拗らせたツンデレ魔術士の尊厳をゆるく破壊しながらデレさせる   作:ジョク・カノサ

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腕の中

「オラァ!」

 

 飛んで来た針を避け、射出元である箱をぶん殴る。石のような肉のような気味の悪い感触と共に箱は飛んでいった。

 

「終わったか!」

 

「……出来たわ」

 

 ツーリンの方へと戻り飛んで来た針を棍棒で弾きつつ後ろ目で確認。足に出来た穴の止血は完了したみたいだ。

 

「んじゃ……行くぞ」

 

「う、うん」

 

 棍棒を腰にぶら下げ、空いた両手でツーリンを横抱きに抱える。

 

「しっかり捕まってろよ」

 

 首にかかった両手の力が強まるのを感じた瞬間、俺は走り出した。同時に動き出したのに反応したのか無数の杭が飛んでくる。

 

 だが、数は多くても飛んでくる速度は大したことがない。

 

「はっはー!当たんねえなあ!!」

 

「ちょっと!ツバ飛んでる!」

 

「我慢しろや!」

 

 止まらずに走り続ける。目的地は中央の台……ではなく、宙に浮く他と比べて一際デカい箱だ。

 

「んで、こいつらなんなんだ!」

 

「魔術の練習に使う(マト)よ!普通ならただ魔力を吸収するだけの道具を攻撃が出来るように改造してる!」

 

「あのデカいのに近づく理由は!」

 

「あれだけ攻撃してこない上に幾つかの箱に守られてる!多分攻撃の機能が無い代わりに他のを統率してる!」

 

「なるほど、リーダーを叩くって訳か!」

 

 証が置かれた台座の周りは既に大量の箱に囲まれている。流石にアレを切り抜けて証を掠め取っちまうのは無理だ。

 

 だからこそのツーリンの提案。それを実現する為に、まずはデカ箱周辺の空間と他の箱の攻撃が無い時間の確保が必要だ。

 

「邪魔だ!」

 

 作戦の実現の為に箱どもを蹴り飛ばしまくる。コイツらは一旦吹き飛ばしちまえば動きが鈍いせいで戻ってくるのに時間がかかるようだ。

 

 しばらくそれを繰り返し、デカ箱の付近を一旦は掃除することに成功した。

 

「凄い……」

 

 腕の中からそんな呟きが聞こえてくる。

 

「見直したか?」

 

「まっ、まあね!」

 

「そりゃ良かった。で、どうすんだ?」

 

 未だにデカ箱は宙に浮いている。一人なら飛んで近づくことも出来なくはないが、流石にアレをぶっ壊すのは無理そうだ。

 

「魔術をぶつけるわ」

 

「ん、魔力は吸収すんじゃねえの」

 

「許容量があるの。それ以上を注ぎこめば壊せる」

 

「へえ。……てかそういやお前、魔術使えんの?」

 

 攻略法は納得出来たが、それを出来るのかという疑問はあった。なんせコイツは大体の魔術士が持ってるような杖やらなにやらを持ってない。あの門は開けられたようだが、あのデカ箱を倒せるような魔術を本当に使えるのか。

 

「……使えるわ」

 

 後ろめたさのある返事だった。デカ箱を見つめながらツーリンは言葉を続ける。

 

「アンタ、魔力が多いんでしょ?だからこんな無茶な動きが出来る」

 

「おう」

 

「……貸して」

 

「は?」

 

「貸してって言ってるの、アンタの魔力を」

 

「そりゃいいけど……どうやって?」

 

「このまま何もしなくていいわ」

 

 そう言われた途端、身体から微かに力が抜けていくような感覚を感じた。ツーリンが両手を引っかけて触れている首の辺りが起点だった。

 

「アンタの魔力をそのまま奔流に変えてアイツにぶつける。式は頭の中に描く」

 

 そう言いながら片方の手を首から外し、手をデカ箱へと向ける。赤い光が掌から漏れるように輝いている。

 

「……アンタのお陰よ」

 

