無事に生まれてくれればどっちでもよかったんだけどね。それで、色々な花の中から百合を選んだ理由は、僕達が一番好きな花だったからだよ。僕たちの一番好きな花の名前を、僕達の一番大切な君に贈りたかったんだ』

『百合の花はね、赤かったり黄色かったり橙色だったり黒かったり白かったり……色々な色の花を咲かせるの。咲いた色で花言葉の意味が変わってね。だから、『あなたがどんな風にでも咲けますように』って願いを込めたの。色によってはネガティブな意味になったりするけど、そんなの関係ないの。どんな色でもあなたは世界で一番可愛くて綺麗で、愛おしいから』

 

 覚えてる。蕩けるほどの愛を。二人がくれた温もりを。

 幻影は消え、この場にいるのは私とお兄さまだけになりました。

 

 

「はじめに彼女達は言った。『生まれてきてくれて、ありがとう』と。空っぽだった『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』は、たったそれだけで満たされた。傷ついてボロボロで擦り切れた真っ黒な魂は、優しくて温かい真っ白な愛情で染められた。そして世界は君に名を与えた。──『シロノリリィ』という名を」

「…………」

「これって、めちゃくちゃすごいんだぜ? たった二人の愛情が、数十万を超える人の想い(ウマソウル)を上回ったんだ。……本当に、本当にすごいよ」

 

 言葉が出てきませんでした。胸の奥がぽかぽかと温かくなって、こんなにも満たされている。

 

「……私、しあわせですね」

「よし、次行くぞ」

「余韻に浸らせてっ!?」

 

「この世界はウマソウルで形成されている。なんかレース中にぶわっと出てくる領域も同じようにウマソウルによって作られているんだが、まあどっちも似たようなもんだ。君のウマソウルがこの領域を作り出しているんだが、そのウマソウルに前世の記憶という異物があるせいで領域が不完全になってるんだ」

「ところてんの中にゼリーが5%入ってるような感じですね」

「あいつ賞味期限切れてるんだよな……。異物となっている前世の記憶を克服出来れば、君は完全な領域を扱えるようになる。だから君は前世の記憶を思い出す必要があったんだ。転生したての時はまだ覚えていただろ? 本来なら成長と共に克服し、領域が発現するはずだったんだ。けど、君はある日を境にほとんどの前世の記憶を忘れてしまった」

「……まさか、あの時……!」

「……そう。初めてライスちゃんと会った時、ライスちゃんの可愛さでほとんどの前世の記憶が吹っ飛んだ。そのせいで君はウマソウルがなんか変な事になったんだ」

「ライスちゃん、ちょうかわいかったですもんね……!」

「あれはやばい。宇宙誕生するわ」

 

 確かに、5歳ぐらいまで微かに残っていた私の『お兄さま』成分が、ライスちゃんと出会ってからほとんどなくなっていますね……! さすがお兄さまです。なんという的確な分析力っ……! そしてライスちゃんは宇宙一かわいいです!

 

「吹っ飛んだ記憶は君の魂の奥底に封印された。魂とウマソウルはまあなんか近いような近くないようなそんな関係だから、なんかやばそうと判断されて厳重に封印されたんだ。今の君は、『前世の記憶(トラウマ)を忘れているけど克服していない』状態だ」

「分かりやすく言ってください」

「ゲームで言うと必殺技を覚える条件があって、①レベルを上げる。②スキルを一定値まで上げる。③イベントをこなす。の条件のうち、③が終わってない感じだ」

「とっても分かりやすいです! ……じゃあ、もう終わっちゃった感じですかね?」

「そうだな。ちなみに封印が解除された理由は、君が肉体的にも精神的にも成長してウマソウルパワーが高まって封印がガッタガタになったからだ。そのせいで説明するのに都合がいい『俺』が出てきたってわけだ」

「最後だけ意味わかんないです……」

「だから言っただろ? 幻覚だって。……これで、俺からの説明は以上だ。ちなみに、夢から覚めたらここでの事は全部忘れるぞ」

「私にとって都合が良すぎませんか!?」

 

「──だってさ、もう過去になった(乗り越えた)だろ? じゃあ、この話はこれでおしまいさ」

 

 話を終えたお兄さまはとても穏やかな表情をしていました。私が今まで見た事のない、あまりにも穏やかな貌。

 

前世の記憶(トラウマ)を克服した君は、いつものように目を覚ます。側にはライスシャワーとお姉さまがいて、君は彼女達に甘えて日常が始まる。……そこに異物(『俺』)は必要ない」

 

 真っ黒な世界。僅かな光すらなかった闇い世界に変化が訪れました。

 私の体から白くて淡い光が滲み出し、足元からゆっくりと広がっていきます。かつて黒く染められた世界が、今度は白く塗り替えられていく。

 

「領域は、その人の心だ。想いや願い、祈りが(かたち)となって世界を創る」

 

 黒い泥の海が消えて、真っ白で何もない世界になりました。

 私が見ていたいつもの景色。──そこに罅が入る。

 

「真っ黒な世界は白いキャンバスとなり、君を形作ってきた思い出が世界に彩りを与える」

 

 徐々に亀裂が拡がり、そこから眩しい光が漏れる。

 罅割れが世界を覆い、溢れ出した光は直視できないほどの輝きを放っています。

 

「見ろ。これが、君の心だ。君が歩んだ心の軌跡だ」

 

 一瞬の静寂。──そして、ガラスが割れる様な音と共に真っ白な世界は砕け、私の心が咲き誇った。

 

 

 

 

 

「──……これが、私の領域(せかい)

 

 

 

 

 

 どれほどの時間が経ったのでしょうか。1分? 1時間? ……その間、私達は無言でこの世界は眺めていました。でも、そろそろ起きなければいけません。私には私のやる事がありますから。

 

「……どうですか? 私の領域。みんなにも負けてませんよね?」

「……綺麗だよ。元俺とは思えないほどにね。多分、俺の怨念が堆肥代わりになったんだろうな」

「……なんでそんなこというの? お兄さまのいじわる……」

 

 ()だからって遠慮なさすぎませんかね? リリィちゃん怒っちゃいますよ? 

 でも、私は気付いてしまいました。お兄さまの目元に小さな雫ができてることに。

 

「……泣いてるの?」

「……泣いてない」

 

 素直じゃないですね。もっとリリィちゃんを見習った方がいいと思います。

 

「……私とお兄さまって、全然似てないですよね」

「…………? まあ、そうだな」

 

「……お兄さまは男で、私は女の子で。大人と子ども。大きくて小さい。愛されてなくて、愛されていて。……もう、死んでいて、まだ生きている。……でも、一つだけ変わらないところがあります。これだけは、絶対に変わらない」

「……それなら分かるよ。それだけは、永遠に変わらない」

 

「俺は──」

「私は──」

 

ライスシャワーが、大好きだ(ライスちゃんが、大好きです)

 

 世界を隔てたとして変わらない唯一の誓い。かつて()は誓いました。『ライスシャワー(ライスちゃん)殉教者(お兄さま)で在る』と。

 ──私の魂は未来永劫変わらない。ライスちゃんがすきですきでだいすきな……不変不滅の『お兄さま』です。

 

 ふふん! リリィちゃん大満足です! これでやり残した事はありませんね! 

  

 

「…………なあ、シロノリリィ」

 

 徐々に、お兄さまの身体が透けていきます。

 

「……なあに?」

 

 かつて、自分と世界を呪った黒い魂がありました。でも、その澱んだ黒は、とても綺麗な黒に出会いました。

 純粋で、優しくて、とっても尊い黒。夜の様に優しい黒に、澱んだ黒は救われました。

 

 

「俺の人生、色々あったけどさ……」

 

 

 お兄さまが光と共に溶けていく。晴れやかで、清々しい――とっても満足した表情(かお)で。

 

 

「……生まれてきてよかったよ」

 

 

 ──もうここに、陰りはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──リリィちゃん。起きて、朝だよ」

 

 ……もうあさなの? リリィちゃんまだねむいです。

 

「…………おやすみらいすちゃん」

「わっ。……もう、リリィちゃんったら」

 

 ライスちゃんあったかい。ぽかぽかする。……えへへ。……おやすみなさい。

 

「何これクッソかわいい起こすのもったいない。……けど、私はお姉さまなの。だから心を鬼にするのよ……さあ、目覚めなさいっ!」

 

 …………さむい。おふとんないの? ……じゃあおきる。

 

「…………うにゃ……さむいのや」

「あっ。リリィちゃん起きてきた」

「……む〜」

「寝不足かしら? 昨日、早めに寝たはずなんだけど……」

「むう。……なんかね、へんなゆめみたきがするの。だから、ねむい……の」

「あっ。また寝そうになってる」

「あらあら。リリィ〜……今日はみんなとお祭りに行くんでしょ? 起きないと、トレーニングのメニュー終わらなくて行けなくなっちゃうわよ〜?」

 

 ……はっ!? それはいけません!! 眠気さん吹っ飛びましたっ!!

 

「──リリィちゃん復活です! ライスちゃんるるちゃんおはようございます!!」

「おはようリリィちゃん。お祭り、とっても楽しみだね」

「おはようリリィ。今日も元気でかわいいわね」

「はいっ! リリィちゃんとっても元気です!」

 

 なんか変な夢を見てた気がするけどもう忘れました。そんな事よりお祭りですよ、お祭り! あとライスちゃんは今日もかわいいです!

 

「顔洗って歯を磨いてご飯食べて、その後いつも通りトレーニングよ。それじゃあ、今日も一日……」

 

『がんばるぞ、おー!』

 




これで夏合宿は終わりです。
リリィちゃんの秘密はもう無いですよ。お兄さまはおしまい! これ以降出る予定はありません。
お兄さまの転生に三女神は一切関与してません。彼はお兄さまなので気合いで世界の壁を超えてきました。
次は菊花賞ですね。話の量的に3〜4話ぐらいになると思います。
この後は閑話1話(ブルボン視点の夏祭り)と掲示板回を投稿する予定です。
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