 俺を見ようとはせず、呟くようにツーリンは感謝を伝えてきた。

 そして、膨大な赤い魔力の奔流が放たれ――デカ箱を飲み込んだ。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 私はずっと、才能に囲まれて生きてきた。

 

 皆が魔術の天才。父も母も兄も姉も妹も全員が。そういう家系。

 

 私は落ちこぼれだった。体内の魔力量が少なすぎて簡単な魔術すらも使えなかった。家族はそんな私を蔑んだ。

 

 見返したかった。だから魔力が少なくても出来る魔術式の勉強に没頭した。その甲斐あって中央学院入ることも出来た。

 

 それでも家族の目は変わらなかった。

 

 ――だから私は、他人の魔力を吸い取る術を覚えた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 目的を果たした俺達は帰路についていた。あの攻撃でデカ箱は動きを止め、同時に他の箱も停止。同時に出口へと繋がる扉も現れた。

 

「他人に触れ、魔力を吸い、自分のモノとして使う。これは学院では禁術だったの。だから私は追放された」

 

 俺の背中におぶさりながらツーリンは語る。止血したとはいえ足の怪我は健在。だが横抱きは恥ずかしかったらしい。

 

 その手には勝ち取った入学の証がしっかりと握られている。

 

「それ、そんなに悪いことか?」

 

「さあね。禁術にしたからには理由があるんでしょうけど。何度か試しても何も問題はないし、関係無いわ。魔力さえ確保出来れば私の欠点は無くなる。これが私のスタートラインなの。そう、学院に認めさせる」

 

「そう上手くいくかねえ」

 

「……じゃないと私は、誰も見返せない」

 

「……家族だとか才能だとか、そういう話はどこも同じなんだな」

 

「?」

 

「こっちの話。……ま、俺は十分お前を認めてるけどな。最後に口だけじゃないってのも分かったし、他人の魔力を使うのだって悪いことだとは思わん」

 

「……アンタに認められても意味なんて無いでしょ」

 

「お、調子が戻って来たな。……そういや、アイツらほっといて良かったのか」

 

 門を超えた先で倒れていたザリを何かがあったのは察していたが、どうやら二人は裏切ったらしい。

 

「あの変態の方はもう外に放り出されてるんじゃない。それくらいの仕掛けはされてる筈。もう片方も……処理される筈だわ」

 

「そうか。結局、自業自得とはいえ死人が出ちまった。学院もとんでもねえ仕掛けをしやがる。スレイの推測は派手に外れたな」

 

「ねえ」

 

「ん?」

 

「依頼の報酬、覚えてる?」

 

「お前とのコネクションだろ。それが何だよ、今更他になんか寄越せとか言うつもりはないぞ」

 

「……私が学院に戻れたらアンタを専属の術護にしてあげるわ」

 

「専属ぅ?」

 

「そのままの意味よ。私の依頼の話は全部アンタに回すから。そのバカみたいに多い魔力は私が一番上手く活用できるわ。これが報酬ね」

 

「それ報酬かあ……?」

 

「そうなったらちゃんとお金だって払えるだろうし、何よりわ・た・しの専属よ?光栄でしょ?」

 

「いや、調子戻りすぎだわお前」

 

「ふふっ……他の魔術士の依頼を受けさせる暇なんて、作らせないんだから」

 

 証を手に入れたからか依頼主様は随分とご機嫌なようだ。笑い声を聞いたのは初めてかもしれない。

 

 ずり落ちそうになったのか、首元に回された両腕の力が強くなった。

 

 ……分かっていたことだが現状、この依頼で俺が得た物は何も無いに等しい。だが、悪くない気分だった。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「あ、そういやさあ」

 

「?」

 

「お前ちょっと漏らした?さっきから変なニオイが――」

 

「……っ!」

 

「いてっ」




短編の予定だったんですがツンデレ(らしきもの)を書くのが楽しかったので一応これで一区切り、良い感じの設定とか展開とか思いついたら続きを書くかもしれません
ツンデレはヤンデレでもありますし、良いですよね

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